2023.08.31(木)大会

【ブダペスト世界陸上】競歩総括コメント(今村文男シニアディレクター)


ブダペスト2023世界選手権において、日本の競歩は、大会前の目標には及ばなかったもののメダル1、入賞2の成績を残しました。特に35kmの扱いについてはオリンピックでは別種目(リレー形式)の開催が決まりつつも、詳細については未発表。次回の東京世界選手権での実施も発表されていない状況のなか、全種目で高速化が進むとともに、20kmと35kmの両種目をこなす「マルチウォーカー」の台頭が、より顕著になったことが今大会の特徴といえます。
ここでは、競歩の強化を担当する今村文男シニアディレクターに、今大会における日本勢の競技結果を踏まえての総括、今後の課題を聞きました。以下、その要旨をご紹介します。


◎今村文男シニアディレクター(競歩担当)

・男子20km競歩について

男子20kmは、メダル獲得と最低でも複数入賞を目標にしていたが、初出場の古賀友太(大塚製薬)の12位が最高順位という形になった。2019年以降の主要国際大会におけるメダル獲得は、山西利和(愛知製鋼)、池田向希(旭化成)の活躍によるところが大きかったわけだが、今大会では、この2人が本調子ではなかったということが影響した。ともに前回のオレゴン大会以降に、自身を取り巻く環境がそれぞれに変化しており、そこに対応しながら準備を万端まで整えることが難しかった。山西は2019年世界選手権優勝以降、コロナ禍で余儀なくされた閉鎖的な環境下も含めて、ずっとトップに位置して競技に取り組む形となっている。また、池田についても2021年に行われた東京オリンピック以降、メダリストとして最上位を目指す形で取り組んできた。数年にわたり心身ともに全く緩めることなく牽引してきたこの2人がいたからこそ、日本の20kmの競技力が保てた部分、進化してきた部分があったわけだが、今回は、その2人の準備が難しかったぶん最高順位が下がってしまったと受け止めている。
そういったなかで古賀の12位は健闘といえる。よく粘ってくれたし、技術的な課題もフィニッシュしたという点で評価できる。高橋英輝(富士通)についても順位は21位であったが、1時間20分25秒の記録は、去年のオレゴン大会であれば入賞ラインとなるもの。準備も力の発揮もできたが、記録の水準が想定以上に上がったとみている。
男子20kmは、雷雨予報のためスタート時刻が急きょ2時間繰り下がったが、このことで気温が当初の設定時刻に比較して4~5℃下がり、レースは、いきなりトップギアで入る形となった。その結果、スタート直後から非常に速い展開で進み、トップ10の記録は1時間18分台と近年にない高水準となった。日本の場合は層の厚さから20km、35kmとそれぞれ分かれて出場しているが、他国の場合はマルチ…20kmと35kmの両方にエントリーすることが可能な状況。35kmに取り組むことで20kmの持久的な側面が強化されているし、逆に20kmのスピードを生かして35kmも押しきってメダル獲得、崩れても入賞ということが可能になっている。そういった形の新しい潮流が来ていることを感じる結果でもあった。


・男子35km競歩について

男子35kmは、20kmで優勝したマルティン(スペイン)が中心となって、非常に速いペースでレースが進んだ。前身種目だった50kmのころは、中盤から後半でレースが動くのが鉄板とされていたが、今回では、序盤から4分少々のラップを刻みながら、さらに30km以降で4分を切るペースに上がっていくという新しいレースパターンにリセットされた印象があり、より20kmに近いレースパターンがベースになりつつある。
日本の代表3人が、1年かけてしっかりと強化練習を行えていることは把握できていたので、そういった準備状況から川野将虎(旭化成)にはメダルの期待が、野田明宏(自衛隊体育学校)も上位に近づく入賞が、丸尾知司(愛知製鋼)についても後半に粘ることができれば入賞または入賞に近いところが期待できるとみていた。最低でもメダルと複数入賞というところを目指していたので、それに近い結果を残したといえる。
丸尾のレッドカードについては、もともと持っているクセや疲れてから現れるクセによるもので、これもハイペースとなったからこその生じた身体の反応といえる。丸尾だけでなく、歩型に関して日本選手全員に共通してみられたのが、レッドカードが少ない場合も、イエローパドルが非常に多かったということ。リスクはあるが顕在化していない状況で、言い換えれば、歩型については、どの選手にも、潜在的なリスクが大なり小なりあると感じている。スピード化されたことが影響しているともいえるが、今後、向き合うべき課題の1つと捉えている。


・女子20km競歩について

女子20kmでは、今回は3名の選手が出場して、2大会連続で入賞している藤井菜々子(エディオン、ダイヤモンドアスリート修了生)に入賞を期待していたのだが、序盤から自己記録のペースを上回る展開となったこと、集団内でのペース変化に対応しきれず、後半は順位を落として12位という結果になった。先頭集団は序盤から4分20秒前後と今までにはない高速レースを展開しており、ペース配分や戦術の見直しが必要だと感じた。
また、学生陣については、ワールドランキングにより代表入りとなった柳井綾音(立命館大学)はワールドユニバーシティゲームズに続いての、インビテーションにより追加された梅野倖子(順天堂大学)はアジア選手権に続いての国際大会になった。早い段階から「可能性はあるので、代表入りも想定して備えるように」と伝えていたし、どちらもそれを踏まえた準備はしていたが、短いスパンでの連戦となったこと、直前に代表入りが決まったことで、心身ともに万全というところまでにはいかなかったと思う。ただ、オリンピックや地元開催の世界選手権を前に出場を果たしたことは非常に大きい。この経験を確実に次につなげていってくれたらと期待している。


・女子35km競歩について

女子35kmは、園田世玲奈(NTN)が7位入賞を果たした。新種目ということもあるが、園田は昨年からオレゴン世界選手権も含めて日本記録を複数回更新していた選手。前回は9位だったことから、今回のターゲットを8位内入賞に据えて取り組んできた。トップ3(メダル圏内)を狙っていたら、ハイペースに巻き込まれて、後半で大きくペースダウンしていたかもしれないが、入賞ラインを頭に入れて、確実にレースを推移させたことがよかった。最終的に単独歩になっても自分のペースを落とさなかったのは、単独練習が多いという普段からの取り組みと、実戦の経験が成果に現れたと言うことができる。
20km、50kmに続いて、35kmでも世界選手権出場を果たすことになった渕瀬真寿美(建装工業)は、今回、ワールドランキングで代表入りとなった。輪島(日本選手権35km競歩)のころの状況を考えると、2カ月ほどの準備期間で、よく自己新記録まで持ってきてくれたなと感じている。また、日本選手権で35kmでも日本記録を樹立して、20kmに続いてこの種目で出場権を獲得していた岡田久美子(富士通)は、直前に腰を痛めて無念の欠場となった。万全の準備ができていただけに非常に惜しまれる形となった。


・大会を通じて見えてきた世界の傾向、今後の課題

今まで日本の選手は、暑さ対策や自己記録で優位性をもってレースを展開したり結果を得たりしてきた側面があったわけだが、特に、20kmのトップリストを見ると、ここ1~2年では上位から押し出されるなど、自己記録の優位性が低くなってきていることがわかる。それは20kmの記録が全体に速くなってきているということもあり、さらに20kmの選手が35kmにも取り組む流れができ、今大会では、20km、35kmの優勝者が男女ともに同一人物(女子については2大会連続でそれが生じている)という結果になった。そういった意味では、20kmの強化から35km種目への移行とか、前述したように35kmの強化が20kmにつながっているとか、今までにないクラッシックな取り組みとモダンな強化との融合が求められている、またはそういったものが潮流のなかにあることを、改めて実感した。
日本は、2000年代前半に、速さばかりを求めた結果、速いけれど順位がつかないという現象に陥り、その反省を踏まえて現在に至っている。そういう意味でも、「技術力を高めるなかで自己記録を追求する」という原点にもう一度戻り、「スタミナありきの速さ、技術ありきのスピード」という考え方で取り組んでいく必要があると考えている。
今後に向けては、この1~2年のレースやペース配分を私のほうでも改めて分析し、方向性を定めていくつもりである。また、動作分析については、現在、科学委員会で進めていただいている。今回、現地ではメディアの多くの方々から「シューズのトレンド」に関する質問が寄せられたが、この点については、動作分析の結果を踏まえて、必要に応じた適切な対策を講じていきたい。

※本内容は、帰国後に行った個別取材において、今村文男シニアディレクターが発言した内容をまとめています。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)


▼ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/budapest2023/

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