第103回日本選手権50km競歩が4月14日、石川県輪島市の「道の駅輪島ふらっと訪夢」前をスタート・フィニッシュとする往復2kmの折り返しコースで、ドーハ世界選手権の代表選考会を兼ねて行われました。
男子は、20km競歩の世界記録保持者の鈴木雄介選手(富士通)が3時間39分07秒の日本新記録で優勝。2位の川野将虎選手(東洋大)も従来の日本記録を上回る3時間39分24秒をマークし、自身が昨年樹立した学生記録を大幅に更新しました。また、3位の丸尾知司選手(愛知製鋼)も日本歴代4位となる3時間40分04秒(大会新)でフィニッシュ。2018年の同種目世界リストで見ると、鈴木・川野選手が1位の記録(野田明宏選手の3時間39分47秒=日本記録)を上回り、丸尾選手は同2位に相当するという、実にハイレベルな結果となりました。
オープン種目として昨年から実施されている女子50kmでも、女子20km日本記録保持者の渕瀬真寿美選手(建装工業)が4時間19分56秒の日本新記録でフィニッシュ。昨年、樹立された日本記録(4時間29分45秒、園田世玲奈)を大幅に更新して優勝を果たしています。
■20km競歩世界記録保持者の鈴木選手、圧巻のレースで50kmでも日本新記録!
男子50km競歩は、9月末に開幕するドーハ世界選手権男子50km競歩の残り1枠の座を巡って争われました。午前7時30分に女子50kmとともにスタートしたレースで、すぐに飛び出したのは、リオ五輪男子20km7位入賞の実績を持ち、50kmは初挑戦となる松永大介選手(富士通)。最初の1周(2km)を8分56秒で入ると、2周目を8分54秒、5kmの通過が22分17秒となった3周目は8分48秒、4周目は8分42秒、5周目は8分40秒(10kmは43分58秒で通過)と徐々にペースを上げていきました。6・7周目を8分34秒で回って15kmを1時間05分22秒(この間の5kmは21分24秒)で通過すると、15~16kmの1kmでは4分09秒にペースアップ。20kmを1時間26分27秒(この間の5kmを21分05秒)、25kmでは1時間47分19秒(20分52秒)とぐんぐんペースを上げていきました。30kmでは従来の日本記録(2時間10分09秒、1996年)を大きく上回る2時間08分13秒で通過。この段階で5人の集団となっていた2位グループとの差は1kmまで広がりましたが、その後、ややペースが落ち、32~34kmは1km4分20秒を切れなくなると、34~35kmは4分48秒にペースダウン。35km地点では左足に変調を来した様子で、止まったり歩いたりしつつ2時間30分13秒で通過したものの、直後の給水地点付近で無念の途中棄権となりました。のちに左足底の皮が剥けてしまっていたことが明らかになりましたが、この棄権により、30km通過時点の日本記録は、残念ながら幻となってしまいました。一方、レース序盤から松永選手に続く2番手につけていたのは、50km日本記録保持者の野田明宏選手(自衛隊体育学校)。5kmを22分23秒、10kmは44分18秒、15kmは1時間05分28秒で通過。15~16kmでは4分08秒のラップを刻み、一度は前を行く松永選手を追うような気配も見せていましたが、その後は1km4分20秒台にペースを落として単独2位でレースを進めていく形となりました。25kmの通過は1時間49分42秒と、その段階でも自身の日本記録を上回るペースで歩いていましたが、ここで腹痛を起こしてしまい、27km以降は大きくペースダウン。31kmを過ぎたところで棄権しました。
松永選手と野田選手に続いていた集団は、5kmの段階では、20km世界記録保持者の鈴木雄介選手(富士通)、20km・50km学生記録保持者の川野将虎選手(東洋大)、リオ五輪銅・ロンドン世界選手権銀メダリストの荒井広宙選手(富士通)、50kmアジア大会金メダリストの勝木隼人選手(自衛隊体育学校)、ロンドン世界選手権20km銅メダリストの小林快選手(新潟アルビレックスRC)、ロンドン世界選手権5位の丸尾知司選手(愛知製鋼)、リオ五輪4位でオープン参加のエヴァン・ダンフィー選手(カナダ)の7人が3位グループを形成していましたが、6km地点で鈴木選手が単独3位となると、8km地点では川野選手が鈴木選手に追いついて2人で進み、その後ろで5選手が5位グループをつくる展開となりました。さらに5位グループは、12km付近で勝木選手とダンフィー選手が遅れたことで、ロンドン世界選手権入賞トリオの荒井選手・小林選手・丸尾選手の3人に。15kmを1時間06分46秒、20kmは1時間28分37~38秒で通過した3選手は、その後、前を行く鈴木・川野選手との差を詰め、24km地点では5人が3位集団となって25kmを1時間50分31~32秒で通過すると、27~28kmで失速した野田選手を交わして2位に浮上。30kmは2時間12分41~42秒で通過しました。
この段階では、ロンドン世界選手権代表組が有利のようにも思われましたが、意外にも小林選手、そして荒井選手が33km以降でやや集団から遅れがちになってきます。35km過ぎで松永選手が棄権したことで、トップグループとなった集団は、鈴木選手と・川野選手が先頭に立って、これにぴったりつく丸尾選手がひとかたまりとなって35kmを2時間34分20~21秒で通過し、荒井選手と小林選手は2秒遅れて続きましたが、18周目を終えた36km地点で、この1kmを4分12秒にペースを上げた鈴木選手につくことができたのは川野選手のみとなり、4秒遅れで丸尾選手、その1秒後ろに小林選手、さらに2秒差で荒井選手が続くという隊列へと変わりました。鈴木選手は次の1kmを4分14秒で回ったものの、川野選手も粘って離れません。すると、鈴木選手は次の1kmを、大会最速ラップとなる4分04秒にペースアップ。さすがに川野選手もつくことができず、ここで鈴木選手が単独首位に立ちました。
鈴木選手は、39kmまでを4分11秒で、40kmまでは4分08秒でカバーして2時間55分09秒で通過。その後も、4分11秒、4分10秒、4分15秒、4分16秒、4分22秒のラップを刻んで45kmを3時間16分23秒で通過し、46km地点では2位の川野選手との差を55秒まで広げました。しかし、自身もレース後に「50kmの洗礼を受けたような感じ」と振り返ったように、その後はペースが維持できなくなり、48~49kmは4分43秒にペースダウン。49~50kmも4分42秒と苦しみましたが、追い上げてきた川野選手、丸尾選手を寄せつけることなく3時間39分07秒の日本新記録でフィニッシュ。50kmで初の日本選手権タイトルを獲得するとともに、ドーハ世界選手権の代表内定条件も満たしました。
2015年に20kmで1時間16分36秒の世界新記録を樹立した鈴木選手が、その後、股関節を痛めて、途中棄権した同年北京世界選手権以降は、治療とリハビリに専念する状態が続いていたことは広く知られているところ。昨年5月の東日本実業団で2年9カ月ぶりにレースに復帰、その後、秋のトラックレースを経て、3月の全日本競歩能美大会で、2015年世界選手権以来の20kmに挑みました。持ち味の攻める展開を披露して1時間17分47秒の好記録でフィニッシュしたものの、世界歴代4位(日本歴代2位)の1時間17分15秒をマークして優勝した山西利和選手(愛知製鋼)、1時間17分24秒の学生新記録(日本歴代3位)を樹立した川野将虎選手、同学生歴代2位(日本歴代4位)となる1時間17分25秒で続いた池田向希選手(以上、東洋大)に先着されて4位。出場を視野に入れていた20kmでのドーハ世界選手権代表の座を逃していました。
日常のトレーニングで50kmレースにも対応できる身体づくりをしてきていたこともあり、急きょ、輪島への参戦を決意。「50kmは、過去のこの大会に2回出場しているが、練習の一環として30kmで途中棄権する前提だったので、完歩すると決めて臨んだ今回が、実質初レース」という状態ながら、1km4分10秒を切るという従来の50kmでは考えられなかったペースで、スピードの切り替えを随所で披露。東京オリンピックに向けて20kmだけでなく、50kmでもメダルを狙える可能性があることを知らしめました。一方で、内定条件を満たしたドーハ世界選手権については、「東京オリンピックでの金メダル獲得」を最大目標とするなかで代表を辞退する可能性があることも示し、「改めて早急に検討し、結論を出す」と述べるにとどまりました(鈴木選手の優勝コメントおよび新記録樹立コメントは、別途下記に掲載)。
鈴木選手に続いたのは、20kmでも世界選手権代表争いに大きく迫っていた大学2年生の川野選手でした。残り1周の時点で鈴木選手との差は54秒ありましたが、48~49kmを4分30秒でカバーして、ここで鈴木選手との差を41秒まで縮めると、最後の1kmを4分18秒にまで引き上げて鈴木選手に迫り、ラスト5kmを最速となる22分13秒でまとめて3分39分24秒でフィニッシュ。従来の日本記録を上回るとともに、自身が昨年の全日本競歩高畠大会で樹立した3時間47分30秒の学生記録を大幅に塗り替えました(川野選手の新記録樹立コメントは、別途下記に掲載)。3位には丸尾選手が日本歴代4位となる3時間40分04秒の好記録をマークして、ロンドン世界選手権メダリスト2選手に先着。4位には48km手前で小林選手を逆転した荒井選手が3時間43分02秒で続き、以下、小林選手が3時間43分46秒(5位)、勝木選手が3時間45分05秒(6位)でフィニッシュする結果となりました。
■女子50kmでも、20km日本記録保持者の渕瀬選手が日本新記録を樹立
昨年度から日本記録として公認される種目となった女子50km競歩は、今回も日本選手権のオープン種目として行われ、海外からのオープン参加1名を含めて7選手が出場しましたが、前回覇者で日本記録保持者(4時間29分45秒)の園田世玲奈選手(NTN)を含めて5名が途中棄権する展開となり、完歩した者は2名のみとなりました。レースを制したのは、女子20kmの日本記録保持者(1時間28分03秒)の渕瀬真寿美選手(建装工業)。1km5分のペースで4時間10分を切ることを目指していたという渕瀬選手は、スタート直後から1km4分55秒を切るペースでレースを展開していきました。最初の5kmを24分26秒で入ると、以降、10kmまでを24分35秒、15kmまでを24分36秒、20kmまでを24秒33秒と、ハイペースで歩を進めていきます。2時間02分53秒での通過となった25km(中間点)までの5kmは24分43秒とややペースを落としましたが、次の30kmまでを24分31秒に戻すと、35kmまでの5kmは24分44秒で通過しました。しかし、37kmを過ぎたあたりから1km4分台でのペースが難しくなってくると、40kmまでの5kmは26分38秒へとペースダウン。「心肺や、意識には問題なかったが、完全に脚に来てしまった」と、両脚の各部位がけいれんを起こし続ける状況に見舞われてしまいます。次の5kmを26分30秒と懸命に維持しましたが、最後の5kmは34分40秒かかる苦しい展開となってしまいました。しかし、渕瀬選手は、立ち止まっては屈伸したりストレッチしたりと懸命に思い通りに動かない身体をなだめつつ完歩。目指していた4時間10分切りはならなかったものの、従来の記録を一気に9分49秒も更新する4時間19分56秒の日本新記録を樹立しました。
兵庫県出身の渕瀬選手は、1986年生まれ。須磨学園高時代に長距離種目に取り組んでいましたが、故障をきっかけに始めた競歩で頭角を現しました。龍谷大2年の2007年1月に20kmで初めて日本記録を樹立すると、同年大阪で開催された世界選手権に初出場すると、その後、3大会連続で出場しました。大学4年時の2009年1月の日本選手権で1時間28分03秒の現日本記録をマーク。社会人1年目となった同年ベルリン世界選手権では日本女子競歩史上初となる6位に入賞(大会後、上位選手のドーピングにより7位から繰り上がる)を果たし、2102年ロンドン五輪でもセカンドベストの1時間28分41秒をマークして10位(大会後、上位選手のドーピングにより11位から繰り上がる)の結果を残すなど、女子競歩界のエースとして活躍してきました。
その後、2014年ごろから股関節周りの痛みと脚に力が入らなくなる症状に見舞われたことをきっかけに故障が続き、長らく低迷していましたが、建装工業所属となった昨シーズンから症状に改善がみられるようになると徐々に復調。2月に行われた日本選手権20km競歩では1時間32分23秒で4位に食い込んでいました。50kmは、2007年にトレーニングの一環としてサロマ湖100kmウルトラマラソンの50kmの部に出場して競歩でレースを進め、4時間34分41秒でフィニッシュした経験を持っています(競歩審判がいないため、競歩としては非公認となる)が、公認レースに出場したのは今回が初めて。この結果、渕瀬選手も鈴木雄介選手と同じく競歩2種目でのナショナルレコードホルダーとなりました(渕瀬選手の新記録樹立コメントは、下記に別途掲載)。
女子50kmは、前回のロンドン大会に続き、今秋のドーハ世界選手権で実施されます。参加標準記録は4時間30分00秒であるため、渕瀬選手はこの記録を上回ったことになりますが、派遣設定記録が組まれていないため、今後、代表選考会議にて協議されることとなります。
■全日本競歩女子10kmは世界選手権20km代表の藤井選手が“2連覇”
この大会では、併催している第58回全日本競歩輪島大会として10km競歩、ジュニア10km競歩、高校5km競歩、高校1・2年3km競歩が各男女で行われています。4月13日に行われた女子10kmには、先日、20km競歩で世界選手権代表に選出されたばかりの藤井菜々子選手(エディオン)が出場。自己新記録の44分40秒でフィニッシュし、ジュニアの部で出場しながらシニアの記録も上回って優勝した前回に続く“連覇”を達成しました。このほか、女子ジュニア10kmは藪田みのり選手(西宮高)が47分18秒で、男子10kmは諏方元郁選手(中越よつば森林組合)が40分36秒で、男子ジュニア10kmは石田理人選手(尼崎西高)が42分02秒で、それぞれ優勝を果たしています。高校1・2年生3kmは、男子は下村智哉選手(小松大谷高)が14分00秒で、女子は竹川玲奈選手(星稜高)が14分43秒で、それぞれタイトルを獲得。また、4月14日に行われた高校男子5kmでは、前日のジュニア10kmで3位だった宮原空哉選手(鳥栖工高)が20分30秒の大会新記録で優勝。同じく前日のジュニア10km優勝の石田理人選手(尼崎西高)が21分13秒で2位となりました。高校女子5kmは、磯部あゆ選手(十日町総合高)が24分36秒で制しています。
【選手コメント】
■日本選手権獲得者、新記録樹立者コメント
◎鈴木雄介(富士通)
日本選手権男子50km競歩 優勝 3時間39分07秒 =日本新記録
50kmの練習自体は、実はずっと昔から取り組んでいて、冬場に40kmを年に1~2回は入れていた。この冬も12月に40kmを踏んだり、35kmをある程度速いペースで歩いたりしていたので、50kmも歩ききれるだろうという算段はあった。
今回、出場を決めた背景には、まず、20kmの層が厚くなりすぎているというのがある。自分は20kmという種目が好きで、20kmのスペシャリストという自負もあるが、東京オリンピックでは金メダルを獲得することを目標に掲げていて、それは20kmでも50kmでもいいと考えている。能美が(1時間17分47秒で4位に)終わったあと、改めて東京オリンピックの代表権を取るにはどうすればいいのかを考えたとき、自分の実力を上げていけば50kmのほうが代表権を得やすいのではないかということと、(本番で)金メダルを取るという点でも50kmの選択肢はありだなと思った。一発勝負で五輪選考会に挑むのは、さすがにギャンブルすぎるので、まずは一度、試してみようとエントリーを決めた。また、50kmは再来年の世界選手権までの種目となるわけだが、今、自分は20kmの世界記録を持っていて、50kmでも世界記録を目指したいなという思いもあったので、このタイミングで50kmをまずは完歩してみようと思った。
レースは、プラン通りに行ったと思う。20kmのレースで必要なスピードに比べるとペースに余裕があるので、35kmまでは(ペースを)上げたい気持ちを我慢して、その我慢をリミッターとして歩き、35km以降はリミッターを外すつもりで歩いた。レースプランから少し外れたのは37~38kmを4分04秒に上げたこと。本当は、35~40kmのところは4分15秒ペースで歩きつつ、ラスト10kmのどこかで4分0秒台を出して、後半上げていくというイメージだった。しかし、川野くんが強く、多少ペースを上げても粘ってついてきていたので、そこで離したいなという思いがあって、ちょっと力んでしまった。また、ラスト5kmは脚が全く動かない状態で、すごくきつかった。そこで「50kmの洗礼を浴びた」という思いだった。
一方で、ペースを上げたところで50kmを専門にやってきた選手たちがついてこられなかったことは、スピードの余裕度が生きたといえる。自分は1km4分0秒台に対して全然抵抗がないので、50kmの試合のなかでも、そのイメージを持つことができていた。そこは20kmをやってきたことが生きたのかなとも思う。
今回のレースで、50kmの手応えを感じることはできた。しかし、その手応えも得つつも、自分が本当に狙っていこうとしている東京オリンピックの金メダルや世界記録ということを考えたときには、課題も多く残った。35kmから4分15秒のペースで押していければ、世界記録を狙えるという自信にもなったが、やはりラスト10km、5kmでペースが落ちてきたところは今後の課題かなと思う。
(ドーハ世界選手権については)日本記録を出して、代表内定の権利を得ているので、本来ならば出るべき大会だと思う。ただ、自分の目標は、東京オリンピックの金メダル。そこを目指す上で、ドーハをどう位置づけるかということは、今、本当に悩んでいる。深夜のレースで身体へのダメージは大きいと思うが、東京オリンピックの代表争いとなると、高畠よりはドーハのほうが代表権を得やすいのかもしれないし、世界陸上で金メダルを取りたいという思いもある。一方で、自分は20kmが好きという思いもあって、いろいろな葛藤がある。今村コーチともよく相談したうえで、今後の戦略を考えていきたい。
■新記録樹立者コメント
◎川野将虎(東洋大)日本選手権男子50km競歩 2位 3時間39分24秒 =日本新記録、学生新記録
能美で20kmを歩いたばかりだが、学生記録(1時間17分24秒)を出したからと、そこで満足しちゃいけないなと思っていたこと、また、自分が目指しているのは20km、50kmのどちらも歩ける選手になることだという気持ちがあって、今回の50kmに臨んだ。(同じ東洋大の)池田(向希)が20kmで世界陸上代表に選ばれたので、自分も負けてはいられないと、今回、世界陸上を狙うつもりで出場した。(錚々たる顔ぶれが並ぶ)エントリーリストを見て緊張もあったが、それ以上に楽しみという思いがあった。実績のない自分は、チャレンジャーとして臨めたことで、気持ちを楽に持って戦えたのかなと思う。
(鈴木選手と2人で歩く展開が長く続いたが)35kmからレースが動いてくると思っていた。鈴木さんが途中でペースを上げたりしたが、そこで様子を見るとか、いったん離れるとかではなく、「チャンスと思ったときにはついていく」という気持ちで臨んだ。(鈴木選手に突き放されてからフィニッシュに向かうまでは)監督からも檄をいただいていたし、また、観客の皆さんもずっと応援してくださった。それらによって自分を奮い立たせて、ぎりぎりまで追い込むことができたかなと思う。
ゴールした瞬間は、(鈴木選手との)差もすごく縮まっていて、背中も見えていた。もう少しレース展開や自分の今までの練習の取り組み方を変えていたら追いつけたのではないかなと、今は、ちょっと悔しい気持ちもある。ただ、鈴木さんと一緒に隣を歩いているなかで、注意を1回も出されないとか、ペースが上下するなかでも全然崩れなくて軸もしっかりしているところとかは、すごいなと感じた。また、思いきりよく勝負を仕掛けるというのも自分にはできないことなので見習いたいなと思った。
今年に入ってから、練習も今までにないようなものを取り入れ、継続してできてきた。それがこの前の能美の(20kmの)学生記録や、今回ペースを落とさずにラストで上げる(最後の1kmを4分18秒にペースアップした)ことができた要因の1つだだと思う。
50kmは今回で2回目だが、高校のときから50km競歩で東京オリンピックを目指そうという気持ちがあった。距離の練習はもともと得意としてきていたので、前向きにやれるということと、ほかの選手に比べて自分はしっかり食べられるほうなので、そういった面も(50kmの適性に)関係しているのかなと思っている。
まずはしっかり東京オリンピックに出場して、そこで金メダルを取ることを目標にやっていきたい。
◎渕瀬真寿美(建装工業)
日本選手権(オープン)女子50km競歩 1位 4時間19分56秒 =日本新記録
50kmの公認レース自体は初めてだが、2007年に大阪世界陸上(20km競歩で出場)に向けた練習の一環として、距離を踏むことを目的にサロマ湖(100kmウルトラマラソン)の50kmの部に出て、非公式だが3時間34分で歩いた経験はある。
今回は、特に50kmのための練習はしていなかったが、ここまで20kmでの(ドーハ)世界陸上を狙って日本選手権(神戸)と能美大会(全日本20km競歩)に向けたトレーニングをするなかで、ある程度の距離を踏む練習もやっていたので、「挑戦してみようかな」という気持ちで出場した。目標にしていたのは、(1km)5分ペースで4時間10分を切ること。女子50kmは(ドーハ世界選手権に)派遣するのかどうかわからないと聞いていたし、出るからにはドーハに行きたいという気持ちもあった。ただし(参加標準記録の)4時間半を出したくらいでは代表入りは厳しいと思っていて、4時間10分を切るくらいが、世界と戦えることが見えるラインかなと考えていた。
レースをしてみて改めて実感したのは、50kmでは足をつくることが大切という点。練習では最長で36kmまでやっていたが、その残り14kmが、「あと14kmだから(歩ける)」といかないのだなと思った。40km手前くらいから(1km)5分かかってしまうようになり、その後、大きくペースダウンしてしまった。本当に脚にだけ来てしまったという状態でけいれんが起き、特に45km以降は、足の指、ふくらはぎ、太ももが順番につっていまい、最後は肩にまで(けいれんが)来てしまっていた。
(34分40秒かかった最後の5kmは)もし、呼吸ができないとか、(朦朧として)ふらふらで歩けないとかいう状況であったなら、たぶんやめていたと思う。しかし、心肺的にはそれほど来ていなくて、意識もはっきりしていたので、ここでやめるのはもったいないと(笑)。とにかくつってしまったところを緩めたり伸ばしたりして、なんとかしてゴールへ向かうことを考えた。
2014年以降、股関節周りの故障の影響で結果が出せなくなり、一番状態がひどかった2016~2017年のころは、十分に練習もできない状況となっていた。現在の所属先は、アスナビを通じて、2017年12月から所属することになったが、それでも応援したいとサポートしてくださることになった。そういう方々がいることは、本当に大きな力になっている。まだ症状は完全になくなっているわけではないが、以前よりも状態は改善されていて、距離も踏めるようになってきた。何よりも、「妥協せずに自分一人でも追い込んだ練習ができているということ」が、自分が競技を続けていく上でのモチベーションになっている。
2009年の日本選手権20km競歩で1時間28分03秒の日本記録を出して、今年でちょうど10年。もうすぐ岡田さん(久美子、ビックカメラ)に更新されてしまいそうだが、自分のなかの一番の思いとしては、もう一度、20kmで記録を更新したいという気持ち、そして、20kmで東京オリンピックを目指したいという気持ちがある。また、今日、(50kmで)日本記録を切ることができて嬉しかったが、もっと記録を更新していきたいということも感じた。
今回、同じくらいの時期に同じように股関節周りを痛めていた鈴木くん(雄介、富士通)が復活したが、私も頑張りたいなとすごく思った。女子も岡田さんに続いて藤井さん(菜々子、エディオン)も伸びてきて、少しずつ男子に続けるようになってきている。私も、少しでも刺激を与えられるようになれたらなと思う。
※本文中、1kmあるいは周回のラップは速報および筆者計測による記録。5kmごとのスプリットおよびラップは公式発表の記録である。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
写真提供:フォート・キシモト
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