第69回兵庫リレーカーニバルが4月25日、兵庫・ユニバー記念競技場において開催されました。サトウ食品日本グランプリシリーズ「神戸大会」に位置づけられているこの大会では、グランプリ種目として、男子5種目(1500m、10000m、2000mSC、円盤投、やり投)、女子6種目(1500m、10000m、2000mSC、棒高跳、走幅跳、円盤投)の計11種目が行われます。兵庫県では、大会直前に新型コロナウイルス感染拡大防止のために緊急事態宣言が発出され、これに伴い、急きょ、無観客での実施に変更することが発表されました。しかし、関係者の尽力もあり、大会自体は予定通りの開催が実現。朝から快晴に恵まれた当日は、前日に予選が行われた兵庫リレーカーニバル各リレー種目の準決勝・決勝のほか、小・中・高校、一般の各種目や、アシックスチャレンジの冠がついた男子10000m、女子5000mなどもオープン種目として実施されました。
グランプリ種目で好記録に湧いたのは男女2000mSC。国内では実施されることの少ない種目ですが、東京オリンピックの出場権獲得という点では、参加標準記録とともに関与してくるワールドアスレティックス(世界陸連:以下、WA)が実施するワールドランキングにおいて、3000mSCのポイント獲得に反映される扱いとなっています。
バックストレートが強い向かい風となる非常にタフなコンディションとなったなか、先に行われた女子では、山中柚乃選手(愛媛銀行)が先頭に立ち、この種目の日本最高記録(6分27秒74、2019年)を持つ藪田裕衣選手(大塚製薬)がこれにつく展開となりました。最後の周回に入る前の水濠飛越でいったん藪田選手がトップに立ちましたが、残り1周を通過したところで山中選手が再逆転。バックストレートで差を広げたことで、藪田選手の最後の猛追から逃げきり、6分19秒55の日本最高記録で優勝しました。2位の藪田選手も6分20秒37と、自身が持っていた日本最高記録を7秒37更新。3位の西出優月選手(関西外語大)も6分32秒23の好記録でフィニッシュしました。続いて行われた男子でも、阪口竜平選手(SGホールディングス)が5分29秒89をマークして、2019年に楠康成選手(阿見AC)が樹立した5分31秒82の日本最高記録を更新。中3日で迎えることになる次戦の織田記念(4月29日、日本グランプリシリーズ広島大会)の3000mSCに向けて、快調な滑りだしを見せました(日本最高記録を更新した山中選手、藪田選手、阪口選手のコメントは、別記をご覧ください)。
女子走幅跳では、兵庫を拠点とする秦澄美鈴選手(シバタ工業)が追い風3.0mとなった1回目に参考記録ながら6m69の大ジャンプでトップに立つと、2回目に公認記録の条件(+1.1)下で自己記録(6m45、2019年)を20cm更新する6m65をマークして圧勝。日本歴代記録でも4位タイへと大きく浮上しました。秦選手は、ファウルとなった3回目を除いて後半の試技でも6m49(+1.7)、6m38(+2.3)、6m46(+0.7)と、風の状態が難しいなか安定して高いレベルの跳躍を披露。好調さを印象づける結果となりました。また、女子棒高跳も地元・兵庫の那須眞由選手(籠谷)が4m03の大会新で優勝、また、男子やり投も兵庫出身のディーン元気選手(ミズノ)が76m86で制しています。
女子円盤投は日本記録保持者(59m03、2019年)の郡菜々佳選手(九州共立大)が55m30で快勝。後半の試技は3回ともファウルとなったものの、5回目には円盤が60mライン付近に着地する投てきも飛び出し、今後を期待させました。また、男子円盤投は前日本記録保持者の湯上剛輝選手(トヨタ自動車)が56m98で、男子1500mは飯澤千翔選手(東海大)が3分45秒82で、それぞれ優勝を果たしました。
このほかでは、女子1500mと10000mには、すでに5000mとマラソンで東京オリンピックの代表選手に内定している田中希実選手(豊田自動織機TC)と前田穂南選手(天満屋)がそれぞれ出場して、注目を集めました。田中選手は4分10秒14で優勝、前田選手は33分25秒85で4位という結果でした。その女子10000mは、ジョアン・キプケモイ選手が32分31秒19、逸木和香菜選手が32分48秒43と九電工勢がワン・ツー。男子10000mは、リチャード・キムニャン選手(日立物流)が27分52秒92で優勝。日本人トップは太田智樹選手(トヨタ自動車)で、自身初の27分台となる27分56秒49をマークして2位でフィニッシュしました。
【新記録樹立者コメント】 ※掲載は競技開催順
女子2000mSC
優勝 山中柚乃(愛媛銀行)
6分19秒55 =日本最高記録
2000mSCは久しぶりだったので、手探りの状態だったが、3000mSCにつながるようなスピード感をもって走ろうと思っていた。1周を81秒で行ったら6分25秒、79秒ちょっと家ったら6分20秒(で走れる)ということを頭に入れて、それを目安にして臨んだが、(実際に走っているときは、タイムを見る余裕がなかったのと、計算ができなくて(笑)、とりあえず「ガンガン行こう」という感じで走った。レースではいつも後半で負けてしまうことが多かったので、今日は、そこでギアを変えていこうとイメージしていた。鐘が鳴る前の大障害(水濠)のところからペースを上げていこうと考えていた。そこで(藪田選手に)前に出られてしまったが、「ああ、ここからだな」という感じで切り替えた。
(想定していたタイムを上回る記録だが)2000mSCというちょっと特殊な距離だったので、練習でもスピードを意識した中距離寄りの練習を多く入れ、スピード対応ができるような取り組みをしてきたことが要因かと思う。
(4月29日の)織田記念には3000mSCに出場する。(WAワールドランキングでの)ランクが高い試合になるので、記録というよりは優勝は確実にしたい。
今日は2000mでスピード感を持っていくことができたが、そのまま3000mまでいけるかというと、まだできない印象がある。しかし、このペース以上でいかないと、(目標にしている)パリ(オリンピック出場)もかなわない。今日は、(3000mSCの記録の)9分半ペースのラップで2000mまではいけたので、それを自信にして、足りないところを今後の練習で見つけていきたい。
女子2000mSC
2位 藪田裕衣(大塚製薬)
6分20秒37 =日本最高記録
今日は、自分が持っていた日本最高を更新できたら…と考えて臨んでいたので、大幅な自己新記録となったこのタイムには満足している。しかし、ラスト1周で山中さんに前に出られたとき、バックストレートの向かい風の強いところで、メンタルの弱さが出てしまった。心で負けてしまったかなという反省がある。あそこでいったん後れてしまったが、水濠(飛越)に対しては自信があるので、「水濠で追いつくことができる」と気持ちを切り替えた。水濠のところで(イメージしていた通りに)切り替えてラストスパートすることはできたが、(逆転には)ちょっと届かなかった。そこが少し残念。しかし、今後、3000mSCのレースとして、5月9日のテストイベントや、日本選手権など、ワールドランキングのポイントの高い大会がまだ控えている。そこに繋がる走りはできたかなと思っている。この冬は、ハードル技術の向上を重点的に取り組んできた。それによって、ハードルをスムーズに越えることができるようになっている。また、同時にスピード持久の力もついてきているなと冬期練習の段階で成長を感じることができている。それらは今日のレースでも実感することができていて、去年までだと1000mを3分10秒で通過するとなると、やっとという感じで走っていたのだが、3分10秒を切っても余裕を持って走ることができた。今季は、記録としては、最低でも(8分)45秒は切りたいというのが目標。3000mSCでも、しっかりと、自己記録を大幅に更新できたらいいなと思う。
男子2000mSC
優勝 阪口竜平(SGホールディングス)
5分29秒89 =日本最高記録
風も強かったし、ラストには自信があるので、今日は、ある程度、自分でリズムをつくりながら走り、1000m過ぎでいったん後ろに下がって、もう一度ラスト1周で仕掛けるというイメージで挑んだ。今日は、最低でも5分25秒は切らなければいけないなと思っていた。また、過去の結果などから、オリンピックとかの世界大会では最後(の1000m)で2分40秒を切って上がってくれば8位入賞が目指せるんだなと感じていたので、今回はラスト1000mのタイムを意識して走っていた。それだけに、ラスト(1000mを)2分38秒とかで上がれるようなレース展開ができればよかったのにと思う。そういう意味でも、(5分29秒89というタイムは)風が強かったとはいえ、もうちょっと行けたかなという感覚がある。そこは、まだ伸びしろを感じる部分ではあるのだが、(3000mSCで考えると)このペースであと1000m押していかないと日本記録を更新することができないわけだし、また、自分は今年(3000mSCで)8分10秒という記録を1つの目標にしていて、これくらいの(タイムでの)通過は、3000mSCの(レースの)なかでもしていかなければいけないと思っている。もっともっと力をつけて頑張っていきたい。
自分は東京オリンピックの代表にもまだ選ばれていないし、日本のランキングでも自己ベストは8番目と、まだまだ力不足な状態ではある。しかし、昨年の日本選手権以降、東京オリンピックに出るだけではなくて、(本番で)結果を残すための準備というのをやってきた。それは去年(オリンピックが1年延期になる前)から、その流れで取り組んできていたことでもある。今年も「東京オリンピックに出場して結果を残すこと」を目標にやっていきたい。
次のレースは織田記念の3000mSC。中3日となるが、連戦となったほうが走れるタイプなので、もっといい走りができるのではないかと思っている。今回の課題を克服して挑みたい。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)/写真:アフロスポーツ
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https://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月3日(月・祝)開催・第105回日本陸上競技選手権大会・10000m
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1546/
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