来年8月に迫ったパリ2024オリンピックの男女マラソン日本代表選手選考競技会として開催する「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」が、いよいよ本年10月15日に行われます。日本陸連は、開催100日前となる7月7日に東京都内で会見を開き、MGC出場権獲得に挑むMGCチャレンジにおいて必要な条件を満たし、出場権を得た競技者(MGCファイナリスト)のなかから、MGCに出場することが決まった選手を発表しました。
会見には、尾縣貢日本陸連会長と同ロードランニングコミッションの瀬古利彦リーダー、同強化委員会の高岡寿成中長距離マラソン担当シニアディレクターが出席。ゲストとして、大会当日のテレビ放映で男女各レースの解説を務める有森裕子さん(NHK MGC解説)と高橋尚子さん(TBSスペシャルキャスター)、そして出場選手を代表して細田あい選手(エディオン)が参加しました。
まず、主催者代表として、尾縣会長が登壇。「4年前の熱気を思い出します」と口火を切った尾縣会長は、4名の東京オリンピック代表が決まった前回のMGCについて触れたうえで、「前回は、男女合わせて43名の出場だったが、4年の年月を経て、今回は倍以上になっている。これは皆さまのご協力を得ながら、MGCを核とするマラソン改革を進めた成果」と述べ、「パリオリンピックにつながるこの“一発勝負”を、都民をはじめとする多くの皆さんで応援していただき、盛り上げていただければ、選手たちは必ず期待に応えてくれると思う。4年の1回の感動体験を、一人でも多くの陸上ファンと共有することが、今の私たちの願い」と挨拶しました。
そして、いよいよ出場選手の発表です。2021年11月1日から2023年5月31日にかけて行われてきたMGCチャレンジによって決まった今回のMGC出場選手全92名が、男子(65名)、女子(27名)の順に、映像とともに1人ずつ発表。高岡シニアディレクターがフロアに上がり、司会者からのインタビューに答える形で、発表された92名の出場選手を見ての感想、前回のMGCからの4年間を振り返って感じること、一発勝負となるMGCの魅力やレースへの期待などを述べました(高岡シニアディレクターのコメントは、別記ご参照ください)。
>>MGC出場選手男子(PDF)
>>MGC出場選手女子(PDF)
その後、MGCならびに併催される東京レガシーハーフマラソン2023のオフィシャルスポンサー各社が紹介。プ レミアパートナーとしてSky株式会社が、メジャーパートナーとして大塚製薬株式会社とアシックスジャパン株式会社が、メインパートナーとして近畿日本ツーリストが、アクティブパートナーとして久光製薬株式会社と株式会社東京きらぼしフィナンシャルグループが、そしてサポーティングパートナーとしてTANAKAホールディングス株式会社、セイコーグループ株式会社、株式会社フォトクリエイトの名前が挙がり、全9社が大会をサポートすることが発表されました。
また、今回のMGCでは1~3位の選手を対象に賞金が新設されたことも明らかに。男女ともに1位には1000万円、2位には500万円、3位には250万円が贈呈されることも公表されました。
さらに、大会100日前の7月7日付けで、MGCの大会キービジュアルも公開。「一発勝負。」をキャッチコピーに、一発勝負の緊張感をコンセプトとするビジュアルが紹介されました。
このほか、MGCのスタート・フィニッシュ地点となる東京・国立競技場で観戦が行えるように、スタジアム内の最もトラックに近い第1層のスタンド席のチケットを販売する新たな取り組みも公表に。チケットを購入すると、国立競技場内でスタートとフィニッシュの瞬間を目にすることができます。レースの経過も場内の大型スクリーンで放映され、パブリックビューイングのような形で、みんなで観戦を楽しみ、選手を応援していくことを目指しています(チケット販売情報は、今後、日本陸連公式サイト等で、ご案内していきます)。
じっくり時間をとって行われたのが、瀬古リーダー、有森さん、高橋さん、そして出場選手代表の細田選手(エディオン)が登壇してのトークセッションです。今大会も、男子はTBS、女子はNHKが、ともに生中継を行うことが決まっており、高橋さんは男子の解説を、有森さんは女子の解説を、それぞれ務めることになっています。高橋さんと有森さんは、前回のMGCを経て、この4年間で生じた日本マラソン界の変化や、コース内に6回の折り返しが盛り込まれた今回のコースに関する印象や勝負所となる地点などを、日本が誇る名ランナーならではの経験や感性を踏まえ、マラソンの醍醐味を伝えていくスペシャリストならではの視点で、それぞれがコメントしていきました。
「一発勝負」という今回のキービジュアルのコンセプトにちなんで、「もし、現役時代に、MGCのような一発勝負のレースがあったとしたら?」という質問が司会者から出されると、「僕? セコいレースだよ。だって2番に入ればいいわけで、記録はあんまり関係ないんだから」(瀬古リーダー)、「勝負とタイムを両方追わなくていいので羨ましい。もし、自分が走るとなったら、勝負に徹した練習に切り替える。コースも含めて、タフな走り、勝てる走りに焦点を絞って練習をしていく」(高橋さん)、「選手も選ぶほうも納得したなかで、結果を感じられて本番を迎えられるというのは、これほど選手たちの後押しになるものはない。そうした形がとれる選手たちが本当に羨ましい。私も今の時代だったら、思いきり行く」(有森さん)と、それぞれに回答する場面も。また、瀬古リーダーは、例のごとく、時には司会者を慌てさせるような発言を折々に挟んで、笑いを巻き起こす一方で、細田選手には、さまざまな質問を投げかけ、MGCに向かう細田選手の現状や、レース本番への思いなどを引き出しました(細田選手のコメントは、別途ご参照ください)。
トークセッション中には、七夕にちなんで、細田選手が願い事を書き込んだ短冊を披露する場面も。「パリ五輪の切符を勝ち取る」としたためられた短冊を、舞台袖に用意された笹につるしました。
最後に、選手たちに贈るエールを求められた高橋さんと有森さんは、「このMGCで確実に、代表に決定する4人の人生は変わる。マラソンで、スタートしてからゴールまで、こんなにドラマチックな大会はない。ペースメーカーがいないなかで、選手たちが何を考えて、どう考えるのか。それを(視聴者の皆さんも)ぜひ同じ思いになって、熱く熱く応援してもらえたら。選手たちには、残されたあと100日を精いっぱい過ごして、MGCで輝いてほしい」(高橋さん)
「MGCは本当に大きなチャンス。それを一番わかっているのがアスリートたち。そのことを力に変えて、どんな順位で入るにしても、“やりきった感”でその次の人生に繋げられるような、そんな走りでゴールしてほしい。私たちも魂のこもった言葉で、それを皆さんに伝えていきたい」(有森さん)
と話しました。
そして、瀬古リーダーは、「エントリーした92人が、本番、1人も欠けることがないように、みんながベストを尽くして練習を重ねていってほしい。選ばれる4人というのは、もう神様しかわからないこと。我々には何もわからないけれど、ただ、悔いのないように全員が走ってほしい。4年前のように、みんなの走りでニッポンを元気にできるよう、我々も応援していきたい」と述べたのちに、「皆さんも、ぜひ応援してください!」と呼びかけ、会を締めくくりました。
【日本陸連強化担当シニアディレクターコメント】
高岡寿成(日本陸連強化委員会シニアディレクター:中長距離マラソン担当)
前回を大きく上回る選手が出場できることに、4年前と比べて層が厚くなったことを感じている。東京オリンピックで大迫傑くんと一山麻緒さんが8位に入賞したわけだが、今回のMGCに向けては、男子は出場に必要な設定記録を1分上げたにもかかわらず、クリアする選手が2倍に増え、女子も条件は変えなかったものの3倍近くとなる多くの選手が出場を決めた。日本記録こそ更新することはできなかったが、非常に底上げすることができたといえよう。これは、各選手、各チームのスタッフが高いところを目指す…オリンピックを目指し、MGCを目指すといった覚悟があったからだと思う。
MGCでは、いろいろなタイプの選手が出場する。スピードに力のある選手もいれば、スタミナに力のある選手いるし、若い選手もいればベテランもいる。東京オリンピックを経験した交ざっているといった形なので、どのようなレースになるかを想像するだけでもワクワクする。どんな展開が待っているのか、私自身も楽しみである。そのなかで勝ちきれる選手に、パリ(オリンピック)の舞台を走ってほしいと思っている。
また、ペースメーカーを置かないレースとなることで、ペースメーカーが設定されるほとんどの日本のマラソンとは全く別物のレースが見られるはず。当然のことながらスタート直後から見逃すことができないレースになると思う。
コースは、前回から変更されたが、後半で上りがあることは変わらない。パリオリンピックもタフなコースが設定されている。そういう意味では、最後の35kmからの上りで、勝負強さや力強さを見たい。強化としても、最後まで拮抗したなかで競り勝つことのできる精神的に強い選手、肉体的にもタフな選手が勝ち進み、本番のパリオリンピックで活躍することを期待している。
(MGC後は)パリオリンピックに向けて準備する時間も十分にとれるので、いい準備ができると思う。また、オリンピックは8月上旬の開催で、暑さは当然関係してくる。そういった意味でも、まだ暑さの残る10月のMGCで力を発揮できる選手を、パリに派遣できればと思っている。
MGCまであと100日。MGCを経て、強い選手をパリの舞台に派遣し、「強いマラソン日本」をアピールできるように、これから十分に準備を進めていきたい。
【MGCファイナリスト選手コメント】
細田あい(エディオン)
前回もMGCの出場権を狙ったが、取ることができなかったので、今回、まずはオリンピック出場のための選考試合であるこのMGCの出場権を取れたことで、(前回よりも)一歩進めたかなと感じている。前回のMGCは、当時、ダイハツの所属だったのでチームメイトの応援をするために、現地で観戦した。レースを見ていくなかで、「自分も、この舞台に立って走りたかった」という思いになり、「次は自分がこの舞台に立って、オリンピックの出場権を取りたい」という気持ちが強まった試合となった。
MGCのコースの試走はまだしていないが、先ほど高橋尚子さんから、試走して、コースを見たうえで、自分がどこで仕掛けるかを考えておいたほうがいいとアドバイスをいただいたので、試走もしっかりしておこうと思っている。勝負所となるのは、40km過ぎのあたりかと思う。アップダウンがあるし、動かしたくても身体が止まってしまう状況が起きることもマラソンではあるので。そのなかで自分がどういう気持ちで臨むかとか、そこまでにどういう身体の動かし方をするのかなどを考えておくことも準備に繋がると思う。そういうことも考えながら練習していきたい。
3月の東京マラソンは、それまでに、アメリカで高地合宿をしたときにどういった成果を得られるかとか、ウエイトトレーニングを取り入れてみたらどうかとか、いろいろなことを試してみた。結果的にはベストに近いタイム(2時間22分08秒)が出て、そのことで自分の現状を把握することができたと思う。
東京マラソン以降は、走り込みをしていて、最初は日本選手権の5000mに出て、もう一度スピード強化を図るつもりだったが、体調がうまく整わなかったり、うまく走れなかったりということが続いていたので、出場を見合わせた。先日、ホクレンディスタンスチャレンジに出場(7月5日、深川大会女子3000m3位9分17秒89)し、東京マラソン以来のレースを走ったことで、レースでの緊張感などを味わうことができた。これを生かして、MGCに向けて、これからしっかり走り込みを続けていこうと思っている。
勝負の世界なので、ライバルを気にしないと言ったら嘘になってしまうが、でも、自分の力を出しきれないと他の人と勝負にはならないという思いがあるので、試合の時は、自分の力を出しきることに専念するように心掛けている。
今回、強い選手たちが集まって試合ができることも楽しみだし、自分の目標や夢を叶えるチャンスがMGCにはある。MGCに向けては、国内で練習をしていく予定。これから練習をたくさんして、それを自信にして、スタート地点に立って自分の力を出しきれるように、準備を進めていきたい。
※高岡シニアディレクターおよび細田選手のコメントは、会見中における発言をまとめる形で構成しています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:アフロスポーツ
【マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)】
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日本陸連が主催するオリンピックマラソン日本代表選考会で、初開催は2019年9月15日に東京2020オリンピック競技大会日本代表選考会として行われた大会です。2023年秋(10月15日)は、パリ2024オリンピック競技大会の日本代表選考会として開催します。
MGCで1位および2位となった選手が、パリオリンピック日本代表に内定します。
■【MGC出場選手決定】
男子:https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202307/13_112727.pdf
女子:https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202307/13_112802.pdf
■【MGCキービジュアル】一発勝負
https://www.mgc42195.jp/news/article/18487/
■【MGC】開催概要
https://www.mgc42195.jp/mgc/outline.html
■【MGCチャレンジ指定大会・MGC進出条件について】
https://www.mgc42195.jp/mgc/challenge.html