2021.07.14(水)大会

東京2020オリンピック男子短距離日本代表公開練習 レポート&コメント(強化コーチ)



日本陸連は7月9日、山梨県富士吉田市で合宿に入った東京オリンピック男子短距離日本代表選手のトレーニングを、メディアに向けて公開。同日午後には、合宿に参加している全選手が合同オンライン取材を含めた報道各社のインタビューに応じました。これに際して、100m・200m・4×100mRの強化を担当する土江寛裕男子オリンピック強化コーチと、400m・4×400mRの強化を担当する山村貴彦オリンピック強化コーチも、それぞれに取材に応じ、特に両リレーに関しての日本チームの状況や、本番に向けた展望等を話しました。両氏へのインタビューの概要は、以下の通りです。





◎土江寛裕

(日本陸連強化委員会オリンピック強化コーチ:100m・200m、4×100mR担当)


―――昨日集合して、今日からいよいよ合宿がスタート。今の状況は?

土江:まずは日本選手権を終えて、本当に素晴らしいメンバー、選ばれるべきメンバーが揃ったなと思っている。(大会まで)残り少ないので、この合宿で、リレーに関しての確認と、しっかりとした準備ができるようにしていきたい。

―――リレーの走順について、決まっていないということだが、現段階でのベストの走順を挙げるとしら?
土江:現在でのベストは、内緒(笑)。本当に、我々がいい意味で悩むほど、素晴らしい選手たちが揃っているので、短い時間ではあるが、このベストのメンバーで、ベストのオーダーが組めるように、この合宿でしっかり仕上げていきたいと考えている。

―――リオ(五輪)のときに比べて、手応えはどうか?
土江:まず、リオのときには、9秒台の選手は1人もいない状態だった。翌年(2017年)に桐生(祥秀)が9秒台(9秒98)で走って、その後、ほかの選手が続いていき(2019年:サニブラウン・アブデル・ハキーム9秒97、小池祐貴9秒98、2021年:山縣亮太9秒95)さらに、もうあとひと息で9秒台が出せそうな選手がいる(多田修平10秒01、2021年)という状況になっている。そういった意味では、この5年で個人のレベルがワンランクもツーランクも上がっているということができる。また、そのうえで、バトンに関しても、世界大会や日本であったグランプリやダイヤモンドリーグなど、いろいろなところでリレーを組んで、さまざまなバリエーションをこなしてきた。それによって、「どの選手が、どの走順しか行けない」ではなく、いろいろなバリエーションが組めるという意味で、東京オリンピックに向けた強化を始めたときに掲げた狙い通り、非常にベストのオーダーが組みやすい状況になってきている。

―――現在の日本の4×100mRの強みを。
土江:リレーといってもバトンパスだけでなく、個人が高いパフォーマンスでバトンをつないでいくことが必要。今、述べたように、個人のレベルがここまで高くなっているということは、まず明らかな強みの一つといえる。あと、もう一つ、バトンをつなぐうえで重要になってくるのは信頼関係。ベストのバトンパスをしようとすると、自分が走りだすときに、(バトンを)持ってくる走者が追いついてきてくれることを信じて、全力でダッシュしなければならないわけで、「こいつなら絶対に(バトンを自分に)渡してくれる」という互いの信頼関係が絶対に必要となる。今回のメンバーたちは、これまでに組んできたたくさんのリレー経験のなかで、互いが互いのことを本当によく知っていて、信頼し合える関係を築き上げてきた。そういった意味では、日本の一番の強みとも言えるし、その信頼関係というのも、この5年の間に積み上げてこられたのかなと考えている。

―――今、候補に挙がっている選手個々について、土江コーチの考える特徴を。
土江:多田くんは、スタートが持ち味。もともとカーブを得意としていなかったが、2017年ロンドン世界選手権、2019年ドーハ世界選手権)などで1走を務めるなかで、カーブの苦手さを完全に克服している。
山縣くんは、リオ(五輪)の1走のイメージが強いこともあり、1走が得意であることは皆さんもご存じだが、もう一つの彼の特徴として、トップスピードが出てから、そのスピードをキープできる点を挙げることができる。それは、2走とか4走とかに、とても大きなプラスとなる能力でもある。
小池くんは、1・2・3・4(走)のすべてができる。なかなかここまで器用な選手はいないと思う。どこを走っても、ほかのトップの選手と変わらないパフォーマンスができることが彼の強さでもある。
桐生は、やはり3走となる。経験が多いこともあるが、ほとんど失敗しない、という点を特長として挙げることができる。3走というのは、カーブを走ることやバトンの受け渡しだけでなく、正確なスタートすることが非常に難しい区間で、そこでミスをしないというのは、ものすごく大きな強みといえる。ただ、2走・4走もうまく走れる選手なので、どこでも起用することはできる。
サニブラウンくんは、今回は合宿に参加していないが、それは日本選手権後に彼が指導を受けているレーダーコーチとミーティングをして出した結論による。もし、私が、彼をみているコーチであったとしたら、彼が万全ではない状態であるなか、オリピックという大切な大会の1カ月前の期間を、手元に置いてトレーニングさせられないということはとても受け入れられないと考え、「ぜひ、オリンピックまでに、サニブラウンくんをベストの状態になるようトレーニングしてほしい」という話をして、レーダーコーチの元でトレーニングに取り組んでもらっている。オリンピック本番で200mをしっかり走ることができれば、もちろんリレーでの起用も可能性として出てくる。
また、飯塚(翔太)くんも日本選手権は膝の状態があまりよくなくて、ベストのパフォーマンスが出せていないが、経験値と高いスピード持続能力には光るものがあるので、十分にリレーのメンバーに入ってくる。
リレーメンバーとして選出したデーデー(ブルーノ)くんは、直線で、彼のダイナミックな走りが生きてくるタイプ。ナショナルチームでのリレーの経験はないが、彼の所属する東海大学は、日本のリレーをここまでつくりあげた高野進先生が率いるチーム。彼は、日常的にナショナルチームとほぼ同じテクニックのバトンパスのトレーニングをしてきている。この合宿で状況を確認することになるが、バトンパスについては大きな心配はいらないと考えている。また、カーブの走りに秀でる山下(潤)くんもいれば、補欠登録ではあるが高校生ながら世界リレーでも力を発揮した栁田(大輝)くんもいて、メンバーの駒の数としては十分すぎるくらいの状況。そのメンバーのなかでベストの状態の選手が、ベストのオーダーで並ぶというのが一番いい形かなと考えている。

―――オリンピックのリレーで金メダルを取るために、必要なことは何だと思うか?
土江:オリンピックのトラック種目では、日本はまだ金メダルを獲得したことがないわけで、これだけ長い歴史のなかで取れなかった金メダルが取れる状況にあるというのは、本当にすごいことだなと率直に思う。ただ、そう簡単に取れるものでは当然ない。やはりアメリカチームというのは、先日の全米選手権(オリンピックトライアル)を見ても、個人のレベルからすると、頭2つ3つ抜けている状況にあるといえる。アメリカチームが本当にきれいにバトンをつないできたら、なかなか勝てる相手ではないのかなと思っている。
ただ、バトンパスの難しさを含めて、何が起こるかわからないのがリレーという種目。そう言うと、他チームの失敗を期待しているように受け取られてしまうかもしれないけれど、そこも含めてリレーという種目なので、我々は、我々のベストメンバーが、自分の最高のパフォーマンスをして、正確なバトンパスを行い、フィニッシュラインまでバトンを届けるということをして、それが金メダルに値するかを待つ、それだけかなと思っている。

―――ここからオリンピックまで、どういった点に力を注いでいくか?
土江:もう時間的にはすごく少ない状況。今回は、個人種目でファイナルに残れるレベルの選手が多数いるので、まずは個人で、そこを目指して、しっかりやっていってもらうことになる。リレーの練習というのは、全力疾走でやらないと練習の意味がないので、非常に質の高い状態が必要となるわけだが、そうなってくると、この合宿中にリレーのバトン練習に割ける時間や労力は、そんなに多くとることができないというのが実際のところといえる。そこで、どう最小限にして最大の効果が出せるようにするのか。我々は、そのやり方を、ここ何年もかけて積み上げてきた。この合宿で、そういった効率のいいトレーニングをできるかどうかとが、一番大きな鍵になってくると思う。

―――最後に、改めて、東京オリンピックに向かう選手たちに思いを。
土江:選ばれるべく選ばれた選手たちなので、しっかり頑張ってほしいと思う。また、昨日のミーディングで、選手たちにも話したのだが、もちろん金メダルを目指して臨むということは、この東京オリンピックが決まってからずっと取り組んできたことだが、それと同時に、こうして1年延期となったなかでも開催していただけるオリンピックに、我々ができることもあるのではないかと感じている。オリンピックの舞台で金メダルを目指して、一所懸命頑張ることによって、日本の皆さんに少しでも元気になってもらえたら、と思うし、我々には、そういった役割も求められているのではないかと話した。ぜひ、そういう頑張りを見せてほしい。





◎山村貴彦

(日本陸連強化委員会オリンピック強化コーチ:400m、4×400mR担当)


―――合宿初日のトレーニングを終えたが、ここまでの状況を。
山村:幸いにもマイル(4×400mR)に関しては、5月にシレジア(ポーランド)で開催された世界リレーに行ったメンバーが全員(代表に)入ることができた。それまでの代表合宿をはじめ、世界リレーへの渡航、帰国後の隔離生活等々、ずっと寝食をともにしてきた仲間たち。私を含めてコミュニケーションがしっかりとれているメンバーが代表になっているので、さほど心配はしていない。集合したあとに行った昨日のミーティングでは、「あとは、個々でいい準備をしてもらう」という話をしたが、目指しているのは(五輪)代表になることではなく、(五輪で)戦うこと。「日本記録の更新とメダルの獲得」ということは、ずっと目標として掲げているので、その点ももう一度再確認した。

―――オリンピックでメダルを獲得するために、今の力からさらにどういったところを強化したいか?
山村:まず一つはいい準備をするということが絶対条件かなと思う。ここからの1カ月、体調を崩さず、ケガをせずというのが大事になってくる。あとはシレジアのメンバーに、今度はウォルシュ(ジュリアン)選手が加わるので、いろいろなオーダーのバリエーションができ上がるのかなと思っている。また、マイルは幸い最終種目なので、オリンピックでは個人種目(200mなど)を走った選手を起用することが可能になってくる。本当にいい状態のメンバーを予選にぶつけにいきたいなと考えている。

―――マイルメンバーから、「4継(4×100mR)に負けたくない」という声が聞かれた。また、そう考えるようになった背景に、山村コーチの存在があったということだが、どんなアプローチをしてきたのか
山村:私は2018年から主任させていただくことになったが、最初のミーティングのときに「速いけれど、強くない。(速い)タイムは持っているけれど、勝負事に弱いのが君たちだ」という話と、「結果が出なければ、別にオリンピックには出なくてもいい。マイルチームは解散するよ」という厳しい言葉をかけた。選手たちが、それをどう思ったのかはわからないが、結果的にいい効果になったのかなと思うし、少しずつ結果を出すことによって、選手たちが自信を持ってくれたのかなとも思う。最初のジャカルタのアジア大会(2018年)に関しては、200mを優勝した小池(祐貴)くんだったり、400mHで3位となった安部(孝駿)くんだったりを起用することになったが、そのときにも、「悔しくないか? 本来であれば、400mの選手たちでマイルを組むのが当然だよ」という話もした。どちらかというと、私自身がけっこう気持ちで走っていたタイプだったので、その気持ちを選手に伝えたことは大きかったかもしれない。

―――選手たちの具体的な変化はみてとることができたか?
山村:いろいろなところに合宿へ行ったり、集合型の合宿をしたりすることによって、少しずつ自信を取り戻したのかなと思う。また、「自分たちがやってやろう」という気持ちが芽生えてきたのではないか。それは、練習態度や、練習に向かう姿勢などが少しずつ変わってきたことにも表われてきた。

―――2位の成績を収めた世界リレーは、どう評価しているか。
山村:世界リレーでは、極端な話、予選さえ通ればオリンピックの権利を勝ち取れる状態だったので、目標も予選を通過することに集中していた。世界リレーでよかった点としては、マイルメンバーとして新しい顔が現れて、オリンピックの代表メンバーにも加わったことが非常に大きいのかなと考えている。逆に、そういうメンバーが、こちらの意図として提示した200mの通過を21秒0~21秒3で入るということをしっかりと理解してくれて、それを実践してくれる能力があったからこそ、シレジアの結果(2位)は生まれたのかな、とも思う。

―――若い選手の台頭が目を引くが、それをどう受け止めているか。
山村:非常に嬉しいことといえる。私が現役を引退してから、マイルリレーに関しては少しずつ結果が出なくなってきているし、逆に4×100mRのほうがいい結果を出してきている。やはり自分のやってきた種目で結果を出してもらいたいなという気持ちもあるし、私のなかでは、大会のフィナーレというのは、やはり1600mリレー(4×400mR)だと思っているので。今回のオリンピックでも、その舞台に日本チームが決勝に残って、いいパフォーマンスを発揮できるようにしてあげたいと考えている。

―――マイルリレーにおける1走から4走の各走者に求められる要素とは?
山村:まず1走に関しては、スターティングブロックからのスタートなので、400mのフラットレースで能力の一番高い選手が適していると考えている。いわゆる「安定して、しっかり走れる選手」ということである。2走に求められるのは、スピード型かつ闘争心のある選手。バックストレートに入るところでレーンがオープンとなるので、そこで競り負けないことが大切となる。外国人選手の身体は大きいので、そこで後退すると、レースがすべて後手に回ってしまう。そこでいかに自分でレースを組み立て、200mのコーナートップをどの位置に入れるか。それによって、第3走者へのバトンパスもスムーズに進めることができる。
3走に関しては、冷静にレースを運べる選手が適している。自分でレースを組み立てることができ、かつ1人でもレースを追いかけられる選手が向いている。アンカーには、各チームのエースが集まることになる。特にオリンピックの舞台では、ここで前の選手を抜くというのは非常に難しいと思っている。なので、バトンを受けた段階での順位をなんとかキープすることが大事となる。このため、安定型、レースの後半が強い選手をアンカーにもってこようと思っている。

―――オリンピックで理想のレースをできる手応えはあるか?
山村:今はある。もちろん個人種目が終わってからのウォルシュ選手の状態や、今回のメンバーの状態にもよるが、バランスのいい、走れる選手が揃ったと思っているので。ただし、1人でも故障してしまうと、いわゆるパズルがうまく組み立てられない状態になってしまう。そこに関しては慎重に進めたい。この合宿で、いい準備をしていくことが大事になるのかなと思っている。

―――改めて、東京オリンピックで、選手たちにどんな走りを見せてほしいか。
山村:2018年からやってきた強化が、オリンピックの舞台で発揮できることを、すごく楽しみにしている。目標とする日本記録の更新とメダル獲得については、ぶれずにいきたいと思っているし、私自身も非常に楽しみに、期待している。選手たちに一所懸命走ってもらえるように、こちらとしてもしっかりサポートできればと思っている。

 
※コメントは、代表共同取材における各氏の発言をまとめました。より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト


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■東京2020日本代表選手内定について
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