「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」が10月15日(日)に東京・国立競技場を発着点とするコースで行われる(男子8時00分、女子8時10分スタート)。
パリ五輪選手選考に関して日本陸連が示している「代表内定条件」は、「23年10月のMGCで、1・2位が内定」。
「3人目」は24年3月までの指定レースで「男子2時間05分50秒以内」「女子2時間21分41秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだ。ただし、「MGC」の3位の記録が上記を上回った場合、そのタイムより1秒早いものが新たな設定記録なる。上記の設定記録をクリアした者が24年3月末時点でいない場合は、MGC3位の選手が内定となる。
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ここでは、現地あるいはテレビ中継での観戦のお供として「記録と数字で楽しむMGC2023」をお届けする。
なお、前回のMGCあるいはその他の各大会で紹介したことがあるデータや文章も含むが、可能な限り最新の記録や情報に修正した。
MGC参加資格の獲得期限(5月31日)までに男子67名、女子29名が出場権を得た。2019年9月15日に行われた前回のMGCの有資格者は、男子34名(出場は30名)、女子15名(出場は10名)だったので男女ともほぼ倍増となった。
男子は67人の有資格者のうち、10月5日行われた杭州アジア競技大会を走った池田耀平(Kao)と定方俊樹(三菱重工)はエントリーせず。大六野秀畝(旭化成)、ブダペスト世界選手権に出場した西山和弥(トヨタ自動車)、そして、佐藤悠基(SGホールディングス)、丸山竜也(トヨタ自動車)が欠場で61名が出場予定。(※10月11日現在)
女子は、29名のうち9月24日のベルリンに出場した新谷仁美(積水化学)、杭州アジア競技大会を走った大西ひかり(JP日本郵政G)がエントリーせず。欠場を表明したのは、ブダペスト世界選手権を走った松田瑞生(ダイハツ)と佐藤早也伽(積水化学)、そして、渡邉桃子(天満屋)で、24名でのスタート予定である。(※10月11日現在)
男女ともに現在の「オールスター」がほぼ勢揃いし、前回以上の盛り上がりが期待できそうである。
>>日本代表は誰の手に!? MGC出場選手一覧をチェック
出場者の各種データ
(PDF)
「表」は、MGC出場資格を獲得した男子67名、女子29名の各種データをまとめたものだ。ここには、当初からMGCにエントリーしなかった男女各2名、10月3日までに欠場を表明した男子4名、女子2名も欄外に記載した。
記載順は、「番号(MGC出場資格獲得順)」の順ではなく、マラソンの自己記録の早い順で、「年齢」は10月15日時点のもの、「身長・体重」はアンケートに回答のあった選手のみを掲載。「資格記録」のタイムの後ろの「+」印はワイルドカードによる出場で、2レース平均で条件をクリアした選手は記録の良い方を記載。ハーフマラソンの最高記録の「+」印は、マラソンの途中計時のタイムを示す。また、「各種目の順位」および「平均値・標準偏差」は、エントリーした男子65名・女子27名から計算したもの。「回数」はこれまでのマラソン出場回数を可能な限り調査したもので、抜けがある可能性もある。なお、途中棄権(DNF)は「回数」に含むが、エントリーしたが不出場(DNS)あるいはペースメーカーとしての出場は「回数」にはカウントしていない。
◆各種目の自己ベスト記録◆
欠場を公表した男子4名、女子2名を含めエントリーした男子65名、女子27名のマラソン・ハーフ・10000m・5000mの自己ベストをまとめた。各種目の上位10名のタイムは赤字で示した。これにより、有力な選手がある程度は把握できるだろう。
<男子>
出場予定の61名のマラソンの自己ベスト記録は、2時間4分台1名、5分台3名、6分台6名、7分台22名でここまでで半数以上の計32名。欠場の4名を含む65名の平均値は2時間07分57秒1。
ハーフマラソンの60分台は3名、61分台31名で計34名。平均値は、61分54秒7。
10000mの27分台は13名。29分02秒33の川内優輝以外の残る47名は28分台。平均値は、28分18秒11。
5000m13分30秒以内が4名、13分台は計49名。平均値は、13分47秒47。
出場予定の61名で4種目すべてでトップ10に入っているのは、大迫傑(Nike)のみでマラソン2位、ハーフ6位、1万m3位、5000m1位。
3種目でトップ10以内は、欠場を表明した西山和弥(トヨタ自動車)で65名中の順位は、マラソン7位、ハーフ2位、10000m7位、5000m31位。
<女子>
出場予定の25名のマラソンの自己ベストは、2時間20分台1名、21分台4名、22分台3名、23分台4名、24分台1名でここまでで半数以上の13名。以下、25分台8名、26分台4名で計25名。欠場の2名を含む27名の平均値は、2時間23分56秒3。
ハーフマラソンは67分台1名、68分台4名、69分台6名、70分台10名、71分台4名。平均値は、70分00秒2。
10000mは31分台8名、32分台15名、33分台2名。平均値は、32分09秒78。
5000mは15分30秒以内9名、15分台が計23名、残る2名が16分00秒台。平均値は、15分36秒11。
出場予定の25名で4種目すべてでトップ10に入っているのは、男子は大迫のみだったが女子は5名もいる。一山麻緒(資生堂)、安藤友香(ワコール)、鈴木亜由子(JP日本郵政G)、加世田梨花(ダイハツ)、前田穂南(天満屋)だ。
それぞれのエントリー27名中の種目別順位は、左からマラソン・ハーフ・1万m・5000mの順に、
Mar. | Half | 1万 | 5千 | |
---|---|---|---|---|
一山麻緒 | 1位 | 4位 | 1位 | 1位 |
安藤友香 | 2位 | 3位 | 3位 | 5位 |
鈴木亜由子 | 4位 | 1位 | 2位 | 2位 |
加世田梨花 | 5位 | 2位 | 9位 | 4位 |
前田穂南 | 7位 | 4位 | 5位 | 10位 |
なお、欠場を表明した佐藤早也伽(積水化学)も、7位・7位・4位・3位である。
当初からエントリーしなかった新谷仁美(積水化学)の持ちタイムは4種目ともトップである。
◆平均年齢◆
エントリーした男子65名と女子27名の10月15日時点での平均年齢(各自の小数第二位までで計算)は、男子29.34歳(標準偏差±3.46歳)、女子28.87歳(±2.82歳)。4年前の2019年にエントリーした男子31名(出場は30名)、女子12名(出場は10名)のそれは、男子28.71歳(±3.32歳)、女子26.96歳(±4.43歳)だった。
前回と比較して平均年齢は、男子が0.63歳(7カ月半あまり)、女子は1.91歳(1歳11カ月)高くなっている。
【2019年と2023年のエントリー選手の年齢】
・氏名の前の数字は、マラソンのベスト記録による男子65名中、女子27名中の順位
2019年男子エントリー | 2023年男子エントリー | ||
---|---|---|---|
年齢 | 人数(%/累計%) | 人数(%/累計%) | |
23歳 | 1人(3.2%/3.2%) | 2人(3.1%/3.1%) | 27)横田俊吾、38)柏優吾、 |
24歳 | 1人(3.2%/6.5%) | 3人(4.6%/7.7%) | 38)西研人、62)飯田貴之/7)西山和弥(欠場) |
25歳 | 5人(16.1%/22.6%) | 4人(6.2%/13.8%) | 19)星岳、30)浦野雄平、35)山口武、58)赤﨑暁 |
26歳 | 4人(12.9%/35.5%) | 8人(12.3%/26.2%) | 3)山下一貴、5)土方英和、12)吉田祐也、18)吉岡幸輝、31)土井大輔、41)藤曲寛人、44)畔上和弥、51)久保和馬 |
27歳 | 4人(12.9%/48.4%) | 9人(13.8%/40.0%) | 16)下田裕太、19)湯澤舜、25)市山翼、23)小山直城、26)作田将希、43)堀尾謙介、46)古賀淳紫、54)中西亮貴、57)富安央 |
28歳 | 5人(16.1%/64.5%) | 8人(12.3%/52.3%) | 1)鈴木健吾、6)細谷恭平、27)西山雄介、42)作田直也、44)中村祐紀、49)秋山清仁、51)安井雄一、55)山本翔馬 |
29歳 | 2人(6.5%/71.0%) | 8人(12.3%/64.6%) | 10)上門大祐、11)大塚祥平、14)木村慎、15)聞谷賢人、34)小山裕太、51)武田凛太郎、60)二岡康平/29)丸山竜也(欠場) |
30歳 | 3人(9.7%/80.6%) | 8人(12.3%/76.9%) | 4)其田健也、7)髙久龍、9)井上大仁、21)村本一樹、59)橋本崚、62)神野大地、64)高田康暉/13)大六野秀畝(欠場) |
31歳 | ・(0.0%/80.6%) | 2人(3.1%/80.0%) | 36)小山司、61)田口雅也 |
32歳 | 2人(6.5%/87.1%) | 4人(6.2%/86.2%) | 2)大迫傑、47)河合代二、50)相葉直紀、65)松本稜 |
33歳 | 1人(3.2%/90.3%) | 4人(6.2%/92.3%) | 23)青木優、31)鎧坂哲哉、31)丸山文裕、48)山本憲二 |
34歳 | ・(0.0%/90.3%) | ・(0.0%/92.3%) | |
35歳 | 2人(6.5%/96.8%) | 1人(1.5%/93.8%) | 55)大石港与 |
36歳 | 1人(3.2%/100.0%) | 2人(3.1%/96.9%) | 16)川内優輝/40)佐藤悠基(欠場) |
39歳 | ・ | 2人(6.2%/100.0%) | 22)今井正人、37)岡本直己 |
合計 | 31人 | 65人 |
2019年女子エントリー | 2023年女子エントリー | ||
---|---|---|---|
年齢 | 人数(%/累計%) | 人数(%/累計%) | |
22歳 | 1人(8.3%/8.3%) | ・(0.0%/0.0%) | |
23歳 | 3人(25.0%/33.3%) | ・(0.0%/0.0%) | |
24歳 | 2人(16.7%/50.0%) | 2人(7.4%/7.4%) | 6)加世田梨花、16)鈴木優花 |
25歳 | 1人(8.3%/58.3%) | 2人(7.4%/14.8%) | 12)渡邉桃子、24)大東優奈 |
26歳 | ・(0.0%/58.3%) | 2人(7.4%/22.2%) | 1)一山麻緒、17)福良郁美 |
27歳 | 2人(16.7%/75.0%) | 3人(11.1%/33.3%) | 4)細田あい、9)前田穂南、25)竹本香奈子 |
28歳 | ・(0.0%/75.0%) | 9人(33.3%/66.7%) | 8)上杉真穂、11)松下菜摘、13)谷本観月、14)岩出玲亜、19)川内理江、21)太田琴菜、22)和久夢来、26)森田香織/2)松田瑞生(欠場) |
29歳 | 1人(8.3%/83.3%) | 3人(11.1%/77.8%) | 3)安藤友香、23)池田千晴/7)佐藤早也伽(欠場) |
30歳 | ・(0.0%/83.3%) | ・(0.0%/77.8%) | |
31歳 | ・(0.0%/83.3%) | 1人(3.7%/81.5%) | 10)前田彩里 |
32歳 | ・(0.0%/83.3%) | 3人(11.1%/92.6%) | 5)鈴木亜由子、18)吉川侑美、20)市田美咲 |
33歳 | 1人(8.3%/91.7%) | ・(0.0%/92.6%) | |
34歳 | ・(0.0%/91.7%) | 1人(3.7%/96.3%) | 15)阿部有香里 |
35歳 | ・(0.0%/91.7%) | ・(0.0%/96.3%) | |
36歳 | ・(0.0%/91.7%) | 1人(3.7%/100.0%) | 27)山口遥 |
37歳 | 1人(8.3%/100.0%) | ||
合計 | 12人 | 27人 |
2019男→2023男 | 2019女→2023女 | |
---|---|---|
24歳未満 | 6.5%→7.7% | 50.0%→7.4% |
25~29歳 | 64.5%→56.9% | 33.3%→70.4% |
30~34歳 | 19.4%→27.7% | 8.3%→18.5% |
35歳以上 | 9.7%→7.7% | 8.3%→3.7% |
2019年と比較した5歳毎の年齢構成は、男子は25~29歳が8.6%減少し、30~34歳が8.3%増加したのが目立った変化。
一方の女子は、4年前に半数の50.0%だった24歳未満が7.4%に激減。25~29歳と30~34歳が倍増以上の構成比になったのが目立つ。
2019年に続いてのエントリーは、男子65名中の14名(21.5%)で前回もエントリーした31名中の45.2%。女子は27名中の7名(25.9%)で前回もエントリーした12名中の58.3%にあたる。女子の平均年齢や5歳刻みの年齢構成比が前回よりも高くなっているのは、このあたりにある。
マラソンの自己ベストの順位でみていくと、男子は26歳から30歳に記録のいい選手が多くいる。26~30歳には欠場者を含め65名中10位以内のタイムを保持する選手が8名、20位以内も16人いる。
女子は、トップ10以内のタイムを保持する選手が24歳から32歳まで各年齢に分散している。
◆「ハーフ・10000m・5000m」と「マラソン」との持久係数◆
「表」には、各選手の自己ベストをもとに、「ハーフマラソンとマラソン」「10000mとマラソン」「5000mとマラソン」との「持久係数」を示した。「持久係数」とは、1960年代に故・高橋進氏が発表したもので、2つの種目のうち長い方の距離の記録を短い方の距離の記録で除した商である。
具体的な計算方法は、例えば、10000mのタイムがともに「28分00秒00」でマラソンが「2時間06分00秒」と「2時間08分00秒」という2人の選手がいたとしよう。
「10000m:マラソンの持久係数」は、前者が「2時間06分00秒÷28分00秒00=4.5000」で後者が「2時間08分00秒÷28分00秒00=4.6071」となる。実際に計算する場合は、「時間・分・秒」を「秒単位」にしなければならず少々面倒ではあるが、関数電卓を使用すればかなり簡単に計算できる。あるいは、パソコンが得意な人ならば表計算ソフトで「ちょちょいのちょい」かもしれない。
これによって、持久係数の平均値や他の選手の数字と比較してその人が「スタミナ型」なのか「スピード型」なのかを把握できたり、今後のトレーニングの方向を考えるヒントを得たりすることもできるだろう。また、走ったことがない未知の種目のタイムを推定したり、目標記録の設定に利用することもできる。
持久係数の数値が小さいほど「距離が伸びてもスピード低下の度合いが小さく持久力がある」ということになる。逆に数値が大きい場合は、「スピードの持続能力に改善の余地がありそう」ということになる。また、その数値を他の選手と比較したり、個人の経年変化をみることなどでも新たな発見ができるかもしれない。ただし、計算する各種目の記録が、その選手の力をしっかりと出し切ったものでなければ、とんでもなく大きな数字になったり小さな数字になったりするので、この点には注意する必要がある。
「表」の持久係数は、各選手の自己ベストから算出したものである。よって、トラックの記録が10年近く前のタイムであったりする選手もいる。本来であれば、1~2年以内の各種目のベスト記録で計算した方が現時点での持久係数を示すには適切である。が、マラソンに本格参入してからほとんどトラックを走っていない選手もかなりいるので、「自己ベスト」で計算した。
MGCにエントリーした男子65名、女子27名のマラソンと各種目の持久係数の「平均値・標準偏差」は、以下の通りだ。
小数点以下は、2~4桁程度にとどめるべきかもしれないが、ここではもとの計算に用いた6桁までをそのまま示した。
「平均値」は小学5年生で習うが、「標準偏差」は高校の「数学Ⅰ」の内容なので中学生以下の読者の方には「ごめんなさい」であるけれども……。
ネットで検索すれば、色々な解説や説明記事が出てくるので、そちらをご覧いただきたい。
【2023年MGCエントリー選手のマラソンとハーフ・10000m・5000mの持久係数の平均値と標準偏差】
男子平均±標準偏差 | 女子平均±標準偏差 | |
---|---|---|
ハーフ:マラソン | 2.066874±0.025278 | 2.056405±0.024372 |
10000m:マラソン | 4.521668±0.063340 | 4.476022±0.060795 |
5000m:マラソン | 9.280017±0.158972 | 9.227671±0.147631 |
男子より女子の方が、各種目の持久係数が僅かに小さな数字となっている。
話は変わるが、2001年度までの小中学校の通信簿の5段階相対評価で用いられた、「5」「4」「3」「2」「1」の割合は、
上位7%(偏差値65以上)-->5
次の24%(偏差値55~65)-->4
中位38%(偏差値45~55)-->3
次の24%(偏差値35~45)-->2
下位7%(偏差値35以下)-->1
というものだった。
これを上記の「平均値と標準偏差」をもとに、「持久係数」にあてはめ「数値が小さいほど評価が高い」とすれば、以下のような5段階の範囲となる。
【2023年MGCエントリー選手のマラソンとハーフ・10000m・5000mの持久係数の5段階評価の範囲】
<男子>
ハーフ:マラソン | 10000m:マラソン | 5000m:マラソン | |
---|---|---|---|
5 | 2.028957未満 | 4.426658未満 | 9.041559未満 |
4 | 2.028957~2.054235 | 4.426658~4.489998 | 9.041559~9.200531 |
3 | 2.054235~2.079513 | 4.489998~4.553338 | 9.200531~9.359503 |
2 | 2.079513~2.104791 | 4.553338~4.616678 | 9.359503~9.518475 |
1 | 2.104791を超える | 4.616678を超える | 9.518475を超える |
<女子>
ハーフ:マラソン | 10000m:マラソン | 5000m:マラソン | |
---|---|---|---|
5 | 2.019847未満 | 4.384830未満 | 9.006225未満 |
4 | 2.019847~2.044219 | 4.384830~4.445625 | 9.006225~9.153856 |
3 | 2.044219~2.068591 | 4.445625~4.506420 | 9.153856~9.301487 |
2 | 2.068591~2.092963 | 4.506420~4.567215 | 9.301487~9.449118 |
1 | 2.092963を超える | 4.567215を超える | 9.449118を超える |
なお、上述の分類は、母集団が「正規分布」であるという条件のもとに当てはまる。
今回のMGCのエントリーは男子65名、女子27名で母集団が少ないためマラソンと各種目(ハーフ・10000m・5000m)の「持久係数」の数値の分布が正規分布になっていないものも一部あるが、とりあえずは上述の分布に従って、「表」のマラソンと各種目との「持久係数」についてカッコ付きで「5」「4」「3」「2」「1」を記載した。
2001年度までの相対評価の通信簿での「5」あるいは「1」にあたる持久係数の数値、つまり「標準偏差」が「±1.5以上離れているデータ(偏差値65を超えるもしくは35未満)」については、「どちらかの種目が、本来の力を示したものではない可能性が高い(のでは?)」と考えられる。
MGCにエントリーしている選手は、いうまでもなく「マラソンに本格的に取り組んでいる人たちの集団」だ。よって、「持久係数」の平均値はかなり小さい。いわゆる「持久力がある」「スタミナがある」選手で、42.195kmをしっかりと走りきれる能力がある人の集まりだ。
筆者が1986年から2021年の36年間の各年の100mからマラソン(3000mSCを含む)までの年次別日本リストの各種目の300~500傑程度に入傑したのべ45万人のデータを分析した結果を紹介する。各選手の年次ベストのデータから算出した、マラソンと他の種目間の持久係数の平均値と標準偏差は以下の通りだった。なお、このデータは男女を合わせたものである。
【1986~2021年の年次別日本リスト入傑者のマラソンと各種目の持久係数】
平均値±標準偏差 | データ数 | |
---|---|---|
ハーフ:マラソン | 2.1296±0.0803 | 3474 |
10000m:マラソン | 4.6912±0.1836 | 3179 |
5000m:マラソン | 9.6911±0.3873 | 2699 |
さきにみたMGCエントリー選手のそれと比較すると、持久係数の平均値も標準偏差もかなり大きい数字だ。
MGC選手は、「マラソン専門」という人がほとんどでマラソンの自己ベストの平均値は男子が2時間07分57秒1、女子が2時間23分56秒3という超ハイレベルな集団。そして持久係数は、各種目の自己ベストをもとに計算した数字だった。
一方、1986~2021年のデータは年次ベストから計算したものであり、マラソンの記録は、男子2時間30分00秒以内、女子3時間05分00秒以内とMGC選手よりもかなり低いレベルの人のデータも含まれている。当然のことながら、「マラソン専門ではなく、トラックをメインとしながらマラソンも走った」という選手もかなりいる。
そんなことから、MGC選手の持久係数の平均値の方が非常に小さい数値になっている。
36年間の年次別ベストから求めた持久係数の平均値を先に示したMGC選手の5段階評価の数値に当てはめると、ハーフも10000mも5000mも、いずれも「1」の評定で、その偏差値は、ハーフ「25.7」、10000m「23.2」、5000m「24.1」という低いものとなる。
反対にMGC選手の持久係数の平均値を36年間に当てはめると、ハーフ「4(偏差値57.8)」、10000m「4(偏差値59.2)」、5000m「4(偏差値60.6)」の評価である。
MGC出場予定のマラソンのベストタイム上位8選手について、各種目とマラソンの持久係数のMGC選手の中での5段階評価の数字をみてみた。
ハーフ | 1万m | 5千m | |
---|---|---|---|
<男子> | |||
鈴木健吾 | 5 | 3 | 5 |
大迫傑 | 3 | 3 | 1 |
山下一貴 | 5 | 5 | 4 |
其田健也 | 5 | 5 | 4 |
土方英和 | 3 | 3 | 5 |
細谷恭平 | 3 | 3 | 3 |
井上大仁 | 3 | 2 | 3 |
上門大祐 | 3 | 5 | 5 |
<女子> | |||
一山麻緒 | 3 | 3 | 3 |
安藤友香 | 2 | 2 | 3 |
細田あい | 4 | 3 | 3 |
鈴木亜由子 | 2 | 2 | 2 |
加世田梨花 | 2 | 3 | 2 |
前田穂南 | 2 | 2 | 3 |
前田彩里 | 4 | 3 | 3 |
松下菜摘 | 4 | 4 | 4 |
男子では「5」という数字が目立つが、女子の上位8人には1人もいない。
先にも述べたが、「5」や「1」は、どちらかの種目のタイムが本来の実力をしっかりと出していない可能性があったり、トラックのタイムが5年以上前のものや人によっては10年以上も前のものであったりもする。
鈴木健吾のマラソンのベストは2021年のものだが、ハーフは2017年、10000mが2020年、5000mが2016年。
鈴木のハーフと5000mは、現在ならばもっと早いタイムで走れる可能性があるということだろう。
大迫傑のマラソンのベストは2020年、ハーフが2018年、10000mが2020年、5000mが2015年。
マラソンのベストを出した2年以内にマークしたハーフと10000mは「3」で標準的な持久係数だが、トラックを主戦場としていた2015年の5000mから5年後にマークしたマラソンのタイムはまだまだ5000mのレベルに追いついていなかったということになる。しかし、5000mのスピードを維持しながら8倍以上の距離のマラソンを速く走る練習を両立させるのは難しいということを示しているともいえそうだ。
女子の上位8選手は、「3」を中心に「2」と「4」に収まっている。
3種目とも「2」の鈴木亜由子は、もともとはトラックが主戦場。初マラソンは2018年8月の北海道、次が前回19年9月のMGC、3回目が21年8月の東京五輪、いずれも夏場の25℃を超える条件下のレースだった。マラソンにとって条件のいい環境でのレースは、4回目の22年9月のベルリンと5回目の23年3月の名古屋の2回。ここでそれまでの2時間28分台を一気に6分半上回る22分台、21分台と立て続けに自己ベストを更新した。ハーフのベストは19年、10000mは16年、5000mは8年前の15年のタイムで、大迫と同じくトラックのベスト記録からマラソンとの持久係数を算出して云々するのには無理があるかもしれない。
「オール4」の松下菜摘の場合、マラソンのベストが22年1月、ハーフが21年2月、10000mが20年12月、5000mが22年7月でいずれもマラソンの記録の1年2カ月以内にマークしている。これからすると松下は、かなり優れた持久力を備えてた選手ということになりそうだ。
以上のように、持久係数をもとに考察、分析するには各種の条件も色々と考慮しなければならない。
みなさんがそれぞれの応援する選手、あるいは気になる選手のデータを色々な視点からながめてみるのも楽しみ方のひとつだ。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
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