今大会では、入国および日本での滞在に際して、万全な防疫体制をとったうえで、海外から9名の選手が出場しました。そのなかには、男子100mのジャスティン・ガトリン選手(アメリカ、自己記録9秒74)、男子走高跳のムタス・エッサ・バルシム選手(カタール、同2m43)といった“スーパースター”も。ガトリン選手が出場した男子100mは、注目の1人だった桐生祥秀選手(日本生命)が不正スタート(フライング)で失格、また、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)が決勝を棄権する波乱もあったなか、予選・決勝が行われました。この種目で好調が目立ったのは多田修平選手(住友電工)。予選1組(向かい風0.2m)で10秒24をマークして、ガトリン選手(10秒26)に先着し、全体でもトップタイムで決勝へ進むと、無風のなか行われた決勝でも、スタートから良い反応を見せて序盤でリードを奪う走りを披露。さすがにラストでガトリン選手(10秒24・優勝)にかわされましたが、やはりラストで猛追してきた9秒台スプリンターの小池祐貴選手(住友電工、10秒28・3位)からは逃げ切り、10秒26・2位でフィニッシュしました。
男子走高跳では、バルシム選手と日本記録保持者の戸邉直人選手(JAL)が2m30までの試技をすべて1回でクリアしていくなか、5月3日の静岡国際で戸邉選手とともに2m30を跳び、試技内容で戸邉選手に勝利していた衛藤昂選手(味の素AGF)が2m27を3回目に、2m30を2回目に成功させて追う展開となりました。3選手で挑んだオリンピック参加標準記録でもある2m33の高さは、誰も攻略することができず、ここで全く同じ試技内容だった戸邉選手とバルシム選手が1位で並ぶことに。この段階で、同記録優勝として競技を終えることも可能でしたが、運営サイドの希望もあって、ジャンプオフを行うことになりました。2m33から2cmごとにバーを下げ、2m31、2m29に挑戦したものの、どちらもクリアはならず。夜になって気温が下がり、冷え込みが強まっていたため、ここで2人は競技を終えることを希望。1位を分け合う形となりました。
中・長距離種目には、すでにトラック種目で東京オリンピックの代表に内定している選手たちが、内定したのとは別の種目に出場し、注目を集めました。女子1500mには、5000mで代表に内定している田中希実選手(豊田自動織機TC)が出場。昨年の8月にこの国立競技場で樹立した自身の持つ日本記録(4分05秒27)更新は叶いませんでしたが、4月に出していたサードベストを更新する4分09秒10で快勝。今季日本最高をマークしました。
女子5000mには、昨年の日本選手権10000mで日本記録(30分20秒44)を樹立して代表切符を手にした新谷仁美選手(積水化学)と、5月3日の日本選手権10000mを制して内定したばかりの廣中璃梨佳選手(日本郵政グループ)がエントリーしてのレースに。序盤は新谷選手が、4000m付近で廣中選手が先頭に立つ場面も見られましたが、最終的に日本の実業団に所属するケニア人選手2名が先着。ムッソーニ・テレシア選手(ダイソー)が15分10秒91で優勝しました。日本人トップ争いを制したのは15分11秒84で3位となった萩谷楓選手(エディオン)。萩谷選手は、昨年7月に参加標準記録(15分10秒00)を上回る15分05秒78の自己記録をマークしている選手ですが、オリンピック参加資格の有効期間外であったため、改めての突破が必要な状況です。今大会では、突破までわずか1.84秒と、残念ながらクリアはなりませんでしたが、種目は違えども五輪内定者2選手を破っての日本人トップという結果は、「残り2枠」を巡って大激戦必至とみられる6月末の日本選手権5000mに向けての好材料となりました。廣中選手は4位・15分12秒86で4位、新谷選手は5位・15分18秒21で、それぞれフィニッシュしています。
女子の新谷選手と同様に、日本新記録(27分18秒75)をマークして昨年の日本選手権10000mを制し、この種目の代表内定を決めた相澤晃選手(旭化成)が出場した男子5000mは、終盤で切れ味鋭いスパートを見せた市田孝選手(旭化成)が、クレオファス・カンディエ選手(三菱重工、2位)以下を突き放して、13分27秒73の自己ベストで優勝。日本人選手は、カンディエ選手に続く形で、相澤選手(3位・13分29秒47)、服部弾馬選手(トーエネック、4位・13分29秒65)、茂木圭次郎選手(旭化成、5位・13分31秒08) の順でフィニッシュ。3選手とも自己記録を更新しました。
すでにオリンピック参加標準記録を突破済みの選手が複数出場したことで、記録と勝負の両面が期待されていたのが男子110mHと男子走幅跳でした。男子110mHは、向かい風0.8mのなかでのレースとなりましたが、4月の織田記念で13秒16の日本記録を樹立した金井大旺選手(ミズノ)が13秒38で優勝。2位には、織田記念で参加標準記録(13秒32)に0.01秒まで迫る13秒33の学生新記録をマークしていた泉谷駿介選手(順天堂大学)が13秒43で続きました。その織田記念を左ヒラメ筋遅発性筋痛のため欠場していた高山峻野選手(ゼンリン、前記録記録保持者13秒25)は、万全ではないなか13秒45で3位に。4位には、村竹ラシッド選手(順天堂大学)が13秒51でフィニッシュ。織田記念で出した自身のU20日本歴代2位記録(13秒53)を更新するとともに、金井選手と並んでいた学生歴代記録で単独4位へと浮上しました。
一方、参加標準記録突破済みの3選手が揃った男子走幅跳は、橋岡優輝選手(富士通)が1回目に8m07(+1.8)をマークして、まずまずの滑りだしを見せましたが、その後、踏み切りが合わず、赤旗(ファウル)が続きます。最終跳躍で記録は残したものの7m98(-0.3)と記録が伸ばせず、これが優勝記録となりました。屋外の日本記録(8m40)を持つ城山正太郎選手(ゼンリン)と日本歴代4位の自己記録(8m23)を持つ津波響樹選手(大塚製薬)は、どちらも最終跳躍で記録を伸ばしたものの、城山選手が7m79(+0.7)で3位、津波選手は7m72(±0)で5位という結果にとどまりました。
このほか、WAコンチネンタルツアーゴールド種目では、女子3000mSCで、兵庫リレーカーニバル女子2000mSCで日本最高記録を樹立した山中柚乃選手(愛媛銀行)が、ジョアン・チェプケモイ・キプケモイ選手(九電工、9分39秒29)に続いて、2位でフィニッシュ。日本歴代4位へと浮上する9分46秒72の自己新記録をマークしました。女子100mHは、織田記念で12秒96と自身の日本記録を更新したばかりの寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)が、向かい風0.8mという条件にもかかわらず自身3度目の12秒台となる12秒99で快勝。2位の青木益未選手(七十七銀行)の13秒06も、昨年の日本選手権を制した際に出した自己記録(13秒02)に迫るセカンドベストの好タイムをマークしています。
男子200m(+1.4)は飯塚翔太選手(ミズノ)が20秒48で、女子走幅跳は秦澄美鈴選手(シバタ工業)が6m48(+0.6)でそれぞれ制し、日本グランプリシリーズからの連戦となるなか、好調を維持している様子をうかがわせました。男子棒高跳は、このところ若手選手にタイトルを奪われることが続いていた山本聖途選手(トヨタ自動車)が向かい風となる難しい条件のなか、ただ一人5m55を1回でクリアして優勝を果たしましたが、続く5m65はクリアならず。参加標準記録(5m80)への挑戦は次の機会に持ち越されました。また、男子やり投は、織田記念で日本歴代5位の82m52を投げて優勝していた小南拓人選手(染めQ)がただ一人80m台に乗せる80m98をマーク。86m64(2017年)の自己記録を持つ黃士峰選手(チャイニーズタイペイ、3位77m35)やディーン元気選手(ミズノ、4位76m66)らを押さえて優勝しました。女子やり投は、5回目の試技で58m93の自己新記録をマークしてトップに立った上田百寧選手(福岡大)が優勝。オリンピック参加標準記録(64m00)突破が期待されていた佐藤友佳選手(ニコニコのり)は、最終投てきで記録を伸ばしたものの57m94にとどまり3位という結果でした。
また、この大会には、5月1・2日にポーランドのシレジアで行われた世界リレーに出場した日本代表メンバーも、各種目に出場しました。男子400mでは、佐藤拳太郎選手(富士通)が今季日本最高となる45秒61で優勝。以下、伊東利来也選手(三菱マテリアル、2位・46秒15)、川端魁人選手(創徳中教、3位・46秒25)、池田弘佑選手(あすなろ会、4位・46秒58)と代表メンバーが上位を独占する結果となっています。オペレーション種目としての実施だった女子400mでは、世界リレーで女子4×400mRと混合4×400mRの2種目に出場した小林茉由選手(J.VIC、53秒55)と松本奈菜子選手(東邦銀行、53秒74)が1・2位でフィニッシュ。小林選手は自己新記録をマークしての優勝でした。
一部の決勝を除いては、モーニングセッションで行われたオペレーション種目でも、今後が楽しみとなる好記録が誕生しています。女子400mHでは宇都宮絵莉選手(長谷川体育施設)が日本歴代6位タイに浮上する56秒50で優勝。宇都宮選手は七種競技でも5821点(日本歴代4位)の自己記録を持っている選手ですが、今季は、混成競技にも取り組みつつ、東京オリンピックは、400mHでの出場を目指しています。また、3チームが出場して行われた女子4×100mRでは、日本体育大学(園宮璃子、宮武アビーダラリー、藤田涼子、滝田静海)が学生歴代2位となる44秒65をマークして優勝。2位の中京大中京高校(前田紗希、倉橋美穂、須崎心優、藏重みう)がマークした45秒44も、同校がマークした2020年高校リスト1位の45秒46を上回る好タイムです。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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