2023.08.20(日)選手

【記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権】男子マラソン:2013年以来5大会ぶりの入賞なるか?(決勝8月27日)



8月19日(土)から27日(日)の9日間、ハンガリーの首都ブダペストを舞台に「第19回世界陸上競技選手権大会」が開催される。日本からは、76名(男子48名・女子28名)の代表選手が世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する33種目に関して、「記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ……」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

大会期間中は、日本陸連のSNS(Facebook or X)で、記録や各種のデータを随時発信予定。そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
日本陸連Facebook:https://www.facebook.com/JapanAthletics
日本陸連X(Twitter):https://twitter.com/jaaf_official

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけて競技が行われる。

睡眠不足にどうぞご注意を!



男子マラソン

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・決勝 8月27日 14:00(27日 07:00)


※記録は原則として7月31日判明分。現役選手の敬称は略させていただいた。トラック競技の予選・準決勝の通過条件(○組○着+○)は、ルールやこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、ブダペストではこれと異なる条件になる可能性もある。


2013年以来5大会ぶりの入賞なるか?

其田健也(JR東日本/2時間05分59秒=23年)、 山下一貴(三菱重工/2時間05分51秒=23年)、西山和弥(トヨタ自動車/2時間06分45秒=23年)のトリオでいずれも初出場。

大会最終日(8月27日)、現地時間の朝7時00分(日本時間14時00分)のスタートで、日本勢は13年以来5大会ぶりの入賞、あるいは05年以来9大会ぶりのメダル獲得に挑む。

「英雄広場」を発着点に1周10kmあまりを4周ほど周回するコース。ドナウ川をまたぐ橋が唯一のアップダウンで基本的にはほぼフラット。



世界選手権&五輪での日本人最高成績と最高記録

<世界選手権>    
最高成績1位2.14.57.谷口浩美(旭化成)1991年
最高記録2.09.26.5位油谷繁(中国電力)2003年

<五輪>    
最高成績1位2.29.19.2孫基禎(養成高普)1936年
最高記録2.10.41.6位大迫傑(Nike)2021年


「世界選手権」での入賞者は下記の通り。
1991年1位2.14.57.谷口浩美(旭化成)
5位2.15.52.篠原太(神戸製鋼)
1993年5位2.17.54.打越忠夫(雪印)
1999年3位2.14.07.佐藤信之(旭化成)
6位2.15.45.藤田敦史(富士通)
7位2.15.50.清水康次(NTT西日本)
2001年5位2.14.07.油谷繁(中国電力)
8位2.17.05.森下由輝(旭化成)
2003年5位2.09.26.油谷繁(中国電力)
2005年3位2.11.16.尾方剛(中国電力)
4位2.11.53.高岡寿成(カネボウ)
2007年5位2.17.42.尾方剛(中国電力)
6位2.18.06.大崎悟史(NTT西日本)
7位2.18.35.諏訪利成(日清食品)
2009年6位2.12.05.佐藤敦之(中国電力)
2011年6位2.11.52.堀端宏行(旭化成)
=4位の選手がのちに失格で1つ繰り上がり
2013年5位2.10.50.中本健太郎(安川電機)


参考までに「五輪」での入賞者は以下の通り。
1928年4位2.35.29.山田兼松(坂出青年)
6位2.36.20.津田晴一郎(慶大)
1932年5位2.35.42.津田晴一郎(慶大OB)
6位2.37.28.金恩培(養正高普)
1936年1位2.29.19.2孫基禎(養正高普)
3位2.31.42.0南昇龍(明大)
1956年5位2.29.19.川島義明(日大)
1964年3位2.16.22.8円谷幸吉(自衛隊)
1968年2位2.23.31.0君原健二(八幡製鉄)
1972年5位2.16.27.君原健二(新日鉄)
1984年4位2.10.55.宗猛(旭化成)
1988年4位2.11.05.中山竹通(ダイエー)
1992年2位2.13.45.森下広一(旭化成)
4位2.14.02.中山竹通(ダイエー)
8位2.14.42.谷口浩美(旭化成)
2004年5位2.13.11.油谷繁(中国電力)
6位2.13.24.諏訪利成(日清食品)
2012年6位2.11.16.中本健太郎(安川電機)
2021年6位2.10.41.大迫傑(Nike)

なお、8位までが入賞となったのは1984年からでそれまでは6位までが入賞だった。

世界選手権では、99年から13年までは8大会連続入賞。しかし15年からの至近4大会は入賞に届いていない。
18大会のうち10大会で入賞を果たし、金1個と銅2個を獲得し、のべ17名が入賞している。



世界選手権&五輪での国別歴代得点

各大会の1位に8点、2位7点~8位1点の点数を与えて直近の大会までの国別得点を集計すると次のようになる。
1983年に始まった世界選手権では、

【世界選手権での国別得点(2022年大会まで)】
順)国名12345678入賞数 
1)107ETH363312119エチオピア
2)95KEN531142319ケニア
3)66JPN121642117日本
4)58ITA132134216イタリア
5)51ESP3212311スペイン
6)27MAR21115モロッコ
7)26TAN112116タンザニア
8)21UGA11215ウガンダ
9)22GBR31116イギリス
10)20AUS11114オーストラリア
11)18ERI11114エリトリア
12)16BRA111115ブラジル
13)14USA112アメリカ
14)14DJI22ジブチ
15)10POR22ポルトガル
16)9MEX112メキシコ
17)9GER112ドイツ
17)9BEL112ベルギー
19)7NAM11ナミビア
19)7QAT11カタール
21)6NED11オランダ
21)6SUI11スイス
23)6BRN112バーレーン
23)6RSA112南アフリカ
25)5KOR11韓国
25)5POL11ポーランド
25)5SWE11スウェーデン
25)5CAN11カナダ
29)1ALG11アルジェリア
29)1RUS11ロシア
29)1URS11ソ連

22年オレゴンでエチオピアが1・2・6位となり、ケニアを抜いてトップに立った。
日本は、エチオピア、ケニアに次いで3位だが、09年ベルリン大会終了時点ではトップだった。

以下に22年大会終了時点の得点の上位5国について、累計得点と順位の推移をまとめてみた。
JPNKENETHITAESP他の上位国 
1983年未入賞未入賞2)77)2未入賞1)8AUS
1987年未入賞3)84)72)10未入賞1)13AUS
1991年4)125)86)72)14未入賞1)14DJI
1993年1)166)107)74)14未入賞2)14USA
1995年1)168)1011)76)142)153)14USA
1997年4)169)1012)72)211)333)20AUS
1999年3)279)1012)72)321)424)20AUS
2001年3)3210)174)222)381)425)20AUS
2003年3)366)184)222)471)495)20AUS
2005年2)475)204)223)471)506)20AUS
2007年1)564)295)223)472)506)20AUS
2009年1)593)485)334)472)516)21MAR
2011年2)621)725)394)493)516)21MAR
2013年2)661)723)585)494)516)21MAR
2015年3)661)722)674)555)516)21MAR
2017年3)661)852)744)585)516)24TAN
2019年3)661)912)894)585)516)27MAR
2022年3)662)951)1074)585)516)27MAR

22年までの上位5カ国の5大会ごとと17・19・22年の3大会の得点は、

大会回数(西暦年)JPNKENETHITAESP
1~5回(1983~1995)161071415
6~10回(1997~2005)3110153335
11~15回(2007~2015)19524581
16~18回(2017~2022)0234030
合計得点66951075851

以上の通りで、07年の第11回大阪大会の時点では日本、スペイン、イタリアが「トップ3」だった。が、この10年あまりでケニアとエチオピアが一気に点数を伸ばしてきた。

参考までに五輪の国別トップ10は以下の通り。

【五輪での国別得点トップ10(2021年大会まで)】
順)国名123456788位以内数 
1)130USA3265244329アメリカ
2)87JPN122445220日本
3)78GBR414322218イギリス
4)71ETH41311313エチオピア
5)70KEN33211212ケニア
6)63FIN23241113フィンランド
7)47FRA321129フランス
8)42RSA221218南アフリカ
9)40GRE111312110ギリシャ
10)39ITA211228イタリア

このところの男子マラソンは、ケニア、エチオピアが上位記録を席巻している。
が、五輪は1896年の第1回大会から直近の東京までに125年の歴史を刻んできただけに、1956年が初参加のケニアとエチオピアの得点は、初期の頃から参加しているアメリカ、日本、イギリスには届いていない。

五輪とは違って、世界選手権ではエチオピア、ケニア、モロッコ、タンザニア、ウガンダとトップ10のうち半数がアフリカ勢になる。五輪では「130点」で断然トップのアメリカは「14点」で13位にとどまっている。

五輪2位、世界選手権も3位に位置している日本は「マラソン日本」の面目躍如といったところである。ただし、ケニア、エチオピアが今後も得点をどんどん積み重ねていくことは間違いない。それに大きく離されることなく、3位の位置で食らいついていってもらいたい。



各年の世界100傑内の国別人数

コロナの影響で主要なレースの中止が多かった20年と21年を除き、この10年あまりは、ケニアとエチオピアの2国で100傑中の8~9割前後を占めている。00年の段階では両国のシェアは5割に満たなかったが、10年には9割近くに達した。その中で日本は孤軍奮闘で頑張っているといえよう。

2000年以降の5年毎と2016年からの1年毎の各年の世界100傑に占める国別人数は以下の通り。

100位KENETHJPNUGAMARその他
20002.11.23.406130239(18国)
20052.11.24.529100028(13国)
20102.09.31.57290158(6国)
20152.09.14.60313106(5国)
20162.09.28.67253104(4国)
20172.09.11.61264117(9国)
20182.08.46.502681213(10国)
20192.07.58.443912213(10国)
20202.08.46.2143181215(9国)
20212.07.40.3929112217(8国。ERI が「9名」で4位)
20222.07.12.383812219(13国。ERI が「5名」で3位。FRA・TAN が「2名」)
20232.10.38.476150230(15国。ESP・RSAが「4名」で4位。TAN・ITAが「3名」)
・2023年は、7月31日判明分の記録

ケニアとエチオピア以外にもモロッコ、ウガンダ、エリトリアなど東アフリカ勢が進出してきている。
また、国籍変更でケニアやエチオピアなどから中東やヨーロッパの国に移った選手も目立ってきた。
そんな中、日本は健闘している。

記録では世界をリードするケニア勢だが、13、15年の世界選手権では誰も入賞できなかった。22年オレゴンも5位が唯一の入賞にとどまった。
「フラットなコース」「涼しい気温」のいい条件の中でペースメーカーが30㎞付近までハイペースで先導する「高速レース」では好タイムを量産しているが、真夏でペースメーカーのいない「勝負優先」の五輪や世界選手権では、なかなか持ちタイム通りにはいかないことも多いようだ。

至近5回の世界大会での東アフリカやそれらの国にルーツを持たない選手の入賞は、16年リオ五輪が2名(3・6位)、17年ロンドン世界選手権が2名(4・6位)、19年ドーハ世界選手権が2名(4・5位)、21年東京五輪が2名(6・7位)、22年オレゴン世界選手権が3名(3・4・8位)だった。持ちタイムでは大きな差があっても、夏場でペースメーカーが不在の五輪や世界選手権では、東アフリカ系以外の選手も8位以内に毎回2名は入っている。つまり、日本勢にもチャンスがあるということだ。



世界選手権&五輪の気象状況と記録

以下の「表」に1983年以降の「世界選手権」と「五輪」での「気温・湿度」と「優勝・3位・8位の記録」「完走率」を示した。
夏場に行われる世界選手権と五輪の1983年以降の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率をまとめた。
・気象状況は、リザルトに記載されているもの。
・リザルトに記載がないものは、国際陸連発行の資料(Statistics Handbook)に掲載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。

日本国内のレースでは、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。

「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピングで失格」などで繰り上がった場合の修正をきちんとできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。

「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった者のうち、フィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。

【1983年以降の世界選手権と五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】
・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
スタート時→終了時優勝記録(前半+後半)3位記録8位記録完走率(完走者/出場者)
198315℃・35%→?℃・?%2.10.03.(??.??.+??.??.)2.10.37.2.11.15.75.3%(63/81)
1984五輪27℃・?%→?℃・?%2.09.21.(??.??.+??.??.)2.09.58.2.11.39.72.2%(78/108)
198721℃・83%→22℃・74%2.11.48.(65.37.+66.11.)2.12.40.2.14.41.72.3%(47/65)
1988五輪25℃・74%→?℃・?%2.10.32.(64.49.+65.43.)2.10.59.2.13.07.80.3%(98/122)
199126℃・73%→28℃・58%2.14.57.(66.25.+68.32.)2.15.36.2.17.03.60.0%(36/60)
1992五輪25℃・72%→?℃・?%2.13.23.(67.22.+66.01.)2.14.00.2.14.42.79.1%(87/110)
199325℃・63%→25℃・63%2.13.57.(66.30.+67.27.)2.15.12.2.18.52.63.2%(43/68)
199526℃・43%→?℃・?%2.11.41.(66.54.+64.47.)2.12.49.2.16.13.68.8%(53/77)
1996五輪23℃・92%→?℃・?%2.12.36.(67.36.+65.00.)2.12.36.2.14.55.89.5%(111/124)
199729℃・48%→?℃・?%2.13.16.(67.08.+66.08.)2.14.16.2.17.44.64.8%(70/108)
199929℃・43%→28℃・?%2.13.36.(67.24.+66.12.)2.14.07.2.16.17.81.3%(65/80)
2000五輪21℃・18%→?℃・?%2.10.11.(65.02.+65.09.)2.11.10.2.14.04.81.0%(81/100)
200119℃・58%→28℃・?%2.12.42.(66.59.+65.43.)2.13.18.2.17.05.76.0%(73/96)
200315℃・72%→?℃・?%2.08.31.(64.45.+63.46.)2.09.14.2.10.35.77.5%(69/89)
2004五輪30℃・39%→?℃・?%2.10.55.(67.23.+63.32.)2.12.11.2.14.17.80.2%(81/101)
200517℃・88%→17℃・88%2.10.10.(64.17.+65.53.)2.11.16.2.12.51.64.2%(61/95)
200728℃・81%→33℃・67%2.15.59.(68.29.+67.30.)2.17.25.2.19.21.67.1%(57/85)
2008五輪24℃・52%→30℃・39%2.06.32.(62.34.+63.58.)2.10.00.2.11.11.80.0%(76/95)
200918℃・73%→21℃・49%2.06.54.(63.03.+63.51.)2.08.35.2.14.04.76.9%(70/91)
201126℃・56%→29℃・47%2.07.38.(65.07.+62.31.)2.10.32.2.11.57.76.1%(51/67)
2012五輪23℃・78%→25℃←途中2.08.01.(63.15.+64.46.)2.09.37.2.12.17.81.0%(85/105)
201323℃・38%→23℃・38%2.09.51.(65.12.+64.39.)2.10.23.2.11.43.72.9%(51/70)
201522℃・73%→?℃・?%2.12.28.(66.52.+65.36.)2.13.30.2.14.54.65.6%(42/64)
2016五輪24℃・?%→?℃・?%2.08.44.(65.55.+62.49.)2.10.05.2.11.49.89.7%(139/155)
201718℃・60%→?℃・?%2.08.27.(65.28.+62.59.)2.09.51.2.12.16.72.4%(71/98)
201929℃・51%→29℃・51%2.10.40.(65.57.+64.43.)2.10.51.2.11.49.75.3%(55/73)
2021五輪26℃・80%→27℃・77%2.08.38.(65.13.+63.25.)2.10.00.2.11.41.71.7%(76/106)
202213℃・88%→16℃・79%2.05.36.(64.08.+61.28.)2.06.48.2.07.35.87.1%(54/62)

28大会中完走率80.0%以上は9大会(32.1%)。スタート時か終了時で25℃以上は16大会で完走率80.0%以上は5大会(31.3%)。

前後半のタイムが判明している26大会のうち前半の方が後半よりも速かったのは9大会(34.6%)で、残る17大会(65.4%)は、後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」だった。95年以降は21大会中16回(76.2%)が後半にペースアップしていて、13年以降の7大会はすべて後半の方が速い。

前後半の差が最も大きかったのは、涼しい中での22年オレゴン世界選手権で前半よりも後半が2分40秒速かった。この時の20㎞以降の5㎞ごとのスプリットは、15分16秒-15分00秒-14分12秒-14分09秒-6分06秒(5㎞換算13分54秒)。30km以降を14分ちょっと(30~40km28分21秒)で押し切っているが、トラック10000mの22年日本100位は28分27秒80。30kmを走ってきたあとに、そんなスピードでカバーしていることは驚愕だ。

とはいえ、日本人トリオを上回るタイムの選手が世界リストで何十人いようとも、世界選手権や五輪にはケニア・エチオピアからも3名ずつしか出場してこない(前回優勝のワイルドカードで4名出場の場合もあるが……)。他のアフリカ勢などに競り勝てれば、13年のモスクワ大会以来4大会ぶりの入賞も見えてこよう。



8月27日のブダペストの過去3年間の気象状況

今回のブダペストの気象状況はどうなのか?
レースがスタートするのは、8月27日の午前7時00分。
過去3年間の1時間ごとの気象状況を調べてみたのが下記だ。

【過去3年間の8月27日のブダペストの気象状況】
時刻2022年2021年2020年
7時00分晴・20℃・73%雨・14℃・94%晴・20℃・49%
8時00分晴・23℃・61%雨・14℃・88%晴・21℃・46%
9時00分晴・26℃・42%曇・14℃・94%晴・22℃・44%

22年のオレゴンほど涼しくはならない可能性が高そうだが、夏場のマラソンにとしては「かなりいいコンディション」になりそうだ。



気温による記録の低下率

世界選手権や五輪は「記録ではなく勝負」のレース。
といっても持ちタイムがいい選手ほど、暑い中でどんなペースになろうとも「余裕」があることは確かだろう。

気温による記録の低下率に関して、これまでにも何度か紹介したことがあるデータを紹介する。
1960年代から70年代にかけての少々古いものだが、故・高橋進氏の研究によって、「気温がマラソンの記録に及ぼす影響」のデータが示されている(「マラソン(講談社。1981年)」)。

下表がそれだ。
パリ五輪選手選考に関して日本陸連が示している「代表内定条件」は、「23年10月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で、1・2位が内定」。「3人目」は24年3月までの指定レースで「2時間05分50秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだ。そんなことで、下記の「推定される記録」は、筆者(野口)が、「2時間05分50秒」を基準に、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。

【気温によって記録が阻害される率】
気温暑さに強い選手暑さに弱い選手推定される記録2.05.50.基準
14℃0.00%0.20%2.05.50.~2.06.05.
15℃0.00%0.50%2.05.50.~2.06.28.
16℃0.00%1.00%2.05.50.~2.07.06.
17℃0.00%2.00%2.05.50.~2.08.21.
18℃0.00%3.00%2.05.50.~2.09.37.
19℃0.30%3.50%2.06.13.~2.10.15.
20℃0.50%4.00%2.06.28.~2.10.52.
21℃1.00%4.50%2.07.06.~2.11.30.
22℃1.00%5.00%2.07.06.~2.12.08.
23℃1.50%6.00%2.07.44.~2.13.23.
24℃2.00%6.50%2.08.21.~2.14.01.
25℃2.50%7.00%2.08.59.~2.14.39.
26℃3.00%7.50%2.09.37.~2.15.17.
27℃3.50%8.00%2.10.15.~2.15.54.
28℃4.00%9.00%2.10.52.~2.17.10.
29℃5.00%10.00%2.12.08.~2.18.25.
30℃6.00%11.00%2.13.23.~2.19.41.
31℃7.00%12.00%2.14.39.~2.20.56.
32℃8.00%13.00%2.15.54.~2.22.12.
33℃9.00%14.00%2.17.10.~2.23.27.
34℃10.00%15.00%2.18.25.~2.24.43.
35℃11.00%16.00%2.19.41.~2.25.58.

以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。

先に示した通り、過去3年間のデータからすると今回のブダペストでは20℃ちょっとくらいの中でのレースになる可能性が高そうだ。
「暑さに弱い選手」であっても、その阻害率はかなり低いものとなり、「暑さにやられて後半に大きく失速」ということは少なさそうだ。
25℃を超えるレースでは前半がスローペースになることが多いが、今回は最初から「それなりのペース」で進むことになるかもしれない。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)



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