ワールドアスレティックス(WA)主催するリレー種目のみを行う国際大会「世界リレー(World Athletics Relays)」が5月1日、ポーランドのシレジアで開幕しました。この大会では、東京オリンピックで実施されるリレー5種目(男子4×100m、男子4×400m、女子4×100m、女子4×400m、混合4×400m)について、各種目の上位8カ国にオリンピックの出場権が与えられることになっています。今回、日本は、2019年ドーハ世界選手権で銅メダルを獲得してすでに五輪切符を手に入れている男子4×100mRを除く4種目でもオリンピック出場権を獲得すべく、この5種目すべてに選手を派遣しました。初日の予選では、男子両リレー(4×100m、4×400m)、女子4×100mRの3種目で決勝進出を果たすともとに、男子4×400mRと女子4×100mRが新たにオリンピック出場権を獲得。また、決勝進出および五輪出場権獲得はならなかったものの、混合4×400mRでは3分18秒76の日本新記録をマークしました。
大会初日は、気温11℃、湿度80%前後という寒さを感じさせるコンディションのなか、オリンピックで実施される5種目すべての予選が実施されるタイムテーブル。各種目とも予選は3組で行われ、上位2着と3着以下の上位記録2チームが決勝に進出する条件で行われました。
大会最初の種目となったのは女子4×400mR予選。日本は、故障からの回復が間に合わなかったエース・青山聖佳選手(大阪成蹊AC)を欠くなか、小林茉由選手(J.VIC)、松本奈菜子選手(東邦銀行)、川田朱夏選手(東大阪大学)、新宅麻未選手(アットホーム)のオーダーで、予選3組に出場しました。1走の小林選手(ラップ54秒21)から、松本選手(ラップ52秒68)、川田選手(ラップ54秒39)と3番手でレースを進めていきましたが、激しい先頭争いを繰り広げたイギリスとドイツとの差が大きく開いたことで単独で前を追わねばならず、タイムを狙う上でもやや不運といえる展開となります。アンカーの新宅選手(ラップ53秒98)がボツワナにかわされ、4着・3分35秒26でフィニッシュ。この大会でのオリンピック代表権獲得は叶わず、6月29日に確定するWAワールドランキングによる出場に、望みを託すこととなりました。予選全体では12位の結果で、上位10チームに与えられる2022年ユージーン世界選手権の出場権にも残念ながら届きませんでした。
続いて行われた男子4×400mRには、1走を伊東利来也選手(三菱マテリアル)、2走に佐藤拳太郎選手(富士通)が入り、3走には4×100mで代表に選出されていた樋口一馬選手(MINT TOKYO)を起用し、アンカーを川端魁人選手(鈴鹿市立創徳中学校教員)が務める走順で、予選1組に臨みました。日本は第1走者の伊東選手が先頭争いをしながら佐藤選手にバトンをつなぐと、佐藤選手がバックストレートで首位に立ち、後続と差を広げました。樋口選手・川端選手もトップをキープし、3分03秒31でフィニッシュ。決勝進出を確定させたことで、東京オリンピックとユージーン世界選手権の出場権を獲得しました。日本の予選の結果は、全体ではオランダに続き2位となる記録。各選手のラップタイムは、46秒09、45秒55、46秒41、45秒26という内容で、この種目のシニアの世界大会で初となる3位内入賞が十分に狙える状態で、明日の決勝を迎えることになりました。
女子4×100mRの日本は、4月11日の出雲陸上で世界リレーへの出場権獲得の条件をクリアできず、いったんは万事休すに陥りながらも、上位国に棄権するチームが出たことで繰り上がり、参加が実現するという経緯があったなかでの出場でしたが、そこでつかんだチャンスが大きく生きる結果となりました。1組目に入った予選は、1走を大学生になったばかりの青山華依選手(甲南大学)が務め、復調著しい齋藤愛美選手(大阪成蹊大学)を3走に、そして、昨年大きく記録を伸ばしてきた兒玉芽生選手(福岡大学)と鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)が2走とアンカーに入るオーダーでスタート。シニアでの初代表とは思えない好走をみせた青山選手をはじめとして、どの選手も非常によい走りをみせたものの、各走者間でバトンパスにミスがあり、ブラジル、イタリアに続いて3着(44秒17)でフィニッシュ。決勝進出は、残る2組の3着以降のタイム次第という状況になりました。しかし、すべての結果が出る前の段階で、1組1着のブラジルがレーンの内側を走ったことが判明して失格に。これによって日本は2着に繰り上がり、2日目に行われる決勝に駒を進めるとともに、東京オリンピックとユージーン世界選手権の出場切符をも手にしました。なお、3組3着のデンマークが日本のタイムに届かなかったため、ブラジルの失格がなくてもタイムで決勝に進出を果たしていたことになる結果でした。
東京オリンピックの出場権をすでに獲得している男子4×100mRは、今回は、世界大会でのメダル獲得経験を持つトップランカーたちではなく、次世代のエース候補生といえる若手を中心とする陣容での挑戦で、「ユージーン世界選手権の出場権獲得」「世界大会での経験と実績を積むこと」の2つを狙って出場しました。予選は2組目でのレース。1走から坂井隆一郎選手(大阪ガス)、鈴木涼太選手(城西大学)、宮本大輔選手(東洋大学、ダイヤモンドアスリート修了生)が入り、アンカーを最年少・高校3年生の栁田大輝選手(東京農業大学第二高校、ダイヤモンドアスリート)が務めるオーダーで、前回覇者のブラジル、強豪のドイツに挑みました。各選手とも走力的には他国と遜色ない力を示したのものの、バトンパスにミスが出て、3着・38秒98でフィニッシュ。3組を終えた段階で、3着以降のトップタイムだったことで、プラスで拾われて決勝進出を果たすとともに、目標の1つとして掲げていたユージーン世界選手権の出場権を獲得しました
オリンピック種目としては東京大会が1回目となる混合4×400mRには、日本は、1・4走を池田弘佑選手(あすなろ会)と鈴木碧斗選手(東洋大学)の男子選手が、2・3走に女子マイルリレーも走った松本奈菜子選手(東邦銀行)と小林茉由選手(J.VIC)が入るオーダーで、予選2組に出場しました。1走の池田選手は46秒74のラップを刻んで2番手で、2走の松本選手にバトンパス。松本選手(ラップ52秒16)は3番手で小林選手に中継しました。小林選手はいったん2位に浮上しましたが、ホームストレートで逆転されて5番手(ラップ52秒95)でバトンをアンカーの鈴木選手に繋ぐこととなりました。鈴木選手は45秒75のラップで追いましたが、上位に追いつくことはできず、そのまま5着でフィニッシュ。決勝進出はなりませんでした。しかし、フィニッシュタイムの3分18秒76は、2019年のドーハ世界選手権で日本チームがマークした日本記録を100分の1秒更新する日本新記録。また、予選全体で10番目となり、この種目については上位12カ国に与えられることになっていたユージーン世界選手権の出場権を獲得。東京オリンピックに向けては、6月末に確定するWAワールドランキングに反映するタイムを上げてたことで、出場権獲得に向けての望みも残しました。
全種目が決勝となる大会2日目は、5月2日、現地時間の19時20分から行われる混合4×400mRから競技がスタート。日本は男子4×100mR(日本時間3日午前2時35分スタート)、女子4×100mR(同2時46分スタート)、男子4×400mR(同3時42分スタート)の3種目に出場し、上位入賞に挑みます。また、これらの種目のオリンピック出場権およびユージーン世界選手権出場権は、日本が決勝をスタートした時点で、正式に確定します。
大会の模様は、テレビ(地上波TBS<関東ローカル>)および動画配信サービスParaviで深夜2時13分から生中継されるほか、日本陸連公式Twitter( https://twitter.com/jaaf_official )でも、レース前後の様子も交えた最新情報や結果速報をお届けしていく予定です。ぜひ、日本チームの熱い戦いに、ご声援をお寄せください。
※本文中に記載の400mラップタイムは、主催者発表の公式リザルトによる。
【東京オリンピック・ユージーン世界選手権出場権獲得コメント】
◎男子4×100mR 予選2組3着 38秒98
=決勝進出、2022ユージーン世界選手権出場権獲得
※東京オリンピックの出場権は、2019年ドーハ世界選手権において獲得済み
・1走:坂井隆一郎(大阪ガス)
プラスで決勝に残ったことは、すごく安心したのだが、全体的にバトンパスが悪かった。そこは反省すべきところかなと思う。タイムはもっと上げられると思う。決勝では、予選で失敗したところをしっかり修正して3位以内に入って、タイムも上げられるように頑張りたい。
・2走:鈴木涼太(城西大学)
1・2走のところでバトンのミスがあって、加速に乗れなかったことが反省点。そこを直していくことができれば、もうちょっといいタイムが出るのかなと思う。明日は、39秒0台以上のタイムを出せるように頑張る。
・3走:宮本大輔(東洋大学) ※ダイヤモンドアスリート修了生
(バトンを)もらうところでも渡すところでもミスがあったので、そこを修正していければよくなると思う。今日は、走り自体はいい感じで行くことができた。明日の決勝では、しっかりとバトン(パス)を修正して、38秒0台以上とか、いい順位が取れたらいいなと思う。
・4走:栁田大輝(東京農業大学第二高校) ※ダイヤモンドアスリート
走り自体はすごくよかったので、あとは明日、バトン(パスの)詰めの細かい部分を修正して臨みたい。今日の結果は、(ミスが出た)バトンパスの状況などを考えれば悪くはないタイム。明日はバトンを修正して、38秒0台…38秒を切るくらいのつもりで臨みたい。
◎女子4×100mR 予選1組2着 44秒17
=決勝進出、東京オリンピックおよび2022ユージーン世界選手権出場権獲得
・1走:青山華依(甲南大学)
予選は、思っていた以上にしっかりと走ることができた。しかし、バトンをちゃんと渡すことができなかったので、そこは決勝に向けて修正していきたい。東京オリンピック代表権を獲得できた点については、目指していたところなので嬉しく思う。まだ(獲得した)実感はないが、東京オリンピックがあると信じて頑張りたい。明日の決勝は、日本記録(43秒39)更新を目指していく。コンディションが悪くなるという予報だが、そういうのを気にせずに、自分の出せる最大限の力を出したい。
・2走:兒玉芽生(福岡大学)
海外でシニアの日本代表として4継(4×100m)に出場するのは初めてだったので、不安もあったが、レース自体は冷静に自分の走りができたと思う。ただ、バトン(パス)は自分のところでミスをしてしまったので、そこに力不足を感じた。代表権を獲得できたことに対しては、私は2期のプロジェクトメンバーからナショナルチームの一員として、東京オリンピック出場に向けて取り組んできたので、目標を達成することができて素直に嬉しい気持ちもあるし、若いこの4人でやれたことが大きかったと思う。明日の決勝は、高速レースが予想されるが、自分たちのやるべきことは変わらない。バトンミスをしないようにして、東京オリンピックに繋げられるようなレースをしたい。
・3走:齋藤愛美(大阪成蹊大学)
修正すべき点がどの区間のバトン(パス)でもあったので、そこを直せばもっといいタイムが狙えると思った。オリンピックの出場権は、(日本としては)2012年のロンドンオリンピック以来となる獲得。私自身は、(2016年の)リオオリンピックのときに、(獲得を逃す)悔しさを経験している。やっとここで獲得することができて、まだ信じられない気持ちもある。今は、コロナ禍で大変な状況だが、オリンピック開催が決まったら、自分たちにできることを最大限に発揮し、日本記録を目指していきたい。明日の決勝は、コンディションが悪くなる予報が出ているが、そのなかでも自分たちのできる最高のパフォーマンスをして、少しでもいい順位を取れるよう頑張りたい。
・4走:鶴田玲美(南九州ファミリーマート)
自分の走り自体は、(前回リレーを走った)出雲陸上から調子を上げることができたと思うが、どの区間でもバトンパスに課題が残るレースとなった。明日(の決勝)はそこをしっかりと修正するとともに、今日以上の走りをして、今日よりもいい走り、満足のいく結果が出せるよう、みんなで頑張りたい。東京オリンピックの代表権を獲得できたことは、まだ実感が湧かないというのが正直なところであるが、獲得できて素直に嬉しい。(コロナ禍の影響で)まだオリンピック開催自体もわからないところも多いが、こういう状況のなかでも試合や練習ができることを感謝しながら、本番に向けて、しっかり準備をしていきたい。
◎男子4×400mR 予選1組1着 3分03秒31
=決勝進出、東京オリンピックおよび2022ユージーン世界選手権出場権獲得
・1走:伊東利来也(三菱マテリアル)
予選は、他チームの状況がわからないなか、しかも7レーンという大きく外側のレーンだったが、自分のレースをするだけだと思っていたので、それを体現することができてよかった。今回の世界リレーに出た(一番の)目的が、東京オリンピックの出場権獲得だったので、最低限の目標をまず達成できたことにホッとしている。これまでの世界大会や国際大会の様子を見ると、決勝になるとほかのチームの選手の目の色が変わる。レースのレベルもひと段階上がると思うので、そのなかで対応できるか、そこで何番を取れるかということを楽しみに、明日はチャレンジャーの気持ちで臨みたい。
・2走:佐藤拳太郎(富士通)
東京オリンピックの代表権というのはマストの条件だったので、(獲得できて)よかったと安心する気持ちはあるけれど、それは必ず勝ち取らなければいけないことだったので、全員がそこで満足することのないような心持ちでいなければならないと思っている。今日の予選のタイムを見ても、ほかのチームの状態が上がっていない。こういう状況はなかなかないことで、日本にとってはかなりチャンスといえる。明日の決勝では、メダルは確実に取りたいと思っている。
・3走:樋口一馬(MINT TOKYO)
東京五輪の出場権を獲得するために、組で上位2着に入らなければならないということで、予選から全員が攻めていくレースをしていかなければいけないというなか、自分も前半から行くレースができた。そこは出場権獲得に貢献できたのではないかと思う。自分はもともと4×100mRでエントリーされていたこともあり、マイルを走ることになり、距離が長くなったことで調整が難しかった。しかし、今日の予選のメンバーに選ばれて、代表として走れたという経験を生かし、本番でもメンバーに入っていけるように、これから自分の可能性を見出していけたらなと思う。
・4走:川端魁人(鈴鹿市立創徳中学校教員)
1・2走で流れをつくって3・4走が1着をキープするというのが日本の目標だったので、自分自身も1着でバトンをもらって、1着でフィニッシュできて、とてもよかったと思う。今回は、東京オリンピックの出場権を獲得することが、最低限の目標だっただけに、それを達成できて安心すると同時に、(獲得できたことを)誇りに思うし、とても嬉しい。明日は、予選を勝ち抜いてきたチームで戦うことになるので、接触なども予選より激しくなるとなると思う。そこでしっかりと自分のレースをして、東京オリンピックに少しでもいい形でつながる走りがしたい。
【ユージーン世界選手権出場権獲得、日本新記録樹立コメント】
◎男女混合4×400mR 予選2組5着 3分18秒76
=日本新記録、2022ユージーン世界選手権出場権獲得
・1走:池田弘佑(あすなろ会)
1つ外のレーンのコロンビアの選手が速い選手だったので、その選手についていってラストで(スピードを)上げられたらと思っていたが、ラスト(の動き)が少し硬くなってしまった。日本記録を出せたはすごく嬉しいが、その一方で決勝進出という目標を果たせなかったので、「嬉しいのが半分、悔しいのが半分」といった心境である。今後は、6月の日本選手権で上位に入賞して、東京オリンピックの出場権を獲得することを目標にしていく。
・2走:松本奈菜子(東邦銀行)
池田さんからのバトンパスをスムーズにやることと、前半からスピードに乗って、ちゃんと小林にいい順位で(バトンを)渡すことを意識した。正直、日本記録のことは考えていなかったのだが、100分の1秒でも更新することができたことは、とても嬉しかった。今後は400m(のフラットレース)を52秒台で走ることをまずは目標にしたい。また、混合マイルのほうは、ユージーンの世界選手権(の出場)が決まったので、その代表メンバーとして出場できるように、個人のタイムを縮めていけたらなと思う。
・3走:小林茉由(J.VIC)
松本からいい順位でバトンを受け取って、バックストレートでも苦手な前半から(スピードを)出すことができた。しかし、それが結果に響いてしまい、着順で決勝に進めない順位に落としてしまったことが課題として残った。100分の1秒(日本記録を)更新したと聞いた時は嬉しかったが、一方で、私以外の3人が頑張ってくれたおかげもあるので、次は、私も一緒にもっとタイムを上げられるような走りができたらいいなと思う。世界で戦うには、まずは日本で1番を取ることが必要。私も52秒台を、さらに51秒台を目指して、世界で戦えるよう頑張っていきたい。
・4走:鈴木碧斗(東洋大学)
前半からとばしていくという目標は達成できたが、決勝に行ける位置で(バトンを)もらったのに、決勝に駒を進められなかったことが心残りではある。まだ、あまり実感が湧いていないが、日本記録を樹立した一員として、(この男女混合リレーに)携われたことを光栄に思う。(5月9日に国立競技場で開催される)Ready Steady Tokyoで200mに出場するので、そこで、(21秒18の)自己ベストの更新および20秒台を出しにいきたい。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)