クラウドファウンディングによる運営資金調達をはじめとして、福井陸上競技協会が、企画・運営面で新たなスタイルを打ち出し、2019年から開催しているAthlete Night Games in FUKUI(アスリートナイトゲームズイン福井、以下、ANG)の第3回大会が、8月28日に行われました。
新型コロナウイルス感染症の新規感染者が全国的に増加し、多くの陸上競技会が開催を見合わせることを余儀なくされている状況下、ANGでも実施の可否について慎重な検討がなされたそうですが、万全の対策をとったうえで開催することに。観戦についても、人数の制限、出場競技者との触れ合いや声を出しての応援を禁止するなど、感染防止のためにいくつかの条件を設けながらも、有観客での実施に踏み切りました。
第1回の開催当時から、競技者から注目を集め、「一度出てみたい」と高く支持されていることを証明するかのように、今年も多くのトップアスリートが集結。「東京オリンピック後の最初の試合」に、この大会を選んだ代表選手も多く、2017年にこの競技場で日本人初の100m9秒台突入を果たした桐生祥秀選手(日本生命、当時東洋大学)を筆頭に、小池祐貴選手(住友電工)、山下潤選手(ANA)、佐藤拳太郎選手(富士通)、高山峻野選手(ゼンリン)、城山正太郎選手(ゼンリン)、津波響樹選手(大塚製薬)、鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)、齋藤愛美選手(大阪成蹊大学)、青山華依選手(甲南大学)、石川優選手(青山学院大学)、青木益未選手(七十七銀行)と、「東京2020オリンピック」日本代表選手の12名が顔を揃えました。
好コンディションに恵まれ、複数の日本記録や歴代上位記録が続出した過去2大会に比べると、今回は、朝から厚い雲が垂れ込め、招待の部(9.98CUP)が始まる直前には通り雨にも見舞われる気象状況。この影響で、雨は上がって気温は27~28℃台に下がったものの蒸し暑さが増し、さらにホームストレートが向かい風基調となる条件下での競技となり、残念ながら日本新記録のアナウンスを聞くことはできませんでした。しかし、各種目で熱戦が展開され、会場へ足を運んだ観客を魅了しました。
今大会、会場を大いに盛り上げ、そして改めて求心力の強さを印象づけたのは、この競技場の別称としてすっかり定着した“9.98スタジアム”の起源でもある桐生選手の活躍でした。ANGには3年連続の出場で、“皆勤賞”ですが、今回は、男子100mに出場する一方で、自身が主宰するプロジェクト・ブランド“K-Project”の取り組みの1つとしてプロデュースしたイベント“Sprint 50 Challenge”も実施。これは、学校体育などで馴染みのある50m走をベースに、独自のルールを設けて、誰もが気軽に取り組めるようにと、桐生選手が立ち上げた競技種目“Sprint 50”(50m走)にチャレンジするという企画。「(自分が9秒98をマークしたことでこの競技場に)9.98スタジアムという名前もつけていただいているが、自分にとってもここは“特別な場所”。だから、この地で始めたいという思いがあった」と桐生選手。初めてとなる50m走を今回は、福井県の小学生6人を相手に、“ガチ勝負”。スタートしてすぐに小学生たちを置き去りにすると、大きな加速を見せてフィニッシュラインに飛び込み、1.4mという強い向かい風のなか5秒87をマークしました。
“アスリート桐生祥秀”としては、まず、3組上位2着+2の決勝進出条件で行われた予選の第1組に登場。1.1mという向かい風のなか10秒36で1着通過を果たしました。大会最終種目として行われた決勝は、序盤を先行される滑りだしとなりましたが、スムーズな加速をみせると、難なくリードを奪い、10秒18(0.0)で快勝。この結果が評価され、大会MVPにも選出されました。
東京オリンピック後は、今回が初レース。このあと出場を予定していたもう1戦が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止されたことで、ANGが今季最終戦となりました。オリンピック後は、「(Sprint 50 Challengeのために)50(m)の練習ばかりしていた」と、茶目っ気たっぷりな表情で話して報道陣を笑わせましたが、実際には「ほぼ、ウエイトトレーニング」というほど筋力アップに時間を費やした様子。それは、オリンピックで久しぶりに海外のトップランカーたちとレースをするなかで、「明らかにパワーが足りない」ということを実感したためだといいます。大会の前日会見では、来夏に行われる「オレゴン2022世界陸上競技選手権大会」参加標準記録となる10秒05の突破にも意欲を見せていましたが、気象条件等に恵まれなかったこともあり、こちらは達成ならず。レース後には、「今日の条件を考えると、ボチボチかな」と自身の走りを評価するとともに、「9秒8とか7(台)とかに向かうためには、中盤でもっとガツンと行けるようにならないと…」と、すでに、次にクリアすべき課題が明確になっていることを示しました。
日本選手権で苦しんだアキレス腱痛をはじめとして、室内シーズンから、いくつかの故障に見舞われながら過ごすことになったオリンピックイヤーを振り返って、「ケガなく過ごすことの大切さ」を痛感するとともに、「万全の状態で勝負をしたい」と感じたという桐生選手。まずは例年同様に、しっかりと休養期間をとって、その間に来季に向けての戦略を立て、冬季鍛錬期のトレーニングへと向かっていくことになります。「まずはしっかりとケガをしない身体をつくりたい。パリ(次のオリンピック)といわず、来年、再来年と世界選手権が続くので、1つずつ、その全部で活躍できるようにしたいきたい」と意欲を見せました。
このほか、向かい風0.7mの条件下で行われた男子200mは、100mと4×100mRで東京オリンピックに出場した小池選手が、20秒62で貫禄勝ち。この種目には、五輪の男子4×400mリレー予選で日本タイ記録樹立に貢献した佐藤選手も出場。ショートスプリンターたちに交じって決勝に進み、20秒93で4位に食い込みました。
男子110mハードルは、一昨年のこの大会で日本記録をマークしたこともある高山選手が、五輪後からスタートから第1ハードルまでのアプローチを7歩に変更する取り組みに挑戦しているなかで、この大会を迎えました。予選で試したものの3着(14秒07、−0.7)にとどまり、プラスで拾われての進出となったことで、決勝は従来の8歩に戻して臨むことに。今季好調の藤井亮汰選手(三重県スポーツ協会、13秒59)、石川周平選手(富士通、13秒60)らとの競り合いをラストで制し、13秒57(−0.8)で先着。オリンピアンの意地と気迫を見せつけました。
若きオリンピアンの躍進を印象づけたのは女子100m。五輪で日本歴代2位をマークした4×100mリレーのメンバーのうち、兒玉芽生選手(福岡大学)を除く鶴田、齋藤、青山の3選手に加えて、五輪では控えに回った石川選手が出場したほか、今季著しい進境を見せている壹岐あいこ選手(立命館大学)、君嶋愛梨沙選手(土木管理総合)、名倉千晃選手(NTN)、高橋明日香選手(アスレティクス・ジャパン)と豪華な顔ぶれが並びました。そんな決勝を制したのは、青山選手。向かい風0.4mの条件のなか、100分の1秒差で壹岐選手を押さえ、U20日本歴代6位タイとなる11秒57の自己新でフィニッシュし、秋シーズンに、U20日本記録(11秒43、土井杏南、2012年)の更新も期待できそうな好走を見せました。
全4回(前半2回でトップ8を決め、後半2回を実施)と、通常より2回少ない試技回数で行われた男子走幅跳は、2年前のこの大会で日本記録(8m40)をマークした城山選手と、同じく8m23の跳躍を残している津波選手の両オリンピアンが、ベスト8入りを逃す波乱もあったなか、1回目に7m97(+1.8)の跳躍を見せた手平裕士選手(オークワ)が優勝。女子100mハードルは、青木選手が決勝前に腰を痛めていた影響で、レースの途中で急速にペースダウンするアクシデントがありましたが、混戦を抜け出した清山ちさと選手(いちご)選手が13秒31(−0.8)で優勝しました。清山選手は、前回のANG予選で追い風参考(+3.7)ながら13秒03の好記録をマークし、決勝でも+2.1mと僅かに追い風参考ながら自己記録を上回る13秒10で、青木選手、寺田明日香選手(ジャパンクリエイト、当時パソナグループ)に続いたことで注目を集めた選手。実は、その直後に、股関節裂離骨折を起こして戦線離脱を余儀なくされる事態に見舞われていました。苦しい治療とリハビリ期間を乗り越えて、今季、6月に復帰を果たしていただけに、完全復帰を印象づける結果となりました。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
■【東京オリンピック】特設サイトはこちら
https://www.jaaf.or.jp/olympic/tokyo2020/
■【アスリートナイトゲームズイン福井】ライブ配信
https://youtu.be/S9pkp2e6C70
■【アスリートナイトゲームズイン福井】リザルト(PDF)
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