10月1日~3日に新潟で行われる「第104回日本選手権(一般種目)」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。「混成競技」は、9月26・27日に終了。「長距離種目」は、12月4日に大阪・長居で実施される。
「日本一」を決める試合なので、本当は全種目についてふれたいところだが、原稿の締め切りまでの時間的な制約があったため、「日本新」が期待されたり、好勝負が予想される種目に関してのみの紹介になったことをご容赦いただきたい。
「コロナ」のため世界陸連(WA)の決定によって、今年4月6日から11月30日までの競技会の成績や記録は「五輪参加標準記録」や「WAランキングポイント」には反映されないが、「2020日本チャンピオン」を目指して各種目で選手たちが全力を尽くす。
なお、これまた「コロナ」に配慮して、「スタンドから生で観戦」ができるのは3日間とも「新潟県民2000人限定」となった。そのため、全国の陸上ファンの方々のほとんどが「TV」や「ライブ・ネット中継」での観戦となるが、その「お供」にしていただければ幸いである。
・記録は、9月27日判明分。
・記事は、9月28日時点の情報による。直前に「欠場」となった選手については、文中
に 【★*月*日に欠場を発表★】 と付記した。
・予選/10月2日 15:55 4組3着+4
・準決/10月2日 18:55 2組3着+2
・決勝/10月3日 17:20
このところ、男子100mに勝るとも劣らないくらい充実しているのがこの種目だ。
2018年6月24日、山口での日本選手権で金井大旺(福井県スポーツ協会)が、13秒36で走って14年ぶりに日本記録を0秒03更新した。
それに大きな刺激を受けたのか、2019年には次々と日本タイ記録や日本新記録がマークされた。
2018年以降の日本記録変遷史は、
以上の通り。100分の1秒まで計時されるのに、2019年6月30日から7月27日に高山が13秒30をマークするまでの1カ月あまりの期間は、3人が「13秒36」の「日本記録保持者」として並んでいた。電動計時での記録に限ると、日本陸上競技史上初の出来事だった。
「2019年・世界リスト」では、
と、9人が「世界100位以内(100位=13秒66)」に入傑した。
「2019年世界100位以内」の国別人数では、アメリカの24人、ジャマイカの11人についで世界3位の層の厚さだ。
ちなみに男子100mの「2019年世界100位以内(100位=10秒17)」の日本人は6人で、25人のアメリカ、10人のジャマイカ、7人のイギリスに続いて4番目。110mHの方が人数も順位も上だった。
さらに、110mHの2019年の勢いは2020年にも引き継がれていている。
日本のみならず、世界的に競技会が例年のように行われていないとはいえ、9月27日判明分の「2020年・世界リスト」では、
以上の10人が50位(13秒69)以内。100位(13秒99)以内には、実に21人が名を連ねている。世界的に競技会の数が少ないとはいえ、王国・アメリカとフランスの7人のトリプルスコアでの「世界1位」だ。
とりわけ、「8月29日」の福井での「ナイト・ゲームズ」の追風1.4mの好条件で行われたレースが圧巻で、13秒40以内3人、13秒60以内6人、13秒64以内8人と史上初の「超ハイレベル」なレースとなった。
日本選手権・決勝での「着順別最高記録」は、
・「/」の後ろは、追風参考での最高記録
1)13.36 2018年・2019年
2)13.36 2019年
3)13.61 2017年/13.61w 2016年
4)13.67 2013年/13.66w 2016年
5)13.72 2013年/13.71w 2016年
6)13.80 2007・2017年/13.78w 2016年
7)13.80 2017年
8)13.91 2018年
で、福井のレースは各順位ともこれを上回った。
新潟でも「いい追風」に恵まれれば、「日本新」だけでなく、たくさんの「着順別新記録」も生まれそうだ。
「日本新」での決着となれば、3年連続となる。
2019年は、高山が好調で13秒25の日本新を筆頭に、「2019年・日本リスト」のパフォーマンス6位までを独占。同10位までのうち8つを占めた。ドーハ世界選手権でも国外日本人最高の13秒32(+0.4)で組の2着で予選を通過。準決勝では、3台目でトップに立つ快走を見せたが、5台目でリード脚の腿がハードルの上に乗り上げた格好で大きく失速。結果は6着に沈んだが、中盤までは「世界のファイナリスト」を指呼の間にとらえる走りをみせた。100mでもシーズン終わりの10月27日に10秒35(+1.0)、同じ日の予選では追風参考ながら10秒25(+3.3)で走った。
7月から競技会が再開され始めた2020年は、18年の日本選手権で日本記録(13秒39/谷川聡/2003年)を14年ぶりに13秒36に更新した金井が復活。8月2日の法大競技会で13秒34(+0.3)の自己新、8月29日の福井では、予選で13秒33(+2.0)の自己新、決勝では高山の日本記録に0秒02と迫る13秒27(+1.4)のまたもや自己新で、高山に0秒07差をつけた。金井は100mでも8月2日に向風0.6mのもと10秒41で走るなどスピードも増してきた(これまでの100mのベストは、2017年の10秒61/+0.3)。
今シーズンの状況からして「二強」と目される金井と高山のこれまで「決勝レース」での対戦成績は以下の通り。
以上のとおりで、ほぼ互角の勝負であるが、2020年は、金井の2勝0敗。
この2人以外では、8月29日に福井で13秒39までベストを伸ばしてきた石川周平(富士通)、13秒4台の記録を持つ石田トーマス東(勝浦ゴルフ倶楽部)に野本周成(愛媛陸協)らも虎視眈々である。なお、野本は9月26日に100mで10秒36(+0.6)の大幅自己新(従来は、10.58/+0.5/2019年)をマークし、日本選手権に向けてはずみをつけた。
なお、2019年の日本選手権で優勝した高山と同タイムの2着で13秒36の日本タイ(U20日本新)をマークした泉谷駿介(順大)は、今年の春先と8月初旬にハムストリングスに肉離れを起こした。そんなことで、「2020年は我慢の年」という位置づけで、東京五輪を視野に向けて立て直しをはかる中での日本選手権となる。
ハードル1台のちょっとしたミスで大きく順位が変動するだけに、1台毎の展開に目が離せない。
2019年のこの種目は、活況を呈した。
8月17日の福井では、橋岡優輝(日大)が1回目にコーチでもある森長正樹さんが1992年にマークした8m25の日本記録を27年ぶりに更新する8m32(+1.6)。それから数十分後、3回目には城山正太郎(ゼンリン)が、8m40(+1.5)。27年間、止まっていた時計を2人が動かした。2人の影には隠れてしまったが、同じ試合で津波響樹(東洋大。現、大塚製薬)も8m23(+0.6)の日本歴代4位、小田大樹(ヤマダ電機)も8m03(+1.6)を跳んだ。
「2019年・世界リスト(室内の記録も含む。9月27日判明分)」では、
の8人が100位以内に名を連ねた。これは、アメリカの16人に続き2位で、ジャマイカの7人を上回った。
9月末のドーハ世界選手権では橋岡と城山がコンビで決勝に進み、橋岡が8位入賞、城山が11位だった。
2020年も橋岡は好調で、9月11日の日本インカレでは、現時点での2020年世界3位となる8m29(-0.6)をマーク。向風0.6mの中での記録だけにその価値は高い。今回、橋岡は「V4」に挑むが、実現すればこの種目での連勝記録としては、南部忠平さんの6連勝(1928~33年)、同じく6連勝の臼井淳一さん(1982~87年)、田島政次さんの4連勝(1950~53年)、寺野伸一さんの4連勝(2002~05年)と並び歴代3位タイとなる。コーチである森長さんの優勝回数は3回(1990・92・2000年)で現在並んでいるが、記録だけでなく優勝回数でも師を超えられるか?
橋岡以外は、今季は8mには達していなくて7m90台が4人に80台も4人と混戦模様。その中では、吉田弘道(立命大)が追風参考で8m05(+2.7)を、小田大樹(ヤマダ電機)が8m04(+2.5)をともに8月29日の福井で跳んでいる。
日本選手権には出場しないが、高校2年生の舞永夏稀(太成学院高・大阪)と北川凱(東海大翔洋高・静岡)が7m89(+1.1/9月18日)と7m81(+1.8/9月26)を、1年生の深沢瑞樹(東海大翔洋高・静岡)も7m67(+0.5/7月18日)を跳んでいるのは頼もしい。昨年のインターハイで8m12(+1.7)の大ジャンプをみせた高校3年生の藤原孝輝(洛南高・京都)は、今季は7m58(+1.5/8月29日)にとどまっているが、「高校生代表」として新潟でどんなジャンプをみせるか? 昨年の力を取り戻してきて入賞すれば、この種目では、2016年8位の橋岡優輝(八王子高・東京)以来4年ぶり。表彰台ならば1990年2位の下仁さん(県船橋高・千葉)以来30年ぶりのこととなる。
日本選手権での「順位別最高記録」は、以下の通り。
・走幅跳では、公認と追風参考に関わらず順位がつくので追参の記録も含めた
1)8.20 2004年
2)8.06 1988年
3)8.01 1994年
4)7.92 2018年
5)7.84 2008・2018年
6)7.79w 2008年
7)7.78w 2008年
8)7.70w 1999年
このところの活況からすると、たくさんの順位別最高が生まれるかもしれない。
今年3月27日の国士舘大競技会で堤雄司(ALSOK群馬)が62m59を投げ、2018年の日本選手権で湯上剛輝(トヨタ自動車。62m16)に明け渡した「日本記録保持者」の称号をその手に取り戻した。
今シーズンの堤は、春先から好調だった。
2.15 ハミルトン 59.22
2.28 ウェリントン 61.60
3.27 国士大競技会 62.59 =日本新
4.04 国士大競技会 60.74
7.04 国士大競技会 57.85
7.18 群馬県選手権 56.38
8.23 スローワーズミーティング 57.33
9.20 全日本実業団 59.22
2月から4月にかけての「3試合連続60mオーバー」は、日本人初。「2試合連続60mオーバー」は、堤自身が、2017年8月18日(60m54)と9月23日(60m74)に達成していた(これも日本人初)が、自らこれを更新した。
コロナの影響で競技会が中断していたあとの7月以降は、春先よりも調子を落としていたが、9月の全日本実業団では59m台まで戻してきた。
10月3日の15時半過ぎから新潟の上空に「いい向風」が吹いているようならば、再度の「日本新」も期待できよう。
堤の日本選手権での成績は以下の通り。
2008 7)49.18
2009 6)49.98
2010 2)55.75
2011 3)54.70
2012 1)56.19 =初優勝
2013 2)55.67
2014 1)58.44 =2回目優勝
2015 1)57.15 =3回目優勝
2016 1)60.00 =4回目優勝
2017 1)59.09 =5回目優勝
2018 2)56.76
2019 1)61.64 =6回目優勝
6回の優勝を含め、2008年から12年連続入賞を継続中だ。
本来であれば、「前日本記録保持者」となった湯上との投げ合いが注目されていたが、今シーズンの湯上は調子を落としているようで、7月から月に1度のペースで出場した3試合は、いずれも53m台にとどまっている。9月20日の全日本実業団からの2週間でどれだけ力を取り戻してくるかである。2年前の日本選手権での2投目から4投連続60mオーバー(59.51-60.59-61.02-62.03-62.16-F)と3投目からの3投連続・日本新は圧巻だった。
日本選手権での「順位別最高記録」は、下記の通り。
1)62.16 2018年/64.20 1991年=外国人
2)58.53 2017年
3)57.38 2017年
4)56.38 2019年
5)55.14 2018年
6)54.12 2018年
7)54.05 2018年
8)54.04 2018年
2017年以降に層が厚くなっていることがわかる。
話は「記録と数字」からは少々それてしまうが、今回の円盤投とハンマー投は、男女ともに「補助競技場(サブトラック)」で行われる。日本選手権が終わった翌日の10月4日・14時00分にキックオフで、J2リーグの試合(アルビレックス新潟 vs FC町田ゼルビア)が本競技場で行われる予定で、「芝生保護のため」というのが、円盤とハンマーが補助競技場に追いやられた理由だ。
男子円盤投と同じ日(3日)の女子円盤投は、12時40分開始なので、16時10分からのトラック競技、15時05分と15時10分に始まる跳躍競技(男子三段跳と男子走高跳)の前に終了しそうだ。
よって、「新潟県民限定の入場券」を入手できた方は、サブトラに足を運べば女子の競技は生で観ることができるかもしれない。が、「日本新の期待」もある男子円盤投を生で観戦するには、トラック競技の最初の方の種目と跳躍競技のメインスタンドからの観戦をあきらめなければならなくなってしまいそうだ。なお、「サブトラで生観戦したい場合は」と書いたが、入場券でサブトラ付近にまでアクセスできるのかどうかは、現時点では不明ではあるけれども……。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
「日本一」を決める試合なので、本当は全種目についてふれたいところだが、原稿の締め切りまでの時間的な制約があったため、「日本新」が期待されたり、好勝負が予想される種目に関してのみの紹介になったことをご容赦いただきたい。
「コロナ」のため世界陸連(WA)の決定によって、今年4月6日から11月30日までの競技会の成績や記録は「五輪参加標準記録」や「WAランキングポイント」には反映されないが、「2020日本チャンピオン」を目指して各種目で選手たちが全力を尽くす。
なお、これまた「コロナ」に配慮して、「スタンドから生で観戦」ができるのは3日間とも「新潟県民2000人限定」となった。そのため、全国の陸上ファンの方々のほとんどが「TV」や「ライブ・ネット中継」での観戦となるが、その「お供」にしていただければ幸いである。
・記録は、9月27日判明分。
・記事は、9月28日時点の情報による。直前に「欠場」となった選手については、文中
に 【★*月*日に欠場を発表★】 と付記した。
【男子110mH】
金井vs高山の対決で3年連続の「日本新決着」も?
・予選/10月2日 15:55 4組3着+4
・準決/10月2日 18:55 2組3着+2
・決勝/10月3日 17:20
このところ、男子100mに勝るとも劣らないくらい充実しているのがこの種目だ。
2018年6月24日、山口での日本選手権で金井大旺(福井県スポーツ協会)が、13秒36で走って14年ぶりに日本記録を0秒03更新した。
それに大きな刺激を受けたのか、2019年には次々と日本タイ記録や日本新記録がマークされた。
2018年以降の日本記録変遷史は、
2018.06.24 | 日本選手権 | 13.36 | +0.7 | 金井大旺(福井県スポーツ協会)=日本新 |
2019.06.02 | 布勢スプリント | 13.36 | +1.9 | 高山峻野(ゼンリン)=日本タイ |
2019.06.30 | 日本選手権 | 13.36 | -0.6 | 高山峻野(ゼンリン)=日本タイ |
2019.06.30 | 日本選手権 | 13.36 | -0.6 | 泉谷駿介(順大)=日本タイ |
2019.07.27 | 実学対抗 | 13.30 | +1.9 | 高山峻野(ゼンリン)=日本新 |
2019.08.17 | ナイトGin福井 | 13.25 | +1.1 | 高山峻野(ゼンリン)=日本新 |
以上の通り。100分の1秒まで計時されるのに、2019年6月30日から7月27日に高山が13秒30をマークするまでの1カ月あまりの期間は、3人が「13秒36」の「日本記録保持者」として並んでいた。電動計時での記録に限ると、日本陸上競技史上初の出来事だった。
「2019年・世界リスト」では、
11)13.25 | +1.1 | 高山峻野(ゼンリン) | 8.17 |
23)13.36 | -0.6 | 泉谷駿介(順大) | 6.30 |
37)13.45 | +1.8 | 石田トーマス東(国武大) | 11.02 |
47)13.49 | +1.9 | 石川周平(富士通) | 6.02 |
54)13.51 | +1.4 | 金井大旺(ミズノ) | 9.01 |
54)13.51 | +1.4 | 矢澤航(デサントTC) | 9.01 |
76)13.59 | +1.4 | 栗城アンソニー(新潟アルビ) | 9.01 |
88)13.62 | -0.2 | 野本周成(愛媛陸協) | 10.07 |
93)13.63 | +1.9 | 藤井亮汰(三重県体協) | 10.07 |
と、9人が「世界100位以内(100位=13秒66)」に入傑した。
「2019年世界100位以内」の国別人数では、アメリカの24人、ジャマイカの11人についで世界3位の層の厚さだ。
ちなみに男子100mの「2019年世界100位以内(100位=10秒17)」の日本人は6人で、25人のアメリカ、10人のジャマイカ、7人のイギリスに続いて4番目。110mHの方が人数も順位も上だった。
さらに、110mHの2019年の勢いは2020年にも引き継がれていている。
日本のみならず、世界的に競技会が例年のように行われていないとはいえ、9月27日判明分の「2020年・世界リスト」では、
7)13.27 | +1.4 | 金井大旺(ミズノ) | 8.29 |
11)13.34 | +1.4 | 高山峻野(ゼンリン) | 8.29 |
13)13.39 | +1.4 | 石川周平(富士通) | 8.29 |
15)13.45 | +1.4 | 野本周成(愛媛陸協) | 8.29 |
29)13.57 | +1.5 | 藤井亮汰(三重県スポ協) | 8.29 |
33)13.60 | +1.4 | 高橋佑輔(DAC) | 8.29 |
40)13.62 | +1.4 | 増野元太(メイスンワーク) | 8.29 |
42)13.64 | +1.4 | 栗城アンソニー(新潟アルビ) | 8.29 |
43)13.65 | -0.4 | 村竹ラシッド(順大) | 8.23=U20世界1位 |
46)13.67 | +2.0 | 横地大雅(法大) | 8.29 |
以上の10人が50位(13秒69)以内。100位(13秒99)以内には、実に21人が名を連ねている。世界的に競技会の数が少ないとはいえ、王国・アメリカとフランスの7人のトリプルスコアでの「世界1位」だ。
とりわけ、「8月29日」の福井での「ナイト・ゲームズ」の追風1.4mの好条件で行われたレースが圧巻で、13秒40以内3人、13秒60以内6人、13秒64以内8人と史上初の「超ハイレベル」なレースとなった。
日本選手権・決勝での「着順別最高記録」は、
・「/」の後ろは、追風参考での最高記録
1)13.36 2018年・2019年
2)13.36 2019年
3)13.61 2017年/13.61w 2016年
4)13.67 2013年/13.66w 2016年
5)13.72 2013年/13.71w 2016年
6)13.80 2007・2017年/13.78w 2016年
7)13.80 2017年
8)13.91 2018年
で、福井のレースは各順位ともこれを上回った。
新潟でも「いい追風」に恵まれれば、「日本新」だけでなく、たくさんの「着順別新記録」も生まれそうだ。
「日本新」での決着となれば、3年連続となる。
2019年は、高山が好調で13秒25の日本新を筆頭に、「2019年・日本リスト」のパフォーマンス6位までを独占。同10位までのうち8つを占めた。ドーハ世界選手権でも国外日本人最高の13秒32(+0.4)で組の2着で予選を通過。準決勝では、3台目でトップに立つ快走を見せたが、5台目でリード脚の腿がハードルの上に乗り上げた格好で大きく失速。結果は6着に沈んだが、中盤までは「世界のファイナリスト」を指呼の間にとらえる走りをみせた。100mでもシーズン終わりの10月27日に10秒35(+1.0)、同じ日の予選では追風参考ながら10秒25(+3.3)で走った。
7月から競技会が再開され始めた2020年は、18年の日本選手権で日本記録(13秒39/谷川聡/2003年)を14年ぶりに13秒36に更新した金井が復活。8月2日の法大競技会で13秒34(+0.3)の自己新、8月29日の福井では、予選で13秒33(+2.0)の自己新、決勝では高山の日本記録に0秒02と迫る13秒27(+1.4)のまたもや自己新で、高山に0秒07差をつけた。金井は100mでも8月2日に向風0.6mのもと10秒41で走るなどスピードも増してきた(これまでの100mのベストは、2017年の10秒61/+0.3)。
今シーズンの状況からして「二強」と目される金井と高山のこれまで「決勝レース」での対戦成績は以下の通り。
年月日 | 競技会名 | 金井大旺 | vs | 高山峻野 | |
---|---|---|---|---|---|
2012.10.08 | 国体 | 6)14.48 | ● | ○ | 3)14.22 |
2014.05.03 | 法大競技会 | 2)13.96 | ○ | ● | 3)14.14 |
2015.05.15 | 関東学生 | 6)14.26 | ● | ○ | 4)13.97 |
2016.04.02 | 東京六大学 | 2)13.89 | ○ | ● | 3)13.93* |
2016.04.29 | 織田記念 | 5)13.95 | ● | ○ | 3)13.89 |
2016.05.20 | 関東学生 | 2)13.80 | ● | ○ | 1)13.75 |
2006.09.04 | 日本学生 | 4)14.25 | ● | ○ | 1)14.02 |
2017.04.29 | 織田記念 | 4)13.73 | ● | ○ | 3)13.67 |
2017.06.25 | 日本選手権 | 5)13.77 | ● | ○ | 1)13.45 |
2017.10.09 | 国体 | 2)13.58 | ○ | ● | 5)13.68 |
2018.04.29 | 織田記念 | 1)13.52 | ○ | ● | 5)13.76 |
2018.05.20 | GGP大阪 | 2)13.53 | ○ | ● | 3)13.55 |
2018.06.03 | 布勢スプリント | 1)13.52 | ○ | ● | 2)13.67 |
2018.06.24 | 日本選手権 | 1)13.36 | ○ | ● | 2)13.45 |
2018.08.28 | アジア競技会 | 7)13.74 | ● | ○ | 3)13.48 |
2019.04.24 | アジア選手権 | 5)13.64 | ● | ○ | 4)13.59 |
2019.05.19 | GGP大阪 | 3)13.47 | ○ | ● | 4)13.51 |
2019.08.17 | ナイトG福井 | 2)13.53 | ● | ○ | 1)13.25 |
2019.09.01 | 北麓トライアル | 3)13.51 | ● | ○ | 1)13.29 |
2020.08.23 | GGP東京 | 1)13.45 | ○ | ● | 3)13.74 |
2020.08.29 | ナイトG福井 | 1)13.27 | ○ | ● | 2)13.34 |
10 | 11 |
以上のとおりで、ほぼ互角の勝負であるが、2020年は、金井の2勝0敗。
この2人以外では、8月29日に福井で13秒39までベストを伸ばしてきた石川周平(富士通)、13秒4台の記録を持つ石田トーマス東(勝浦ゴルフ倶楽部)に野本周成(愛媛陸協)らも虎視眈々である。なお、野本は9月26日に100mで10秒36(+0.6)の大幅自己新(従来は、10.58/+0.5/2019年)をマークし、日本選手権に向けてはずみをつけた。
なお、2019年の日本選手権で優勝した高山と同タイムの2着で13秒36の日本タイ(U20日本新)をマークした泉谷駿介(順大)は、今年の春先と8月初旬にハムストリングスに肉離れを起こした。そんなことで、「2020年は我慢の年」という位置づけで、東京五輪を視野に向けて立て直しをはかる中での日本選手権となる。
ハードル1台のちょっとしたミスで大きく順位が変動するだけに、1台毎の展開に目が離せない。
【男子走幅跳】
橋岡が「V4」に挑む
・決勝/10月2日 18:202019年のこの種目は、活況を呈した。
8月17日の福井では、橋岡優輝(日大)が1回目にコーチでもある森長正樹さんが1992年にマークした8m25の日本記録を27年ぶりに更新する8m32(+1.6)。それから数十分後、3回目には城山正太郎(ゼンリン)が、8m40(+1.5)。27年間、止まっていた時計を2人が動かした。2人の影には隠れてしまったが、同じ試合で津波響樹(東洋大。現、大塚製薬)も8m23(+0.6)の日本歴代4位、小田大樹(ヤマダ電機)も8m03(+1.6)を跳んだ。
「2019年・世界リスト(室内の記録も含む。9月27日判明分)」では、
4)8.40 | +1.5 | 城山正太郎(ゼンリン) | 8.17 |
8)8.32 | +1.6 | 橋岡優樹(日大) | 8.17 |
14)8.23 | +0.6 | 津波響樹(東洋大) | 8.17 |
35)8.12 | +1.7 | 藤原孝輝(洛南高) | 8.05=U20&U18世界1位 |
60)8.04 | +0.8 | 山川夏輝(東武トップツアーズ) | 5.05 |
63)8.03 | +1.6 | 小田大樹(ヤマダ電機) | 8.17 |
85)7.98 | +1.4 | 小森翔太(友睦物流) | 4.27 |
89)7.97 | +1.3 | 手平裕士(オークワ) | 6.30 |
の8人が100位以内に名を連ねた。これは、アメリカの16人に続き2位で、ジャマイカの7人を上回った。
9月末のドーハ世界選手権では橋岡と城山がコンビで決勝に進み、橋岡が8位入賞、城山が11位だった。
2020年も橋岡は好調で、9月11日の日本インカレでは、現時点での2020年世界3位となる8m29(-0.6)をマーク。向風0.6mの中での記録だけにその価値は高い。今回、橋岡は「V4」に挑むが、実現すればこの種目での連勝記録としては、南部忠平さんの6連勝(1928~33年)、同じく6連勝の臼井淳一さん(1982~87年)、田島政次さんの4連勝(1950~53年)、寺野伸一さんの4連勝(2002~05年)と並び歴代3位タイとなる。コーチである森長さんの優勝回数は3回(1990・92・2000年)で現在並んでいるが、記録だけでなく優勝回数でも師を超えられるか?
橋岡以外は、今季は8mには達していなくて7m90台が4人に80台も4人と混戦模様。その中では、吉田弘道(立命大)が追風参考で8m05(+2.7)を、小田大樹(ヤマダ電機)が8m04(+2.5)をともに8月29日の福井で跳んでいる。
日本選手権には出場しないが、高校2年生の舞永夏稀(太成学院高・大阪)と北川凱(東海大翔洋高・静岡)が7m89(+1.1/9月18日)と7m81(+1.8/9月26)を、1年生の深沢瑞樹(東海大翔洋高・静岡)も7m67(+0.5/7月18日)を跳んでいるのは頼もしい。昨年のインターハイで8m12(+1.7)の大ジャンプをみせた高校3年生の藤原孝輝(洛南高・京都)は、今季は7m58(+1.5/8月29日)にとどまっているが、「高校生代表」として新潟でどんなジャンプをみせるか? 昨年の力を取り戻してきて入賞すれば、この種目では、2016年8位の橋岡優輝(八王子高・東京)以来4年ぶり。表彰台ならば1990年2位の下仁さん(県船橋高・千葉)以来30年ぶりのこととなる。
日本選手権での「順位別最高記録」は、以下の通り。
・走幅跳では、公認と追風参考に関わらず順位がつくので追参の記録も含めた
1)8.20 2004年
2)8.06 1988年
3)8.01 1994年
4)7.92 2018年
5)7.84 2008・2018年
6)7.79w 2008年
7)7.78w 2008年
8)7.70w 1999年
このところの活況からすると、たくさんの順位別最高が生まれるかもしれない。
【男子円盤投】
3月に「日本新」の堤に注目!
・決勝/10月3日 15:35今年3月27日の国士舘大競技会で堤雄司(ALSOK群馬)が62m59を投げ、2018年の日本選手権で湯上剛輝(トヨタ自動車。62m16)に明け渡した「日本記録保持者」の称号をその手に取り戻した。
今シーズンの堤は、春先から好調だった。
2.15 ハミルトン 59.22
2.28 ウェリントン 61.60
3.27 国士大競技会 62.59 =日本新
4.04 国士大競技会 60.74
7.04 国士大競技会 57.85
7.18 群馬県選手権 56.38
8.23 スローワーズミーティング 57.33
9.20 全日本実業団 59.22
2月から4月にかけての「3試合連続60mオーバー」は、日本人初。「2試合連続60mオーバー」は、堤自身が、2017年8月18日(60m54)と9月23日(60m74)に達成していた(これも日本人初)が、自らこれを更新した。
コロナの影響で競技会が中断していたあとの7月以降は、春先よりも調子を落としていたが、9月の全日本実業団では59m台まで戻してきた。
10月3日の15時半過ぎから新潟の上空に「いい向風」が吹いているようならば、再度の「日本新」も期待できよう。
堤の日本選手権での成績は以下の通り。
2008 7)49.18
2009 6)49.98
2010 2)55.75
2011 3)54.70
2012 1)56.19 =初優勝
2013 2)55.67
2014 1)58.44 =2回目優勝
2015 1)57.15 =3回目優勝
2016 1)60.00 =4回目優勝
2017 1)59.09 =5回目優勝
2018 2)56.76
2019 1)61.64 =6回目優勝
6回の優勝を含め、2008年から12年連続入賞を継続中だ。
本来であれば、「前日本記録保持者」となった湯上との投げ合いが注目されていたが、今シーズンの湯上は調子を落としているようで、7月から月に1度のペースで出場した3試合は、いずれも53m台にとどまっている。9月20日の全日本実業団からの2週間でどれだけ力を取り戻してくるかである。2年前の日本選手権での2投目から4投連続60mオーバー(59.51-60.59-61.02-62.03-62.16-F)と3投目からの3投連続・日本新は圧巻だった。
日本選手権での「順位別最高記録」は、下記の通り。
1)62.16 2018年/64.20 1991年=外国人
2)58.53 2017年
3)57.38 2017年
4)56.38 2019年
5)55.14 2018年
6)54.12 2018年
7)54.05 2018年
8)54.04 2018年
2017年以降に層が厚くなっていることがわかる。
話は「記録と数字」からは少々それてしまうが、今回の円盤投とハンマー投は、男女ともに「補助競技場(サブトラック)」で行われる。日本選手権が終わった翌日の10月4日・14時00分にキックオフで、J2リーグの試合(アルビレックス新潟 vs FC町田ゼルビア)が本競技場で行われる予定で、「芝生保護のため」というのが、円盤とハンマーが補助競技場に追いやられた理由だ。
男子円盤投と同じ日(3日)の女子円盤投は、12時40分開始なので、16時10分からのトラック競技、15時05分と15時10分に始まる跳躍競技(男子三段跳と男子走高跳)の前に終了しそうだ。
よって、「新潟県民限定の入場券」を入手できた方は、サブトラに足を運べば女子の競技は生で観ることができるかもしれない。が、「日本新の期待」もある男子円盤投を生で観戦するには、トラック競技の最初の方の種目と跳躍競技のメインスタンドからの観戦をあきらめなければならなくなってしまいそうだ。なお、「サブトラで生観戦したい場合は」と書いたが、入場券でサブトラ付近にまでアクセスできるのかどうかは、現時点では不明ではあるけれども……。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト