2021.08.06(金)選手

【記録と数字で楽しむ東京オリンピック】女子マラソン

7月30日(金)から8月8日(日)の10日間、国立競技場と札幌(マラソンと競歩)を舞台に「第32回オリンピック」の陸上競技が開催される(ている)。

日本からは、65人(男子43・女22)の代表選手が出場し世界のライバル達と競い合う。

無観客開催となったためテレビやネットでのライブ中継で観戦するしかなくなったが、その「お供」に日本人選手が出場する26種目に関して、「記録と数字で楽しむ東京オリンピック」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータも含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、五輪の間に隔年で行われる世界選手権もそのレベルは五輪とまったく変わらないので、記事の中では「世界大会」ということで同等に扱い、そのデータも紹介した。

記録は原則として7月28日判明分。
現役選手の敬称は略させていただいた。

日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてあまりふれていない。日本人の出場しない各種目や展望記事などは、陸上専門二誌の8月号別冊付録の「東京五輪観戦ガイド」やネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。

大会が始まったら、日本陸連のTwitterで、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。





・決勝 8月7日 7:00 6:00


前田穂南(天満屋)
鈴木亜由子(日本郵政グループ)
一山麻緒(ワコール)


17年ぶりの「メダル」に前田・鈴木・一山が挑む


19年9月の「MGC」で1・2位だった前田穂南(天満屋)と鈴木亜由子(日本郵政グループ)、20年3月の名古屋で2時間20分29秒で走った一山麻緒(ワコール)が3人目の代表となった。

参加標準記録(2.29.30.)適用期間内(19年1月1日~20年4月5日、20年12月1日~21年6月29日)の記録では、一山(2.20.29.=20年)が9位、前田(2.23.30.=21年)が15位相当、鈴木(2.29.02.=19年)が78位相当だ。


◆五輪&世界選手権での入賞者と日本人最高記録◆

<五輪>

1992年 2位 2.32.49. 有森 裕子(リクルート)

〃  4位 2.36.26. 山下佐知子(京セラ)

1996年 3位 2.28.39. 有森 裕子(リクルート)

2000年 1位 2.23.14. 高橋 尚子(積水化学)

〃  7位 2.27.03. 山口 衛里(天満屋)

2004年 1位 2.26.20. 野口みずき(グローバリー)

〃  5位 2.28.44. 土佐 礼子(三井住友海上)

〃  7位 2.31.43. 坂本 直子(天満屋)



最高記録は、

2.23.14. 高橋 尚子(積水化学)2000年 1位 =五輪新

1992年バルセロナから4大会連続のメダル獲得で2000年シドニー・04年アテネを連覇。アテネでは3人全員入賞も達成した。が。08年北京、12年ロンドン、16年リオは入賞に届かず各大会での最高順位は、13位、16位、14位にとどまっている。地元開催の今回、17年ぶりのメダルや複数優勝を成し遂げてもらいたい。


<世界選手権>

1991年 2位 2.29.57. 山下佐知子(京セラ)

〃  4位 2.31.08. 有森 裕子(リクルート)

1993年 1位 2.30.03. 浅利 純子(ダイハツ)

〃  3位 2.31.01. 安部 友恵(旭化成)

1997年 1位 2.29.48. 鈴木 博美(リクルート)

〃  4位 2.32.18. 飛瀬 貴子(京セラ)

1999年 2位 2.27.02. 市橋 有里(住友VISA)

〃  8位 2.29.11. 小幡佳代子(営団地下鉄)

2001年 2位 2.26.06. 土佐 礼子(三井海上)

〃  4位 2.26.33. 渋井 陽子(三井海上)

2003年 2位 2.24.14. 野口みずき(グローバリー)

〃  3位 2.25.09. 千葉 真子(豊田自動織機)

〃  4位 2.25.25. 坂本 直子(天満屋)

2005年 6位 2.24.20. 原 裕美子(京セラ)

〃  8位 2.25.46. 弘山 晴美(資生堂)

2007年 3位 2.30.55. 土佐 礼子(三井住友海上)

〃  6位 2.31.40. 嶋原 清子(セカンドウィンドAC)

2009年 2位 2.25.25. 尾崎 好美(第一生命)

〃  7位 2.26.57. 加納 由理(セカンドウィンドAC)

2011年 5位 2.29.35. 赤羽有紀子(ホクレン)

2013年 3位 2.27.45. 福士加代子(ワコール)

〃  4位 2.31.28. 木崎 良子(ダイハツ)

2015年 7位 2.29.48. 伊藤  舞(大塚製薬)

2019年 7位 2.39.09. 谷本 観月(天満屋)

最高記録は、

2.24.14. 野口みずき(グローバリー)2003年 2位

1983年、87年、95年、2017年は入賞を逃したが、残りの13大会は少なくともひとりは入賞し、金2、銀5、銅4の計11個のメダルを含め、のべ24人が入賞している。97年からは10大会連続入賞を継続したが、残念ながら2017年で連続入賞記録がストップした(17年は清田真央の16位が最高順位)。

世界選手権では上述の通り1997年から10大会連続入賞を継続したが、男子と同じく五輪ではこのところは「苦戦」で、2004年を最後に3大会連続で入賞から遠ざかっている。「2021年東京こそ」である。


◆国別得点トップ10◆
男子と同じく、「五輪」と「世界選手権」の各大会での1位に8点、2位7点~8位1点の点数を与えて国別の得点を集計すると次のようになる。


【五輪での国別得点トップ10(2016年大会まで)】

順)点 国名  1 2 3 4 5 6 7 8 = 入賞数

1)49 KEN 1 3 1 2 1 ・ ・ ・ = 8 ケニア

2)42 JPN 2 1 1 1 1 ・ 2 ・ = 8 日 本

3)35 ETH 2 ・ 1 2 ・ 1 ・ ・ = 6 エチオピア

4)21 POR 1 ・ 1 ・ ・ 1 2 ・ = 5 ポルトガル

5)21 RUS ・ 1 1 ・ 1 ・ 1 2 = 6 ロシア

6)19 ROU 1 1 ・ ・ ・ 1 ・ 1 = 4 ルーマニア

7)19 USA 1 ・ 1 ・ ・ 1 1 ・ = 4 アメリカ

8)19 CHN ・ ・ 1 1 2 ・ ・ ・ = 4 中 国

9)16 GER ・ ・ 1 1 1 ・ ・ 1 = 4 ドイツ

10)14 URS/EUN 1 ・ ・ 1 ・ ・ ・ 1 = 3 ソ連/EUN


日本が最後に入賞した04年アテネ大会終了時点では、

2004年アテネ大会時点--->2016年時点

1)42 日 本   ---> 2)42

2)18 ポルトガル ---> 5)21

3)18 ケニア   ---> 1)49

4)16 エチオピア ---> 3)35

5)16 ドイツ   ---> 9)16

6)14 アメリカ  ---> 7)19

7)14 ソ連/EUN---> 10)14

8)12 ノルウェー ---> 11)12

9)12 ロシア   ---> 5)21

10)10 ルーマニア ---> 6)19

が「トップ10」だったが、08年からの3大会でケニアが31点、エチオピアが19点を加算して順位を上げてきた。


1983年に始まった世界選手権では、

【世界選手権での国別得点トップ10(2019年大会まで)】

順)点 国名  1 2 3 4 5 6 7 8 = 入賞数

1)118 JPN 2 5 4 5 1 2 3 2 = 24 日 本

2)105 KEN 5 4 1 3 1 1 4 1 = 20 ケニア

3)47 ETH 1 ・ 1 3 2 2 1 2 = 12 エチオピア

4)42 POR 2 2 ・ 1 ・ 1 2 ・ = 8 ポルトガル

5)37 ROU 1 1 3 ・ 1 ・ 1 ・ = 7 ルーマニア

6)37 CHN 1 1 ・ 2 2 1 ・ 1 = 8 中 国

7)23 ITA ・ 1 1 ・ 1 2 ・ ・ = 5 イタリア

8)22 GER ・ ・ 1 ・ 1 3 1 1 = 7 ドイツ

9)21 URS ・ 1 1 ・ 1 1 ・ 1 = 5 ソ 連

10)21 USA ・ 1 1 ・ ・ 1 2 1 = 6 アメリカ


初期の頃はソ連、ノルウェー、ポルトガルなどが得点を重ね、1995年からはルーマニアも台頭。1991年の東京大会からは日本が一気に勢いを増して、97年以降はトップの座を守っている。しかし、2001年に初入賞したケニアがこのところ日本を猛追し始めた。

世界選手権の2019年終了時点の上位6カ国の5大会ごとと2017・19年の得点は、以下の通り。



大会回数(西 暦 年)JPN KEN ETH POR ROU CHN

1~5回(1983~1995) 26   0   0   30   7   0

6~10回(1997~2005) 59   22   19   9   26   4

11~15回(2007~2015) 31   56   23   3   4   33

16回  (2017・2019) 2   27   4   0   0   0

----------------------------------

合計得点        116   105   47   42   37   37


男子ではその年の世界100傑のうち9割以上をケニア、エチオピアを中心とする東アフリカ勢が占めることが多いが、女子も「記録」では東アフリカ勢が優勢だ。

2000年以降5年毎と16年からのその年の世界100傑に占める国別人数は以下の通りだ。


年 100位   ETH  KEN  JPN  USA  BRN  その他

2000 2.32.30. 6  15  23  2  0  55(20国)

2005 2.31.51. 11  15  19  3  0  52(23国)

2010 2.29.53. 37  14  12  3  0  33(16国)

2015 2.28.20. 39  25  10  1  1  24(20国)

2016 2.28.49. 40  29  10  4  4  14(9国)

2017 2.28.12. 36  37  10  6  4  7(5国)

2018 2.26.58. 49  23  7  5  6  10(8国)

2019 2.25.38. 46  31  7  4  3  9(8国)

2020 2.28.23. 47  15  9  6  2  21(17国)

2021 2.29.37. 20  17  18  0  1  45(25国)

・2021年は、8月4日判明分の記録


2000年代までは日本がトップだったが、10年代以降はエチオピアとケニアが勢力をどんどん増してきた。この2国以外では、男子同様に女子も日本勢が頑張っている。


◆五輪&世界選手権の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率◆

夏場に行われる五輪と世界選手権の1983年以降の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率を下記の表にまとめた。

・気象状況は、原則として、手許にリザルト用紙が残っているものはそのデータ。
・リザルト用紙がないものは、国際陸連発行の資料(Statistics Handbook)に記載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。

日本の競技会では、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されていることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。

「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピング失格」などで繰り上がった場合の修正はきちんできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。

「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった者のうち、フィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。


【表/1983年以降の五輪&世界選手権の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】

・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
・1995年(「*」印)は、スタート直後の周回ミスのため400m距離不足(41.795㎞)の記録。


 年  スタート時→ 終了時  優勝記録(前 半+後 半) 3位記録 8位記録 完走率(完走者/出場者)

1983  ?℃・?%→?℃・?% 2.28.09.(??.??.+??.??.) 2.31.13. 2.34.14. 86.4%(51/59)

1984五 24℃・?%→27℃・?% 2.24.52.(??.??.+??.??.) 2.26.57. 2.29.09. 88.0%(44/50)

1987  27℃・63%→23℃・74% 2.25.17.(71.54.+73.23.) 2.32.53. 2.35.16. 80.5%(33/41)

1988五 16℃・50%→?℃・?% 2.25.40.(72.20.+73.20.) 2.26.21. 2.30.14. 91.4%(64/68)

1991  24℃・60%→27℃・49% 2.29.53.(74.49.+75.04.) 2.30.10. 2.33.00. 61.5%(24/39)

1992五 30℃・70%→?℃・?% 2.32.41.(??.??.+??.??.) 2.33.59. 2.38.46. 78.7%(37/47)

1993  23℃・68%→25℃・53% 2.30.03.(74.39.+75.24.) 2.31.01. 2.36.33. 71.9%(23/32)

1995  24℃・39%→?℃・?% *2.25.39.(*72.42+72.57.) *2.30.11. *2.32.17. 74.4%(32/43)

1996五 21℃・61%→?℃・?% 2.26.05.(72.31.+73.34.) 2.28.39. 2.31.16. 74.7%(65/87)

1997  30℃・48%→?℃・?% 2.29.48.(75.42.+74.06.) 2.31.55. 2.36.16. 72.0%(54/75)

1999  24℃・63%→32℃・?% 2.26.59.(74.30.+72.29.) 2.27.41. 2.29.11. 82.4%(42/51)

2000五 23℃・85%→?℃・?% 2.23.14.(71.45.+71.29.) 2.24.45. 2.27.07. 84.9%(45/53)

2001  25℃・44%→?℃・?% 2.26.01.(72.17.+73.44.) 2.26.18. 2.28.54. 89.7%(52/58)

2003  18℃・42%→?℃・?% 2.23.55.(72.46.+71.09.) 2.25.09. 2.26.49. 91.2%(62/68)

2004五 35℃・38%→?℃・?% 2.26.20.(74.02.+72.18.) 2.27.20. 2.31.56. 80.5%(66/82)

2005  16℃・94%→18℃・83% 2.20.57.(69.49.+71.08.) 2.23.19. 2.25.46. 89.5%(51/57)

2007  27℃・74%→32℃・55% 2.30.37.(76.35.+74.02.) 2.30.55. 2.32.22. 86.4%(57/66)

2008五 23℃・73%→24℃・69% 2.26.44.(75.11.+71.33.) 2.26.44. 2.27.51. 85.2%(69/81)

2009  19℃・64%→23℃・41% 2.25.15.(73.40.+71.35.) 2.25.32. 2.27.39. 87.5%(60/71)

2011  26℃・72%→28℃・62% 2.28.43.(76.46.+71.57.) 2.29.14. 2.30.25. 86.8%(46/53)

2012五 14℃・?%→17℃・?% 2.23.07.(73.13.+69.54.) 2.23.29. 2.25.27. 89.0%(105/118)

2013  27℃・66%→28℃・48% 2.25.44.(72.58.+72.46.) 2.27.45. 2.35.49. 65.7%(46/70)

2015  21℃・88%→?℃・?% 2.27.35.(75.17.+72.18.) 2.27.39. 2.30.54. 80.0%(52/65)

2016五 19℃・?%→?℃・?% 2.24.04.(72.56.+71.08.) 2.24.30. 2.27.36. 85.3%(133/156)

2017  19℃・56%→?℃・?% 2.27.11.(74.53.+72.18.) 2.27.18. 2.28.49. 85.7%(78/91)

2019  32℃・74%→32℃・74% 2.32.43.(76.40.+76.03.) 2.34.15. 2.41.24. 57.1%(40/70)


以上、26大会中完走率80.0%以上は18大会(69.2%)。スタート時か終了時で25℃以上は12大会で完走率80.0%以上は7大会(58.3%)。男子と比べると、完走率が高いようだ。

完走率が2013年と19年の完走率は65.7%と57.1%と非常に低かった。この2大会を除けば、金メダルと銅メダルの差は4~31秒。トップと入賞ラインは2分~3分あまりの差だ。

上のデータの通り、五輪・世界選手権で前後半の記録が判明している23大会で、前半よりも後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」は、16大会。69.6%でほぼ3分の2の割合だ。2007年からの至近10大会はすべてが前半よりも後半の方が速い。前後半差が最も大きかったのは、2011年の4分49秒差。この時は、最初の5㎞が18分39秒と世界選手権史上最遅だったが、35㎞から40㎞は16分10秒で走った。

今回の札幌では沿道にミスト・シャワーも準備されるが、厳しい環境での戦いになることは間違いなく、スローペースの展開になる可能性が非常に高いだろう。

◆8月7日の札幌市の過去30年間の気象状況◆
今回の札幌でもドーハように高温多湿の過酷な条件下でのレースとなる可能性がある。
実際に7月19日と28日には、「猛暑日」となる「35.0℃」と「35.1℃」を、8月3日にも「34.4℃」を記録した。
レースがスタートするのは8月7日の午前7時00分だが、7月19日と28日、8月3日の7時00分からの1時間ごとの気温と湿度は以下の通りだった。

 時刻   7月19日    7月28日    8月3日

7時00分 26.2℃・63%  25.7℃・71%  26.2℃・75%

8時00分 27.9℃・56%  28.0℃・63%  27.3℃・71%

9時00分 29.9℃・53%  29.5℃・57%  29.5℃・66%

上記のように、レース終盤には30℃近くまで上昇する。


1991年から2020年の過去30年間の8月7日の札幌市の7時00分(スタート時)、8時00分(17~18km付近)、9時00分(35km付近)の気温・WBGT(湿球黒球温度=暑さ指数)・湿度は下記の通りだ。
このデータは、ウェザーニューズの浅田佳津雄さんらが日本陸連発行の「陸上競技研究紀要・第16巻(2020年)」に発表したものである。


== 午前7時(スタート時)

-- 気温  WBGT  湿度

平均 22.0℃ 21.5℃ 79%

最高 27.7℃ 27.1℃ 96%

最低 16.7℃ 14.9℃ 62%


== 午前8時(17~18km付近)

-- 気温  WBGT  湿度

平均 23.1℃ 23.2℃ 75%

最高 29.7℃ 28.5℃ 94%

最低 17.9℃ 17.2℃ 57%


== 午前9時(35km付近)

-- 気温  WBGT  湿度

平均 24.2℃ 23.5℃ 70%

最高 31.7℃ 28.2℃ 86%

最低 18.5℃ 18.2℃ 56%


なお、「WBGT=湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature」は「暑さ指数」と言われる。単位は気温と同じ摂氏度(℃)で表示されるが、その値は気温とは異なり、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つを取り入れた指標である。

日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によると、高温化での運動に関する指針は、



気温(参考) WBGT  熱中症予防運動指針

--------------------------

35℃以上  31℃以上  運動は原則中止

31~35℃  28~31℃  厳重警戒(激しい運動は中止)

28~31℃  25~28℃  警戒(積極的に休憩)

24~28℃  21~25℃  注意(積極的に水分補給)

24℃未満  21℃未満  ほぼ安全(適宜水分補給)


とされている。

過去30年間のデータからして、8月7日のレース中の気温やWBGTが上述の運動指針の「注意」「警戒」「厳重警戒」という条件になるかもしれず、過酷な条件になることも予想される。

8月5日15時現在の天気予報によると、8月7日の天気予報の7・8・9時の「天気・気温・湿度・風向&風速」は、以下の通り。


 時刻  天気 気温  湿度 風向 風速

7時00分 晴れ 26.7℃ 77% 南東 3m/s

8時00分 晴れ 28.3℃ 74% 南東 4m/s

9時00分 晴れ 29.5℃ 71% 南東 4m/s


ということで、後述の19年9月15日の「MGC」の時と非常に似た気象状況だ。
となると、日本人選手は2年前に「予習済み」となるが、当日この予報通りになるか?

◆気温による記録の低下率◆

五輪は「記録ではなく勝負」のレース。といっても持ち記録がいい選手ほどどんなペースになろうとも「余裕」があることは確かだろう。

1960年代から70年代にかけての少々古いデータだが、故・高橋進氏の研究によって、「気温がマラソンの記録に及ぼす影響」のデータが示されている(「マラソン(講談社。1981年)」)。

「表」がそれだ。

東京五輪の選手選考の際に日本陸連が示した「代表内定条件」は、「19年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で、1・2位が内定」。「3人目」は20年3月までの指定レースで「2時間22分22秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだった。そんなことで、下記の「推定される記録」は、筆者(野口)が、「2時間22分22秒」を基準に、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。


【表/気温と記録の阻害される率】

      暑さに         推定される記録

気温 強い選手 弱い選手   2.22.22.基準

14℃ 0.0%   0.2%   2.22.22.~2.22.40.

15℃ 0.0%   0.5%   2.22.22.~2.23.05.

16℃ 0.0%   1.0%   2.22.22.~2.23.48.

17℃ 0.0%   2.0%   2.22.22.~2.25.13.

18℃ 0.0%   3.0%   2.22.22.~2.26.39.

19℃ 0.3%   3.5%   2.22.48.~2.27.22.

20℃ 0.5%   4.0%   2.23.05.~2.28.04.

21℃ 1.0%   4.5%   2.23.48.~2.28.47.

22℃ 1.0%   5.0%   2.23.48.~2.29.30.

23℃ 1.5%   6.0%   2.24.31.~2.30.55.

24℃ 2.0%   6.5%   2.25.13.~2.31.38.

25℃ 2.5%   7.0%   2.25.56.~2.32.21.

26℃ 3.0%   7.5%   2.26.39.~2.33.03.

27℃ 3.5%   8.0%   2.27.22.~2.33.46.

28℃ 4.0%   9.0%   2.28.04.~2.35.11.

29℃ 5.0%  10.0%   2.29.30.~2.36.37.

30℃ 6.0%  11.0%   2.29.30.~2.38.02.

31℃ 7.0%  12.0%   2.32.21.~2.39.28.

32℃ 8.0%  13.0%   2.33.46.~2.40.53.

33℃ 9.0%  14.0%   2.35.11.~2.42.19.

34℃ 10.0%  15.0%   2.36.37.~2.43.44.

35℃ 11.0%  16.0%   2.38.02.~2.45.09.


以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。

2019年9月15日の9時10分にスタート、11時35分過ぎにトップがフィニッシュしたMGCのレース時の気象状況は、


スタート時   晴れ 26.9℃ 63%

フィニッシュ時 晴れ 29.2℃ 60%

だった。

スタート時(26.9℃)とフィニッシュ時(29.2℃)の気温の平均値(28.05℃)を「28℃」として上記のデータにあてはめると、その低下率は「平均6.5%(4.0~9.0%の範囲)」である。


「MGC」の時の3人の自己ベスト(「MGC」前までのもの)との差と低下率は以下の通り。

-- 自己ベスト MGC   差    低下率

前田 2.23.48.  2.25.15.  1.27.  1.01%

鈴木 2.28.32.  2.29.02.  0.30.  0.34%

一山 2.24.33.  2.32.30.  7.57.  5.50%


以上のように3人とも高橋氏が示した平均の低下率6.5%よりも低い数値だ。
これをそのまま解釈すると、「暑さに強い」ということになる。


前田の場合は、20km手前から独走し29℃に達したレース終盤も崩れることなく2位の鈴木に3分47秒もの差をつけたのだから「暑さに強い」ことは間違いない。

鈴木のベストは初マラソンの18年8月の北海道マラソンでのもので、フィニッシュ時は「27.8℃・60%」というレースで「MGC」の時とそれほど変わらない条件だった。よって、「低下率0.34%」はそれほど参考にはならない。しかし、高温下の2つのレースで30秒以内のタイムでまとめられたということは、やはり「暑さへの対応能力がある」ということでもある。

また、一山は「MGC」では10km過ぎから徐々に離されて6位という結果で本来の実力を出せたレースではなかった。それでも「低下率5.50%」と高橋氏が提示する「6.5%」の平均値よりも低い数値でまとめている。やはり「暑さへの対応能力がある」ということだろう。

8月8日の気象状況にもよるが、ペースメーカーがいなくて「勝負優先」のレースでもあるため、前半はスローペースの展開が予想される。いずれにしても、当日が20℃以下とかでない限り、耐暑能力に優れた「暑さに強い選手」が有利になることは間違いない。上述の通り、日本人トリオは暑さにも強そなのが心強い。そもそも、そういう選手を選ぶために暑い中で「MGC」を開いたのだから、選ばれるべき人が選ばれたということになるのだけれども。


◆高温下でのマラソンと体格(BMI)の関係◆
最新のデータではなく恐縮だが、筆者は、気温が25℃を超えた1990年代の世界選手権&五輪の男子6大会、女子5大会での各選手の成績とBMI(体重kg÷身長mの二乗)の関係を調査したことがある。その結果は、男女ともに「BMIの値が小さい選手ほど好成績を残している」というものだった。

男子は6大会での完走者のうち身長・体重が判明していた(つまり、BMIの値が判明していた)234人を分析し、その相関係数は、0.260027。女子5大会の対象者は152人で相関係数は、0.24258。統計学的には、男女とも「1%水準での有意差あり」だった。なお、BMIの平均値は男子が「20.3」、女子が「18.7」。ただし、完走者と途中棄権者のBMIには有意な差は認められなかった。

完走者の自己ベストを100%とした時の世界大会本番での「達成率」の平均値は、男子が「93.2%」で女子が「94.5%」だった。これを、例えば2時間05分00秒の自己ベストを持つ男子選手にあてはめると平均的な達成率93.2%は2時間14分08秒、2時間25分00秒がベストの女子選手の達成率94.5%は2時間33分27秒の計算になる。なお、自己ベストに対する達成率には、持ちタイムのいい選手と悪い選手の間には5%水準未満での有意差は認められなかったが「有意な傾向」は、男女ともにあった。

上述の世界大会完走者のBMIの平均値は、「男子20.3」と「女子18.7」だった。

今回の女子の日本代表3人のそれはいずれも上記の平均値「18.7」以下の数値。

BMIの値が小さいということは、体重1kgあたりの体表面積が大きいということで、暑さの中で、より「空冷作用」が効くということになるものと考えられる。

暑さに強い・弱いは個人差が大きいであろうから、BMIの値が小さい選手は「暑さに強い」とは単純には言えないが、上述のデータからして有利である可能性は高いだろう。

当日の気象状況によってどんなレースになるかはわからないが、平均気温28℃の「MGC」での記録の低下率やBMIの値からしても、25℃以上が予想される札幌の舞台は、日本人トリオに有利に働くことになりそうである。

日本で開催された2回の世界選手権(91年東京・07年大阪)では、日本人選手がいずれも「メダル」を獲得している。それに続き今回も……、である。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト

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