2023.08.28(月)大会

【ブダペスト世界陸上】中長距離マラソン総括コメント(高岡寿成シニアディレクター)


日本陸連は、最終日の8月27日のモーニングセッションで行われた男子マラソン終了後、高岡寿成シニアディレクターによる中長距離、マラソン種目に関する総括を、囲み取材形式で行いました。
高岡シニアディレクターのコメント要旨は、下記の通りです。


◎高岡寿成シニアディレクター(中長距離、マラソン担当)

まず、東京オリンピックで入賞した3名(三浦龍司田中希実廣中璃梨佳)に関しては、昨年のオレゴン世界選手権で経験したことを、今回十分に発揮できたのではないかと思っている。これは、一度入賞したからといって、次も入賞するのは非常に大変なことだが、この1年悔しい思いをしたことが良かったのかなと思うし、これでつけた自信はまた来年のパリにつながると信じている。
その他の種目については、種目というよりも個人で良かった、悪かったというのがはっきりした形となった。男子マラソンも女子マラソンも、万全な準備をして挑戦できれば、入賞ラインは見えていたし、自分たちが、その先に行かなければならないという気持ちも、各選手が持ったと思う。トラック種目で予選に落ちた選手においても、このあと、どう取り組むかべきかが明確になったと思う。パリオリンピックまでの期間は、残りが短いが、そのあたりも改善して、次に挑戦していくようにしたい。

<質疑応答>

Q:男子マラソンの山下一貴選手の走りを、どう振り返るか?
自己ベストが2時間05分台といったなかで、当然、彼もマラソンは数回しているが、ペースメーカーのいないレースは、経験のない状況であった。しかし、そのなかで前に出るなど、彼らしいレース展開で、レースを動かすことができたように思う。終盤は祈るような気持ちで順位が上がっていくのを期待したが、最後でトラブルもあって入賞ラインには届かなかった。トラブルがあってこそマラソンではあるが、トラブルがなければ入賞も見えた。彼がその位置にいるということが見えたことで、日本の選手たちが、「自分が世界のどの位置にいるか」を確認できたのではないか。昨年のオレゴン大会では、西山雄介くん(トヨタ自動車)が2時間08分台(2時間08分35秒)で走ったが通用しなかった(13位)といったところもあったが、少し暑くなればチャンスが巡ってくる。そのあたりも計画的に進めていきたい。

Q:男女とも暑さに苦しんだ選手が多かった。暑熱対策について、どう考えているか?
どの選手の場合も同じなのだが、暑熱対策に関しては、最初の情報とズレがあったことが、今回、私のなかでの反省点。暑熱対策としては、東京オリンピックに向けての段階でデータの蓄積は十分にできていて、それをアップデートしていくだけ。科学委員会の杉田正明委員長と連携をとって、このあと何が必要かということも進めていくつもりである。特に、女子の状況を見て、すぐに翌日のレースに対応するべく力を借りることもできている。対策自体はスムーズにとられている。
我々としては、「想定外」という言葉をできるだけ使いたくないと思っていて、どんな準備もできるように進めていきたいと考えている。これは、役割を持っている方々はみんな同じ思いで、実際にそういった準備をすでにしてくれている。例えば、今大会の場合は、アシックスさんは手袋も用意してくれた。そういったように、寒くなることも気温が高くなることもすべて想定したなかで進めていかなければならないということを再確認した大会だった。

Q:世界とのレベルの差は、必要性を感じる対策は?
今回、大きな違いを感じたのは、特に5000mにおける着順での決勝進出の難しさ。傾向がないなかで、レースしなければならないので、今回、一つの目安ができたと考えている。必ずしも同じ展開になるとは言いきれないが、今後、どう練習してレースを迎えるかの分析も進めていく必要がある。

Q:オリンピック入賞者が、1年経て、入賞圏内に戻ってきたことの要因は何と考えるか?
若いときにオリンピックという舞台で活躍できた要因として、私は「勢い」や「東京での開催だったから」というのが大きかったと考えている。その後、いろいろなレースを経験し、いろいろなことを知っていくことによって、うまくいかなかったことも含めてすべてを力にして、再度、自分たちのレースができるようになった。今回は、勢いだけでなく、さまざまな面で戦略的にレースを進めることができたからこそ得られた結果で、自信が持てた部分ではないかと思う。

Q:一方で、結果を残している選手が一定化してきているようにも見えるが…。
当然、中間層にいる選手の引き上げは必要になってくる。トップで活躍している選手を見て、その下のレベルの選手が「あの人ができるなら自分もできる。自分が勝ちたい」という思いを持って取り組み伸びてくるような状況を、各種目でつくれれば…。ずっと誰かがトップの位置にいて、そこに続く層の選手が存在するという形ができると思う。

※本内容は、8月27日に実施した囲み取材において、高岡寿成シニアディレクターが発言した内容をまとめました。より明瞭に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)


▼ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/budapest2023/

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