7月30日(金)から8月8日(日)の10日間、国立競技場と札幌(マラソンと競歩)を舞台に「第32回オリンピック」の陸上競技が開催される(ている)。
日本からは、65人(男子43・女22)の代表選手が出場し世界のライバル達と競い合う。
無観客開催となったためテレビやネットでのライブ中継で観戦するしかなくなったが、その「お供」に日本人選手が出場する26種目に関して、「記録と数字で楽しむ東京オリンピック」をお届けする。
なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータも含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、五輪の間に隔年で行われる世界選手権もそのレベルは五輪とまったく変わらないので、記事の中では「世界大会」ということで同等に扱い、そのデータも紹介した。
記録は原則として7月28日判明分。
現役選手の敬称は略させていただいた。
日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてあまりふれていない。日本人の出場しない各種目や展望記事などは、陸上専門二誌の8月号別冊付録の「東京五輪観戦ガイド」やネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。
大会が始まったら、日本陸連のTwitterで、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
服部勇馬(トヨタ自動車)
大迫傑(Nike)
東京オリンピックの閉会式が行われる最終日の午前7時00分にレースはスタートする。
57年前の1964年東京五輪でもマラソンは最終日の10月21日(閉会式の日)に行われた(13時00分スタート)。
この時のトップのフィニッシュは、競技場での競技がすべて終わってから約20分後の15時12分過ぎ。
その風貌から「走る哲人」と呼ばれたアベベ・ビキラ(エチオピア)が2時間12分11秒2の世界最高記録で60年ローマ大会に続き五輪初の2連覇。
それから約3分後に円谷幸吉(自衛隊)と10m後ろにヒートリー(イギリス)の2人が国立競技場に姿を現した。超満員のスタンドの一人一人の「ワーァッ!」という声が6万人以上集合し、「ゴォーッ~~」あるいは「グゥウォーッ~」と文字では表しづらい大歓声でスタジアム全体が包まれた。
残り200mを切ったところでヒートリーが逆転し、円谷は銅メダル(2時間16分22秒8の自己新)。
10月14日から行われた陸上競技で日本の入賞は初日の10000mでの円谷の6位、19日の女子80mHでの依田郁子(リッカー)の5位のみだった。が、最後の最後に円谷が1936年以来の陸上競技でのメダルをもたらしたのだった。
そして57年後の今回、日本のトリオには地元開催の五輪の最後を64年10月21日のように「有終の美」で飾ってもらいたい。
最高成績 1位 2.29.19.2 孫 基禎(養成高普)1936年
最高記録 2.10.55. 宗 猛(旭化成)1984年 4位
<世界選手権>
最高成績 1位 2.14.57. 谷口浩美(旭化成)1991年
最高記録 2.09.26. 油谷 繁(中国電力)2003年 5位
「五輪」での入賞者は以下の通り。
1928年 4位 2.35.29. 山田 兼松(坂出青年)
〃 6位 2.36.20. 津田晴一郎(慶 大)
1932年 5位 2.35.42. 津田晴一郎(慶大OB)
〃 6位 2.37.28. 金 恩培(養正高普)
1936年 1位 2.29.19.2 孫 基禎(養正高普)
〃 3位 2.31.42.0 南 昇龍(明 大)
1956年 5位 2.29.19. 川島 義明(日 大)
1964年 3位 2.16.22.8 円谷 幸吉(自衛隊)
1968年 2位 2.23.31.0 君原 健二(八幡製鉄)
1972年 5位 2.16.27. 君原 健二(新日鉄)
1984年 4位 2.10.55. 宗 猛(旭化成)
1988年 4位 2.11.05. 中山 竹通(ダイエー)
1992年 2位 2.13.45. 森下 広一(旭化成)
〃 4位 2.14.02. 中山 竹通(ダイエー)
〃 8位 2.14.42. 谷口 浩美(旭化成)
2004年 5位 2.13.11. 油谷 繁(中国電力)
〃 6位 2.13.24. 諏訪 利成(日清食品)
2012年 6位 2.11.16. 中本健太郎(安川電機)
なお、8位までが入賞となったのは1984年からでそれまでは6位までが入賞だった。
1964年の東京では、君原健二さん(八幡製鉄)が8位(2.19.49.0)になっている。今ならば入賞で、続く68・72年と「3大会連続入賞」になるところだった。なお、男子マラソンで「3大会連続8位以内」は、君原さんの他には2人しかいない。S・フェリス(イギリス。1924年5位、28年8位、32年2位)と、日本のコニカミノルタで活躍したエリック・ワイナイナ(ケニア。1996年3位、2000年2位、04年7位)だ。
参考までに「世界選手権」での入賞者は下記の通り。
1991年 1位 2.14.57. 谷口 浩美(旭化成)
〃 5位 2.15.52. 篠原 太(神戸製鋼)
1993年 5位 2.17.54. 打越 忠夫(雪 印)
1999年 3位 2.14.07. 佐藤 信之(旭化成)
〃 6位 2.15.45. 藤田 敦史(富士通)
〃 7位 2.15.50. 清水 康次(NTT西日本)
2001年 5位 2.14.07. 油谷 繁(中国電力)
〃 8位 2.17.05. 森下 由輝(旭化成)
2003年 5位 2.09.26. 油谷 繁(中国電力)
2005年 3位 2.11.16. 尾方 剛(中国電力)
〃 4位 2.11.53. 高岡 寿成(カネボウ)
2007年 5位 2.17.42. 尾方 剛(中国電力)
〃 6位 2.18.06. 大崎 悟史(NTT西日本)
〃 7位 2.18.35. 諏訪 利成(日清食品)
2009年 6位 2.12.05. 佐藤 敦之(中国電力)
2011年 6位 2.11.52. 堀端 宏行(旭化成)=4位の選手がのちに失格で1つ繰り上がり
2013年 5位 2.10.50. 中本健太郎(安川電機)
1999年から2013年までは8大会連続入賞。しかし15年からの至近3大会は入賞に届いていない。
17大会のうち10大会で入賞を果たし、金1個と銅2個を獲得し、のべ17人が入賞している。
【五輪での国別得点トップ10(2016年大会まで)】
順)点 国名 1 2 3 4 5 6 7 8 = 8位以内数
1)129 USA 3 2 6 5 2 4 4 2 = 28 アメリカ
2)84 JPN 1 2 2 4 4 4 ・ 2 = 19 日 本
3)78 GBR ・ 4 1 4 3 2 2 2 = 18 イギリス
4)71 ETH 4 1 3 1 ・ 1 3 ・ = 13 エチオピア
5)63 FIN 2 ・ 3 2 4 ・ 1 1 = 13 フィンランド
6)57 KEN 2 3 2 ・ 1 ・ 2 ・ = 10 ケニア
7)47 FRA 3 2 ・ 1 ・ ・ 1 2 = 9 フランス
8)42 RSA 2 2 ・ 1 ・ 2 ・ 1 = 8 南アフリカ
9)40 GRE 1 1 ・ 1 3 1 2 1 = 10 ギリシャ
10)39 ITA 2 1 1 ・ 2 ・ ・ 2 = 8 イタリア
このところの男子マラソンは、ケニア、エチオピアが上位記録を席巻している。が、五輪は1896年の第1回大会から前回のリオで120年の歴史を刻んできただけに、1956年が初参加の両国の得点は、初期の頃から参加しているアメリカ、日本、イギリスには届いていない。
1983年に始まった世界選手権では、
1)91 KEN 5 3 1 1 3 ・ 2 3 = 18 ケニア
2)89 ETH 2 5 3 3 ・ ・ 2 1 = 16 エチオピア
3)66 JPN 1 ・ 2 1 6 4 2 1 = 17 日 本
4)58 ITA ・ 1 3 2 1 3 4 2 = 16 イタリア
5)51 ESP 3 2 ・ ・ 1 2 ・ 3 = 11 スペイン
6)27 MAR 2 ・ ・ ・ ・ 1 1 1 = 5 モロッコ
7)24 TAN ・ 1 1 ・ 2 1 ・ ・ = 5 タンザニア
8)21 UGA 1 ・ 1 ・ ・ 2 ・ 1 = 5 ウガンダ
9)22 GBR ・ ・ ・ 3 1 ・ 1 1 = 6 イギリス
10)20 AUS 1 ・ 1 1 ・ ・ ・ 1 = 4 オーストラリア
五輪とは違って、ケニア、エチオピア、モロッコ、タンザニア、ウガンダとトップ10のうち半数がアフリカ勢になる。五輪では「129点」で断然トップのアメリカは「14点」で13位。
五輪2位、世界選手権も3位に位置している日本は「マラソン日本」の面目躍如といったところだ。
世界選手権の順位で日本は、ケニア、エチオピアに次いで3位だが、2009年・ベルリン大会終了時点ではトップだった。
2019年までの上位5カ国の5大会ごとと2017・19年の得点は、
大会回数(西 暦 年)JPN KEN ETH ITA ESP
1~5回(1983~1995) 16 10 7 14 15
6~10回(1997~2005) 31 10 15 33 35
11~15回(2007~2015) 19 52 45 8 1
16・17回(2017・2019) 0 19 22 3 0
-------------------------------
合計得点 66 91 89 58 51
以上の通りで、2005年の第10回大会あたりまでは日本、スペイン、イタリアが「トップ3」だった。が、この10年あまりでケニアとエチオピアが一気に点数を伸ばしてきた。
2000年以降の5年毎と2016年からの1年毎の各年の世界100傑に占める国別人数は以下の通り。
年 100位 KEN ETH JPN UGA MAR その他
2000 2.11.23. 40 6 13 0 2 39(18国)
2005 2.11.24. 52 9 10 0 0 28(13国)
2010 2.09.31. 57 29 0 1 5 8(6国)
2015 2.09.14. 60 31 3 1 0 6(5国)
2016 2.09.28. 67 25 3 1 0 4(4国)
2017 2.09.11. 61 26 4 1 1 7(9国)
2018 2.08.46. 50 26 8 1 2 13(10国)
2019 2.07.58. 44 39 1 2 2 13(10国)
2020 2.08.46. 21 43 18 1 2 15(9国)
2021 2.09.54. 27 15 40 3 1 14(7国)
・2021年は、8月4日判明分の記録による。
今回のケニアとエチオピアの代表の自己ベストは、2時間1分台1人、3分台4人、4分台1人。日本でトップの大迫が2時間05分29秒だから記録ではかなわない。
ただ、タイムでは世界をリードするケニア勢だが、2013、15年の世界選手権では誰も入賞できなかった。
「フラットなコース」「涼しい気温」のいい条件の中でペースメーカーが30㎞付近までハイペースで先導する「高速レース」では好タイムを量産しているが、真夏でペースメーカーのいない「勝負優先」の五輪や世界選手権では、なかなか持ちタイム通りにはいかないことが多い。
至近3回の世界大会での東アフリカやそれらの国にルーツを持たない選手の入賞は、16年リオ五輪が2人(3・6位)、17年ロンドン世界選手権が2人(4・6位)、19年ドーハ世界選手権が2人(4・5位)だった。持ちタイムではかなわなくとも、夏場のペースメーカーのつかない五輪や世界選手権では、東アフリカ系以外の選手も8位以内に毎回2人は入っているのだ。
大迫傑が初マラソンで3位になった17年4月のボストンも、ペースメーカーがつかず気温も25℃を超える条件のもとでのレースだった。そんな中で2時間4~6分台のベストを持つケニア&エチオピア勢を相手に大迫が3位で、2時間10分を切ったことがないアメリカ人選手(1人のみ2時間8分台がベスト)が、トップ10以内に6人も食い込んだ。アフリカ勢を相手にしっかりと結果を出したのだ。
・気象状況は、原則として、手許にリザルト用紙が残っているものはそのデータ。
・リザルト用紙がないものは、世界陸連発行の資料(Statistics Handbook)に記載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。
日本の競技会では、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されていることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。
「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピング失格」などで繰り上がった場合の修正をきちんできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。
「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった者のうち、フィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。
【表:1983年以降の世界選手権と五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】
・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
年 スタート時→ 終了時 優勝記録(前 半+後 半) 3位記録 8位記録 完走率(完走者/出場者)
1983 15℃・35%→?℃・?% 2.10.03.(??.??.+??.??.) 2.10.37. 2.11.15. 75.3%(63/81)
1984五 27℃・?%→?℃・?% 2.09.21.(??.??.+??.??.) 2.09.58. 2.11.39. 72.2%(78/108)
1987 21℃・83%→22℃・74% 2.11.48.(65.37.+66.11.) 2.12.40. 2.14.41. 72.3%(47/65)
1988五 25℃・74%→?℃・?% 2.10.32.(64.49.+65.43.) 2.10.59. 2.13.07. 80.3%(98/122)
1991 26℃・73%→28℃・58% 2.14.57.(66.25.+68.32.) 2.15.36. 2.17.03. 60.0%(36/60)
1992五 25℃・72%→?℃・?% 2.13.23.(67.22.+66.01.) 2.14.00. 2.14.42. 79.1%(87/110)
1993 25℃・63%→25℃・63% 2.13.57.(66.30.+67.27.) 2.15.12. 2.18.52. 63.2%(43/68)
1995 26℃・43%→?℃・?% 2.11.41.(66.54.+64.47.) 2.12.49. 2.16.13. 68.8%(53/77)
1996五 23℃・92%→?℃・?% 2.12.36.(67.36.+65.00.) 2.12.36. 2.14.55. 89.5%(111/124)
1997 29℃・48%→?℃・?% 2.13.16.(67.08.+66.08.) 2.14.16. 2.17.44. 64.8%(70/108)
1999 29℃・43%→28℃・?% 2.13.36.(67.24.+66.12.) 2.14.07. 2.16.17. 81.3%(65/80)
2000五 21℃・18%→?℃・?% 2.10.11.(65.02.+65.09.) 2.11.10. 2.14.04. 81.0% (81/1000)
2001 19℃・58%→28℃・?% 2.12.42.(66.59.+65.43.) 2.13.18. 2.17.05. 76.0%(73/96)
2003 15℃・72%→?℃・?% 2.08.31.(64.45.+63.46.) 2.09.14. 2.10.35. 77.5%(69/89)
2004五 30℃・39%→?℃・?% 2.10.55.(67.23.+63.32.) 2.12.11. 2.14.17. 80.2%(81/101)
2005 17℃・88%→17℃・88% 2.10.10.(64.17.+65.53.) 2.11.16. 2.12.51. 64.2%(61/95)
2007 28℃・81%→33℃・67% 2.15.59.(68.29.+67.30.) 2.17.25. 2.19.21. 67.1%(57/85)
2008五 24℃・52%→30℃・39% 2.06.32.(62.34.+63.58.) 2.10.00. 2.11.11. 80.0%(76/95)
2009 18℃・73%→21℃・49% 2.06.54.(63.03.+63.51.) 2.08.35. 2.14.04. 76.9%(70/91)
2011 26℃・56%→29℃・47% 2.07.38.(65.07.+62.31.) 2.10.32. 2.11.57. 76.1%(51/67)
2012五 23℃・78%→25℃←途中 2.08.01.(63.15.+64.46.) 2.09.37. 2.12.17. 81.0%(85/105)
2013 23℃・38%→23℃・38% 2.09.51.(65.12.+64.39.) 2.10.23. 2.11.43. 72.9%(51/70)
2015 22℃・73%→?℃・?% 2.12.28.(66.52.+65.36.) 2.13.30. 2.14.54. 65.6%(42/64)
2016五 24℃・?%→?℃・?% 2.08.44.(65.55.+62.49.) 2.10.05. 2.11.49. 89.7%(139/155)
2017 18℃・60%→?℃・?% 2.08.27.(65.28.+62.59.) 2.09.51. 2.12.16. 72.4%(71/98)
2019 29℃・51%→29℃・51% 2.10.40.(65.57.+64.43.) 2.10.51. 2.11.49. 75.3%(55/73)
26大会中完走率80.0%以上は8大会(30.8%)。スタート時か終了時で25℃以上は15大会で完走率80.0%以上は5大会(33.3%)。
なお、前後半のタイムが判明している24大会のうち前半の方が後半よりも速かったのは9大会(37.5%)で、残る15大会(62.5%)は、後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」だった。95年以降は19大会中14回(73.7%)が後半にペースアップしている。
前後半の差が最も大きかったのは、2011年大邱世界選手権で前半よりも後半が2分36秒速かった。この時の20㎞以降の5㎞ごとのスプリットは、14分43秒-14分18秒-14分40秒-15分15秒-7分00秒(5㎞換算15分57秒)だった。
日本人トリオを上回るタイムの選手が世界リストで何十人いようとも、五輪にはケニア・エチオピアからも3人ずつしか出場してこない。他のアフリカ勢などに競り勝てれば、2012年のロンドン以来2大会ぶりの入賞も見えてこよう。
実際に7月19日と28日には、「猛暑日」となる「35.0℃」と「35.1℃」を、8月3日にも「34.4℃」を記録した。
レースがスタートするのは8月8日の午前7時00分だが、7月19日と28日、8月3日の7時00分からの1時間ごとの気温と湿度は以下の通りだった。
時刻 7月19日 7月28日 8月3日
7時00分 26.2℃・63% 25.7℃・71% 26.2℃・75%
8時00分 27.9℃・56% 28.0℃・63% 27.3℃・71%
9時00分 29.9℃・53% 29.5℃・57% 29.5℃・66%
上記のように、レース終盤には30℃近くまで上昇している。
1991年から2020年の過去30年間の8月8日の札幌市の7時00分(スタート時)、8時00分(20km付近)、9時00分(40km付近)の気温・WBGT(湿球黒球温度=暑さ指数)・湿度は下記の通りだ。
このデータは、ウェザーニューズの浅田佳津雄さんらが日本陸連発行の「陸上競技研究紀要・第16巻(2020年)」に発表したものである。
== 午前7時(スタート時)
-- 気温 WBGT 湿度
平均 21.7℃ 21.2℃ 78%
最高 26.9℃ 25.1℃ 98%
最低 16.9℃ 15.7℃ 62%
== 午前8時(20km付近)
-- 気温 WBGT 湿度
平均 22.7℃ 22.2℃ 75%
最高 29.0℃ 25.7℃ 95%
最低 18.7℃ 19.1℃ 62%
== 午前9時(40km付近)
-- 気温 WBGT 湿度
平均 23.7℃ 22.7℃ 71%
最高 32.6℃ 26.4℃ 92%
最低 19.3℃ 17.5℃ 46%
なお、「WBGT=湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature」は「暑さ指数」と言われる。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で表示されるが、その値は気温とは異なり、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つを取り入れた指標である。
日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によると、高温化での運動に関する指針は、
気温(参考) WBGT 熱中症予防運動指針
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35℃以上 31℃以上 運動は原則中止
31~35℃ 28~31℃ 厳重警戒(激しい運動は中止)
28~31℃ 25~28℃ 警戒(積極的に休憩)
24~28℃ 21~25℃ 注意(積極的に水分補給)
24℃未満 21℃未満 ほぼ安全(適宜水分補給)
とされている。
過去30年間のデータからして、8月8日のレース中の気温やWBGTが上述の運動指針の「注意」「警戒」「厳重警戒」という条件になるかもしれず、過酷な条件になることも予想される。
8月6日15時現在の天気予報によると、8月8日の7・8・9時の「天気・気温・湿度・風向&風速」は、以下の通り。
時刻 天気 気温 湿度 風向 風速
7時00分 曇り 26.3℃ 84% 南東 5m/s
8時00分 曇り 27.5℃ 78% 南東 4m/s
9時00分 曇り 28.3℃ 74% 南東 4m/s
「曇り」とはいえ、気温はどの時刻も過去30年間の平均値(21.7℃・22.7℃・23.7℃)よりも5℃あまり高い。
19年9月15日の「MGC」の時は、
スタート時 晴れ 26.9℃ 63%
フィニッシュ時 晴れ 28.8℃ 61%
で、8月8日の予報とよく似た気温だ。
となると、日本人選手は2年前に「予習済み」だったことになる。
1960年代から70年代にかけての少々古いデータだが、故・高橋進氏の研究によって、「気温がマラソンの記録に及ぼす影響」のデータが示されている(「マラソン(講談社。1981年)」)。
「表」がそれだ。
東京五輪の選手選考の際に日本陸連が示した「代表内定条件」は、「19年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で、1・2位が内定」。「3人目」は20年3月までの指定レースで「2時間05分49秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだった。そんなことで、下記の「推定される記録」は、筆者(野口)が、「2時間05分49秒」を基準に、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。
【表/気温と記録の阻害される率】
暑さに 推定される記録
気温 強い選手 弱い選手 2.05.49.基準
14℃ 0.0% 0.2% 2.05.49.~2.06.04.
15℃ 0.0% 0.5% 2.05.49.~2.06.26.
16℃ 0.0% 1.0% 2.05.49.~2.07.05.
17℃ 0.0% 2.0% 2.05.49.~2.08.20.
18℃ 0.0% 3.0% 2.05.49.~2.09.36.
19℃ 0.3% 3.5% 2.06.12.~2.10.14.
20℃ 0.5% 4.0% 2.06.27.~2.10.51.
21℃ 1.0% 4.5% 2.07.05.~2.11.29.
22℃ 1.0% 5.0% 2.07.05.~2.12.07.
23℃ 1.5% 6.0% 2.07.43.~2.13.22.
24℃ 2.0% 6.5% 2.08.20.~2.14.00.
25℃ 2.5% 7.0% 2.08.58.~2.14.38.
26℃ 3.0% 7.5% 2.09.36.~2.15.16.
27℃ 3.5% 8.0% 2.10.14.~2.15.53.
28℃ 4.0% 9.0% 2.10.51.~2.17.09.
29℃ 5.0% 10.0% 2.12.07.~2.18.24.
30℃ 6.0% 11.0% 2.13.22.~2.19.40.
31℃ 7.0% 12.0% 2.14.38.~2.20.55.
32℃ 8.0% 13.0% 2.15.53.~2.22.11.
33℃ 9.0% 14.0% 2.17.09.~2.23.26.
34℃ 10.0% 15.0% 2.18.24.~2.24.42.
35℃ 11.0% 16.0% 2.19.40.~2.25.57.
以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。
2019年9月15日の8時50分にスタート、11時02分前にトップがフィニッシュしたMGCのレース時の気象状況は、
スタート時 晴れ 26.9℃ 63%
フィニッシュ時 晴れ 28.8℃ 61%
だった。
スタート時(26.9℃)とフィニッシュ時(28.8℃)の気温の平均値(27.85℃)を「28℃」として上記のデータにあてはめると、その低下率は「平均6.5%(4.0~9.0%の範囲)」である。
「MGC」の時の3人の自己ベスト(「MGC」前までのもの)との差と低下率は以下の通り。
-- 自己ベスト MGC 差 低下率
中村 2.08.16. 2.11.28. 3.12. 2.49%
服部 2.07.27. 2.11.36. 4.09. 3.27%
大迫 2.05.50. 2.11.41. 5.51. 4.65%
以上のように3人とも高橋氏が示した平均の低下率6.5%よりも低い数値だ。
これをそのまま解釈すると、「暑さに強い」ということになる。
8月8日の気象状況にもよるが、ペースメーカーがいなくて「勝負優先」のレースでもあるため、前半はスローペースの展開が予想される。いずれにしても、当日が20℃以下とかでない限り、耐暑能力に優れた「暑さに強い選手」が有利になることは間違いない。
男子は6大会での完走者のうち身長・体重が判明していた(つまり、BMIの値が判明していた)234人を分析し、その相関係数は、0.260027。女子5大会の対象者は152人で相関係数は、0.24258。統計学的には、男女とも「1%水準での有意差あり」だった。なお、BMIの平均値は男子が「20.3」、女子が「18.7」。ただし、完走者と途中棄権者のBMIには有意な差は認められなかった。
完走者の自己ベストを100%とした時の世界大会本番での「達成率」の平均値は、男子が「93.2%」で女子が「94.5%」だった。これを、例えば2時間05分00秒の自己ベストを持つ男子選手にあてはめると平均的な達成率93.2%は2時間14分08秒、2時間25分00秒がベストの女子選手の達成率94.5%は2時間33分27秒の計算になる。なお、自己ベストに対する達成率には、持ちタイムのいい選手と悪い選手の間には5%水準未満での有意差は認められなかったが「有意な傾向」は、男女ともにあった。
上述の世界大会完走者のBMIの平均値は、「男子20.3」と「女子18.7」だった。
今回の男子日本代表3人のそれはいずれも上記の平均値「20.3」以下の数値。
BMIの値が小さいということは、体重1kgあたりの体表面積が大きいということで、暑さの中で、より「空冷作用」が効くということになるものと考えられる。
暑さに強い・弱いは個人差が大きいであろうから、BMIの値が小さい選手は「暑さに強い」とは単純には言えないが、上述のデータからして有利である可能性は高いかもしれない。
当日の気象状況によってどんなレースになるかはわからないが、平均気温28℃のMGCでの記録の低下率やBMIの値からしても、25℃以上が予想される札幌の舞台は、日本人に有利になりそうである。
東京オリンピックの陸上競技の最後を締めくくるレースで、57年前の円谷幸吉さんのように、掲揚柱に「日の丸」を上げてもらいたい。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
日本からは、65人(男子43・女22)の代表選手が出場し世界のライバル達と競い合う。
無観客開催となったためテレビやネットでのライブ中継で観戦するしかなくなったが、その「お供」に日本人選手が出場する26種目に関して、「記録と数字で楽しむ東京オリンピック」をお届けする。
なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータも含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、五輪の間に隔年で行われる世界選手権もそのレベルは五輪とまったく変わらないので、記事の中では「世界大会」ということで同等に扱い、そのデータも紹介した。
記録は原則として7月28日判明分。
現役選手の敬称は略させていただいた。
日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてあまりふれていない。日本人の出場しない各種目や展望記事などは、陸上専門二誌の8月号別冊付録の「東京五輪観戦ガイド」やネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。
大会が始まったら、日本陸連のTwitterで、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
・決勝 8月8日 7:00
中村匠吾(富士通)服部勇馬(トヨタ自動車)
大迫傑(Nike)
東京五輪の最後を飾るレースで有終の美を!
2019年9月の「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」で1・2・3位だった中村匠吾(富士通)、服部勇馬(トヨタ自動車)、大迫傑(Nike)が出場する。中村と服部は「MGC」の1・2位によって代表内定。大迫は20年3月の東京マラソンで3人目の選考基準をクリアしての代表入りだった。なお、大迫は、今回の五輪をもっての現役引退を表明していて、札幌での42.195kmが集大成のラストランとなる。東京オリンピックの閉会式が行われる最終日の午前7時00分にレースはスタートする。
57年前の1964年東京五輪でもマラソンは最終日の10月21日(閉会式の日)に行われた(13時00分スタート)。
この時のトップのフィニッシュは、競技場での競技がすべて終わってから約20分後の15時12分過ぎ。
その風貌から「走る哲人」と呼ばれたアベベ・ビキラ(エチオピア)が2時間12分11秒2の世界最高記録で60年ローマ大会に続き五輪初の2連覇。
それから約3分後に円谷幸吉(自衛隊)と10m後ろにヒートリー(イギリス)の2人が国立競技場に姿を現した。超満員のスタンドの一人一人の「ワーァッ!」という声が6万人以上集合し、「ゴォーッ~~」あるいは「グゥウォーッ~」と文字では表しづらい大歓声でスタジアム全体が包まれた。
残り200mを切ったところでヒートリーが逆転し、円谷は銅メダル(2時間16分22秒8の自己新)。
10月14日から行われた陸上競技で日本の入賞は初日の10000mでの円谷の6位、19日の女子80mHでの依田郁子(リッカー)の5位のみだった。が、最後の最後に円谷が1936年以来の陸上競技でのメダルをもたらしたのだった。
そして57年後の今回、日本のトリオには地元開催の五輪の最後を64年10月21日のように「有終の美」で飾ってもらいたい。
◆五輪&世界選手権での日本人最高成績と最高記録◆
<五輪>最高成績 1位 2.29.19.2 孫 基禎(養成高普)1936年
最高記録 2.10.55. 宗 猛(旭化成)1984年 4位
<世界選手権>
最高成績 1位 2.14.57. 谷口浩美(旭化成)1991年
最高記録 2.09.26. 油谷 繁(中国電力)2003年 5位
「五輪」での入賞者は以下の通り。
1928年 4位 2.35.29. 山田 兼松(坂出青年)
〃 6位 2.36.20. 津田晴一郎(慶 大)
1932年 5位 2.35.42. 津田晴一郎(慶大OB)
〃 6位 2.37.28. 金 恩培(養正高普)
1936年 1位 2.29.19.2 孫 基禎(養正高普)
〃 3位 2.31.42.0 南 昇龍(明 大)
1956年 5位 2.29.19. 川島 義明(日 大)
1964年 3位 2.16.22.8 円谷 幸吉(自衛隊)
1968年 2位 2.23.31.0 君原 健二(八幡製鉄)
1972年 5位 2.16.27. 君原 健二(新日鉄)
1984年 4位 2.10.55. 宗 猛(旭化成)
1988年 4位 2.11.05. 中山 竹通(ダイエー)
1992年 2位 2.13.45. 森下 広一(旭化成)
〃 4位 2.14.02. 中山 竹通(ダイエー)
〃 8位 2.14.42. 谷口 浩美(旭化成)
2004年 5位 2.13.11. 油谷 繁(中国電力)
〃 6位 2.13.24. 諏訪 利成(日清食品)
2012年 6位 2.11.16. 中本健太郎(安川電機)
なお、8位までが入賞となったのは1984年からでそれまでは6位までが入賞だった。
1964年の東京では、君原健二さん(八幡製鉄)が8位(2.19.49.0)になっている。今ならば入賞で、続く68・72年と「3大会連続入賞」になるところだった。なお、男子マラソンで「3大会連続8位以内」は、君原さんの他には2人しかいない。S・フェリス(イギリス。1924年5位、28年8位、32年2位)と、日本のコニカミノルタで活躍したエリック・ワイナイナ(ケニア。1996年3位、2000年2位、04年7位)だ。
参考までに「世界選手権」での入賞者は下記の通り。
1991年 1位 2.14.57. 谷口 浩美(旭化成)
〃 5位 2.15.52. 篠原 太(神戸製鋼)
1993年 5位 2.17.54. 打越 忠夫(雪 印)
1999年 3位 2.14.07. 佐藤 信之(旭化成)
〃 6位 2.15.45. 藤田 敦史(富士通)
〃 7位 2.15.50. 清水 康次(NTT西日本)
2001年 5位 2.14.07. 油谷 繁(中国電力)
〃 8位 2.17.05. 森下 由輝(旭化成)
2003年 5位 2.09.26. 油谷 繁(中国電力)
2005年 3位 2.11.16. 尾方 剛(中国電力)
〃 4位 2.11.53. 高岡 寿成(カネボウ)
2007年 5位 2.17.42. 尾方 剛(中国電力)
〃 6位 2.18.06. 大崎 悟史(NTT西日本)
〃 7位 2.18.35. 諏訪 利成(日清食品)
2009年 6位 2.12.05. 佐藤 敦之(中国電力)
2011年 6位 2.11.52. 堀端 宏行(旭化成)=4位の選手がのちに失格で1つ繰り上がり
2013年 5位 2.10.50. 中本健太郎(安川電機)
1999年から2013年までは8大会連続入賞。しかし15年からの至近3大会は入賞に届いていない。
17大会のうち10大会で入賞を果たし、金1個と銅2個を獲得し、のべ17人が入賞している。
◆五輪&世界選手権の国別得点トップ10◆
各大会の1位に8点、2位7点~8位1点の点数を与えて2016年大会までの国別得点を集計すると次のようになる。【五輪での国別得点トップ10(2016年大会まで)】
順)点 国名 1 2 3 4 5 6 7 8 = 8位以内数
1)129 USA 3 2 6 5 2 4 4 2 = 28 アメリカ
2)84 JPN 1 2 2 4 4 4 ・ 2 = 19 日 本
3)78 GBR ・ 4 1 4 3 2 2 2 = 18 イギリス
4)71 ETH 4 1 3 1 ・ 1 3 ・ = 13 エチオピア
5)63 FIN 2 ・ 3 2 4 ・ 1 1 = 13 フィンランド
6)57 KEN 2 3 2 ・ 1 ・ 2 ・ = 10 ケニア
7)47 FRA 3 2 ・ 1 ・ ・ 1 2 = 9 フランス
8)42 RSA 2 2 ・ 1 ・ 2 ・ 1 = 8 南アフリカ
9)40 GRE 1 1 ・ 1 3 1 2 1 = 10 ギリシャ
10)39 ITA 2 1 1 ・ 2 ・ ・ 2 = 8 イタリア
このところの男子マラソンは、ケニア、エチオピアが上位記録を席巻している。が、五輪は1896年の第1回大会から前回のリオで120年の歴史を刻んできただけに、1956年が初参加の両国の得点は、初期の頃から参加しているアメリカ、日本、イギリスには届いていない。
1983年に始まった世界選手権では、
【世界選手権での国別得点トップ10(2019年大会まで)】
順)点 国名 1 2 3 4 5 6 7 8 = 入賞数1)91 KEN 5 3 1 1 3 ・ 2 3 = 18 ケニア
2)89 ETH 2 5 3 3 ・ ・ 2 1 = 16 エチオピア
3)66 JPN 1 ・ 2 1 6 4 2 1 = 17 日 本
4)58 ITA ・ 1 3 2 1 3 4 2 = 16 イタリア
5)51 ESP 3 2 ・ ・ 1 2 ・ 3 = 11 スペイン
6)27 MAR 2 ・ ・ ・ ・ 1 1 1 = 5 モロッコ
7)24 TAN ・ 1 1 ・ 2 1 ・ ・ = 5 タンザニア
8)21 UGA 1 ・ 1 ・ ・ 2 ・ 1 = 5 ウガンダ
9)22 GBR ・ ・ ・ 3 1 ・ 1 1 = 6 イギリス
10)20 AUS 1 ・ 1 1 ・ ・ ・ 1 = 4 オーストラリア
五輪とは違って、ケニア、エチオピア、モロッコ、タンザニア、ウガンダとトップ10のうち半数がアフリカ勢になる。五輪では「129点」で断然トップのアメリカは「14点」で13位。
五輪2位、世界選手権も3位に位置している日本は「マラソン日本」の面目躍如といったところだ。
世界選手権の順位で日本は、ケニア、エチオピアに次いで3位だが、2009年・ベルリン大会終了時点ではトップだった。
2019年までの上位5カ国の5大会ごとと2017・19年の得点は、
大会回数(西 暦 年)JPN KEN ETH ITA ESP
1~5回(1983~1995) 16 10 7 14 15
6~10回(1997~2005) 31 10 15 33 35
11~15回(2007~2015) 19 52 45 8 1
16・17回(2017・2019) 0 19 22 3 0
-------------------------------
合計得点 66 91 89 58 51
以上の通りで、2005年の第10回大会あたりまでは日本、スペイン、イタリアが「トップ3」だった。が、この10年あまりでケニアとエチオピアが一気に点数を伸ばしてきた。
◆各年の世界100傑内の国別人数◆
コロナの影響で主要なレースの中止が多かった2020年と秋以降のレースが残っている21年を除き、この10年あまりは、ケニアとエチオピアの2国で100傑中の8~9割前後を占めている。2000年の段階では両国のシェアは5割に満たなかったが、2010年には9割近くに達した。ウガンダやモロッコなどを含め東アフリカ勢が席巻している。その中で日本は唯一頑張っている。2000年以降の5年毎と2016年からの1年毎の各年の世界100傑に占める国別人数は以下の通り。
年 100位 KEN ETH JPN UGA MAR その他
2000 2.11.23. 40 6 13 0 2 39(18国)
2005 2.11.24. 52 9 10 0 0 28(13国)
2010 2.09.31. 57 29 0 1 5 8(6国)
2015 2.09.14. 60 31 3 1 0 6(5国)
2016 2.09.28. 67 25 3 1 0 4(4国)
2017 2.09.11. 61 26 4 1 1 7(9国)
2018 2.08.46. 50 26 8 1 2 13(10国)
2019 2.07.58. 44 39 1 2 2 13(10国)
2020 2.08.46. 21 43 18 1 2 15(9国)
2021 2.09.54. 27 15 40 3 1 14(7国)
・2021年は、8月4日判明分の記録による。
今回のケニアとエチオピアの代表の自己ベストは、2時間1分台1人、3分台4人、4分台1人。日本でトップの大迫が2時間05分29秒だから記録ではかなわない。
ただ、タイムでは世界をリードするケニア勢だが、2013、15年の世界選手権では誰も入賞できなかった。
「フラットなコース」「涼しい気温」のいい条件の中でペースメーカーが30㎞付近までハイペースで先導する「高速レース」では好タイムを量産しているが、真夏でペースメーカーのいない「勝負優先」の五輪や世界選手権では、なかなか持ちタイム通りにはいかないことが多い。
至近3回の世界大会での東アフリカやそれらの国にルーツを持たない選手の入賞は、16年リオ五輪が2人(3・6位)、17年ロンドン世界選手権が2人(4・6位)、19年ドーハ世界選手権が2人(4・5位)だった。持ちタイムではかなわなくとも、夏場のペースメーカーのつかない五輪や世界選手権では、東アフリカ系以外の選手も8位以内に毎回2人は入っているのだ。
大迫傑が初マラソンで3位になった17年4月のボストンも、ペースメーカーがつかず気温も25℃を超える条件のもとでのレースだった。そんな中で2時間4~6分台のベストを持つケニア&エチオピア勢を相手に大迫が3位で、2時間10分を切ったことがないアメリカ人選手(1人のみ2時間8分台がベスト)が、トップ10以内に6人も食い込んだ。アフリカ勢を相手にしっかりと結果を出したのだ。
◆五輪&世界選手権の気象状況と記録◆
以下の「表」に1983年以降の「世界選手権」と「五輪」での「気温・湿度」と「優勝・3位・8位の記録」「完走率」を示した。・気象状況は、原則として、手許にリザルト用紙が残っているものはそのデータ。
・リザルト用紙がないものは、世界陸連発行の資料(Statistics Handbook)に記載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。
日本の競技会では、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されていることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。
「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピング失格」などで繰り上がった場合の修正をきちんできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。
「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった者のうち、フィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。
【表:1983年以降の世界選手権と五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】
・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
年 スタート時→ 終了時 優勝記録(前 半+後 半) 3位記録 8位記録 完走率(完走者/出場者)
1983 15℃・35%→?℃・?% 2.10.03.(??.??.+??.??.) 2.10.37. 2.11.15. 75.3%(63/81)
1984五 27℃・?%→?℃・?% 2.09.21.(??.??.+??.??.) 2.09.58. 2.11.39. 72.2%(78/108)
1987 21℃・83%→22℃・74% 2.11.48.(65.37.+66.11.) 2.12.40. 2.14.41. 72.3%(47/65)
1988五 25℃・74%→?℃・?% 2.10.32.(64.49.+65.43.) 2.10.59. 2.13.07. 80.3%(98/122)
1991 26℃・73%→28℃・58% 2.14.57.(66.25.+68.32.) 2.15.36. 2.17.03. 60.0%(36/60)
1992五 25℃・72%→?℃・?% 2.13.23.(67.22.+66.01.) 2.14.00. 2.14.42. 79.1%(87/110)
1993 25℃・63%→25℃・63% 2.13.57.(66.30.+67.27.) 2.15.12. 2.18.52. 63.2%(43/68)
1995 26℃・43%→?℃・?% 2.11.41.(66.54.+64.47.) 2.12.49. 2.16.13. 68.8%(53/77)
1996五 23℃・92%→?℃・?% 2.12.36.(67.36.+65.00.) 2.12.36. 2.14.55. 89.5%(111/124)
1997 29℃・48%→?℃・?% 2.13.16.(67.08.+66.08.) 2.14.16. 2.17.44. 64.8%(70/108)
1999 29℃・43%→28℃・?% 2.13.36.(67.24.+66.12.) 2.14.07. 2.16.17. 81.3%(65/80)
2000五 21℃・18%→?℃・?% 2.10.11.(65.02.+65.09.) 2.11.10. 2.14.04. 81.0% (81/1000)
2001 19℃・58%→28℃・?% 2.12.42.(66.59.+65.43.) 2.13.18. 2.17.05. 76.0%(73/96)
2003 15℃・72%→?℃・?% 2.08.31.(64.45.+63.46.) 2.09.14. 2.10.35. 77.5%(69/89)
2004五 30℃・39%→?℃・?% 2.10.55.(67.23.+63.32.) 2.12.11. 2.14.17. 80.2%(81/101)
2005 17℃・88%→17℃・88% 2.10.10.(64.17.+65.53.) 2.11.16. 2.12.51. 64.2%(61/95)
2007 28℃・81%→33℃・67% 2.15.59.(68.29.+67.30.) 2.17.25. 2.19.21. 67.1%(57/85)
2008五 24℃・52%→30℃・39% 2.06.32.(62.34.+63.58.) 2.10.00. 2.11.11. 80.0%(76/95)
2009 18℃・73%→21℃・49% 2.06.54.(63.03.+63.51.) 2.08.35. 2.14.04. 76.9%(70/91)
2011 26℃・56%→29℃・47% 2.07.38.(65.07.+62.31.) 2.10.32. 2.11.57. 76.1%(51/67)
2012五 23℃・78%→25℃←途中 2.08.01.(63.15.+64.46.) 2.09.37. 2.12.17. 81.0%(85/105)
2013 23℃・38%→23℃・38% 2.09.51.(65.12.+64.39.) 2.10.23. 2.11.43. 72.9%(51/70)
2015 22℃・73%→?℃・?% 2.12.28.(66.52.+65.36.) 2.13.30. 2.14.54. 65.6%(42/64)
2016五 24℃・?%→?℃・?% 2.08.44.(65.55.+62.49.) 2.10.05. 2.11.49. 89.7%(139/155)
2017 18℃・60%→?℃・?% 2.08.27.(65.28.+62.59.) 2.09.51. 2.12.16. 72.4%(71/98)
2019 29℃・51%→29℃・51% 2.10.40.(65.57.+64.43.) 2.10.51. 2.11.49. 75.3%(55/73)
26大会中完走率80.0%以上は8大会(30.8%)。スタート時か終了時で25℃以上は15大会で完走率80.0%以上は5大会(33.3%)。
なお、前後半のタイムが判明している24大会のうち前半の方が後半よりも速かったのは9大会(37.5%)で、残る15大会(62.5%)は、後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」だった。95年以降は19大会中14回(73.7%)が後半にペースアップしている。
前後半の差が最も大きかったのは、2011年大邱世界選手権で前半よりも後半が2分36秒速かった。この時の20㎞以降の5㎞ごとのスプリットは、14分43秒-14分18秒-14分40秒-15分15秒-7分00秒(5㎞換算15分57秒)だった。
日本人トリオを上回るタイムの選手が世界リストで何十人いようとも、五輪にはケニア・エチオピアからも3人ずつしか出場してこない。他のアフリカ勢などに競り勝てれば、2012年のロンドン以来2大会ぶりの入賞も見えてこよう。
◆8月8日の札幌市の過去30年間の気象状況◆
今回の札幌でも19年ドーハ世界選手権のように高温多湿の過酷な条件下でのレースになる可能性がある。実際に7月19日と28日には、「猛暑日」となる「35.0℃」と「35.1℃」を、8月3日にも「34.4℃」を記録した。
レースがスタートするのは8月8日の午前7時00分だが、7月19日と28日、8月3日の7時00分からの1時間ごとの気温と湿度は以下の通りだった。
時刻 7月19日 7月28日 8月3日
7時00分 26.2℃・63% 25.7℃・71% 26.2℃・75%
8時00分 27.9℃・56% 28.0℃・63% 27.3℃・71%
9時00分 29.9℃・53% 29.5℃・57% 29.5℃・66%
上記のように、レース終盤には30℃近くまで上昇している。
1991年から2020年の過去30年間の8月8日の札幌市の7時00分(スタート時)、8時00分(20km付近)、9時00分(40km付近)の気温・WBGT(湿球黒球温度=暑さ指数)・湿度は下記の通りだ。
このデータは、ウェザーニューズの浅田佳津雄さんらが日本陸連発行の「陸上競技研究紀要・第16巻(2020年)」に発表したものである。
== 午前7時(スタート時)
-- 気温 WBGT 湿度
平均 21.7℃ 21.2℃ 78%
最高 26.9℃ 25.1℃ 98%
最低 16.9℃ 15.7℃ 62%
== 午前8時(20km付近)
-- 気温 WBGT 湿度
平均 22.7℃ 22.2℃ 75%
最高 29.0℃ 25.7℃ 95%
最低 18.7℃ 19.1℃ 62%
== 午前9時(40km付近)
-- 気温 WBGT 湿度
平均 23.7℃ 22.7℃ 71%
最高 32.6℃ 26.4℃ 92%
最低 19.3℃ 17.5℃ 46%
なお、「WBGT=湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature」は「暑さ指数」と言われる。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で表示されるが、その値は気温とは異なり、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つを取り入れた指標である。
日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によると、高温化での運動に関する指針は、
気温(参考) WBGT 熱中症予防運動指針
--------------------------
35℃以上 31℃以上 運動は原則中止
31~35℃ 28~31℃ 厳重警戒(激しい運動は中止)
28~31℃ 25~28℃ 警戒(積極的に休憩)
24~28℃ 21~25℃ 注意(積極的に水分補給)
24℃未満 21℃未満 ほぼ安全(適宜水分補給)
とされている。
過去30年間のデータからして、8月8日のレース中の気温やWBGTが上述の運動指針の「注意」「警戒」「厳重警戒」という条件になるかもしれず、過酷な条件になることも予想される。
8月6日15時現在の天気予報によると、8月8日の7・8・9時の「天気・気温・湿度・風向&風速」は、以下の通り。
時刻 天気 気温 湿度 風向 風速
7時00分 曇り 26.3℃ 84% 南東 5m/s
8時00分 曇り 27.5℃ 78% 南東 4m/s
9時00分 曇り 28.3℃ 74% 南東 4m/s
「曇り」とはいえ、気温はどの時刻も過去30年間の平均値(21.7℃・22.7℃・23.7℃)よりも5℃あまり高い。
19年9月15日の「MGC」の時は、
スタート時 晴れ 26.9℃ 63%
フィニッシュ時 晴れ 28.8℃ 61%
で、8月8日の予報とよく似た気温だ。
となると、日本人選手は2年前に「予習済み」だったことになる。
◆気温による記録の低下率◆
五輪は「記録ではなく勝負」のレース。といっても持ち記録がいい選手ほどどんなペースになろうとも「余裕」があることは確かだろう。1960年代から70年代にかけての少々古いデータだが、故・高橋進氏の研究によって、「気温がマラソンの記録に及ぼす影響」のデータが示されている(「マラソン(講談社。1981年)」)。
「表」がそれだ。
東京五輪の選手選考の際に日本陸連が示した「代表内定条件」は、「19年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で、1・2位が内定」。「3人目」は20年3月までの指定レースで「2時間05分49秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだった。そんなことで、下記の「推定される記録」は、筆者(野口)が、「2時間05分49秒」を基準に、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。
【表/気温と記録の阻害される率】
暑さに 推定される記録
気温 強い選手 弱い選手 2.05.49.基準
14℃ 0.0% 0.2% 2.05.49.~2.06.04.
15℃ 0.0% 0.5% 2.05.49.~2.06.26.
16℃ 0.0% 1.0% 2.05.49.~2.07.05.
17℃ 0.0% 2.0% 2.05.49.~2.08.20.
18℃ 0.0% 3.0% 2.05.49.~2.09.36.
19℃ 0.3% 3.5% 2.06.12.~2.10.14.
20℃ 0.5% 4.0% 2.06.27.~2.10.51.
21℃ 1.0% 4.5% 2.07.05.~2.11.29.
22℃ 1.0% 5.0% 2.07.05.~2.12.07.
23℃ 1.5% 6.0% 2.07.43.~2.13.22.
24℃ 2.0% 6.5% 2.08.20.~2.14.00.
25℃ 2.5% 7.0% 2.08.58.~2.14.38.
26℃ 3.0% 7.5% 2.09.36.~2.15.16.
27℃ 3.5% 8.0% 2.10.14.~2.15.53.
28℃ 4.0% 9.0% 2.10.51.~2.17.09.
29℃ 5.0% 10.0% 2.12.07.~2.18.24.
30℃ 6.0% 11.0% 2.13.22.~2.19.40.
31℃ 7.0% 12.0% 2.14.38.~2.20.55.
32℃ 8.0% 13.0% 2.15.53.~2.22.11.
33℃ 9.0% 14.0% 2.17.09.~2.23.26.
34℃ 10.0% 15.0% 2.18.24.~2.24.42.
35℃ 11.0% 16.0% 2.19.40.~2.25.57.
以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。
2019年9月15日の8時50分にスタート、11時02分前にトップがフィニッシュしたMGCのレース時の気象状況は、
スタート時 晴れ 26.9℃ 63%
フィニッシュ時 晴れ 28.8℃ 61%
だった。
スタート時(26.9℃)とフィニッシュ時(28.8℃)の気温の平均値(27.85℃)を「28℃」として上記のデータにあてはめると、その低下率は「平均6.5%(4.0~9.0%の範囲)」である。
「MGC」の時の3人の自己ベスト(「MGC」前までのもの)との差と低下率は以下の通り。
-- 自己ベスト MGC 差 低下率
中村 2.08.16. 2.11.28. 3.12. 2.49%
服部 2.07.27. 2.11.36. 4.09. 3.27%
大迫 2.05.50. 2.11.41. 5.51. 4.65%
以上のように3人とも高橋氏が示した平均の低下率6.5%よりも低い数値だ。
これをそのまま解釈すると、「暑さに強い」ということになる。
8月8日の気象状況にもよるが、ペースメーカーがいなくて「勝負優先」のレースでもあるため、前半はスローペースの展開が予想される。いずれにしても、当日が20℃以下とかでない限り、耐暑能力に優れた「暑さに強い選手」が有利になることは間違いない。
◆高温下でのマラソンと体格(BMI)の関係◆
最新のデータではなく恐縮だが、筆者は、気温が25℃を超えた1990年代の世界選手権&五輪の男子6大会、女子5大会での各選手の成績とBMI(体重kg÷身長mの二乗)の関係を調査したことがある。その結果は、男女ともに「BMIの値が小さい選手ほど好成績を残している」というものだった。男子は6大会での完走者のうち身長・体重が判明していた(つまり、BMIの値が判明していた)234人を分析し、その相関係数は、0.260027。女子5大会の対象者は152人で相関係数は、0.24258。統計学的には、男女とも「1%水準での有意差あり」だった。なお、BMIの平均値は男子が「20.3」、女子が「18.7」。ただし、完走者と途中棄権者のBMIには有意な差は認められなかった。
完走者の自己ベストを100%とした時の世界大会本番での「達成率」の平均値は、男子が「93.2%」で女子が「94.5%」だった。これを、例えば2時間05分00秒の自己ベストを持つ男子選手にあてはめると平均的な達成率93.2%は2時間14分08秒、2時間25分00秒がベストの女子選手の達成率94.5%は2時間33分27秒の計算になる。なお、自己ベストに対する達成率には、持ちタイムのいい選手と悪い選手の間には5%水準未満での有意差は認められなかったが「有意な傾向」は、男女ともにあった。
上述の世界大会完走者のBMIの平均値は、「男子20.3」と「女子18.7」だった。
今回の男子日本代表3人のそれはいずれも上記の平均値「20.3」以下の数値。
BMIの値が小さいということは、体重1kgあたりの体表面積が大きいということで、暑さの中で、より「空冷作用」が効くということになるものと考えられる。
暑さに強い・弱いは個人差が大きいであろうから、BMIの値が小さい選手は「暑さに強い」とは単純には言えないが、上述のデータからして有利である可能性は高いかもしれない。
当日の気象状況によってどんなレースになるかはわからないが、平均気温28℃のMGCでの記録の低下率やBMIの値からしても、25℃以上が予想される札幌の舞台は、日本人に有利になりそうである。
東京オリンピックの陸上競技の最後を締めくくるレースで、57年前の円谷幸吉さんのように、掲揚柱に「日の丸」を上げてもらいたい。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
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