EVENT REPORT

イベントレポート陸上を活気づける「走る・挑む・観る・参加する」大会として、選手とファンが集まる大会に~日本記録挑戦会兼住友電工杯 住友電工陸上フェスタ2024~

日本最高記録、アジア最高記録、学生最高記録が誕生

前日までの雨天予報を翻して、空に秋晴れが広がった2024年10月27日、兵庫県伊丹市の「住友総合グランド陸上競技場」で『日本記録挑戦会兼住友電工杯 住友電工陸上フェスタ2024』(主催:関西実業団陸上競技連盟)が開催された。13回目の開催(2020年の第9回大会は新型コロナウイルス感染症拡大防止対策のため中止)となった今回は、日本記録挑戦会として男女計18種目(リレー、オープン種目含む)、パラ100mなどを実施。住友電工杯の女子4×200mリレーで甲南大(奥野由萌選手-岡根和奏選手-藏重みう選手-青山華依選手)が1分35秒42の日本学生最高記録を樹立するなど、大会新や自己新のアナウンスが聞かれた。

この大会は「住友総合グランドの全天候型トラック改修記念」と「関西から陸上競技を盛り上げよう」をテーマに掲げて誕生。ロンドン五輪が行われた2012年の10月に第1回大会が行われた。「関西実業団の存在感を高めるためにテーマを打とうと考え、過去に関西実業団連盟の記録会で女子1マイルや女子2万mなどの日本最高記録、世界最高記録(いずれも当時)が誕生したことを参考にしました」と話すのは、当時住友電工陸上競技部監督を務めていた松本俊裕さん(現兵庫陸上競技協会会長)。実施種目として300m、200mHなど通常は実施されない特殊種目も設定し、選手たちの日本記録への挑戦心をかき立てた。

大会史を振り返ると、第1回大会には金丸祐三選手(男子400m/当時大塚製薬)、山本亮選手(男子マラソン/当時佐川急便)、福士加代子選手(女子1万m/当時ワコール)、重友梨佐選手(女子マラソン/当時天満屋)、木村文子選手(女子100mH/当時エディオン)のロンドン・オリンピアンのほか、世界選手権代表経験選手も複数エントリー。野口みずき選手(当時シスメックス)や福士選手らとジョギングを楽しむイベントも開かれた。
第2回大会からは60mも実施。さっそく江里口匡史選手(当時大阪ガス)が当時の日本記録を上回る6秒57をマークするも、追い風2.1mで参考記録に。翌年は川面聡大選手(当時ミズノ)が日本最高タイ(当時)となる6秒63をマークした。第5回大会では男子3000mで遠藤日向選手(住友電工/当時学法石川高3年)が7分59秒18の日本高校最高記録(当時)を打ち立てた。
男子200mHでは第5回大会で大室秀樹選手(当時大塚製薬)が22秒80のアジア最高タイ&日本最高タイ、第6回大会で渡部佳朗選手(当時城西大)が22秒54のアジア最高&日本最高記録で走り、歓声を浴びた。そして、今年は甲南大による女子4×200mリレーの日本学生最高記録。「新記録・最高記録に挑戦し、更新することで陸上競技に活気をもたらす」という大会創設の志に資する大会になっているといえる。

やがて、住友電工社内の健康・体力増進イベントも陸上競技場隣接の体育館や野球場などで併催されるようになった。普段は陸上競技の大会に足を運ばない層にも実業団・学生のトップ選手たちの走りを間近で観戦してもらう機会となり、ファン層を掘り広げることにも一役買っている。
もちろん、「選手が走るのを楽しく観戦してください」というだけの大会ではない。「交流・参加」も大会に込められた大切な思いだ。小中学生を対象としたリレー種目や陸上競技教室は第1回大会から実施。陸協未登録の市民ランナーも参加できるレース(第7回大会~)や小中学生がトップ選手と対決する50m走(第11回大会~)も設け、今年の第13回大会はオープン参加ながら中学生の個人出場も可能とした。
小中学生にとっては、小中学校にはない競技環境で、たとえ1日でもトップ選手と交流すれば、陸上競技に対する意欲や目標が変わってくるだろう。この大会は子どもたちの目線を上げる大切な接点になっている。

オリンピアンが“先生”、オリンピアンと勝負

第13回大会は伊丹市の小中学生を対象とした陸上競技教室から始まった。伊丹市の太田洋子教育長は「トップ選手の動き、姿勢、考え方をよく見て、聞いてほしいと思います」とあいさつ。泉谷駿介選手(男子110mH)や秦澄美鈴選手(女子走幅跳)ら住友電工所属の選手が先生になり、小学生低学年・中学年・高学年は短距離、跳躍、投てきに、中学生は3班に分かれて短距離、ハードルに取り組んだ。

日本記録挑戦会では、50mチャレンジ、男女60m・100m・200m・300m・800m・4×200mリレー、男子110mH、女子100mH、女子3000m、オープン&未登録1500m、中学男女4×100mリレー、パラ100m(立位および車いす)が行われた。
最初の50mチャレンジは、小学1年生~中学3年生が学年ごと全9組でトップ選手と50mを競走する。中学2年の組には、「母が出場を勧めてくれた大会です」と言う、北村環奈選手(桔梗が丘中2年・三重)が出場。今夏の全日中女子200mで優勝した期待のスプリンターは、同じ三重県出身のパリ五輪男子200m&4x100mリレー代表の上山紘輝選手との対決を楽しみ、7秒26でフィニッシュした後は笑顔で上山選手と握手をかわした。
北村選手は日本記録挑戦会の女子60mにも出場。「自分の前に強い選手が走っていて、追いかける立場になるレースを経験できたことがよかったです。強い選手の走りを見たり、スタート前に意識していることや動きについて質問したりもできたので勉強になりました」と話し、憧れのトップ選手や学生選手との交流から収穫を得た様子だった。

中学3年の組では全日中男子200m2位の大段璃空選手(神戸西神中3年・兵庫)らが多田修平選手と対決。大段選手は6秒23で、6秒02の多田選手に次ぐ2着。「多田選手がどれだけ本気で走ったのかわかりませんが、思ったほどの差はつけられませんでした。初めてトップ選手と走って、身近に感じられたし、とてもいい経験になりました。オリンピックに出るという目標を叶えたいです」と夢を膨らませていた。

多田選手は50mチャレンジに3年連続参加。「僕と一緒に走って喜んでくれるのでうれしいですし、見ている人からも、応援してもらえているんだなと感じられます。僕も中学の時、トップ選手の陸上教室に参加して、サインをもらったことを覚えています。一緒に走った子が将来、『あのとき多田と走ったんだ』と競技を頑張るきっかけになっていてくれたら、それもうれしいですね」と話した。

通常種目や公認パラ種目も実施、ワクワクする大会へ

挑戦会は、今回男女の200mと800mも実施。住友電工陸上競技部の競技部長・藤田渉さんは「日本記録を狙うと言っても、特殊種目ばかりだと選手が集まりにくい。選手たちの『記録を狙いたい』に応えようと考え、100mだけでなく、今回は200mと800mも行いました」と説明する。
男子800mで1分49秒25をマークして優勝した四方悠瑚選手(4DIRECTIONS)は「日本記録に挑戦ということで、1周目は普段よりかなり速く入りました」。ハイレベルな記録に挑戦する果敢な走りを見せてくれた。
男子100mと200mには中村樹月選手(伊丹南中3年・兵庫)がオープン出場。坂井隆一郎選手(大阪ガス)や上山選手らが観戦する目の前を思いきり駆け抜け、100mではセカンドベストの10秒88(-0.4)をマークし、200mは22秒24(-1.4)だった。
50mチャレンジに出場した多田選手の走りを間近に見ることができ、「多田選手はSNSで見る動画と違って、迫力を感じました」と言う。「トップ選手がいる環境で走れることはとてもありがたかったです。200mでは大学生に意外とついていけたので、まだまだ差はありますが、これからも頑張ろうと思えました」と満足そうに話していた。

パラ種目は第11回大会からプログラムに入り、今回は世界パラ陸連(WPA)の公認競技会(エンドース)として行われた。結果がWPAランキング対象になるため、パリパラリンピック男子100m(車いす・T52)8位入賞の伊藤竜也選手(新日本工業)や同女子100m(車いす・T34)7位入賞の北浦春香選手(インテージ)ら、エントリー人数は前年4人から12人に増えた。

2017年入社以来、毎回エントリーしている梅原紗月選手は今回、女子100mと100mハードルに出場。「シーズン中は400mハードル中心なので、100mや100mハードルに出る機会がなくて、こういうときなら出られますし、普段遠いところの試合に来られない職場の人がここなら私が走る姿を見に来てくれるので、私にはメリットしかないです」と参加の意義を話す。
大会には、特殊種目でも日本新・日本最高記録に挑み、更新することで、選手のモチベーションアップ、陸上競技に活気をもたらすことを図るという理念がある。徐々にイベント色が濃くなっているが、梅原選手は「イベント感があって、緊張感が高まりすぎない大会ですね。バックストレートでアップやダウンをしてて、ホームストレートでレースをしてるって大会、なかなかないですよね」と和気あいあいとした雰囲気を楽しむ一方で、「日本記録挑戦会なので、トップ選手のエントリーが増えて、大会が盛り上がってほしい」という思いもある。

13回続くこの大会、藤田さんは「選手が記録に挑むチャンスのある大会、選手・家族・地域の人・観客たちが楽しめる大会としての形はできてきたと思っています」と、大会内容の企画と運営に手ごたえを感じ取る。そして、次段階として、「いかに大会のことを広めて、選手に来てもらえるかだと思います」とさらなる発展を描く。
日本記録や歴代上位記録はどの種目においてもそうそう出るものではないが、プログラムを開いて、選手名を見て、実際にスタートラインに立つ姿に、「すごい記録が出るかも…」とワクワクする。そんな期待感を漂わせていくことで、選手とファンが集まる大会に育っていく。

文・写真:中尾義理

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