2022.06.03(金)大会

【第106回日本選手権展望】女子中長距離編:3種目にエントリーの田中がレースの行方を握る!、廣中・萩谷・田中・木村・佐藤、5000m日本代表の切符を勝ち取るのは⁉



第106回日本陸上競技選手権大会」が6月9~12日、大阪市のヤンマースタジアム長居で開催される。今回は、7月15~24日にアメリカで行われるオレゴン世界陸上競技選手権大会の日本代表選手選考競技会を兼ねており、5月7日に実施された男女10000mと、6月4~5日に実施される男女混成競技(十種競技、七種競技)を除くトラック&フィールド34種目(男女各17種目)の決勝が組まれるタイムテーブル。2022年度日本チャンピオンの座が競われるとともに、2024年パリオリンピックに向けた最初のビッグステージとなる世界選手権の出場権を懸けた戦いが繰り広げられる。

オレゴン世界選手権の出場資格は、昨年の東京オリンピックと同様に、ワールドアスレティックス(WA)が設定した参加標準記録を突破した者と、各種目におけるターゲットナンバーを満たすまでのWAワールドランキング上位者に与えられる。日本における選考は、日本陸連が定めた代表選考要項(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202112/16_191504.pdf )に則って進められるため、日本選手権で即時内定を決めるためには、3位以内の成績を上げたうえで、日本選手権での競技を終えた段階で参加標準記録を突破していることが条件。まず、これを満たした競技者が、第1次日本代表選手として大会翌日の6月13日に発表され、以降、条件を満たした段階で随時追加がなされ、参加標準記録有効期間が終了する6月26日以降に、全代表が出揃うことになる。

即時内定とならなかった場合でも、日本選手権における成績(順位)が大きな鍵となるだけに、どの種目でも大激戦となることは必至。ここでは、オレゴン世界選手権代表の座を巡る戦いに焦点を当てて、各種目の注目選手をご紹介していく。
※エントリー状況、記録・競技結果、ワールドランキング等の情報は6月2日判明分により構成。ワールドランキング情報は、同日以降に変動が生じている場合もある。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト/アフロスポーツ

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【女子800m】

田中希実が800mでも日本記録樹立・世界選手権標準記録を狙う!

レースの展開も勝利の行方も、田中希実の決断次第といった感がある。
田中がメインとしているのは、東京オリンピックで8位入賞を果たしている1500mだが、レースには400mから10000mまで幅広く出場し、そのなかで強化を図るスタンス。800m、1500m、5000mの3種目出場は、すでに前回大会で経験済みで3位、優勝、3位の結果を残すとともに、1500m、5000mでオリンピック代表の座を手にした。昨年マークした800mの自己記録2分02秒36は日本歴代5位の記録で、昨年の日本リスト1位の記録。今回も静岡国際を制した際に出した2分03秒10の今季日本最高を引っ提げて日本選手権を迎えようとしている。オレゴン世界選手権参加標準記録の1分59秒50を視野に入れて取り組んでいて、実現すれば、日本記録(2分00秒45、2005年)の更新と、日本人女子初の1分台突入となる。春の段階では、「(800mで)世界を狙えないと判断したら」1500mと5000mにフォーカスする可能性があることを示しつつも、3種目での挑戦を前提に準備を進めている。出場してくれば確実に、レースと勝負を動かす存在になる。



エントリーリストのなかで最も高い自己記録2分00秒92(2017年、日本歴代2位)を持つ北村夢(エディオン、2017・2018年優勝者)は、今季は4月に2分14秒29で走って以降、日本GPシリーズ等には出場してきていない。今季日本リストで田中に続くのは、田中と同学年で、高校時代から800mを牽引してきた塩見綾乃(岩谷産業、自己記録2分02秒57)と川田朱夏(ニコニコのり、自己記録2分02秒71、2018年400m優勝、2020年800m優勝)。故障で足踏みする時期もあったが、社会人1年目の今季は徐々に調子を上げてきている。ともに400mのスピードに秀でるタイプだけに、万全で臨めるようだと、田中にとって手強い相手となるはずだ。この3人とやはり同学年で、田中のチームメイトとして力をつけてきた後藤夢は、静岡国際で2分05秒51の自己新をマーク。800mでも存在感を高めつつある。



東京オリンピックには田中とともに1500mに出場し、前回の日本選手権では、800mと1500mで2冠を獲得した2019年大会に次ぐ、この種目での2回目の優勝を果たしている卜部蘭(積水化学)は、春先の故障の影響もあって、今季はゆっくりとした滑りだしとなった。自己記録は2分02秒74(2019年)。これに迫る好走で3回目のタイトルを狙ってくるだろう。


【女子1500m】

五輪入賞の田中、歴代3位の記録を持つ卜部、高速レースに期待!

昨年の東京オリンピックで日本人女子初の4分切りを果たすとともに、8位入賞を果たした田中希実(豊田自動織機)が大本命。800mの項目でも触れた通り、今季は400mから10000mまで幅広く実戦を重ねるなかで、「世界で戦える」状況をさらに確実なものにしていこうとしている。オレゴン世界選手権には、東京オリンピックに出場した1500m、5000mに加えて、800mでも出場を狙っていく方針で取り組んでおり、その実現を目指して日本選手権に挑む。1500mは、4分04秒20の参加標準記録はすでに突破済みで、3位内でフィニッシュすれば出場権を獲得するが、大会1日目に予選、2日目に決勝が行われる日程で他種目とは重複しないことを考えると、3連覇でこれを達成する可能性が濃厚といえるだろう。今季は、春季の国内大会を終えたあと渡米して1500mで2レースに出場。シーズンベストを4分06秒35に引き上げたほか、ダイヤモンドリーグにも初参戦し、世界選手権の舞台となるヘイワードフィールドで行われたオレゴン大会に出場した(4分07秒43・15位)。この経験を踏まえた田中が、日本選手権でどんな展開を選ぶかも興味深い。



田中を追うのは、2019年のチャンピオンで、前回2位の卜部蘭(積水化学)。WAワールドランキングにより東京オリンピック出場を果たし、本番では、日本選手権でマークしていた自己記録(4分10秒52)を、一気に4分07秒90(日本歴代3位)まで引き上げた。世界選手権のターゲットナンバーが45のこの種目で、現在のワールドランキングは40位と出場権内にいるが、自身は参加標準記録を突破しての出場に強い意欲を見せている。今季のシーズンベストは、セイコーGGPでマークした4分10秒53。春先の故障の影響で、スロースタートとなっているが、ここからどこまで仕上げてくるか。



このトップ2に続く層は、混戦必至の状況だ。勢いを感じさせるのは、田中のチームメイトである後藤夢(豊田自動織機)で、今季はすでに800m(2分05秒51)・1500m(4分11秒95)ともに自己記録を更新している。日本選手権における最高順位は2020年の3位。4分10秒を切るレースができれば、これを超える可能性はぐんと高くなるだろう。



このほかでは、今季、自己記録を更新(4分15秒71)した金栗記念のほか、セイコーGGPでも好走している柳樂あずみ(名城大)、4分13秒82の自己記録を持ち、今季は日本学生個人選手権で日本人トップ(2位)、関東インカレで優勝を果たしている樫原沙紀(筑波大)、昨年、 4分12秒72の学生記録を樹立した道下美槻(立教大)ら、学生陣も力がついてきている選手。複数が学生記録を上回るペースで上位争いに絡んでいくレースが見られるかもしれない。


【女子50000m】

世界選手権有資格者が5名!日本代表は誰の手に!?

女子5000mは、昨年の段階で廣中璃梨佳(JP日本郵政G)萩谷楓(エディオン)田中希実(豊田自動織機)木村友香(資生堂)、佐藤早也伽(積水化学)が、15分10秒00のオレゴン世界選手権参加標準記録を突破済み。日本選手権を3位内でフィニッシュすれば、代表に即時内定する。
中心となるのは東京オリンピックに出場した廣中、田中、萩谷だろう。廣中は、東京オリンピックでは、この種目で決勝進出を果たし、14分52秒84の日本記録を樹立して入賞に迫る9位でフィニッシュ。その後、10000mで7位入賞を果たした。貧血の症状が出たことで、今季は順調とはいえない滑りだしであったにもかかわらず、5月3日の日本選手権10000mでは、きっちりと優勝(31分30分34秒)を果たして代表の座を手に入れている。今季のレースは日本選手権10000mのみだが、あの走りを見る限り、心配はないだろう。同一開催ではないものの、優勝すれば2年連続2冠を達成する。



2020年にこの種目と1500mで2冠を獲得している田中は、昨年に続き、800m、1500m、5000mの3種目にエントリー。前回は、5000mのオリンピック代表を内定したなかでの挑戦で、大会最終日は3位(2分04秒47)となった800m決勝終了から約30分少々で臨んだ5000mも15分18秒25で3位となった。今年は、800m決勝が16時20分から、5000m決勝は17時35分スタートと、昨年よりは少しインターバルが長くなったが、ハードな挑戦であることは変わらず、5000mの代表争いがこの大会で決まることを考えると、失敗が許されない意味では、むしろハードルは高まっている。シーズンベストは15分23秒87(織田記念)ながら、金栗記念、織田記念ともに日本人トップ。5000mに絞るか、2種目ともに臨むかの田中の決断によっては、5000mのレース展開そのものが変わってくる可能性もありそうだ。



地元開催のオリンピックという大舞台で、初のナショナルチーム入りを実現させた萩谷は、5月3日の日本選手権10000mで、初めてながら31分35秒67の好走で2位の成績を上げ、資格有効期間内に標準記録(31分25秒00)を突破すれば、10000mでの出場も可能な位置にいる。5000mでは「まずはしっかり3位内に」というのが目標だ。昨年に続く代表入りで、“日本代表”のポジションを定着させたい。



佐藤は、日本選手権10000mでは11位に終わって10000mでの出場は厳しくなった。3番目以内を意識してのレースとなるだろう。このところケガに苦しむ状態が続いていた木村は、昨年、4年ぶりの自己新記録となる15分02秒48をマークし、復調を印象づけた。2019年ドーハ世界選手権にも出場した力のある選手だが、今季に入ってレースに出場していない点が気にかかる。



このほかでは、屋外で15分19秒67(2020年)の自己記録を持ち、今年2月に15分23秒87の室内日本新記録を樹立している矢田みくに(デンソー)が面白い存在。日本選手権10000m(6位)では、序盤から上位争いに絡み、終盤まで食らいついた。5000mで代表入りを果たすためには参加標準記録突破が必須となるため、記録も狙っていかなくてはならない。矢田の展開次第で、レースの様相が大きく変わる可能性がある。また、すでに10000mで世界選手権出場を決めている五島莉乃(資生堂、15分19秒58)もエントリー。フロントランを得意とする五島が、どんな走りをするかにも注目したい。


【女子3000m障害物】

東京五輪代表の山中が二連覇を、吉村・石澤は王座奪還を狙う!

女子3000m障害物のオレゴン世界選手権参加標準記録は9分30秒00で、日本記録(9分33秒93、早狩実紀、2008年)を上回る。日本の現状を考えると、まだかなり敷居の高い記録といえる。
しかし、全体の水準は、ここ数年で、着実に高まってきている。昨年の日本選手権では、山中柚乃(愛媛銀行)が、その時点では日本歴代2位となる9分41秒84をマークして初優勝し、WAワールドランキングによる東京オリンピックへの出場を実現させた。
秋には、吉村玲美(大東文化大)が、9分41秒43の学生新記録を樹立。山中が占めていた日本歴代2位の座に収まった。同じ2000年生まれのこの2人がライバル争いを繰り広げることで、早狩による3回しかマークされていない9分40秒を切るタイムが期待できる状況になってきた。
世界選手権も東京オリンピック同様に、ワールドランキングによる出場が期待できる状況だ。ターゲットナンバーが45のなか、現段階で山中が42位、吉村が44位、そして、日本選手権では2回の優勝実績を持つ石澤ゆかり(日立)が45位。安全圏に達しているとはいえないが、可能性はある。ランキング順位をさらに上げていくために、日本選手権でも記録を狙っていかなければならない。



今季日本リスト1位に立つのは山中で、9分47秒22は5月にアメリカでマークしたものだ。日本GPシリーズでは、まず、2000m障害物が実施される兵庫リレーカーニバルを、6分19秒55の日本最高記録を持つ山中が6分20秒21で優勝。石澤が日本歴代3位に浮上する6分20秒63をマークして2位で続いた。直後の織田記念では、山中、吉村、石澤が直接対決。序盤をリードした山中を、吉村と石澤が逆転し、吉村、石澤、山中の順で続いた。



吉村は、この織田記念のほか、日本学生個人選手権、関東インカレも制して今季は無敗を続けている。世界選手権では2019年ドーハ大会に出場している選手。昨年はワールドランキングでの出場が狙える位置で推移しながらも、最後の最後で圏内からこぼれる悔しさも味わった。今季への思いは並々ならぬものがあるはずだ。



オレゴン行きチケットを巡って、山中にとっては連覇を懸けての、吉村にとっては3年ぶり2回目の、そして石澤にとっては2年ぶり3回目のタイトルを狙うレース。前回は、序盤から先頭に立つ走りを身上とする山中が逃げきったが、今回はどうなるか。3選手が持ち味を生かして激しく競り合うなかで、複数で日本歴代上位記録を塗り替え、日本記録に迫っていくようであってほしい。そうした戦いが、「フルエントリー」という結果を、もたらしてくれるはずだ。

この3選手を追うのは、織田記念4位の西出優月(ダイハツ)あたりか。2017年大会を制している森智香子(積水化学)も力のある選手で、2016年にマークした自己記録9分45秒27は、日本歴代5位を占める。今大会は、実に、1500m、3000m障害物、5000mの3種目にエントリー。3種目すべてで入賞を果たす可能性もある。


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