東京2020オリンピックの陸上競技で、日本代表選手団はメダル2、入賞7という成績を挙げました。メダルと入賞を合わせて9という結果は、戦後(ヘルシンキ1952オリンピック以降)のオリンピックでは最多となりました。また、決勝進出を果たした選手、日本記録や自己記録を更新した選手も多く、自国開催の大会で日本の存在感を強く示しました。
大会最終日の8月8日に、陸上競技日本代表選手団の麻場一徳監督、山崎一彦トラック&フィールド種目ヘッドコーチ、瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダー、河野匡長距離・マラソンヘッドコーチがオンラインで記者会見し、今大会の結果、これまでに至る過程、今後に向けた課題などについて話しました。その内容をご紹介します。
◎麻場一徳 監督
まず、東京2020オリンピック開催にあたり多くの方々にさまざまな形でご尽力いただいたことに対しまして、心から感謝の意を表したいと思います。未だ新型コロナウイルス感染症は収まっておりません。その中でオリンピックを開催するにあたって、さまざまな立場でさまざまな努力がなされたことと思います。私たちとしては、オリンピックの場でアスリートが自分たちの培ったパフォーマンスを発揮する場を与えていただいたことを、ありがたく思っております。
同時に、そういう状況の中で、ボランティアの方々や全国から集まっていただいた審判の方々、こういう状況の中でアスリートを支援しこの場に送り出していただいた所属先の方々、そういうご配慮あるいはご支援なしにはこの10日間は成り立たなかったと思っております。
陸上競技選手団全体では、メダル2個、入賞7個という成果を挙げることができた。この数字がいいかどうかに関しては、さまざまな立場の方々から評価をいただくことになると思う。私たちとしては、二つの目標のうちの一つである「メダルや入賞を一つでも多く」という観点から言うと、三本柱として掲げたマラソン、競歩、リレーを中心にメダルや入賞を獲得できた。そういう中でリレー(男子4×100mリレー)が途中棄権となったことは残念だった。しかしそれは頂点を目指した取り組みの過程で起きたこと。間違いなく日本の男子短距離は世界の大きな高い山の頂点を目指すところに来ているので、この取り組みを継続してやっていくことが大事なのではないか。
この三本柱に加えて、若手アスリートの活躍も特筆、強調して言えると思う。日本陸連として競技者育成指針を定め、それに則った形でジュニアの育成を進めてきたが、その成果が出ていると捉えている。今後さらに世界選手権やオリンピックでのメダルに発展できるようさらに取り組みを強化していく必要があると思っている。
メダル2個、入賞7個という数字は、前回のリオデジャネイロ2016オリンピックがメダル2個、入賞2個だったので、入賞の数で少し上回って少しは成果が出てきたと思う。オリンピックの陸上競技でメダルを取ることはそんなに簡単なことではなく、その中で、1種目(男子20km競歩)になってしまったがメダルを2つ取れた。(戦後のオリンピックで)これまで一番メダルと入賞が多かったのがアテネ2004オリンピックのメダル2個、入賞6個。1964年の東京オリンピックはメダル1個、入賞2個だった。なので、日本陸上界は少しずつステップアップしていると思う。
今回は「オリンピックの舞台に立つアスリートを一人でも多く」をもう一つの柱としてきた。それに応えてくれるアスリートがとても多く、66名(※下記参照)がこの場に立ってくれた。それ以上に、いろんな種目でオリンピックに向かうアスリートの姿勢が(広く)好影響を及ぼしたことも、強化委員長の立場としては非常によかったと思っている。
来年、再来年と世界選手権があり、パリ2024オリンピックがあるが、この流れをますます促進させて、日本陸連が掲げる「世界のベスト8」というところまで登っていきたい(※下記参照)。
※陸上競技の日本代表選手は、7月6日の日本オリンピック委員会(JOC)認定の時点では65名(男子43名、女子22名)だったが、男子4×400mリレーの池田弘佑選手を大会中に代表に追加してエントリーしたため、最終的に66名(男子44名、女子22名)となった。
※1位8点、2位7点・・・8位1点と換算したポイントの合計で、今大会の日本は28点で全参加国・地域中18位だった。1位はアメリカ(263点)、8位はイギリス(65点)。
Q:今回若手の活躍が目立った。どのような取り組みが成果として出たのか。また、パリ2024オリンピックへの期待を。
A:ダイヤモンドアスリート制度を中心とした強化の仕組みの中で育ったアスリートたちが活躍してくれたのは大きい。強化育成部の杉井将彦コーチを中心として、U20世界選手権(旧・世界ジュニア選手権)をとても大切にして将来の世界選手権やオリンピックで活躍できる選手をどんどん送り込むという戦略で取り組んできたが、それが実を結んでいるのではないか。今回の入賞者の多くがU20世界選手権を経験しており、順調に育ってこの場に立っているという流れができているのは今後につながるのではないか。
Q:無観客開催となった影響について。
A:まず、こういう場(大会)があったということは、本当に我々競技者のサイドからするとありがたいことだと思っている。アスリートは一年一年、あるいは一日一日、人生を賭けてパフォーマンス向上に取り組んでいるので、それを発揮する場が失われるのは人生の目標に左右することにもつながりかねない。そういう意味からすると、東京オリンピックを開催しアスリートたちが活躍する場を提供していただいたことはとてもありがたく思っている。
その上で観客がいなかったのはどうかとなると、それはいた方がよかった、日本のアスリートたちが人生を賭けて、そしてパフォーマンスを上げる過程で技術的にも肉体的にもメンタルの面においても限界まで高めている。そういう姿、そしてそれをギリギリのところで発揮している姿を(競技場で)見ていただいて、日本の皆さんの活力に少しでもなっていただければと思うし、彼らを応援していただけるような相互の好影響があると、私たちの世界だけでなくてもっといろいろな面で、社会においてもいろいろな発展が生まれていくのではないかと思う。
Q:そういう状況下で、インターネットで批判されたり、コロナの影響もあって精神的にも参っているような選手もいたように見受けられたが、日本陸連としての精神的なケアなど考えているか。
A:選手のケアは現場のコーチがケアしているのもあるし、日本陸連の医事委員会を中心に窓口を開設して、選手の状況に応じて、あるいは選手が助けを求めたい時にバックアップする体制をとってきた。そういうケアももちろんだが、強化委員会としてはもう一つ、選手が少しでもそういうストレスから解放されるような働きかけのようなことも、選手とコミュニケーションを取りながらやってきたつもりでいる。
社会が正常である時にこそスポーツの良さというのは発揮されるので、現状でいろいろな批判があったりするのは、ある意味当然と思う。そういう中でスポーツの良さをどういうように発信していくかが大切なのではないか。一般の人たちが「なぜスポーツだけ」という意識になるのは、選手の純粋な活動やパフォーマンス以外に、オリンピックの裏側に政治の問題とかカネの問題とかが見え隠れしてしまったことが、私としてはすごく残念。別に政治を批判するわけではないが、選手がやっていることはこういうことなのだという理解が得られるような取り組みがもっとあってもよかったのではないか。現場サイドでは、選手に対してそういうことを発信してきたつもりではある。
Q:日本陸連として目標を世界のベスト8ではなく、メダル(ベスト3以内)にするという意識改革は難しいのか。日本サッカー協会はワールドカップで優勝するという目標を立てて、はじめは皆が笑っていたが、だんだんそこに近づいてきた。男子100mでもメダルを取るというのはにわかに信じがたいと思うが、そういう本当に届くのだろうかという目標を立てることによってファイナリストが普通になるとか、そういうことを日本陸連として掲げる、意識改革するのは難しいのか。
A:男子短距離の話をすると、私も(1980年代までの)現役時代は短距離の選手だったが、意識として今の選手とレベルも違うし、目標としている山も全然違う。私としては世界大会に出られるだけでOK、満足というレベルでやってきた。そこから(1990年代には)、例えば山崎一彦ディレクター(今大会の日本選手団トラック&フィールド種目ヘッドコーチ)の世代は積極的にヨーロッパなど海外の大会に出て、世界で活躍することを目指してきた。そういう人たちが指導者になって、今の選手は世界に出るのではなく、世界で頂点に立つためにどうしたらいいかという課題の下にやっている。残念ながらこの2年間は海外に出て他国のトップレベルの選手たちのパフォーマンスを肌で感じながら今大会を迎えることはできなかったが。日本のジュニアの指導レベルはとても高いので、そこをうまくシニアに結び付けていきながら海外で戦える態勢を作るか。技術に関するトレーニングの工夫なども世界に負けてないと思う。もう(世界の上位に)手の届くところまできていると思うので、強みを生かし、歩みを止めないで進んでいきたいと思う。
◎山崎一彦 トラック&フィールド種目ヘッドコーチ
陸上競技は前評判でたくさんの期待をしていただいた、その上での今回の結果は、良くも悪くもないというところだと思う。麻場監督も言っていたように、下位ではあったが入賞が増えた。かつてはジュニアの選手がシニアで活躍できない、伸びないと言われていた。その問題点を8年ほど前から、強化育成部でU20の統括をしている杉井将彦先生を中心にたくさんの問題意識を持ちながらタッグを組んでジュニアからシニアへ活躍する選手を多く送ることができました。メダリスト、入賞者のほとんどが世界ジュニア選手権、今のU20世界選手権を経験して、または強化選手等になって巣立った選手だった。そのような選手たちが多く出たのは、過去最高に選手たちが底上げできた結果ではないかと思う。ただし、オリンピックは入賞またはメダルが目的。一番期待された男子4×100mリレーでメダルを取れなかったことは、日本にとってとても悔しいことだと思う。この結果はリアルなものだった。これまでコロナ禍の中で何事もバーチャルでやることが多かったが、今回は本当にリアルな中で戦った結果。そのリアルはとても大事なことだった。
オリンピックができるかどうかわからない状況が続き、選手は私たちに(何かの用件で)呼ばれると「この試合がなくなったんでしょうか」とか「なくなったので呼ばれたと思いました」とか話していた。葛藤の中で戦ってきた選手たちは、リアルの中でよく頑張ったと思うし、その結果が表れた。
男子4×100mリレーでは金メダルを公言していたので取れなかったのは残念だし、ある意味負けたところもあった。だが好材料もたくさんあった。どの国も地元のオリンピックを機に飛躍する。私たち日本チームも東京オリンピックを契機に、強化策を講じながら若い選手たちが伸びるように3年後(パリ2024オリンピック)まで向かっていきたい。次世代の人たち、次世代のコーチがやっていくと思うが、勢いを止めないように、また止まらないことを信じてやっていければと思う。
Q:今回いろんな若手選手が躍進(入賞)したが、この先メダル獲得を実現するために必要なことは。
A:やはり経験が足りなかったというか、ほとんどなかった。例えば入賞した三浦龍司選手は、決勝はスローペースではじき出されてトップを走らざるを得なかった。泉谷駿介選手にしても準決勝は先にポンと出られたら焦ったとか。それはほとんど経験がなかったと思うし、これからもやっていかなければならない。日本という(地理的に他の国に行きにくい)国のビハインドでもあるが、機会があれば海外に出ることも必要だと思う。日本人としては経験を海外に求めたり、日本でそのような状況を作るようにしていかなければならない。
Q:男子4×100mリレーでは、走力やバトンパスなど世界のレベルをどう感じたか。
A:個人の100mの結果がそのものではないか。今回は(競技場の)条件も良かったと思うが、それぞれの国の実力が上がっている。投てき以外のほとんどのトラック&フィールド種目で上がっていたという印象を受けた。その中で私たちはもう一段引き上げなければならないし、準決勝には確実に残らなければならない。東京オリンピックの分析はまだきちんと出していないが、12位以内に入る実力、ワールドランキングで10~16位くらいに位置している必要があるし、今回のように海外経験が少ないとか、地の利がないところにいる私たちはランキングを上げていく意識が必要と思った。
(東京オリンピックに向けた世界ランキングでは)日本の中でも大会のカテゴリーが高い大会で確実にポイントを取れたが、今後は(大会のカテゴリーに関係なく記録に対して与えられる)リザルトスコア、記録そのままの得点がどの程度に位置しているのか意識していかなければならない。好条件でないところでも実力がどの程度のところにあるのかを測っていかなければならないと思った。日本の場合、特に100mのように好条件を作った競技会が多い。私たち指導者はそこでの記録より、実力やリアルな数字がどこにあるのかを見極めなければならないと今回のオリンピックを通じて特に思った。
Q:今後の男子4×100mリレーについて。世界リレーなどいろいろな大会のリレーにどんどん出していくのか。それとも個人のレベルアップを重視していくのか。
A:今の強化体制は東京オリンピックで終わるので、今後について私から明言はできないが、選手たちに申し上げたのは、もう一度原点に返るということ。今までももちろん個々の力を重要視して臨み、その結果9秒台が4人出たのはよかった。しかし速さはあっても強さというか実力がないと、今回のように大会序盤に100mがあって、その後のリレーでまとめというのがうまくできない。流れに乗れなかったのが痛恨の極みかなというところがある。他のチーム、例えばイタリア等は100mで優勝する選手が出て、その後のリレーも勝った。やはり流れはとても大事だと思いましたので、そのあたりの実力をつけることをやっていかないと。
今後は9秒台だけでは騒がれないと思うし、すでに4人もいるので9秒台も普通に出てくるだろうから、どんなところでもこのタイムが出るとか、競り合いで力が出る、勝負どころの準決勝で力が出る、というところをもう一度やり直さなければいけない。コロナの影響もあり、今はどうしても国内指向になりがちになってしまったのは否めないが、もう一度視野を広げてやった方がいいということは選手たちには話した。3年後のパリオリンピックに向けたリレーの戦略、技術的な戦術については今後の強化担当のコーチが決めること。私たちの置き土産としては、個の実力をつけるというところにあると思う。
◎瀬古利彦 日本陸連強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー
マラソンプロジェクトリーダーを5年間務めさせていただいて、やっと東京オリンピックが終わったなという気持ち。特に東京から札幌へコースが変更になったり、オリンピックが延期になるなどいろんなことがあった2年間は特に長く感じた。代表に選ばれた6人の選手たちは日本代表という十字架を背負いながら、そしてプレッシャーと闘いながら、大変な日々だったと思う。また補欠選手の4人も最後まで準備をしていただき、心から、本当にありがとうと言いたいと思う。補欠選手の4人は代表候補だった経験が必ず今後のレースに生きるものだと思う。そして入賞した一山麻緒選手。すごい練習を消化しているということを知っていたので、30km過ぎに先頭集団から離れた時も、きっと最後まで粘ってくれるだろうと信じており、よく8位に入ってくれた。そして女子はアテネ大会以後3大会入賞していないという状況の中、女子マラソンはもうだめなのではないかと言われはじめていたが、まさに彼女の入賞で女子マラソンの救世主になってくれたのではないか、これからの選手の自信になってくれたのではかと思う。
男子の大迫傑選手。持ち前の粘り強さと、42kmを自分の体と相談しながら走る彼らしいレースができたことが入賞につながったと思う。一時はメダルも狙えるのではないかと思わせるような追い込みはさすがだった。
他の代表の4人については、皆さんが期待していたのとは違う結果となり、リーダーとして本当に申し訳ないと思っている。マラソンは改めて難しいなと思った。1位になったキプチョゲ選手はさすがで、見ていて神が走っているのではないかというふうな貫禄があった。2位になったオランダのナゲーレ選手、自己ベストが2時間6分17秒の選手。それでも銀メダルが取れるわけだから、日本もこれからの男子マラソンでメダルを取れる心の強い選手を育成していければと感じた。
全体的に男女とも入賞が1人ずつ出たということで、満点とはいかないが、70点から80点とリーダーとしては思っている。
Q:リオを終えてからMGCという仕組みを作り代表選考のシステムを大幅に変えてやってきた成果が今回表れたと思うが、改めてMGCがどういう成果を生んだと思うか。
A:皆さんはメダルの期待があったと思うが、MGCが日本のマラソンのレベルを引き上げたと分かっていただけると思う。日本記録が鈴木(健吾)君も入れて一気に4回出た。それを見ても今までの10年と違ったと言えると思う。MGCに出ることがステータスとなり、若い選手が早い段階でマラソンに取り組んでくれたことが今のマラソンの層につながっていると思う。
Q:今回のレースはMGCで内定が出た2人の結果が振るわずに、最後に代表が決まった大迫さんと一山さんが入賞した。この結果をどう受け止めるか。
A:言い訳になるが、大迫君たちより半年前に決まっていた。1年延びてまた半年分のプレッシャーの積み重ねが大迫君や一山さんより大きかった。男子の2人は少し怪我気味で、この半年間思うような練習ができなかったという感じで、スタート地点に立つのはなかなか難しいなと思った。1年延びていなければ彼らもまともな体調で出られたのではないかと僕は確信している。MGCは絶対に間違っていなかったと確信している。
Q:大迫選手の引退についてはどう感じるか。
A:まだ十分戦える体も持っているし、まだできるのではないかと思っている。彼が若い選手たちの見本・目標となっているので、彼にはもっとやっていただきたかったとは思う。
Q:残念ながら大迫選手引退ということだが、大迫選手がこれまで独自の道を歩んできて、異端児という向きもあったが、彼の挑戦が切り開いてきた道を瀬古さんはどう評価するか。
A:彼はアメリカに行ったから伸びたのだと思う。彼は一つの型にはめたらだめになるタイプだと僕は思っていて、自分がやりたいような、自分の意志ですべてができる、それができる人だからアメリカで何の足かせもなくできた、開放感みたいなものが彼に合っていたのではないかと思う。日本にいたらダメになっていたのではないか。
Q:彼(大迫選手)のチャレンジが今後、次世代の選手がどう消化したり、日本マラソンの財産にしてほしいか。
A:初めてやる人はだいたい異端児と言われる。初めての取り組みをした大迫君に僕はあっぱれをあげたい。彼はこれからも新しいことをいろいろやりたいと思っていると思う。それをどんとん若い人に伝えていってほしい。
◎河野匡 長距離・マラソンヘッドコーチ
前半のトラック、4日まで東京にいたが、驚きと感激の連続だったと中間総括でも言ったが、若い選手たちの活躍が私にとっては非常に力になり、これだけ涙が出そうになった大会は初めてだった。札幌に移って競歩も含めて5レースを通して、選手たちの頑張りは率直に喜びたいと思うし、新型コロナウイルスにより1年延長した中でそれぞれがプレッシャーの中により長い間さらされたことは非常につらかっただろうと思う。その中で力を発揮できた選手、できなかった選手がいるのは、仕方ないことかと思う。すべての経験が未来につながるような形で選手も指導者も次につないでいってくれたら日本の陸上界も新たな歴史を作れるのではないかと思う。とにかく1500mの田中さん、5000mの廣中さん、10000mの廣中さん、5000mは田中さん、萩谷さんの自己記録と、東京オリンピックが1年延びたことによって、若い力が2021年に生まれたということは、2024年に向けて楽しみな選手が増えたと評価している。
とにもかくにもいろんな方のサポートと、各選手を持っている企業の方も含めて、献身的なオリンピックにかけるサポートする姿が本当にありがたいと思っていて、こういうサポートがある限り日本の陸上界の未来は明るいと思っている。
Q:男女マラソンを見ていて、入賞した一山さん、大迫君がアップ中から保冷剤を持っていたりとか、暑熱対策の徹底度も抜けていたかなと見ていて思ったが、暑熱対策の評価と、共有できた部分、共有できなかった部分とどう感じるか。
A:暑熱対策は科学委員会、医事委員会と連携しながら情報を共有した中で、どういう風に使うかは現場に任せていた。その中で、私の印象ですけれども、もっとシンプルに戦うことと対策をするということを分けて考えればもっと良かったと思った。体温も含めて暑くなることについて情報が多すぎて負担となり、神経がそちらにいき、勝負をするタイミングを二人とも逸していた気がし、無心でレースに入れたらもうちょっと順番も良い結果だったと思う。日本人選手の実力はついていると思うが、実力を出す考え方をもっと詰めていかなければいけないと思った。女子はアメリカが銅メダルを取り、男子もオランダとベルギーが銀、銅と取ったことは、日本の選手も十分戦える位置にいたのは確かだと思うので、暑熱対策と勝負をすることの関係性をもっとシンプルにすればよかったなという反省もある。オリンピックは戦う場所なので、手段を先に決めず、戦うことを前におくことを次の世代につなげていきたいという私の反省にある。
Q:今回マラソンのチームは垣根なく情報を交換していったことの成果は。補欠を2名おいた情報交換の中で、本番で戦える状態でない選手がいたことも把握していたと思うが、そこで最後の判断はどういうプロセスを経て決断したのか。改善の余地があるのか。
A:補欠を置くというのは北京オリンピックの反省を踏まえて、地元のオリンピックではスタートラインに選手を立たせよう、欠員をなくすということが絶対的に必要だと感じていたので、そのために補欠という制度を作った。そのあと、結果的にWAのルールでAPという登録ができて各種目でエントリーする可能性がある選手は補欠のような形で登録することがわかったが、我々はいろんなことを想定して事前にこういう枠組みを作ってきたのに対して、WAの枠組みや変更に戸惑いながらやってきた。リザーブの選手をどのようにしたら今のメンバーと代えるということの可能性は生まれるのか、というのは、今回の風通しの良かったコミュニケーションの中で課題にしなければならないと思った。選手たちがMGCやファイナルチャレンジでつかんだ権利と、戦うためという中で補欠2名というシステムが機能したかというと、機能しなかったと言って間違いない。だが選手の権利をどう守るというところからするとそれはできないという結論に至った。ただし、そのことについては深く現場の選手、コーチたちとも話して、スタートラインに立つにはそういうところも覚悟をもって出る選手とリザーブの選手には理解してもらうようなコミュニケーションを取ったので、マラソンの結果はどちらがよかったかは比較することはできない。これに対しての責任は私が全部受け止めるが、今後につなげるためにも、どういった形で明文化するか、戦える集団にするかは今回のシステムを通して次への課題としてきちっとつなげていかなければいけない、それが我々が願うメダルを取るという結果につながっていくと思う。
Q:札幌移転、1時間前倒しといったことはすべてマラソンの走る環境や天候と関係することだと思うが、今日は30人くらい棄権が出た。前日より暑くなかったと思うが、これはどうしてだと思うか。
A:湿度は結構あったため、選手にとってみれば走りやすい環境ではなかったと思う。昨日と比べて良いというだけで選手が走るのは今日がすべてであるため、どういう風に受け止めたかは男子と女子で違うと思う。女子は暑くなると見越して準備し、男子は涼しくなると思ったら暑くなったかもしれないので。男子と女子を比べると女子は無理をしないでゴールまでしっかり見据える選手が多いので、男子の方が棄権率が高くなるのではないのかと思っていた。
Q:服部選手がゴール後運ばれたが、途中でやめさせるという可能性、判断は。
A:日本のマラソン選手の美学としては棄権が一番やりたくない行為だというのが伝統的にあるので、それは日本が一番強いかもしれないが、ゴールする、完走するということが選ばれた以上は責任、覚悟があったと思うので、私は30kmの周回でやめてもいいのではないかと思っていたが、本人に伝えることがなかなかできないという状況もあったし、給水の各ポジションや34kmではジョギングになっているが本人がやると言っていると随時確認していた。我々がやめろというのは簡単だが、選手としてやめたくないという感情があるのも理解できるので、このあたりは本人の、選ばれた以上はという覚悟の中での完走だったと思う。是か非かは分からない。
Q:今回、いつもなら多くの選手が海外で事前合宿や高地トレーニングなど組むと思うが、それができなかった影響はあるか。
A:今までのルーティンができなかった戸惑いはあったとは思うが、それよりも開催できるかどうかわからない不安もあったと思うし、この中で海外に出て行くことがどうすればできるかは何回も話し合ったが、今行くことのリスクと帰国してからのオペレーションを考えるとかなり難しい面もあった。こればかりは終わった後の成績が出なかったので行った方がよかったとか、行かなかったからよかったとか後付け論になるので、どちらが成果はわからない。ただ私の立場として思うことは、何の戸惑いなくスタートラインにつかせたかったという思いは本当に持っている。1年前の今日で勝負ができることが一番望ましい姿だったが、それはできなかった。昨日の1時間スタート繰り上げも含めて、選手は何の文句も言わずに淡々と健気にやってくれている。その姿は本当に素晴らしいと思う。ルール、決まったことに対して真摯な向き合い方は選手としての鑑だし、結果的にも素晴らしいと私は感じている。
Q:もともと東京でやるということで準備して、札幌移転。地の利も想定して積み重ねたのが失われ、選手も尽力されて今に行った。その影響や、それを受けて男女マラソンはどうだったか。
A:最初にMGCを立ち上げたのを考える時に東京のことをイメージして全部作ったので、それを2019年の10月に移転が決まってからは私自身も何をどうしていいかわからなかったというのが正直なところ。女子マラソンのスタートを1時間早くするということも、我々は全ての条件を受け入れて準備をしてきていたが、準備にはすごく年数がかかり簡単なものではないと思っている。我々のような民族的に長距離を走ることに対して、ケニア、エチオピアにどうやったら勝てるかを常に考えている立場のスタッフとしては、あらゆることを想定して準備をしてきたが、(様々な変更に対して)ちょっとした無念さはありますが、それも含めて選手はよく応えてくれた。男女とも皆さんの期待には応えられていないと思うが、入賞をしてくれたのというのは次のオリンピック、世界選手権に絶対つなげられると思うし、それをつなげていかないとMGCをはじめ作ったシステムと今回の頑張りが生きないと思うので、絶対それはやりきるようにつないでいきたい。
※コメントは、より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。また、質疑応答については、一部を抜粋して掲載しています。
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