2023.03.10(金)選手

【ダイヤモンドアスリート】金融経済教育研修レポート:競技生活でも重要なお金の知識・引退後のライフプランについて考える



2月27~28日、対面形式での第9期ダイヤモンドアスリートを対象とするリーダーシッププログラムが、集中して行われました。第6回・第7回の研修が組まれた2月27日に続いて、翌28日午前には、第8回のプログラムとして、東京・北区にあるナショナルトレーニングセンターにおいて、金融経済教育の研修を開催。現地参加の藤原孝輝選手(東洋大学)、栁田大輝選手(東洋大学)、西徹朗選手(早稲田大学)、北田琉偉選手(大塚高校)に加え、澤田結弥選手(浜松市立高校)がオンラインで参加しました。



ダイヤモンドアスリートのリーダーシッププログラムでは、これまでにも、さまざまな分野の研修を実施してきましたが、金融経済に関する研修は、今回が初めてとなります。これは、ダイヤモンドアスリートプロジェクトマネージャーを務める室伏由佳マネージャーが、実際にトップアスリートとして活躍したのちに、競技引退後、さまざまな分野で活動してきた自身の経験のなかで必要性を実感し、研修の方法を模索してきたなかで企画されたものです。第9期から新たにサポート企業として参画したSMBC日興証券株式会社から全面的なバックアップを得て、スペシャリストによる金融経済教育の研修が実現しました。
SMBC日興証券の経営企画部サステナビリティ推進室に所属する川西麻美さんが講師を務めて行っていく研修は、「現役時代から引退後までの“ライフプラン”を描く」がテーマ。「ファーストキャリアである競技人生から引退後のセカンドキャリアの描き方を、“お金”という観点で一緒に学んでいく」(川西さん)計画で、今後オンラインで行われる2回の研修を加えて、全3回で展開されることになっています。
その1回目の研修は、「実は、私もお金の勉強は、社会人になってから始めた」という川西さんが、「実体験としてお伝えしておくと、早い段階からお金の知識をつけておくと、目先のことだけでなく、のちのちの自分のキャリアを考えるときなどにも幅や選択肢が広がる。これから行っていく3回の講義を、お金だけのことではなく、自分のキャリアを考える一環としても有効に使っていただきたい」とダイヤモンドアスリートたちに呼びかけてスタート。1回目は、「ライフプランを考える」をタイトルに据え、話を進めていきました。



導入として、川西さんが「少し丁寧に説明していきたい」とトピックに挙げたのは、「どうしてお金の知識が必要なのか」ということ。川西さんは、「あるアスリートAさん」のケースをグラフで示し、現役時代から引退、そして現在に至るまでに、収入、貯蓄、資産管理・運用意識の点で、どういう変化が見られたかを説明していきました。実は、このグラフ、室伏マネージャーの体験をベースにつくられたイメージ図。川西さんは、さらに室伏マネージャーにインタビューしていく形で、「現役時代にはどういう形の収入があったか」「引退して実業団を退社したあと、資金面でどういう点で苦労したか」「貯蓄に対してはどういう意識を持っていたか」「引退後から現在のセカンドキャリアが波に乗るまでに、どういう収入・支出があったか」など、よりリアルな経験談を引き出していきました。

このやりとりのなかで、室伏マネージャーは、「こうしたお金にまつわるライフプランは、人によっていろいろなモデルが出てくるが、きちんと学ぶ機会はとても少なく、陸上界としてはたぶん初めてだと思う。ダイヤモンドアスリートのみんなには“転ばぬ先の杖”ではないけれど、アスリートとしての活躍や引退後に得られる収入のこと、得た資産をどう運用したり管理したりすればよいのかを早い段階で学んでおいてほしいと思った」と、ダイヤモンドアスリート研修に金融経済教育を加えた経緯を説明。高校の家庭科では2022年度から資産形成の授業が必修化されたばかりですが、「アスリートの場合は、広告収入が入ってくるとか助成金を得て合宿や遠征に行くとか、普通では経験しない特殊な要素が加わるため、同級生や先輩や後輩とは違う人生を歩む期間が出てくる」とコメント。“アスリートに必要な知識”という視点で展開していく今回の研修において、「自分の活躍をイメージしつつ、自分に必要となってくる知識を深める機会にしてほしい」と述べました。



川西さんが続いて紹介したのは、現役として活躍しているアスリートの事例でした。SMBC日興証券には17名の障がい者アスリートが所属。東京パラリンピックでのメダル獲得をはじめとして、世界大会で活躍するアスリートが多く在籍していることで知られています。川西さんは、20~50代と年齢層も幅広い同社の障がい者アスリートに実施した、「学生のときからお金のことで意識しておけばよかったこと、考えておけばよかったことは?」というヒアリング結果のなかから、いくつかの回答例を示すとともに、「皆さん口を揃えたかのように、“学生時代からお金の知識をつけておき、収入と支出のバランスを知っておくことが重要だ”といったコメントが寄せられたことが印象的だった」と振り返りました。
また、障がい者アスリートの回答の一つとして、「学生のうちに大きなお金を持つと金銭感覚が狂うことがある。そのバランスを養うためにも、収支の管理をしたほうがよい」というコメントを引き合いにして、「金銭感覚が狂う」という点について、実際に海外で起きたアスリートの金融トラブルの事例や国内のアスリートが見舞われた金融トラブルの事例などを具体的に紹介し、「いずれの場合も、金融リテラシーの欠如・不足が、現役時代から引退後の資金不足を引き起こす要因ともいわれている。ぜひ、皆さんにはお金に関する耐性をつけて、自分の資産を守ることを兼ねて学習していただきたい」とコメント。こうした事例を見ていくなかで、ダイヤモンドアスリートたちは、

・競技を続けていくうえで、お金の知識を持っているかどうかは非常に重要
・アスリート自身がお金を管理・運用するにしても、第三者に任せるにしても、最終的な判断はすべて自分自身の知識量にかかってくるため、金融や資産運用の知識をつけていくことが必要
・アスリートが資産運用に関する知識を備えていることは今後の武器となる
といったことを改めて認識しました。

いよいよ研修は、本題に掲げていた「ライフプランについて考える」内容へ。
川西さんは、ライフプラン(人生の計画)は、「人生のなかで想定されるようなイベントを考え、お金が必要になるタイミングや、その金額を把握して計画を立てること」と説明。そのイベントとして、就職、1人暮らし、結婚や車の購入、子どもの誕生、住宅購入など一般的な例に示しつつも、ポイントとなるのは「自分の生き方に合わせて、お金を管理していくこと」と述べました。
そのうえで、ダイヤモンドアスリートは、まずはアスリートとして現役活動中である「現在」にスポットをあて、競技生活における自身の収入と支出を把握する個人ワークを実施。自身の収支を、直接的収入(自身に入ってくる費用)、間接的収入(自身に投資されている費用)、支出(競技を続けるうえで発生しうる費用)に分けてワークシートに書き出し、それらが年間でいくらかかるか金額を書いていく作業に取り組みました。
最初は、項目を見つけたり分類したりするのに苦労する様子も見られましたが、他選手と意見交換したり川西さんや室伏マネージャーからヒントを得たりしながら書き込んでいくことで、自身の収入と支出を可視化。川西さんは、「トップアスリートになってくると、急に収入が大きく上がるタイミングがあれば、大きな支出が必要となることも出てくる。今のうちから、自分に入ってくるお金と出ていくお金を把握し、管理を人に委ねる場合もきちんと自分でチェックできるような習慣をつけるようにしよう」とアドバイスしました。



また、助成金について触れ、「自分ではない誰かが、自分の活動費用を負担していることを、きちんと理解しておいてほしい」と述べ、「こうしたワークを実際に行って収入や支出について考えることで、自分にはどれだけの人がかかわっていて、競技活動を支えてくれているのかを改めて知る良い機会となる」と、お金の管理だけにとどまらない意義があることを示しました。

次に川西さんが説明を行ったのが、「陸上選手としての働き方」に関する側面です。陸上選手が、社会に出てからも競技を続けていこうとしたとき、企業(実業団)に所属するか、プロとして活動するかで、収入の仕組みが大きく変わるとして各特徴を示しました。また、社員型か契約型かの雇用形態によっても待遇が異なる実業団選手については、それぞれの給与体系での違いも紹介。「今後、社会人となったときに、自分がどのような形態で働いていくかによって、収入の得られ方は変わってくる。こうした点もインプットして、自分のライフプランを立てていくとよい」と述べました。
また、「引退後のキャリア」に関して、現役を退いてから選択するセカンドキャリアのケースをいくつか示したうえで、「今は、多様な働き方が認められている時代。これまでに多くあったパターンを選ぶ方法もあれば、別の道を選ぶこともできると思う」と述べ、引退後のセカンドキャリアとして、どんな収入の得方があるかをディスカッション。こうした行動も自分のライフプランを考えていくなかで役立っていくことが示されました。

ここまでの研修で、競技生活からセカンドキャリアまでの働き方や収入の得方をイメージすることができたダイヤモンドアスリートですが、川西さんは、実際に自分のライフプランを立てていく際に忘れてはならないこととして「プライベートの側面」と挙げ、「人生には、“お金がかかる瞬間”というのが3つある」として、住宅資金、教育資金、老後資金を人生三大資金として、それぞれにおいて検討や決断が必要になってくる事柄を解説。ライフプランを描くときは、競技にかかわるお金についてだけでなく、こうした資金が必要となる時期があることも理解したうえで、考えていく必要があることが紹介されました。
最後に、川西さんは、「第2回の研修では、ライフプランを描くことを最初に実施していこうと思う」と次回に予定していることを伝えたうえで、「次までの2週間で、“いくつまでに何をしてみたい”かや“セカンドキャリアではこういうことをしてみたい”といったことを考えておくと進めやすい。今日はたくさんの内容を紹介したが、それらをインプットして次回に臨んでほしい」と述べ、第1回の研修を終えました。


【参加者研修後コメント】

・藤原孝輝(東洋大学)


自分は、学部は経済ではないのだが、学科で学んでいることに経済を含む面があり、ライフプランに関しても、少し学んだこがあるのだが、アスリートに関する資金の使い方であったり、収入の得方であったりというのは、今回初めて学ばせていただいた。そういうことを今後の競技人生や、競技以外の場面でも活用していきたいと思った。


・栁田大輝(東洋大学)


引退後に、自分のやりたいことをしようとしたとき、例えば、起業しようと思ったとしても、今のうちから貯蓄をしておかないと何もできないことが、今日の研修を受けてよくわかった。将来、自分が引退してからやりたいことのためにも、貯蓄していく必要があることを実感した。


・西 徹朗(早稲田大学)


スポーツをやっていると、普通の人たちとはお金の使いどころや収入の仕方が違うことは理解していたが、実際に、自分に入ってくる収入などを書き出してみたことで、競技を行うことによって、いろいろな金銭が発生しているのだなと実感した。自分にもそうした多くのバリューがかかっていて、多くバリューをいただいているという意識を持ちつつ取り組んでいきたいと思った。引退後や社会人になったときに自分がやりたいことの選択肢を増やしていくためにも、今のうちから、金融に関するいろいろなことを学んでいきたい。


・佐藤圭汰(駒澤大学)


最近、自分のなかで少しお金の使い方が荒くなっている面があったので、講義をしていただいて、お金の使い方を見直す必要があると感じたし、また、競技を引退してからのことも、しっかり考えなければいけないと思うきっかけになった。これからしっかり取り組んでいきたい。


・北田琉偉(大塚高校)


大学を卒業したあとは、プロのアスリートとして活動したいと思っていたが、収入のことなどについては、全く考えていなかったし、「まだ考える必要ないのかな」とも思っていた。この研修を受けたことで、今から考えておいたほうが、大学で何を学ぶべきかにもつながり、それが競技活動を終えてからの職業にもつながるなと思った。今日学んだことを生かして、引退したあとの資金運用や活用を頑張っていきたい。


・澤田結弥(浜松市立高校)


自分は、まだセカンドキャリアについて考えたことはなかったが、今日の研修を聞いて、大学などを選ぶときにも、そういうことまで考えてきちんと選びたいなと思った。また、自分が競技をするために、たくさんのお金がかかっていると知ることもできた。それを支えてくれる方々への感謝を忘れずに、競技をしていきたいと感じた。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)


【ダイヤモンドアスリート】特設サイト

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