東京2020オリンピック競技大会から1年。「ポスト・トーキョー」である2022年シーズンも、ほぼ終わりに近づいています。過去最多タイとなるメダル4を含む入賞9の成績の残したオレゴン世界選手権、そして、2名の競技者が進出を果たしたダイヤモンドリーグファイナルでの歴史的な快挙のほか、昨年から続いて多くの種目で日本記録が更新されるなど、日本陸上界では明るい話題が続く1年となった感がありますが、チームジャパンの司令塔として、強化を舵取りする山崎一彦強化委員長は、今季をどう見ているのでしょうか。2022年シーズンを振り返っていただきました。
今回はダイヤモンドリーグファイナルへの出場を果たした北口榛花選手・三浦龍司選手について、強さの根源や可能性、挑戦を支えるサポートについてのお話を伺いました。
取材・構成:児玉育美(日本陸連メディアチーム)
写真:フォート・キシモト
>>山崎強化委員長インタビューVol.1
複数年にわたる強化の成果と更なる飛躍に向けて
>>山崎強化委員長インタビューVol.3
選手の挑戦を支える環境と日本の目指す道
自身で道を切り拓き、環境を整えた北口
―――今季は、女子やり投の北口榛花選手(JAL)と、男子3000m障害物の三浦龍司選手(順天堂大学)の2名が、ダイヤモンドリーグ(DL)ファイナルに出場を果たし、それぞれに成果を残すという、素晴らしい出来事がありました。これは、日本陸上界の歴史に残る快挙といえることです。ここからは、このお二人について、伺っていきたいと思います。
山崎:ここまでの話は、そこに繋がっていくともいえそうですね。北口は、もうずいぶん前から海外に出ていましたし、三浦は、まさにその適齢期といえるタイミングで、挑戦することができましたから。
―――2人は、それぞれに異なる経過を辿っていますよね。まず、北口選手から聞かせていただきましょうか。世界選手権での銅メダル獲得という快挙もありましたが、今季はDLに初めて参戦したシーズンでした。初挑戦のパリ大会で優勝を果たすと、世界選手権後のシレジア大会でも優勝、モナコ大会とブリュッセル大会で2位、そしてファイナルとなったチューリヒ大会で3位と、年間を通して高いレベルの結果を残しています。
山崎:ダイヤモンドアスリートのプログラムを構築した 際の一番の理想モデルは、海外を舞台に戦っていける選手、海外転戦をものともせず、なおかつ世界選手権やオリンピックでメダル獲得や入賞ができる選手というところだったんですよ。北口の今回の活躍は、まさにその通りになったという形です。本当にすごいと思ったし、とても嬉しく思いました。
―――「原石」としてダイヤモンドアスリート第1期生に選抜された北口選手が、素晴らしい輝きを放った最初のシーズンといえます。
山崎:北口については、高校生の段階でダイヤモンドアスリートとなって、そこから海外に出ていくようになりました。フィンランドに行ったり、ドイツへ行ったりしたなかで、チェコを拠点とすることになった現在に行き着いています。高校から大学という年代に、いろいろな「自分探し」も含めて、自分の適性を見極めながら、自分に合うスタイルで競技ができる環境を求めていったことが、かけがえのない財産になっていますね。それが今年、成績となって出てきたということだと思います。
―――ケガなどの影響で苦しむ時期もありましたが、そのなかでも、ぶれない信念を持って、チャンスを求めて、自らつかみに行こうとする姿が印象に残っています。
山崎:そうですね。本人もずっと前から「旅行好き」と言っていましたが、そういった好奇心がまずあったことからスタートしているようにも思います。物事に肯定感を持って、迷いながらも、いろいろなところにチャレンジしていきました。先ほど、「一流になればなるほど、集中していくことになる」といったことを話しましたが、彼女は、まさに今、自身で「これだ」と思う環境を見つけて、そこで競技に集中できています。もちろん、この状態に至るまでには、「何をやっているんだ」と言われていたと思うし、結果が出てないことに対しても、あれこれ言う声が聞こえてきたはずです。それでも変わらずに、自分自身で道を見つけて取り組んできたわけで、そのプロセスは、本当はもっと評価されていいと思いますね。今、活躍していることも、もちろん大事ですが、現在の環境を見つけたというところがとても大切なんです。そこに至るまでのいろいろな試行錯誤や葛藤を乗り越えてこそのことですから。
高い目線で、先を見据えた挑戦を選んだ三浦
―――逆に、三浦選手に関しては、まだ学生という年代での、チャレンジとなりました。
山崎:三浦の場合は、北口とは逆で、去年、いきなりシニアの日本代表として臨んだ国際競技会がオリンピックで、そこで入賞したという経緯を辿っています。そのオリンピックが自国開催で、もともとの力はあったわけですが、「地元だった」ということや「初めてでなんだかよくわからなかった」ことなどが追い風となって、入賞することができたのかもしれません。 アスリートとしてのキャリアが、いきなりオリンピック入賞からのスタートという形になったわけです。
―――彗星のごとく現れた「超スーパーエース」といえばよいでしょうか?
山崎:そういう印象を持たれた方は多いでしょうね。ただ、彼の良いところは、そこに満足するのではなく、もっと高みを目指したいという意識を強めて、次の行動に移そうとしているところです。東京オリンピックでは、決勝を走ることができたものの、決定的に経験不足だったと振り返っています。展開が全く読めなかったとか、こんなゆっくりしたペースで行くのかとか、こういう切り替えや振り落としがあるのかといったことを痛感した、と。その経験不足を克服するために、自分の年代や大学のレベルで収めないで、海外に出て挑戦することを選択したのがすごいと思いますね。そこは三浦当人もですが、彼の意向を受け止めて話を進めた長門俊介コーチの決断も含めて、素晴らしいと思いました。
―――確かに、今季の三浦選手の種目選びやレースを見ていると、「海外で戦うこと」を想定していることが明確に伝わってきました。3000m障害物だけでなく、1500mや5000mにも高いレベルの走りを見せていましたし、それぞれのレースで、まるで海外のトップ選手と一緒に走っているかのようなペースの刻みや展開に挑戦していましたから。
山崎:ダイヤモンドリーグへの参戦は、オレゴン世界選手権の成績に関係なく、計画していたことだったんです。最初は3000mで、次に3000m障害物で、2回出場することをプランとして立てていましたし、彼自身も、そこにチャレンジしたいという強い意志を持っていました。オレゴン世界選手権は予選敗退という結果で、それについて「DLに行ったりしているから失敗したんだ」と批判する声もありました。でも、三浦はもっと先を見据えての挑戦をしていて、世界選手権がうまくいかなくても怯むことなくローザンヌ大会に挑み、必要な成績を残して、ファイナル進出をもぎ取りました。そして、ファイナルでは、体調が万全ではなかったなか、ローザンヌ大会でマークしたシーズンベストを塗り替えて、4位に食い込んでいるわけです。そのマインドは、もう、大学生の域を超えたプロアスリートのものだといえます。
―――自身の方針にブレがなかったことと、やってきたチャンスをきっちり掴んだ点が素晴らしいですね。
山崎:そうですね。こういうとき、いろいろな人たちが、いろいろなことを言ってくるんですよね。「若いんだから、まだ時間はある」とか「来年やればいい」とか。でも、やろうと思ったら、すぐにやらなくてはダメ。競技者の「若い」なんて、あっという間に過ぎてしまうし、来年も強いかどうかはわからないわけですから。「今年できなかったら、来年はないかもしれない」と思うべきです。その切実さは、「行きたいな」と、ただ口だけで言っている人にも伝えたいですね。行きたいと思ったなら、行動を起こすことが大事。ただ言っているだけでは、口にしていないのと同じなんです。確かに、三浦の場合は、行ける力もあったし、行くに足ると評価された選ばれた人ではあるのですが、そこで得たチャンスを、きちんとものにできた好例だと思いますね。
>>インタビューVol.3に続く
Vol3では、選手の挑戦を支える環境や世界の価値観についてお話を伺いました。
>>インタビューVol.1はこちら
■【DLファイナル開幕直前】朝原宣治さんインタビュー
~海外転戦の難しさや北口選手・三浦選手への期待を語る~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17051/
■【ダイヤモンドアスリート】特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/diamond/
■【ダイヤモンドアスリート】サポート企業へのインタビュー
~豊かな人間性を持つ国際人への成長を支えるために~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15260/
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