2017.06.13(火)その他

【記録と数字で楽しむ日本選手権】初代日本記録から100年あまり―男子100m、日本新記録「9秒台」への挑戦の舞台は、第101回日本選手権へ!

「日本人初の9秒台」への挑戦の舞台は、大阪・長居競技場での日本選手権に移ることになりました。それに関連して、男子100mの記録についてのお話を少々します。



◆初代世界記録と初代日本記録

現在の男子100mの世界記録が「9秒58」、日本記録が「10秒00」であることは多くの方が知っていらっしゃることでしょう。
では、「初代世界記録」と「初代日本記録」が何秒だったかはご存じですか?

正解は世界記録が1912年の「10秒6」で日本記録が1911年の「12秒0」です。

もちろん、現在のような100分の1秒単位の電動計時(写真判定)による計測ではなく、ストップウォッチを人間が押す手動計時で、5分の1秒単位のタイムでした。
電動計時と手動計時の誤差は約0秒2です。よって、手動の10秒6と12秒0は、電動計時なら10秒8台くらいと12秒2台くらいの記録になります。

10秒8台は、このところの五輪や世界選手権での女子のメダル争いくらいのレベル。12秒2台は全日本中学の女子のファイナリストくらいでしょう。百年ちょっと前の初代世界記録と初代日本記録は、今ではそれくらいのレベルだったのです。

といっても、当時のトラックは土で、スターティングブロックもなく、トラックに穴を掘っていました。キックの力がしっかりと地面に伝えられる現在のようなオールウェザー・トラックになったのが1968年のメキシコ五輪オリンピックから。百年前とは比較にならないくらいスパイクシューズも改良され、記録の短縮に大きく貢献していることは間違いないはずです。

そんなことで、手動計時の初代世界記録10秒6と初代日本記録12秒0を、電動計時の10秒8台や12秒2台に換算して、現在の電動計時のタイムと単純に比較するのは、昔のアスリートには気の毒な話かもしれません。
とはいえ、100年間で世界記録は1秒ちょっと、日本記録は2秒ちょっとも短縮されてきたことは事実です。

◆世界記録と日本記録の進歩

以下に、この100年あまりで、世界記録と日本記録がどのように進歩してきたのかを振り返ってみました。

【世界記録】
<手動計時>
10秒6 1912.07.06~1921.04.23 = 8年9カ月17日
10秒4 1921.04.23~1932.08.09 = 11年3カ月17日
10秒3 1932.08.09~1936.06.20 = 3年11カ月11日
10秒2 1936.06.20~1956.08.03 = 20年1カ月14日
10秒1 1956.08.03~1960.06.21 = 3年10カ月18日
10秒0 1960.06.21~1968.06.20 = 7年11カ月30日
9秒9 1968.06.20~
※1975年から電動計時のみを過去に遡及して世界記録として公認

<電動計時>
9秒9台 1968.10.14~1991.08.25 = 22年10カ月11日
9秒8台 1991.08.25~1999.06.16 = 7年9カ月22日
9秒7台 1999.06.16~2008.08.16 = 9年2カ月0日
9秒6台 2008.08.16~2009.08.16 = 1年0カ月0日
9秒5台 2009.08.16~        =  ??

【日本記録】
<手動計時>
12秒0 1911.11.19~1915.10.21 = 4年11カ月2日
11秒5 1915.10.21~1918.11.03 = 3年0カ月13日
11秒4 1918.11.03~1921.11.13 = 3年0カ月10日
11秒2 1921.11.13~1922.04.23 =   5カ月10日
11秒0 1922.04.23~1925.11.15 = 3年6カ月22日
10秒8 1925.11.15~1927.10.09 = 1年10カ月24日
10秒7 1927.10.09~1931.04.29 = 3年6カ月20日
10秒6 1931.04.29~1931.05.30 =   1カ月1日
10秒5 1931.05.30~1933.09.23 = 2年3カ月24日
10秒4 1933.09.23~1935.06.09 = 1年8カ月17日
10秒3 1935.06.09~1964.06.14 = 29年0カ月5日
10秒1 1964.06.14~
※1975年から電動計時を公認。1984年に過去に遡及して公認。1993年から電動計時のみを日本記録として公認。

<電動計時>
10秒3台 1968.10.14~1988.09.11 = 19年10カ月28日
10秒2台 1988.09.11~1993.10.26 = 5年1カ月15日
10秒1台 1993.10.26~1997.07.02 = 3年8カ月6日
10秒0台 1997.07.02~       =  ??

以上の通りで、0秒1(0秒10)単位の記録がどのくらいの期間続いたのかを示しました。同じ「0秒1」を短縮するにも僅かの期間しか要しなかったこともあれば、世界記録では、手動計時時代の10秒2や、電動計時になってからの9秒9台は20年以上も続きました。また、日本記録では、手動計時の10秒3が29年、電動計時の10秒3台も20年近くも続き、10秒0台も20年目に突入しました。

◆男子100mの日本人世界記録保持者

手動計時の10秒3は吉岡隆徳(たかよし)さんが、1935年6月15日に明治神宮競技場(のちの国立競技場)で行われたフィリピンとの対抗戦で走ったもので、当時の世界タイ記録でもありました。

吉岡さんは、1932年ロサンゼルス五輪で6位に入賞しています。五輪のみならず、1983年から行われるようになった世界選手権も含めた世界大会の100mで入賞した唯一の日本人です。また男子100mの世界記録保持者となった日本人も吉岡さんしかいません。「暁の超特急」と謳われました。

今回の日本選手権によって8月のロンドン世界選手権の日本代表が決まりますが、誰が代表になったとしてもロンドンでは、吉岡さんに続く85年ぶりの世界大会ファイナリストになってもらいたいところです。

◆アジア記録だが、日本記録ではなかった事情

今回の日本選手権は「誰が勝つか」ということとともに、その記録にも大きな注目が集まっています。

「記録」ということに関して、過去の資料を調べてみたところ、日本選手権の男子100mで「日本新記録」がアナウンスされたのは下記の通りでした。

1915年(第3回)11.5    斎藤 友三(東 大)
1918年(第6回)11.4    松田 恒政(慶 大)
1921年(第9回)11.2    高木 正征(暁星中)
1975年(第59回)10.48 0.2 神野 正英(新日鉄八幡)=予選
1989年(第73回)10.28 1.6 青戸 慎司(中京大)
1996年(第80回)10.14 0.9 朝原 宣治(大阪ガス)
1998年(第82回)10.08 1.5 伊東 浩司(富士通)

なお、1975年の神野さんの10秒48には「二つの注釈」が入ります。

その一つ目は、次の通りです。
1975年は電動計時(写真判定)の記録が日本記録として公認されることになった最初の年で、その年の12月31日時点での最高記録を「初代日本記録」として日本陸連は公認することにしました。よって、日本選手権が行われた時点(5月31日~6月1日)では「電動計時日本記録」はまだ存在していなくて、当然のことながら競技場内では「日本新記録」とはアナウンスされませんでした。

二つ目は、以下のような話です。
1968年のメキシコ五輪の準決勝で飯島秀雄さん(茨城県庁)が電動計時で10秒34(当時のルールで100分の1秒単位を10分の1秒単位に換算し「10秒3」が公式記録とされました)で走っていて、この記録は「アジア記録」として国際的には認められていました。

しかし、上述の通り日本陸連は「その年(1975年)の最高記録を日本記録とする」として過去の記録には遡らなかったため、飯島さんの10秒34は「アジア記録」ではありましたが「日本記録」としては認められませんでした。

なお、国際陸連や各大陸の陸連では電動計時の世界記録を公認することになった時、過去に遡及してその最高記録を公認することにしたため、1968年メキシコ五輪でジム・ハインズ(アメリカ)がマークした9秒95が「世界記録」として、アジア陸連では飯島さんの10秒34を「アジア記録」として公認しました。

そのような事情で、飯島さんの10秒34は「アジア記録だが日本記録ではない」という期間が続くことになりました。しかし、その後「アジア記録として国際的にも認知されている記録を日本記録と認めないのはいかがなものか?」ということで、1984年に過去に遡及して10秒34を日本記録として公認することになり、飯島さんの記録が日本記録として16年ぶりに認められたという次第です。

◆機は熟した―19年ぶりの日本選手権での日本新記録なるか!?

今回の日本選手権で「日本新記録」がアナウンスされれば、男子100mでは1998年の第82回大会以来19年ぶりのこと。そして「日本新」すなわち「9秒台」ということにもなります。

今シーズンの日本の男子100mは、非常に充実しています。6月11日時点での「2017年日本10傑」は、以下の通りです。

1)10.04 1.4 桐生 祥秀(東洋大)    3.11
2)10.06 1.3 山縣 亮太(セイコーH)  3.11
3)10.08 1.9 飯塚 翔太(ミズノ)    6.04
3)10.08 1.9 多田 修平(関学大)    6.10
5)10.12 1.9 ケンブリッジ飛鳥(ナイキ) 6.04 
6)10.13 1.9 原  翔太(スズキ浜松AC)6.04
7)10.18 1.8 サニブラウンAハキーム(東京陸協)4.14
8)10.20 1.9 九鬼  巧(NTN)    6.04
9)10.22 1.9 諏訪 達郎(NTN)    6.04
10)10.23 1.9 藤光 謙司(ゼンリン)   6.04

各年のトップ選手のレベルの変化を比較するのに「10傑平均記録」という指標を用いることが多いのですが、現時点でのそれは「10秒134」です。これまでの歴代最高記録は、2016年の「10秒181(10.01~10.27)」、歴代2位が2014年の「10秒201(10.05~10.27)」、歴代3位が2013年の「10秒223(10.01~10.33)」でした。2017年はシーズン前半にして、これを早くも大きく上回っているのです。

比較のために、同じ6月11日現在の各国の「2017年10傑平均」のトップ5は、

1) 9.994 アメリカ ( 9.82~10.06)
2)10.065 ジャマイカ( 9.93~10.16)
3)10.111 イギリス ( 9.99~10.21)
4)10.131 南アフリカ( 9.92~10.34)
5)10.134 日 本  (10.04~10.23)
です。

このデータからもわかりますが、上位10選手のレベルで日本の男子100mは球技などでいうところの世界の「ベスト4」にあと一歩。
「9秒台」への「機は熟したり」です。

6月23・24日、男子100mが行われる時間の長居競技場のホームストレートに、2.0mを超えない「いい追風」が吹けば、「歴史的瞬間」の目撃者になれるかもしれません。

野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)

(c)Takashi OKUI

<第101回日本陸上競技選手権大会 チケット発売中!>



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