8月19日(土)から27日(日)の9日間、ハンガリーの首都ブダペストを舞台に「第19回世界陸上競技選手権大会」が開催される。日本からは、76名(男子48名・女子28名)の代表選手が世界のライバル達と競い合う。
現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する33種目に関して、「記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権」をお届けする。
なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ……」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。
大会期間中は、日本陸連のSNS(Facebook or X)で、記録や各種のデータを随時発信予定。そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
日本陸連Facebook:https://www.facebook.com/JapanAthletics
日本陸連X(Twitter):https://twitter.com/jaaf_official
現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけて競技が行われる。
睡眠不足にどうぞご注意を!
女子35km競歩
(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)・決勝 8月24日 14:00(24日 07:00)
※記録は原則として7月31日判明分。現役選手の敬称は略させていただいた。トラック競技の予選・準決勝の通過条件(○組○着+○)は、ルールやこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、ブダペストではこれと異なる条件になる可能性もある。
岡田・園田・渕瀬のフルエントリーで複数入賞の可能性も
17年ロンドンと19年ドーハは50kmで行われたが、22年オレゴンから35kmに変更されこの距離では今回が2回目の実施。8月24日の午前7時00分(日本時間同日14時00分)に男子のレースと同時にスタートする。
日本は3名のフルエントリーだ。
15年北京から22年オレゴンまで4大会連続、2回の五輪を含めて世界大会の20km競歩に6大会連続出場してきた岡田久美子(富士通)が、今回は35kmに変更しての出場。
選考会となった23年4月の日本選手権(輪島)では、35km初挑戦ながら2時間44分11秒の日本新記録で世界選手権参加標準記録(2.51.30.)と日本陸連の派遣設定記録(2.46.00.)を軽くクリアした。
また、このレースで岡田に14秒遅れの2位(2.44.25.)だった園田世玲奈(NTN)も自身の日本記録(2.45.09.)を上回り、35kmで2大会連続の代表に。22年オレゴンでは入賞まであと7秒の口惜しい9位だった。
3人目は、渕瀬真寿美(建装工業/エントリー記録&自己ベスト2.54.29.=23年)。この種目の参加標準記録の有効期間が終了した5月30日時点での1国3名以内でカウントしたワールドランキングで34位となり追加で代表となった。渕瀬は、世界選手権は20kmで07年大阪・09年ベルリン・11年大邱・13年モスクワ、50kmで19年ドーハの計5回出場しており今回が6回目の代表入り。なお、五輪には20kmで12年ロンドンに出場し上位選手のドーピング違反失格により順位が繰り上がり、11年後の23年3月に「8位入賞」となった。
エントリー記録では、岡田が9位、園田が10位で入賞を狙える位置にいる。
50km競歩&35km競歩での日本人最高順位と最高記録
日本人が50km競歩と35km競歩に出場したのは1回ずつ。50kmが19年ドーハの渕瀬真寿美(建装工業)で「11位・4時間41分02秒」。
35kmが22年オレゴンの園田世玲奈(NTN)で「9位・2時間45分09秒(当時、日本最高)」。
35km競歩の世界記録と日本記録
世界記録 2時間37分15秒 マリア・ペレス(スペイン)2023.05.21 ポジェブラディ日本記録 2時間44分11秒 岡田久美子(富士通)2023.04.16 輪島
ただし、上記の世界記録は23年7月31日時点で公認手続きが完了していないため、厳密には世界最高記録だ。
その他、ロシアの選手が2時間37分11秒を23年5月20日に出しているが、公認されていない。
35kmのタイムを見てもなかなピンとこないかもしれないので全種目を網羅した世界陸連の採点表(2022年版)で20km競歩と50km競歩の記録と比較してみた。
【世界陸連採点表による35km競歩と20km競歩・50km競歩の得点比較】
・「非世」は、世界記録として公認されていない最高記録。
35kmW | 得点 | 20kmW | 50kmW |
---|---|---|---|
2.33.52. | 1295pt | 1.21.15. | 3.50.42.非世 |
2.37.11.非世 | 1263pt | 1.23.01. | 3.56.07. |
2.37.15.世 | 1262pt | 1.23.04. | 3.56.17. |
2.38.30. | 1251pt | 1.23.39.非世 | 3.58.07. |
2.38.49. | 1248pt | 1.23.49.世 | 3.58.37. |
2.39.15. | 1244pt | 1.24.03. | 3.59.15.世 |
2.44.11.日 | 1198pt | 1.26.35. | 4.07.04. |
2.46.22. | 1178pt | 1.27.41.日 | 4.10.29. |
2.52.27. | 1123pt | 1.30.50. | 4.19.56.日 |
上記の通りで、35kmの世界最高記録は20kmと50kmの公認世界記録のポイントを上回っている。
岡田の35kmも20kmと50kmの日本記録よりも高い点数だ。
2022年世界選手権の1・3・8位の記録
「1位・3位・8位の記録」は以下の通り。年 | 1位記録 | 3位記録 | 8位記録 |
---|---|---|---|
2022 | 2.39.16. | 2.40.37. | 2.45.02. |
2022年世界選手権での気温・湿度、トップと園田の5km毎のタイム
なお、5km毎のスプリットは各地点を先頭で通過した選手のタイムから算出したもので、優勝者のものとは限らない。午前6時15分のスタート時 14℃・85%
先頭と園田世玲奈の5km毎
先頭通過時間 | 園田世玲奈 | 園田の位置 | |||
---|---|---|---|---|---|
5km | 23.26 | 23.26 | 10)23.52 | 23.52 | 6位集団9名 |
10km | 46.27 | 23.01 | 4)47.32 | 23.40 | 4位集団11名 |
15km | 1.09.25 | 22.58 | 5)1.11.03 | 23.31 | 4位集団9名 |
20km | 1.31.49 | 22.24 | 5)1.34.24 | 23.21 | 4位集団7名 |
25km | 1.54.33 | 22.44 | 6)1.57.23 | 22.59 | 4位と15秒、5位と9秒差 |
30km | 2.17.05 | 22.32 | 7)2.20.49 | 23.26 | 6位と49秒差 |
35km | 2.39.16 | 22.11 | 9)2.45.09 | 24.20 | 8位と7秒差 |
最初の1kmは牽制しあって4分57秒の超スローペースで24名の大集団だったが、そのあと4分39秒に上がって縦長となった。
先頭集団は2kmで3名、3kmで早くも2名となり、以後1kmを4分35~39秒で15kmまでを刻んだ。18km過ぎで4分25秒にペースアップしたガルシア・レオン(ペルー)が後半は一人旅となり金メダルを手にした。
園田は、21kmで4~8位の集団で入賞圏内の位置を確保。34kmでは9位と7秒差の8位にいたが、ラスト1kmを4分40秒でカバーしたブラジルの選手にかわされ、入賞には7秒及ばない口惜しい9位だった。
なおメダリストは、7日前の20km競歩とまったく同じ顔ぶれでメダルの色も同じだった。
男子も20kmと35kmの入賞者のうち、3名が両種目で入賞している(3&3位、5&4位、6&7位)。
以下は、男子35km競歩のところでも同じ内容を書いたことをお断りしておくが、マラソンでは、「30~35kmからが本当のマラソン」といわれる。
トラックの10000mやハーフマラソンで素晴らしいタイムを持つ選手が、マラソンでは必ずしもその力を出せないことがしばしばある。
10000mやハーフの実力があれば、あるいはハーフを走れる練習を積めていれば、30kmくらいまでは持ちこたえられることが多い。が、残りの12kmあまり、あるいは35kmからの7kmあまりをそのまま押し切れないところが、マラソンの奥深いところだという話だ。
「走る」と「歩く」の違いはあるが、競歩の20km、35km、50kmにも似たような関係があるように思える。
つまり、20kmで強い選手が、50km向けの練習を積まずに50kmまで押し切ることは困難だが、35kmの距離ならば20kmの力があればギリギリで持ちこたえられるということなのかもしれない。
オレゴンでは、男子競歩の20kmが初日で35kmは最終日の実施で20kmの9日後、女子も20kmの7日後が35kmだった。そんな時間的なこと、そして上述の20km、35km、50kmの特性などもあってか2種目に出場して、両種目でメダル獲得や入賞という選手が、男女とも8名中3名もいたのだ。
今回は、男子が19日と24日、女子が20日と24日の開催なので、両種目に出場するのはオレゴンよりも厳しい日程だが、さて? である。
過去3年間の8月24日のブダペストの気象状況
レースがスタートするのは8月24日の朝7時00分(日本時間24日14時00分)。過去3年間の同日のブダペストの気象状況は以下の通りだ。【過去3年間の8月24日のブダペストの気象状況】
時刻 | 2022年 | 2021年 | 2020年 |
---|---|---|---|
7時00分 | 晴・19℃・94% | 晴・15℃・94% | 晴・16℃・83% |
8時00分 | 晴・21℃・83% | 晴・17℃・83% | 晴・19℃・73% |
9時00分 | 晴・?℃・?% | 晴・19℃・78% | 晴・22℃・61% |
9時30分 | 晴・24℃・65% | 晴・20℃・73% | 晴・24℃・54% |
17年ロンドンの50kmは、朝7時46分のスタート時が14℃・72%、最終完歩者のフィニッシュ時の12時12分が15℃・67%という好条件で、当時の世界新記録(4時間05分56秒)が生まれた。
19年ドーハの50kmは、23時30分のスタート時に31℃・74%の高温多湿の悪条件で優勝記録は、ロンドンよりも17分30秒も遅い4時間23分26秒だった。
22年オレゴンは、朝6時15分のスタート時の14℃・85%が競技終了時の9時32分まで持続して、多くの好記録が生まれた。
優勝記録がその時点での世界最高記録にあと27秒、2~11位の選手も自己新で完歩した35名のうち22名が自己ベストを更新した。
今回のブダペストでもロンドンやオレゴンほどではないかもしれないが、20℃付近のまずまずの条件の中でレースができそうだ。
8月24日のレースがどのような展開になるかはわからないが、世界記録2時間37分15秒の更新もあるかもしれない。
「2時間37分15秒」をイーブンでならすと、1km4分29秒6、5km22分27秒9、10km44分55秒7、20km1時間29分52秒となる。
岡田の日本記録「2時間44分11秒」のイーブンは、1km4分41秒5、5km23分27秒3、10km46分54秒6、20km1時間33分49秒である。
いずれにしても、ラスト10kmあたりからのペースアップにいかに対応して食らいつけるかが、「メダル」や「入賞」の争いのポイントになりそうだ。
日本記録(2.44.11.)の5km毎の通過時間
・岡田久美子 2023.04.16 輪島5km | 23.42. | 23.42. | |
---|---|---|---|
10km | 47.33. | 23.51. | 47.33. |
15km | 1.11.09. | 23.36. | |
20km | 1.34.45. | 23.36. | 47.12. |
25km | 1.58.10. | 23.25. | |
30km | 2.21.02. | 22.52. | 46.17. |
35km | 2.44.11. | 23.09. | (46.01.) |
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
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