2023年2月10日(金)から2023年2月12日(日)にかけて「アスタナ2023アジア室内陸上競技選手権大会」がアスタナ(カザフスタン)にて開催されました。
女子60mハードルで室内日本記録・大会記録を更新し金メダルを獲得した青木益未選手(七十七銀行)のインタビューをお届けいたします。
写真:カザフスタン陸上競技連盟
でも、今回、記憶に一番残っているのは、予選の大失敗ですね。1台目を思いきりぶつけてしまい、8秒51で5着。着順はもちろんプラスで拾われることも難しい結果だったんです。スタートで、セットから(号砲が)鳴るまでがやや長く、隣の選手の身体の動きも気になってしまいました。それで1台目まで思いきり行けなくて、リズムアップせず「ガシャーッ!」とぶつけてしまいました。もう焦ってしまって、みんなの背中がたくさん見えたことと、「あ、終わったー」と思ったくらいしか覚えていません。レースが終わったあとに、頭が真っ白になったのも初めてです。
すごく調子が良くて、予選の前のアップでは山崎先生(一彦、強化委員長)や清山さん(ちさと、いちご、60mハードル4位)からも、「すごくいい」「7秒台出るよ」と、めちゃくちゃ持ち上げてもらっていたんです。なのに、ひどいレースをしてしまって…。終わった直後は、決勝進出は絶対に無理だと思っていたので、もうがっくり。(2組目の)清山さんの走りを見たあとトボトボと帰っていたら、山崎先生が「やったー!」と走ってきてくれて、プラスでぎりぎり拾われたことを教えてくださいました。「ああ、よかった」と本当にホッとしたけれど、レースのときの感覚は夜になっても残っていて、「明日(の決勝)も、またやっちゃうんじゃないか」とドキドキしていました。
写真:カザフスタン陸上競技連盟
それは翌日になっても続いていて、決勝はアップの段階から吐き気が止まらないくらい緊張していました。「とにかく1台目はぶつけないようにしなきゃ」と思いつつ、でも、ここでびびったら、逆に(ハードルに)当ててしまうかもしれないと考え、開き直って思いきり行くことだけに集中し、スタートラインに立ちました。だから、レース中の記憶は全くなく、ゴールして「勝った!」と思ったこと以外は全然覚えていません。そのくらい必死で走りました。
あとで決勝の動画を見てみると、日本室内もそうだったけれど、アジア室内も、レースの流れ自体はとても良かったなという印象です。もちろん、踏み切りが近いとか、この冬やってきた左腕の動きへの意識とかできていないことはありましたが、コーチの金子公宏先生からは帰国後、「速ければいいんだよ」と言っていただけましたし、細かな点は、あまり気にしすぎなくてもいいのかなと思っています。
欲を言うなら、7秒99でもいいから7秒台を出したかったなということは、あとから思いましたね。予選のことがあったので、現地ではホッとしたというか、もう100点くらいの気持ちでいましたが…。7秒台で走った選手は、アジアではまだ1人しかいませんが、海外のインドアレースで戦っていこうと思ったら、8秒台では上位争いには絡めないことがほとんど。世界室内だと準決勝に行けるかどうかのレベルになってしまいます。ここまで近づけているので、7秒台で走ってみたいなという気持ちはあります。
今季の目標としては、「参加標準記録を切りたい」という思いが一番強くあります。ブダペスト世界選手権の参加標準記録は12秒78。前回のオレゴンのときよりも上がってしまって、一段と大変にはなっていますが…。
これは、今までもずっと思っていたことなのですが、私の一つの憧れとして、標準記録を突破した状態で、日本選手権に出場して3位以内に入りたいというのがあるんです。日本選手権で「青木選手、世界選手権の代表に内定です!」とアナウンスされたり、写真を撮ってもらったりしたい(笑)。
WAワールドランキングの結果を待って、ぎりぎりのタイミングまで出場できることを祈りながら、精神力も体力も使って臨むよりは、もう一つ上の段階で、自信を持って本番を迎えられるようにしたいんですね。気に懸けてくださる周りの方々からは、よく「今、ランキングの順位はどうなの?」とか、「この大会、ポイントをどのくらい稼げるの?」とか聞かれるのですが、そもそも私は、そういうのをチェックしたり、「この日は、ヨーロッパで大きな大会があるから、もしかしたら、この選手のランキングが上がってくるかもしれない」と心配したりするのが苦手。できれば、そういうことに気を回したくないという思いがあります。
女子の(100m)ハードルでは、すでに去年、(福部)真子ちゃん(日本建設工業、12秒73=日本記録)が突破しています。自分もしっかり切っていきたいという気持ちが強いし、それができると、精神的にも、もう少し余裕を持って本番に臨めるのではないかなと思っています。
写真:フォート・キシモト
今の状況ですか? …どうなんでしょうか(笑)? 練習をしていても、自分が速く走れているのかよくわからなくて、正直なところ「どうなるんだろう?」とめちゃくちゃ不安な気持ちのほうが大きいです。3月9日から30日まで、大崎(鹿児島)のジャパンアスリートトレーニングセンターで、長い合宿を行う予定で、そこでハードルもばんばん跳んでいくことになると思うので、それが終われば、少し見えてくることもあると思いますが…。
女子の100mハードルは、寺田明日香さん(ジャパンクリエイト、元日本記録保持者、12秒87)や真子ちゃんが、どんどん記録を更新して、この数年で、日本のレベルが一気に上がってきました。私も、社会人になってから(2017年)は毎年自己ベストを更新できていて、一昨年に12秒台(12秒87)を出して、昨年もわずかですが(12秒86)更新しています。もちろん、「飛び抜けていい記録を出したい」とか「圧倒的に強い存在になりたい」とかいう気持ちがないわけではありませんが、中学から陸上をやってきて、ずっと「“あれ、あの子、いつの間にかいなくなったね”と言われないようにしたい」と思って取り組んできたので、爆発的に記録が伸びることはないけれど、ちょっとずつだけど毎年確実に速くなれているという今の状態は、消えないように生きてきた(笑)私らしいかなと思います。
真子ちゃんなんかと話していると、すごく強気というか、自信を持ってやっているのを感じます。その感じは羨ましいし、「そういうふうになれば、世界選手権で日本記録を出せるような、ああいういい走り(注:福部選手はオレゴン世界選手権準決勝で12秒82の日本記録をマークした)ができるんだろうな」と思ったりもします。でも、私がそこを目指すと、気負いすぎて違う感じになっちゃう気も。人それぞれに個性がありますから、自分は自分と思って、パリ(オリンピック)や、その先までをしっかりと見ていこうと思っています。少しずつでも速くなって、いつか12秒6台とかで走れるようになりたいですね。
昨年は、100mでも11秒48まで記録を伸ばすことができましたし、日本選手権でも入賞(4位)して、4×100mリレーで世界選手権のメンバーに選んでいただきました。これまでアジア大会とかで走った経験はありますが、世界大会のメンバーとして日本代表に選ばれて走ったのは初めて。オレゴンでは日本記録(43秒33)を出すこともできましたし、「もっと速くなって、チームに貢献できるような走りがしたい」と感じることができました。
写真:フォート・キシモト
今年は、日本選手権は100mには出ないことになるかなと思っています。というのも、先に100mをやってから、100mハードルという日程をクリアするのが、昨年、かなりきつかったから。メインとする100mハードルの決勝に、身体も気持ちも万全の状態で臨める状態をつくりたいと考えています。先ほど言ったように、「青木選手、内定です!」を実現させたいですから(笑)。日程が逆だったら、100mにも出場したいところなんですけどね。
もともと高校まで100mをメインにしていたこともあり、100mの試合に出たり、女子短距離の合宿に参加させていただいたりするのは、すごく楽しいし、いいリフレッシュになっています。世界では、ハードル選手でも11秒3台で走っている選手はたくさんいますし、そういうタイムが出せれば、またリレーを走れるかもしれませんし、何よりも、絶対にハードルにもプラスになると思うので、走る機会があったら、100mでもいい記録を出していきたいです。(談)
取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
>>アスタナ2023アジア室内陸上 大会ページ
■【アジア室内陸上】日本代表選手紹介 男子編
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17489/
■【アジア室内陸上】日本代表選手紹介 女子編
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17490/
■【第106回日本選手権・室内競技】ダイジェスト
女子60mハードルで室内日本記録・大会記録を更新し金メダルを獲得した青木益未選手(七十七銀行)のインタビューをお届けいたします。
【青木益未(七十七銀行)】
女子60mハードル 金メダル 8秒01=室内日本新記録・大会新記録写真:カザフスタン陸上競技連盟
ハラハラ、ドキドキのアジア室内
アジア室内では、60mハードルで8秒01の室内日本新記録をマークし、金メダルを獲得することができました。今回は日本選手権室内(優勝、8秒11)に出場した翌日に、アスタナ(カザフスタン)に向けて出発するスケジュールで、2連戦という感じでしたし、室内大会への出場自体が例年よりも1カ月早いタイミングでした。また、2大会ともきっちりと調整して臨んだわけでもなかったので、そのなかで、ここまで記録を更新できたことはよかったと思います。でも、今回、記憶に一番残っているのは、予選の大失敗ですね。1台目を思いきりぶつけてしまい、8秒51で5着。着順はもちろんプラスで拾われることも難しい結果だったんです。スタートで、セットから(号砲が)鳴るまでがやや長く、隣の選手の身体の動きも気になってしまいました。それで1台目まで思いきり行けなくて、リズムアップせず「ガシャーッ!」とぶつけてしまいました。もう焦ってしまって、みんなの背中がたくさん見えたことと、「あ、終わったー」と思ったくらいしか覚えていません。レースが終わったあとに、頭が真っ白になったのも初めてです。
すごく調子が良くて、予選の前のアップでは山崎先生(一彦、強化委員長)や清山さん(ちさと、いちご、60mハードル4位)からも、「すごくいい」「7秒台出るよ」と、めちゃくちゃ持ち上げてもらっていたんです。なのに、ひどいレースをしてしまって…。終わった直後は、決勝進出は絶対に無理だと思っていたので、もうがっくり。(2組目の)清山さんの走りを見たあとトボトボと帰っていたら、山崎先生が「やったー!」と走ってきてくれて、プラスでぎりぎり拾われたことを教えてくださいました。「ああ、よかった」と本当にホッとしたけれど、レースのときの感覚は夜になっても残っていて、「明日(の決勝)も、またやっちゃうんじゃないか」とドキドキしていました。
写真:カザフスタン陸上競技連盟
それは翌日になっても続いていて、決勝はアップの段階から吐き気が止まらないくらい緊張していました。「とにかく1台目はぶつけないようにしなきゃ」と思いつつ、でも、ここでびびったら、逆に(ハードルに)当ててしまうかもしれないと考え、開き直って思いきり行くことだけに集中し、スタートラインに立ちました。だから、レース中の記憶は全くなく、ゴールして「勝った!」と思ったこと以外は全然覚えていません。そのくらい必死で走りました。
あとで決勝の動画を見てみると、日本室内もそうだったけれど、アジア室内も、レースの流れ自体はとても良かったなという印象です。もちろん、踏み切りが近いとか、この冬やってきた左腕の動きへの意識とかできていないことはありましたが、コーチの金子公宏先生からは帰国後、「速ければいいんだよ」と言っていただけましたし、細かな点は、あまり気にしすぎなくてもいいのかなと思っています。
欲を言うなら、7秒99でもいいから7秒台を出したかったなということは、あとから思いましたね。予選のことがあったので、現地ではホッとしたというか、もう100点くらいの気持ちでいましたが…。7秒台で走った選手は、アジアではまだ1人しかいませんが、海外のインドアレースで戦っていこうと思ったら、8秒台では上位争いには絡めないことがほとんど。世界室内だと準決勝に行けるかどうかのレベルになってしまいます。ここまで近づけているので、7秒台で走ってみたいなという気持ちはあります。
日本選手権で、「世界選手権内定!」と祝福されたい
今季の目標としては、「参加標準記録を切りたい」という思いが一番強くあります。ブダペスト世界選手権の参加標準記録は12秒78。前回のオレゴンのときよりも上がってしまって、一段と大変にはなっていますが…。
これは、今までもずっと思っていたことなのですが、私の一つの憧れとして、標準記録を突破した状態で、日本選手権に出場して3位以内に入りたいというのがあるんです。日本選手権で「青木選手、世界選手権の代表に内定です!」とアナウンスされたり、写真を撮ってもらったりしたい(笑)。
WAワールドランキングの結果を待って、ぎりぎりのタイミングまで出場できることを祈りながら、精神力も体力も使って臨むよりは、もう一つ上の段階で、自信を持って本番を迎えられるようにしたいんですね。気に懸けてくださる周りの方々からは、よく「今、ランキングの順位はどうなの?」とか、「この大会、ポイントをどのくらい稼げるの?」とか聞かれるのですが、そもそも私は、そういうのをチェックしたり、「この日は、ヨーロッパで大きな大会があるから、もしかしたら、この選手のランキングが上がってくるかもしれない」と心配したりするのが苦手。できれば、そういうことに気を回したくないという思いがあります。
女子の(100m)ハードルでは、すでに去年、(福部)真子ちゃん(日本建設工業、12秒73=日本記録)が突破しています。自分もしっかり切っていきたいという気持ちが強いし、それができると、精神的にも、もう少し余裕を持って本番に臨めるのではないかなと思っています。
2017年から毎年自己記録を更新。少しずつ確実に
写真:フォート・キシモト
今の状況ですか? …どうなんでしょうか(笑)? 練習をしていても、自分が速く走れているのかよくわからなくて、正直なところ「どうなるんだろう?」とめちゃくちゃ不安な気持ちのほうが大きいです。3月9日から30日まで、大崎(鹿児島)のジャパンアスリートトレーニングセンターで、長い合宿を行う予定で、そこでハードルもばんばん跳んでいくことになると思うので、それが終われば、少し見えてくることもあると思いますが…。
女子の100mハードルは、寺田明日香さん(ジャパンクリエイト、元日本記録保持者、12秒87)や真子ちゃんが、どんどん記録を更新して、この数年で、日本のレベルが一気に上がってきました。私も、社会人になってから(2017年)は毎年自己ベストを更新できていて、一昨年に12秒台(12秒87)を出して、昨年もわずかですが(12秒86)更新しています。もちろん、「飛び抜けていい記録を出したい」とか「圧倒的に強い存在になりたい」とかいう気持ちがないわけではありませんが、中学から陸上をやってきて、ずっと「“あれ、あの子、いつの間にかいなくなったね”と言われないようにしたい」と思って取り組んできたので、爆発的に記録が伸びることはないけれど、ちょっとずつだけど毎年確実に速くなれているという今の状態は、消えないように生きてきた(笑)私らしいかなと思います。
真子ちゃんなんかと話していると、すごく強気というか、自信を持ってやっているのを感じます。その感じは羨ましいし、「そういうふうになれば、世界選手権で日本記録を出せるような、ああいういい走り(注:福部選手はオレゴン世界選手権準決勝で12秒82の日本記録をマークした)ができるんだろうな」と思ったりもします。でも、私がそこを目指すと、気負いすぎて違う感じになっちゃう気も。人それぞれに個性がありますから、自分は自分と思って、パリ(オリンピック)や、その先までをしっかりと見ていこうと思っています。少しずつでも速くなって、いつか12秒6台とかで走れるようになりたいですね。
100mでも、自己記録更新を
屋外での初戦は、昨年と同じく、4月8~9日に行われる北陸実業団を考えていて、100mと100mハードルに出ようと思っています。昨年は、100mでも11秒48まで記録を伸ばすことができましたし、日本選手権でも入賞(4位)して、4×100mリレーで世界選手権のメンバーに選んでいただきました。これまでアジア大会とかで走った経験はありますが、世界大会のメンバーとして日本代表に選ばれて走ったのは初めて。オレゴンでは日本記録(43秒33)を出すこともできましたし、「もっと速くなって、チームに貢献できるような走りがしたい」と感じることができました。
写真:フォート・キシモト
今年は、日本選手権は100mには出ないことになるかなと思っています。というのも、先に100mをやってから、100mハードルという日程をクリアするのが、昨年、かなりきつかったから。メインとする100mハードルの決勝に、身体も気持ちも万全の状態で臨める状態をつくりたいと考えています。先ほど言ったように、「青木選手、内定です!」を実現させたいですから(笑)。日程が逆だったら、100mにも出場したいところなんですけどね。
もともと高校まで100mをメインにしていたこともあり、100mの試合に出たり、女子短距離の合宿に参加させていただいたりするのは、すごく楽しいし、いいリフレッシュになっています。世界では、ハードル選手でも11秒3台で走っている選手はたくさんいますし、そういうタイムが出せれば、またリレーを走れるかもしれませんし、何よりも、絶対にハードルにもプラスになると思うので、走る機会があったら、100mでもいい記録を出していきたいです。(談)
取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
>>アスタナ2023アジア室内陸上 大会ページ
日本代表選手情報や大会おすすめ情報を掲載中
■【アジア室内陸上】日本代表選手紹介 男子編
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17489/
■【アジア室内陸上】日本代表選手紹介 女子編
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17490/
■【第106回日本選手権・室内競技】ダイジェスト
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