5月21日、国際陸上競技連盟(IAAF)が主催するワールドチャレンジ第2戦となるセイコーゴールデングランプリ陸上2017川崎が、8月にロンドンで開催される第16回世界陸上競技選手権大会の代表選手選考競技会を兼ねて神奈川県川崎市の等々力競技場において開催されました。
朝から快晴に恵まれたこの日は、競技開始時刻(11時55分)には気温が29.5℃まで上がり、初夏を思わせる暑さに。15,200人(主催者発表)のファンが来場し、国内外から集まったトップ選手のパフォーマンスを見守りました。ホームストレートに向かい風が吹くグラウンドコンディションとなったこともあり、特にトラック種目では好記録誕生のアナウンスを聞くことはできませんでしたが、女子やり投では、中国の劉詩穎選手が今季世界2位となる66m47を投げてアジア新記録を樹立。また、男子三段跳では、呉瑞廷選手(中国)が17m18(+1.7)の大会新記録をマークしました。
注目の男子100mは、ジャスティン・ガトリン選手(アメリカ)が10秒28(-1.2)で、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)を0秒03抑えて優勝し、男子やり投では、世界歴代2位の93m90をマークしたばかりのリオ五輪金メダリスト、トーマス・レーラー選手(ドイツ)が86m55で貫禄勝ち。女子では、200mに勝ったイベット・ラロワコリオ選手(ブルガリア)が100mも制し、ティアナ・バルトレッタ選手(アメリカ)による走幅跳・100m3年連続2冠を阻みました。日本勢では、荻田大樹選手(ミズノ)が5m60で棒高跳を制して唯一の優勝者となりました。このほか、男子走高跳で衛藤昂選手(AGF)が2m30を、男子400mHで安部孝駿選手(デサントTC)が49秒20をそれぞれマークして、ロンドン世界選手権参加標準記録を突破しています。
ここでは、日本選手の活躍を中心に、大会の模様をご紹介しましょう。
最終種目としてプログラムされた男子100mは、3レーンから6レーンにガトリン選手、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)、サニブラウン アブデルハキーム選手(東京陸協)、蘇炳添選手(中国)が入って行われました。気温は日中より少し下がったものの、真正面から吹く風が、“Set(セット)”の合図を待つ選手たちのユニフォームやナンバーカードをはためかせる条件下でスタートしました。レースは、2レーンの多田修平選手(関西学院大学)が、スタート2~3歩目で身体ひとつリードを奪い、右隣のガトリン選手やケンブリッジ選手に先行する形で進んでいきました。中盤を過ぎたあたりでガトリン選手が先頭に立つと、ラストでケンブリッジ選手がガトリン選手を追い上げましたが、逆転には至らず、ガトリン選手が10秒28で先着。ケンブリッジ選手が10秒31で続き、多田選手(10秒35)とサニブラウン アブデルハキーム選手(10秒42)までが9秒台スプリンターの蘇選手(10秒43)より先にフィニッシュしました。
優勝したガトリン選手は、ダイヤモンドリーグ第1戦のドーハ大会(5月5日)を10秒14(-1.2、4位)で走っていますが、「小さなケガがあり、リスクを冒したくなかった」と、予定していた第2戦の上海大会をキャンセルして、ゴールデングランプリに臨んでいました。そうした経緯もあって、走り自体は万全とはいえない印象でしたが、自身は「集中できたし、向かい風のなかトップスピードにも乗れた」と、まずまずの感触を得た様子でした。
「向かい風ではあったけれど、10秒2台、1台の走りができればと思っていたので、タイムはちょっと物足りない」とコメントしたのは、ガトリン選手に0.03秒まで迫ったケンブリッジ選手。自身の調子が上がってきていたので、ガトリン選手と競り合えるかもしれないと思いながらウォーミングアップをしていたことを明かし、「レース中盤からの流れは悪くなかったが、(ガトリン選手に)並びかけたとき、“行けるかな”と思ったら力が入ってしまった。そういうところがまだ課題」と振り返りました。しかし、国内初戦を終えて、「ここまでラストで自分の持ち味が出し切れないままで終わるレースが多かったが、今日は、負けはしたけれど、しっかり最後まで競ることができたというか、そのへんは今までの4レースに比べるとだいぶ良くなったと思う」と評価。「自分の思い描いている走りとはまだ差がある。布勢スプリントまで2週間あるので、しっかりと準備したい」と、次戦を見据えていました。
10秒42で4位となったサニブラウン選手は、1週間前のダイヤモンドリーグ上海大会の段階からこの大会で意識したいと話していた「スタートでの反応」が遅れてしまったと振り返り、「スタートの部分が全然できていないので、そこを徐々に修正して、試合で慣らしていきたい」と話していました。
「今回一番のダークホース」と、五輪銀メダリストのガトリン選手が名前を挙げたのが、3位に食い込んだ多田選手でした。フィニッシュ直後には、ガトリン選手のほうから声をかけて握手を求める光景も。ガトリン選手は記者会見でも「素晴らしいスタートだった。最初の10m(のダッシュ)は、私も含めておそらくみんなが驚いていたと思う」と絶賛していました。
多田選手は、6月に21歳となる関西学院大の3年生。大阪桐蔭高時代の自己記録は10秒50で、目立った実績もありませんが、大学1年時の2015年に自己記録を10秒27まで縮めると、昨年は10秒25(-0.1)をマークするとともに日本インカレ2位、国体成年3位の成績を収めるなどの進境を見せていました。その勢いはさらに増し、今季は、4月上旬の記録会で10秒17(+2.9)をマーク、織田記念で10秒24(-0.3)の自己新で桐生祥秀選手(東洋大、10秒04で優勝)に続き2位となり、5月11日の関西インカレは10秒22(-0.2)で3連覇と、右肩上がりの状態でこの大会を迎えていました。
レース後はケンブリッジ選手に逆転されたことを悔しがった多田選手。その一方で、「今年一番と言っていいくらいのスタートだった。スタートは得意だが、本番でミスする確率が高かったので、こういう大舞台で決められたことは収穫」と笑顔。「今季は、追い風参考と向かい風のなかでしか走っていないが、10秒1台は確実に狙っていけると思っている。日本選手権にしっかり合わせて、ロンドン(世界選手権出場)を目指したい」と意欲をみせていました。
■男子400mH:安部選手が7年ぶり自己新、世界選手権参加標準記録突破
世界選手権参加標準記録(49秒35)突破を目指す日本勢が、リオ五輪6位のラスムス・マギ選手(エストニア)と今季急成長のクインシー・ダウニング選手(アメリカ)との優勝争いにどこまで絡めるかが注目された男子400mHは、バックストレートでぐんと加速した2レーンの安部孝駿選手(デサントTC)が、7レーンのダウニング選手と先頭を競いながらホームストレートへ。48秒96で先着したダウニング選手とはラストでやや差がついたものの、マギ選手の追い上げを許さず2着でフィニッシュし、今季日本最高となる49秒20をマーク。この種目での参加標準記録突破者第1号となりました。
長身には不利な2レーンでのレースに、「コーナーで(身体が)外に振られないこと、スピードを殺さないことを意識した」という安部選手。「2台目、3台目がうまく行けたことで、中盤や後半(の走り)につながった」と振り返り、「静岡国際で7台目以降を失敗したので、そこを修正して、最後で硬くならないよう、冷静に自分の走りを心がけた」と話しました。「うまくまとめられればタイムは出ると思っていたが、まさか一気に(参加標準記録を)切れるとは思っていなかった。早い段階で突破できてよかった」と、好結果を喜びました。
110mHと400mHに取り組んでいた岡山・玉野光南高時代から、そのスケールの大きさに将来を嘱望されていた選手。中京大1年時の2010年にモンクトン(カナダ)世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)では、男子400mHで銀メダルを獲得しています。翌2011年にはシニアでもナショナルチームの代表入りを果たして同年のアジア選手権で優勝。2012年ロンドン五輪出場は逃したものの、2011年テグ・2013年モスクワと、2大会連続で世界選手権にも出場を果たしました。しかし、このころから右膝や右脚付け根部分の痛みに苦しむようになり、社会人となった2015年以降は、「痛みが出たり、良くなっても自分の走りがうまくできなかったりという悪循環に陥ってしまって…」と、記録的にも低迷する時期が続いていました。
転機となったのは今年の冬の決断。東京五輪を目指すために、1月から拠点を故郷の岡山に戻して、高校時代の恩師に指導を仰ぐ環境を選択したのです。当人も「ゼロからのスタートだった」と振り返るように、故障が再発しない身体づくりと走りの修正に真正面から取り組み、今シーズンを迎えていました。
49秒20は、世界ジュニア選手権決勝でマークした49秒46を、実に7年ぶりに塗り替える自己新記録ですが、「今までにも出るタイミングは何度もあったので、そこに関する喜びはあまりない」と安部選手。しかし、「自信をなくしていた面もあったので、この結果は、今後のためになる」と大きな収穫となった様子。「トップで居続けることが大事。しっかり代表入りして、世界で勝負できる選手になりたい」と力強い言葉を聞かせてくれました。
日本人2番手の5着でフィニッシュしたのは、木南記念で49秒61をマークしたリオ五輪代表の松下祐樹選手(ミズノ)。リオ五輪で力不足を実感し、フィジカルを徹底的に鍛え直したそうですが、「それがなかなか結果に表れてこない。悔しい」と話し、「日本選手権に向けて作り直したい」と巻き返しを誓っていました。松下選手に続いたのは2015年世界選手権代表の小西勇太選手(住友電工)。前日大阪で行われた関西実業団で49秒76をマークしてからの連戦でしたが、49秒95にとどまりました。
最も好調と思われていた岸本鷹幸選手(富士通)は、スタートから飛ばしてリードを奪いましたが、「喘息の発作が出てしまった」ために、中盤以降で大きく失速し、50秒38で7位に終わりました。幸い大事には至っておらず、すぐに回復。体調を整えて日本選手権で標準記録突破に挑むとのことです。
■男子走高跳:衛藤選手が世界選手権参加標準記録の2m30を再びクリア
男子走高跳は、2015年世界選手権銀メダリストで2m38のベスト記録を持つ張国偉選手(中国)が故障のため直前で欠場となったことが惜しまれましたが、これにより出場者のベスト記録は、王宇選手(中国)およびマイケル・メーソン選手(カナダ)の2m33がトップとなり、混戦が予測される状況となりました。最終的に、2m30をクリアした衛藤昂選手(AGF)とメーソン選手が優勝を争って2m32に挑みましたが、どちらもクリアならず。試技内容の差でメーソン選手の優勝となりました。
優勝こそ逃した衛藤選手ですが、世界選手権参加標準記録でもある2m30のクリアは、4月16日の国体選考会に続いてこれで2回目となるもの。ゴールデングランプリでは、2m10、2m15、2m20は1回でクリアしましたが、2m25で手間取って3回目に成功。2m28をパスして挑んだ2m30を2回目に成功する試技内容でした。「狙うと言っていたので、跳べずに終わっていたら格好悪いところだった。最低限、(2m)30が跳べてよかった」と、競技後、ほっとした様子でこう話した衛藤選手。3回の試技を要した2m25は、「自分の調子をうまくつかみ切れず、技術が安定していなかった。助走が雑になっていたので、まず丁寧に行くこと心がけた」ことでクリアできたと言い、2m30の跳躍については「勢いで跳んだようなもの。(2m25で)命拾いしたので、技術どうこう考えずに思いきり行った。(観客席からの)手拍子に後押ししてもらって、跳ばせてもらった」と振り返りました。
1週前の5月13日に行われた中部実業団では2m27をクリアしており、高いレベルでの安定ぶりが維持できている印象ですが、その背景として、昨年9月からじっくり取り組んできた筋力トレーニングの成果を挙げ、「筋力のベースが上がっていることが大きいと思う」と答えていました。一方で、スケールアップした身体の出力や反応に、まだ感覚が追いついていない側面があると言い、「結果的には安定しているが、今日も内容としてはすごく不安定なものだった。自分のなかでよくわかっていない状況が続いているので、まだまだ修正の余地はあるのかなと思う」と話していました。次にターゲットとなる日本選手権に向けては、これらをぴったりフィットさせていくことが課題となっていきそうです。
障害を越える必要があるだけに、直線種目のなかでも風の状態がパフォーマンスに大きく響くのがスプリントハードル種目(男子110mH、女子100mH)。今大会の男子110mHは不運にも、1.8mという強い向かい風を突いて行うことになってしまいました。
レースは、大室秀樹選手(大塚製薬)、ミラン・トライコビッチ選手(キプロス、ベスト記録13秒31)による先頭争いに、終盤で謝文軍選手(中国、ベスト記録13秒23)が加わり、ラストで謝選手がトライコビッチ選手を0.01秒かわして13秒51で先着し、3着で続いた大室選手は13秒59でフィニッシュ。「向かい風でなければ、好記録が出ただろうに」と思わせる結果となりました。日本人トップとなった大室選手ですが、「スタートから1台目の入りは、アップの段階から安定していた。しかし、もうちょっと中盤でスピードを出せたという感覚がある。5台目あたりで向かい風が急に強く感じたので、それがなかったら…とも思うが、そこはほかの選手も同じ。単純に負けだと思う」と満足していない様子。しかし、ラストこそ離されたものの、リオ五輪7位のトライコビッチ選手や1週間前の上海ダイヤモンドリーグで13秒34のシーズンベストをマークしている謝選手を終盤までリードした走りは、今季の充実ぶりを十二分に証明したといえるものでした。
昨年のリオ五輪代表で、13秒47の自己記録を持つ矢澤航選手(デサントTC)は、大室選手に続いて4位となりました。序盤は上位争いに絡んだものの、じりじりと離されて13秒69でのフィニッシュという結果に、「中盤の4~5台目でトップスピードに乗ったときに、強い向かい風が来てリズムが落ちてしまった。トップ2人はそれでも後半グンと行き、大室さんもそれについていけたのに、自分はついていけなかったところが“お子ちゃま”かな、と」と苦笑いしながらレースを振り返りました。東京五輪を視野に、この冬から「今まで手をつけてこなかった」ウエイトトレーニングを本格的に実施したことで、見た目にもすぐわかるほど身体つきが変わりました。春先は、「探り探り身体の使い方を理解する状態」で、追い風でも13秒6~7台にとどまるレースが続いていましたが、「今日、向かい風がこれだけ吹いているなかで、(13秒)6台が出せたというのは合格点。練習でやるべき課題も見えた」と好感触を得た様子でした。次戦は、昨年もリオ五輪参加標準記録を突破する自己記録をマークした布勢スプリント。矢澤選手は、「布勢で日本記録、狙います」と力強く言い切りました。
この大会には、男子100mに出場したサニブラウン アブデルハキーム選手(東京陸協)のほかにも、日本陸連が認定するダイヤモンドアスリートが出場していました。そのなかでも、特に活躍が目を引いたのは、今春から日本大学に進んだ棒高跳の江島雅紀選手と走幅跳の橋岡優輝選手。江島選手は2位に食い込み、橋岡選手はU20日本歴代3位となる7m90の好記録をマークしました。
世界選手権参加標準記録(5m70)をすでに突破している山本聖途選手(トヨタ自動車)と荻田大樹選手(ミズノ)が出場し、この記録を上回る高さでの勝負も期待されていた男子棒高跳は、風の回る難しいコンディションのなか行われました。5m50で早くも江島・荻田・山本の3選手とスコット・ヒューストン選手(アメリカ)に絞られたなか、この高さをまず江島選手が1回で成功。荻田選手・山本選手が2回目にクリアすると、ヒューストン選手がパスして、バーは5m60へ。これをクリアできなかったヒューストン選手と江島選手が競技を終了。1回でクリアしていた荻田選手と、2回目以降をパスした山本選手が5m70に挑みましたが、山本選手が2回目を失敗した時点で荻田選手の優勝が決定し、2位争いは、5m50を1回でクリアしていたことにより、江島選手が山本選手を抑える形となりました。
1月に室内で5m50をクリア、5月初旬の日大記録会で5m61のU20日本記録を超える高さを跳び、前日の記者会見では「(世界選手権参加)標準記録を視野に入れて臨みたい」とも話していた江島選手。その実現はなりませんでしたが、「向かい風がひどいなか、けっこう1回で跳んでいくことができた。特に、自分のなかで毎回(壁の)意識があった5m50を1回で跳べたことは自信になった。壁を取っ払えたような感じがする」と、この日の試技内容を評価。ミックスゾーンで2位になったことを確認すると、「この2位は大きい。よかった」と笑顔を見せていました。
オープン種目ながら中国の8mジャンパー3選手が顔を揃えた男子走幅跳は、大会最初の種目としてスタートしました。その第1跳躍者として試技に挑んだのが橋岡選手。しかし、その記録が日本記録(8m25)やU20世界記録(8m35)を上回る“8m49”と表示されたため、会場には動揺が走りました。その後は、「記録を精査中」とアナウンスされるなか競技が進行したため、橋岡選手は“暫定1位”の状態で、トップ8以降は最終跳躍者として試技に臨む形に。最終的に、競技終了後、ビデオ計測システム(世界選手権でも採用している方法)での測定ミスとして、橋岡選手の記録が7m90(+1.9)に修正されたため、6回目で8m14(+0.5)を跳んだ王嘉男選手(中国)が優勝。日本人トップは3回目に8m00(+1.7)を跳んでいた下野伸一郎選手(九電工、3位)、橋岡選手は6位という結果になりました。
競技後、1回目の跳躍について聞かれた橋岡選手は、「絶対的にそんなに跳んでいるはずがないという自信があったので」と笑いながら、「ああいうのがあったからこそ、残りの5本のなかで、日本記録を出せるような跳躍をしたいと考え、そして、うまく切り替えることができた」と競技中の心境を振り返りました。
実際に3・4回目は7m50台だったものの、2回目に7m88(+1.1)、5回目に7m85(+2.5)、最終跳躍では7m89(+1.8)をマーク。7m90となった1回目も含めると、6本中4本で、4月初旬にオーストラリアでマークした7m79の自己記録を上回るアベレージの高さでした。橋岡選手は、「ばらつきがなかった。また、向かい風で頑張ってしまった3回目の跳躍を、5・6回目で持ち直すことができたので、修正力も上がってきている」と評価。「(8m00を)跳ぶ準備はたぶんできている。1本はまれば、ロンドンの参加標準記録(8m15)は狙える」という感触を、確信に変えることができたようでした。
■女子:100mHは木村選手、100mは福島選手、やり投は海老原選手が日本人トップに
世界大会ファイナリスト3選手が顔を揃えた女子100mHは、無風のなか行われ、2013年世界選手権5位のクイーン・ハリソン選手(アメリカ)が12秒65のシーズンベストで優勝、リオ五輪7位のティファニー・ポーター選手(イギリス)が13秒00で2位、3位にはその妹でリオ五輪4位のシンディ・オフィリ選手(イギリス)が13秒08でフィニッシュ。続いて13秒10で3選手がフィニッシュラインに飛び込みましたが、日本の木村文子選手(エディオン)と韓国の鄭蕙林選手が同記録着差なしで4位を分け合いました。シーズンベストとなる13秒10という結果に、木村選手は、「13秒1~0台は出ると思っていたので、最低ラインでの目標は達成できたかなという感じ。試合を経て、走るたびにいい感覚も出ている。次の布勢スプリントではさらに記録を狙っていきたい」と声を弾ませていました。
女子100mには、日本記録保持者の福島千里選手(札幌陸協)が出場。4月29日の織田記念を途中棄権したことで今大会が100mでの国内初レースとなりました。まずまずのスタートを見せた福島選手ですが、中盤以降の走りに精彩を欠き、200mに続きこの種目も制したベテランのイベット・ラロワ・コリオ選手(ブルガリア)をはじめとする海外選手との勝負に絡むことができず6着でフィニッシュ。記録も11秒64と、向かい風(1.0m)のなかとはいえ物足りない結果に終わってしまいました。
レースの感想を求められ、「結果に関していえば、“こんなはずじゃなかった”という感じ」とコメントした福島選手。実は、今後は、ウォーミングアップ中にケイレンを起こすアクシデントに見舞われ、そのなかで「やれることを全部やって」臨んだレースでした。思いきってスタートすることはできたものの、しかし、そこからは走っている途中のケイレンを恐れ、「勝ちたい、でも、足も怖いみたいな感じで、はらはらしながら走ってしまった」と、最後まで攻めきれなかったことを悔やんでいました。次戦は布勢スプリント。「もう次は大丈夫。早く思い切り走りたい」と気持ちを切り替えていました。
劉詩穎選手(中国)が今季世界2位、アジア新記録となる66m47をマークして制した女子やり投。日本記録保持者(63m80)の海老原有希選手(スズキ浜松AC)は、「ここで狙っておかないと、そのあと、だんだん難しくなってしまうので、決めたいと思っていた」と、世界選手権参加標準記録の61m40を狙って臨んでいましたが、前半の試技でうまく波に乗ることができません。5回目に60m63まで記録を伸ばしましたが、結局これがこの日の最高記録に。3位で競技を終えました。「1・2投目で、助走の合わせと投げ出しのところを迷ってしまい、それを修正するのに3・4投を使ってしまった。織田(記念)である程度投げられたという感触があったので、この3週間はパターンをつくってやってきた。それは外れたとは思わないし、ケガをせずに試合に行けば、60mは投げられるが、“あと1本”というところで詰めの甘さが出ている」と反省していました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
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次は、日本選手権! 日本王者、誕生の瞬間。
第101回日本陸上競技選手権大会は、6月23~25日までヤンマースタジアム長居(大阪)で開催!
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http://www.jaaf.or.jp/competition/detail/606/
朝から快晴に恵まれたこの日は、競技開始時刻(11時55分)には気温が29.5℃まで上がり、初夏を思わせる暑さに。15,200人(主催者発表)のファンが来場し、国内外から集まったトップ選手のパフォーマンスを見守りました。ホームストレートに向かい風が吹くグラウンドコンディションとなったこともあり、特にトラック種目では好記録誕生のアナウンスを聞くことはできませんでしたが、女子やり投では、中国の劉詩穎選手が今季世界2位となる66m47を投げてアジア新記録を樹立。また、男子三段跳では、呉瑞廷選手(中国)が17m18(+1.7)の大会新記録をマークしました。
注目の男子100mは、ジャスティン・ガトリン選手(アメリカ)が10秒28(-1.2)で、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)を0秒03抑えて優勝し、男子やり投では、世界歴代2位の93m90をマークしたばかりのリオ五輪金メダリスト、トーマス・レーラー選手(ドイツ)が86m55で貫禄勝ち。女子では、200mに勝ったイベット・ラロワコリオ選手(ブルガリア)が100mも制し、ティアナ・バルトレッタ選手(アメリカ)による走幅跳・100m3年連続2冠を阻みました。日本勢では、荻田大樹選手(ミズノ)が5m60で棒高跳を制して唯一の優勝者となりました。このほか、男子走高跳で衛藤昂選手(AGF)が2m30を、男子400mHで安部孝駿選手(デサントTC)が49秒20をそれぞれマークして、ロンドン世界選手権参加標準記録を突破しています。
ここでは、日本選手の活躍を中心に、大会の模様をご紹介しましょう。
■男子100m:ケンブリッジ選手がガトリン選手に肉薄
最終種目としてプログラムされた男子100mは、3レーンから6レーンにガトリン選手、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)、サニブラウン アブデルハキーム選手(東京陸協)、蘇炳添選手(中国)が入って行われました。気温は日中より少し下がったものの、真正面から吹く風が、“Set(セット)”の合図を待つ選手たちのユニフォームやナンバーカードをはためかせる条件下でスタートしました。レースは、2レーンの多田修平選手(関西学院大学)が、スタート2~3歩目で身体ひとつリードを奪い、右隣のガトリン選手やケンブリッジ選手に先行する形で進んでいきました。中盤を過ぎたあたりでガトリン選手が先頭に立つと、ラストでケンブリッジ選手がガトリン選手を追い上げましたが、逆転には至らず、ガトリン選手が10秒28で先着。ケンブリッジ選手が10秒31で続き、多田選手(10秒35)とサニブラウン アブデルハキーム選手(10秒42)までが9秒台スプリンターの蘇選手(10秒43)より先にフィニッシュしました。
優勝したガトリン選手は、ダイヤモンドリーグ第1戦のドーハ大会(5月5日)を10秒14(-1.2、4位)で走っていますが、「小さなケガがあり、リスクを冒したくなかった」と、予定していた第2戦の上海大会をキャンセルして、ゴールデングランプリに臨んでいました。そうした経緯もあって、走り自体は万全とはいえない印象でしたが、自身は「集中できたし、向かい風のなかトップスピードにも乗れた」と、まずまずの感触を得た様子でした。
「向かい風ではあったけれど、10秒2台、1台の走りができればと思っていたので、タイムはちょっと物足りない」とコメントしたのは、ガトリン選手に0.03秒まで迫ったケンブリッジ選手。自身の調子が上がってきていたので、ガトリン選手と競り合えるかもしれないと思いながらウォーミングアップをしていたことを明かし、「レース中盤からの流れは悪くなかったが、(ガトリン選手に)並びかけたとき、“行けるかな”と思ったら力が入ってしまった。そういうところがまだ課題」と振り返りました。しかし、国内初戦を終えて、「ここまでラストで自分の持ち味が出し切れないままで終わるレースが多かったが、今日は、負けはしたけれど、しっかり最後まで競ることができたというか、そのへんは今までの4レースに比べるとだいぶ良くなったと思う」と評価。「自分の思い描いている走りとはまだ差がある。布勢スプリントまで2週間あるので、しっかりと準備したい」と、次戦を見据えていました。
10秒42で4位となったサニブラウン選手は、1週間前のダイヤモンドリーグ上海大会の段階からこの大会で意識したいと話していた「スタートでの反応」が遅れてしまったと振り返り、「スタートの部分が全然できていないので、そこを徐々に修正して、試合で慣らしていきたい」と話していました。
「今回一番のダークホース」と、五輪銀メダリストのガトリン選手が名前を挙げたのが、3位に食い込んだ多田選手でした。フィニッシュ直後には、ガトリン選手のほうから声をかけて握手を求める光景も。ガトリン選手は記者会見でも「素晴らしいスタートだった。最初の10m(のダッシュ)は、私も含めておそらくみんなが驚いていたと思う」と絶賛していました。
多田選手は、6月に21歳となる関西学院大の3年生。大阪桐蔭高時代の自己記録は10秒50で、目立った実績もありませんが、大学1年時の2015年に自己記録を10秒27まで縮めると、昨年は10秒25(-0.1)をマークするとともに日本インカレ2位、国体成年3位の成績を収めるなどの進境を見せていました。その勢いはさらに増し、今季は、4月上旬の記録会で10秒17(+2.9)をマーク、織田記念で10秒24(-0.3)の自己新で桐生祥秀選手(東洋大、10秒04で優勝)に続き2位となり、5月11日の関西インカレは10秒22(-0.2)で3連覇と、右肩上がりの状態でこの大会を迎えていました。
レース後はケンブリッジ選手に逆転されたことを悔しがった多田選手。その一方で、「今年一番と言っていいくらいのスタートだった。スタートは得意だが、本番でミスする確率が高かったので、こういう大舞台で決められたことは収穫」と笑顔。「今季は、追い風参考と向かい風のなかでしか走っていないが、10秒1台は確実に狙っていけると思っている。日本選手権にしっかり合わせて、ロンドン(世界選手権出場)を目指したい」と意欲をみせていました。
■男子400mH:安部選手が7年ぶり自己新、世界選手権参加標準記録突破
世界選手権参加標準記録(49秒35)突破を目指す日本勢が、リオ五輪6位のラスムス・マギ選手(エストニア)と今季急成長のクインシー・ダウニング選手(アメリカ)との優勝争いにどこまで絡めるかが注目された男子400mHは、バックストレートでぐんと加速した2レーンの安部孝駿選手(デサントTC)が、7レーンのダウニング選手と先頭を競いながらホームストレートへ。48秒96で先着したダウニング選手とはラストでやや差がついたものの、マギ選手の追い上げを許さず2着でフィニッシュし、今季日本最高となる49秒20をマーク。この種目での参加標準記録突破者第1号となりました。
長身には不利な2レーンでのレースに、「コーナーで(身体が)外に振られないこと、スピードを殺さないことを意識した」という安部選手。「2台目、3台目がうまく行けたことで、中盤や後半(の走り)につながった」と振り返り、「静岡国際で7台目以降を失敗したので、そこを修正して、最後で硬くならないよう、冷静に自分の走りを心がけた」と話しました。「うまくまとめられればタイムは出ると思っていたが、まさか一気に(参加標準記録を)切れるとは思っていなかった。早い段階で突破できてよかった」と、好結果を喜びました。
110mHと400mHに取り組んでいた岡山・玉野光南高時代から、そのスケールの大きさに将来を嘱望されていた選手。中京大1年時の2010年にモンクトン(カナダ)世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)では、男子400mHで銀メダルを獲得しています。翌2011年にはシニアでもナショナルチームの代表入りを果たして同年のアジア選手権で優勝。2012年ロンドン五輪出場は逃したものの、2011年テグ・2013年モスクワと、2大会連続で世界選手権にも出場を果たしました。しかし、このころから右膝や右脚付け根部分の痛みに苦しむようになり、社会人となった2015年以降は、「痛みが出たり、良くなっても自分の走りがうまくできなかったりという悪循環に陥ってしまって…」と、記録的にも低迷する時期が続いていました。
転機となったのは今年の冬の決断。東京五輪を目指すために、1月から拠点を故郷の岡山に戻して、高校時代の恩師に指導を仰ぐ環境を選択したのです。当人も「ゼロからのスタートだった」と振り返るように、故障が再発しない身体づくりと走りの修正に真正面から取り組み、今シーズンを迎えていました。
49秒20は、世界ジュニア選手権決勝でマークした49秒46を、実に7年ぶりに塗り替える自己新記録ですが、「今までにも出るタイミングは何度もあったので、そこに関する喜びはあまりない」と安部選手。しかし、「自信をなくしていた面もあったので、この結果は、今後のためになる」と大きな収穫となった様子。「トップで居続けることが大事。しっかり代表入りして、世界で勝負できる選手になりたい」と力強い言葉を聞かせてくれました。
日本人2番手の5着でフィニッシュしたのは、木南記念で49秒61をマークしたリオ五輪代表の松下祐樹選手(ミズノ)。リオ五輪で力不足を実感し、フィジカルを徹底的に鍛え直したそうですが、「それがなかなか結果に表れてこない。悔しい」と話し、「日本選手権に向けて作り直したい」と巻き返しを誓っていました。松下選手に続いたのは2015年世界選手権代表の小西勇太選手(住友電工)。前日大阪で行われた関西実業団で49秒76をマークしてからの連戦でしたが、49秒95にとどまりました。
最も好調と思われていた岸本鷹幸選手(富士通)は、スタートから飛ばしてリードを奪いましたが、「喘息の発作が出てしまった」ために、中盤以降で大きく失速し、50秒38で7位に終わりました。幸い大事には至っておらず、すぐに回復。体調を整えて日本選手権で標準記録突破に挑むとのことです。
■男子走高跳:衛藤選手が世界選手権参加標準記録の2m30を再びクリア
男子走高跳は、2015年世界選手権銀メダリストで2m38のベスト記録を持つ張国偉選手(中国)が故障のため直前で欠場となったことが惜しまれましたが、これにより出場者のベスト記録は、王宇選手(中国)およびマイケル・メーソン選手(カナダ)の2m33がトップとなり、混戦が予測される状況となりました。最終的に、2m30をクリアした衛藤昂選手(AGF)とメーソン選手が優勝を争って2m32に挑みましたが、どちらもクリアならず。試技内容の差でメーソン選手の優勝となりました。
優勝こそ逃した衛藤選手ですが、世界選手権参加標準記録でもある2m30のクリアは、4月16日の国体選考会に続いてこれで2回目となるもの。ゴールデングランプリでは、2m10、2m15、2m20は1回でクリアしましたが、2m25で手間取って3回目に成功。2m28をパスして挑んだ2m30を2回目に成功する試技内容でした。「狙うと言っていたので、跳べずに終わっていたら格好悪いところだった。最低限、(2m)30が跳べてよかった」と、競技後、ほっとした様子でこう話した衛藤選手。3回の試技を要した2m25は、「自分の調子をうまくつかみ切れず、技術が安定していなかった。助走が雑になっていたので、まず丁寧に行くこと心がけた」ことでクリアできたと言い、2m30の跳躍については「勢いで跳んだようなもの。(2m25で)命拾いしたので、技術どうこう考えずに思いきり行った。(観客席からの)手拍子に後押ししてもらって、跳ばせてもらった」と振り返りました。
1週前の5月13日に行われた中部実業団では2m27をクリアしており、高いレベルでの安定ぶりが維持できている印象ですが、その背景として、昨年9月からじっくり取り組んできた筋力トレーニングの成果を挙げ、「筋力のベースが上がっていることが大きいと思う」と答えていました。一方で、スケールアップした身体の出力や反応に、まだ感覚が追いついていない側面があると言い、「結果的には安定しているが、今日も内容としてはすごく不安定なものだった。自分のなかでよくわかっていない状況が続いているので、まだまだ修正の余地はあるのかなと思う」と話していました。次にターゲットとなる日本選手権に向けては、これらをぴったりフィットさせていくことが課題となっていきそうです。
■男子110mH:強い向かい風のなか、大室選手が海外選手と激戦
障害を越える必要があるだけに、直線種目のなかでも風の状態がパフォーマンスに大きく響くのがスプリントハードル種目(男子110mH、女子100mH)。今大会の男子110mHは不運にも、1.8mという強い向かい風を突いて行うことになってしまいました。
レースは、大室秀樹選手(大塚製薬)、ミラン・トライコビッチ選手(キプロス、ベスト記録13秒31)による先頭争いに、終盤で謝文軍選手(中国、ベスト記録13秒23)が加わり、ラストで謝選手がトライコビッチ選手を0.01秒かわして13秒51で先着し、3着で続いた大室選手は13秒59でフィニッシュ。「向かい風でなければ、好記録が出ただろうに」と思わせる結果となりました。日本人トップとなった大室選手ですが、「スタートから1台目の入りは、アップの段階から安定していた。しかし、もうちょっと中盤でスピードを出せたという感覚がある。5台目あたりで向かい風が急に強く感じたので、それがなかったら…とも思うが、そこはほかの選手も同じ。単純に負けだと思う」と満足していない様子。しかし、ラストこそ離されたものの、リオ五輪7位のトライコビッチ選手や1週間前の上海ダイヤモンドリーグで13秒34のシーズンベストをマークしている謝選手を終盤までリードした走りは、今季の充実ぶりを十二分に証明したといえるものでした。
昨年のリオ五輪代表で、13秒47の自己記録を持つ矢澤航選手(デサントTC)は、大室選手に続いて4位となりました。序盤は上位争いに絡んだものの、じりじりと離されて13秒69でのフィニッシュという結果に、「中盤の4~5台目でトップスピードに乗ったときに、強い向かい風が来てリズムが落ちてしまった。トップ2人はそれでも後半グンと行き、大室さんもそれについていけたのに、自分はついていけなかったところが“お子ちゃま”かな、と」と苦笑いしながらレースを振り返りました。東京五輪を視野に、この冬から「今まで手をつけてこなかった」ウエイトトレーニングを本格的に実施したことで、見た目にもすぐわかるほど身体つきが変わりました。春先は、「探り探り身体の使い方を理解する状態」で、追い風でも13秒6~7台にとどまるレースが続いていましたが、「今日、向かい風がこれだけ吹いているなかで、(13秒)6台が出せたというのは合格点。練習でやるべき課題も見えた」と好感触を得た様子でした。次戦は、昨年もリオ五輪参加標準記録を突破する自己記録をマークした布勢スプリント。矢澤選手は、「布勢で日本記録、狙います」と力強く言い切りました。
■ダイヤモンドアスリート:日大ルーキーの江島選手と橋岡選手が大健闘
この大会には、男子100mに出場したサニブラウン アブデルハキーム選手(東京陸協)のほかにも、日本陸連が認定するダイヤモンドアスリートが出場していました。そのなかでも、特に活躍が目を引いたのは、今春から日本大学に進んだ棒高跳の江島雅紀選手と走幅跳の橋岡優輝選手。江島選手は2位に食い込み、橋岡選手はU20日本歴代3位となる7m90の好記録をマークしました。
世界選手権参加標準記録(5m70)をすでに突破している山本聖途選手(トヨタ自動車)と荻田大樹選手(ミズノ)が出場し、この記録を上回る高さでの勝負も期待されていた男子棒高跳は、風の回る難しいコンディションのなか行われました。5m50で早くも江島・荻田・山本の3選手とスコット・ヒューストン選手(アメリカ)に絞られたなか、この高さをまず江島選手が1回で成功。荻田選手・山本選手が2回目にクリアすると、ヒューストン選手がパスして、バーは5m60へ。これをクリアできなかったヒューストン選手と江島選手が競技を終了。1回でクリアしていた荻田選手と、2回目以降をパスした山本選手が5m70に挑みましたが、山本選手が2回目を失敗した時点で荻田選手の優勝が決定し、2位争いは、5m50を1回でクリアしていたことにより、江島選手が山本選手を抑える形となりました。
1月に室内で5m50をクリア、5月初旬の日大記録会で5m61のU20日本記録を超える高さを跳び、前日の記者会見では「(世界選手権参加)標準記録を視野に入れて臨みたい」とも話していた江島選手。その実現はなりませんでしたが、「向かい風がひどいなか、けっこう1回で跳んでいくことができた。特に、自分のなかで毎回(壁の)意識があった5m50を1回で跳べたことは自信になった。壁を取っ払えたような感じがする」と、この日の試技内容を評価。ミックスゾーンで2位になったことを確認すると、「この2位は大きい。よかった」と笑顔を見せていました。
オープン種目ながら中国の8mジャンパー3選手が顔を揃えた男子走幅跳は、大会最初の種目としてスタートしました。その第1跳躍者として試技に挑んだのが橋岡選手。しかし、その記録が日本記録(8m25)やU20世界記録(8m35)を上回る“8m49”と表示されたため、会場には動揺が走りました。その後は、「記録を精査中」とアナウンスされるなか競技が進行したため、橋岡選手は“暫定1位”の状態で、トップ8以降は最終跳躍者として試技に臨む形に。最終的に、競技終了後、ビデオ計測システム(世界選手権でも採用している方法)での測定ミスとして、橋岡選手の記録が7m90(+1.9)に修正されたため、6回目で8m14(+0.5)を跳んだ王嘉男選手(中国)が優勝。日本人トップは3回目に8m00(+1.7)を跳んでいた下野伸一郎選手(九電工、3位)、橋岡選手は6位という結果になりました。
競技後、1回目の跳躍について聞かれた橋岡選手は、「絶対的にそんなに跳んでいるはずがないという自信があったので」と笑いながら、「ああいうのがあったからこそ、残りの5本のなかで、日本記録を出せるような跳躍をしたいと考え、そして、うまく切り替えることができた」と競技中の心境を振り返りました。
実際に3・4回目は7m50台だったものの、2回目に7m88(+1.1)、5回目に7m85(+2.5)、最終跳躍では7m89(+1.8)をマーク。7m90となった1回目も含めると、6本中4本で、4月初旬にオーストラリアでマークした7m79の自己記録を上回るアベレージの高さでした。橋岡選手は、「ばらつきがなかった。また、向かい風で頑張ってしまった3回目の跳躍を、5・6回目で持ち直すことができたので、修正力も上がってきている」と評価。「(8m00を)跳ぶ準備はたぶんできている。1本はまれば、ロンドンの参加標準記録(8m15)は狙える」という感触を、確信に変えることができたようでした。
■女子:100mHは木村選手、100mは福島選手、やり投は海老原選手が日本人トップに
世界大会ファイナリスト3選手が顔を揃えた女子100mHは、無風のなか行われ、2013年世界選手権5位のクイーン・ハリソン選手(アメリカ)が12秒65のシーズンベストで優勝、リオ五輪7位のティファニー・ポーター選手(イギリス)が13秒00で2位、3位にはその妹でリオ五輪4位のシンディ・オフィリ選手(イギリス)が13秒08でフィニッシュ。続いて13秒10で3選手がフィニッシュラインに飛び込みましたが、日本の木村文子選手(エディオン)と韓国の鄭蕙林選手が同記録着差なしで4位を分け合いました。シーズンベストとなる13秒10という結果に、木村選手は、「13秒1~0台は出ると思っていたので、最低ラインでの目標は達成できたかなという感じ。試合を経て、走るたびにいい感覚も出ている。次の布勢スプリントではさらに記録を狙っていきたい」と声を弾ませていました。
女子100mには、日本記録保持者の福島千里選手(札幌陸協)が出場。4月29日の織田記念を途中棄権したことで今大会が100mでの国内初レースとなりました。まずまずのスタートを見せた福島選手ですが、中盤以降の走りに精彩を欠き、200mに続きこの種目も制したベテランのイベット・ラロワ・コリオ選手(ブルガリア)をはじめとする海外選手との勝負に絡むことができず6着でフィニッシュ。記録も11秒64と、向かい風(1.0m)のなかとはいえ物足りない結果に終わってしまいました。
レースの感想を求められ、「結果に関していえば、“こんなはずじゃなかった”という感じ」とコメントした福島選手。実は、今後は、ウォーミングアップ中にケイレンを起こすアクシデントに見舞われ、そのなかで「やれることを全部やって」臨んだレースでした。思いきってスタートすることはできたものの、しかし、そこからは走っている途中のケイレンを恐れ、「勝ちたい、でも、足も怖いみたいな感じで、はらはらしながら走ってしまった」と、最後まで攻めきれなかったことを悔やんでいました。次戦は布勢スプリント。「もう次は大丈夫。早く思い切り走りたい」と気持ちを切り替えていました。
劉詩穎選手(中国)が今季世界2位、アジア新記録となる66m47をマークして制した女子やり投。日本記録保持者(63m80)の海老原有希選手(スズキ浜松AC)は、「ここで狙っておかないと、そのあと、だんだん難しくなってしまうので、決めたいと思っていた」と、世界選手権参加標準記録の61m40を狙って臨んでいましたが、前半の試技でうまく波に乗ることができません。5回目に60m63まで記録を伸ばしましたが、結局これがこの日の最高記録に。3位で競技を終えました。「1・2投目で、助走の合わせと投げ出しのところを迷ってしまい、それを修正するのに3・4投を使ってしまった。織田(記念)である程度投げられたという感触があったので、この3週間はパターンをつくってやってきた。それは外れたとは思わないし、ケガをせずに試合に行けば、60mは投げられるが、“あと1本”というところで詰めの甘さが出ている」と反省していました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
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