日本室内陸上大阪大会が2月2~3日、大阪府大阪市の大阪城ホールにおいて行われました。今回から出場年齢のカテゴリがU16、U18、U20の3区分となり、U16は男女6種目、U18は男女7種目、U20は男女12種目を実施。これらにオープン競技としてシニア男女7種目と小学生男女各60mが組み込まれ、昨年までの「U20日本室内」から名称も変更されての開催に。男女ハードル種目において、U20室内日本記録2、U20室内日本タイ記録1がアナウンスされたほか、各種目で好記録が誕生しました。
2日間の模様を、デイリーハイライトでお届けします。
◎第1日:2月2日
大会初日は、ハードル種目を中心に、立て続けに好記録が誕生しました。
レベルの高いレースが続いたのは女子。まず、U20女子60mH予選6組で芝田愛花選手(恵庭南高・北海道)が従来の大会記録(8秒44、2013年)を更新し、2010年に記録されたU20室内日本記録の8秒40に迫る8秒43をマークすると、その直後に行われたシニア女子60mH第1レースに出場した100mH高校記録保持者(13秒34、2018年)の小林歩未選手(市立船橋高・千葉、ダイヤモンドアスリート)が、2着ながら8秒29でフィニッシュし、U20日本新記録を塗り替えました。
4時間弱のインターバルをとって行われたU20女子60mHのA決勝では、芝田選手が「出遅れてしまった」と振り返る状況下のレースながら、U20日本歴代3位となる8秒41で先着。大会記録を再度更新して優勝を果たしたほか、2位の安藤愛未選手(至学館高・愛知、8秒47)、3位の島野真生選手(東京高・東京、8秒47)までが8秒4台をマークしました。
続いてのスタートとなったシニア60mH第2レースでは、昨年の日本選手権者でアジア大会代表の青木益未選手(七十七銀行)が室内日本記録(8秒12、1999年)に0秒06と迫る8秒18の好記録で第1レース(8秒26)に続きトップでフィニッシュ。小林選手は、「ちょっと力んでしまった」と再度の記録更新はかないませんでしたが、それでも従来のU20日本記録を大幅に上回る8秒31で2位を占めました(新記録を樹立した小林選手のコメントは下記に掲載)。シニアU60mHを制した青木選手は、レース後、実は直前の沖縄合宿で腰を痛めていたなかでの出場だったことを明かし、「腰の位置を高く保つと痛みが薄れることに気づき、それを意識して走った」とコメント。そのなかでの好記録に、屋外シーズンに向けて好感触を得た様子でした。
U20規格で行われたU20男子60mHのA決勝では、昨年の110mHインターハイチャンピオンの阿部龍斗選手(福岡大附大濠高・福岡)と、U20日本記録が更新(7秒71)された前回大会で阿部選手に先着して2位の成績を残している森田翔音選手(大塚高・大阪)が激しく競り合いながらフィニッシュ。阿部選手が7秒70のU20日本新記録で制し、2位の森田選手も7秒70のU20日本タイ記録をマークするハイレベルな結果となりました(新記録を樹立した阿部選手、森田選手のコメントは下記に掲載)。
U18男子棒高跳では、前回大会で中学生として初の5mボウルター(5m05=中学記録)となり、昨年のユースオリンピックでは銀メダルを獲得している古澤一生選手(前橋育英高・群馬)が、そのユースオリンピックでマークした高1最高の5m22を更新する5m23を1回で成功。続けて挑戦した5m30のクリアはなりませんでしたが、中学男子で出場した前回、前々回に続く3年連続優勝を果たしました。古澤選手は「5m30を目標にしていたので、クリアできず悔しい」と振り返りつつも、助走スピードがつくなど、成長の手応えは実感している様子。高校2年となる2018年シーズンは、「5m40を目標にして、これが越えられたら高校記録(5m50、2017年)を目指したい」と、頼もしい言葉も聞かせてくれました。
このほか、U18女子60mでは、2位でフィニッシュした中学3年生の角良子選手(美保中・鳥取)が7秒50をマークして、この種目の中学最高記録(7秒60、2016年)を更新。U20規格で実施されたU18男子60mHでは、昨年の全日中110mHチャンピオンの鹿田真翔選手(飯山中)が、高校生選手に交じって、7秒92で2位に食い込みました。また、中学生規格で実施されたU16女子60mHでも、優勝した藤原かれん選手(神河中・兵庫、8秒52)、2位の塚本萌乃選手(ちはら台南中・千葉、8秒53)が中学最高記録(8秒57、2010年)を塗り替える好走を見せています。
◎第2日:2月3日
大会2日目に一番の注目を集めたのは、シニア男子60mといえるでしょう。2017年ロンドン世界選手権男子4×100mR銅メダリストで昨年のアジア大会のこの種目でも金メダルメンバーの多田修平選手(関西学院大)がエントリー。大阪出身の多田選手は、住友電工所属の社会人となるこの春からは、トレーニング拠点を関東に移すことが決まっています。関西学院大のユニフォームで日本の競技会を走るのはこれが最後ということもあり、観客や地元関係者が見守るなかでのレースとなりました。
14時15分から行われた第1レースでは、スタートは川上拓也選手(大阪ガス)にやや先行されましたが、その後、リードを奪いかえすと、朝原宣治選手(大阪ガス)が1997年に樹立した室内日本記録6秒55に0.03秒と迫る6秒58で先着。この記録は、朝原選手、そして、100m日本記録保持者の桐生祥秀選手(当時東洋大、現日本生命)が2016年の世界室内でマークした6秒56に続く日本歴代3位の好記録。多田選手に続いて2着でフィニッシュした川上選手も、同4位となる6秒61をマークしました。新記録誕生の期待も寄せられた第2レースは約3時間後に行われ、多田選手は2位以下に0秒15秒の差をつけてフィニッシュしましたが記録の更新はかなわず、6秒63でレースを終えました。
レース後、ファンサービスの握手会を行ったあとで取材に応じた多田選手は、第1レースの6秒58について、「6秒6~7が出たらいいかなと思っていたのでびっくりした」と言いつつも、「走りの感覚がいいが、スタートはまだまだだった」と100%満足がいくレースではなかったことを明らかにしました。第2レースについては「6秒58が出たので、記録を狙って、力んでしまった。いい走りではなかった」と苦笑い。それでも「これまでのベストは6秒66なので、いいスタートが切れたと思う」と振り返り、屋外シーズンに向けて順調に推移している様子を伺わせました。2月5日からはアメリカで合宿に入り、滞在中には2試合に出場の予定。「スタートを修正して、アメリカでは(記録を)出したい」と抱負を語るとともに、「最低でも9秒台。日本選手権で勝って、(9秒台を)出せたら…」と屋外シーズンにも強い意欲を見せました。
大会2日目最初の決勝種目となった女子走幅跳は、U20とシニアが同時に行われました。
U20には、日本選手権2連覇中で、昨年はU20世界選手権銀メダル、アジアジュニア選手権ではU20日本タイ記録の6m44(2018年日本リスト1位)をマークしたほか、インターハイでも3連覇を達成している高良彩花選手(園田学園高・兵庫)が出場しました。1993年以来塗り替えられていない6m20のU20室内日本記録更新も期待されましたが、屋内走路特有の「タータン(走路)の跳ねる感じ」(高良選手)の攻略に苦労し、1回目と4回目にマークした5m98がこの日の最高記録となり更新はならず。それでも、5m98、5m90、5m80、5m98、ファウル、5m93と安定した跳躍でシリーズを揃え、シニアの優勝記録(5m92)も上回りました。2月5~26日からはエストニアで合宿を張る予定。期間中には競技会の出場も予定しているというだけに、新記録誕生のニュースが届く可能性もありそうです。
高良選手に続き5m93で2位となったのは、昨年、この種目を1年生ながら5m99で制し、秋のユースオリンピックで5位の結果を残した中津川亜月選手(浜松市立高・静岡)。1回のファウルを除く5回の試技で5m79以上をマーク。そのうち5m90台を2回と、こちらも安定感のある跳躍を披露し、高校最後の屋外シーズンに向けて期待を抱かせました。
オープンで行われた男子小学生60mでは、前回、5年生ながら7秒42の大会新記録で優勝し、昨年の全国小学生交流大会の6年男子100mを制して、5年時に続く連覇を達成するとともに、同大会の予選で11秒72(+0.2)の小学生最高記録を樹立している服部蓮太郎選手(桜井AC・奈良)が出場。予選で7秒41をマークして、自身が昨年出した大会記録を塗り替えると、A決勝では、7秒38まで更新して圧勝し、2連覇を達成しました。
レース後、服部選手は、「福島千里選手の記録(女子60m室内日本記録の7秒29、2012年:当時北海道ハイテクAC、現セイコー)を抜く7秒28を目指していたので、もう0.1秒縮めたかった」とコメント。それでも「全力で走れた。目標には届かなかったけれど、走りには満足」と振り返りました。春から地元の中学で陸上を続けます。「100mだけでなく、200mやリレーにも取り組みたい。これまで順調に記録が伸びてきたが、いつかそれが止まる時期は来ると思っている。それを乗り越えて、強くなれるよう頑張りたい」と話していました。
シニア男子三段跳は、長崎・諫早農高3年の2014年にこの大会で15m71のU20日本記録を樹立して以来の大阪城ホールでの試合となった山本凌雅選手(JAL)が、1回目に16m16を跳んで快勝。6回目にはわずかに踏み越えてファウルとなったものの、16m40近い跳躍を見せて会場をどよめかせました。U20男子三段跳では、昨年のU18日本選手権走幅跳・三段跳で2冠を獲得した伊藤陸選手(近大高専・三重)が5回目に15m65をマーク。山本選手のU20日本記録に6cmと迫るとともに、昨シーズンに屋外で出した自己記録(15m61)を更新して優勝を果たしています。
このほか、U20女子棒高跳では、昨年U20日本記録(4m12)を樹立した田中伶奈選手(観音寺一高・香川)が3m90で優勝し、記録なしに終わった前回の悔しさを晴らしました。また、U20男子走高跳は、国体(少年共通)、U18日本選手権チャンピオンの坂井宏和選手(東海大仰星高・大阪)が2m10で優勝。U20女子60mは高橋真由選手(東京高・東京)が高校歴代4位の7秒45をマークして全国大会初優勝を果たしました。U20男子走幅跳では、昨年のユースオリンピック走幅跳で銅メダルを獲得している2年生の和田晃輝選手(太成学院高・大阪)が7m46で制したほか、U20男子棒高跳は、昨年のインターハイで1・2位を達成した明石商高(兵庫)の大﨑洋介選手と三戸田湧司選手が、5m10と5m00で再び上位を独占する活躍を見せました。
【新記録樹立者優勝コメント】
女子シニア60mH第1レース
2位 小林歩未(市立船橋高・千葉) ※ダイヤモンドアスリート
8秒29 =室内U20日本新記録
今回は、特に記録を狙っていたというのではなく、冬期練習をやってきたなかで、どのくらい出せるのかなと思って臨んでいた。大会に向けては、1週間くらい前にやっとスパイクを履いたという状況。しっかりと調整してきたわけでもない。シニアの方と一緒に走るということ、しかも4人でのレースということで、すごく緊張した。記録については、室内の60mHを走るのが初めてなので、どのくらいになるかイメージできていなくて、「8秒3~4を出せればいいかな」と思っていた。
(U20日本新記録が出た)1本目は、自分でもいいスタートが切ることができ、前半から低い姿勢で突っ込み、インターバルも刻んでいくという自分の理想通りの走りができた。2本目でも記録を更新できたらよかったのだが、とりあえずは青木さん(益未、七十七銀行)についていくことを意識して、記録のほうは頭のこちらへん(隅のほう)で考えていたという感じで臨んだ。ちょっと力んでしまったと思う。
また、2本目のほうは、青木さんとの力の差を実感した。100mHなら私もいつも2本目のほうがタイムが上がるのだが、初めての大会で、初めてのタータン(室内走路)で、しかも60mという短い距離を全力疾走で走りきるには、これだけ体力が必要なのだなと思った。
筑波大に進んで取り組む2019年シーズンは、日本のトップのほうを目指していく。記録も13秒0、できたら12秒台に少しでも近づきたい。
男子U20 60mJH(0.991m)
優勝 阿部龍斗(福岡大附大濠高・福岡)
7秒70 =室内U20日本新記録
昨年のこの大会で3位。今年は絶対に1位を取ると決めていた。4台目でぶつけてしまって追いつかれ、ラストも接戦で不安もあったが、(フィニッシュのところで)自分のほうが先に肩が出たかなと思っていて、ぎりぎり0.01秒差で勝ち、日本新を出すことができた。7秒6前半あたりでの日本新を狙っていたので、目標には届かなかったが、新記録が出せたのでよかった。
冬期練習はけっこう走り込みが多く、ハードル練習は(この大会に向けて)2週間くらい前から始めた。室内は走路が硬いのでけっこう(身体が)浮いたり(足が)詰まったりすることから、それに合うようインタバール(の距離)を縮めて練習するなど工夫し、「刻んでいける走り」ができるようにしてきた。
昨年は、インターハイで優勝して「日本一になる」ということは達成できたが、国体の準決勝で肉離れして、決勝は5歩で跳んでいくようなレースに。また、U20日本選手権にも出ることができなかった。日本一に1回なっただけじゃまだ本物じゃないと思っていたので、規模は小さくなるけれど、高校最後のこの全国大会でもう一度日本一になって、大学につなげていければいいなと思っていた。
もう完治はしているけれど、肉離れして以来のレースだったので、予選はとても緊張したが、予選を走り終えたらコンディションもよかったので、決勝では狙えると思った。国体では本当に悔しかったので、その思いを今回のレースで挽回できたかなと思う。
春からは筑波大学に進学する。高校3年のシーズンはハードルに絞っていたが、もともと自分は100mもやっている。大学では筋力強化をしっかりして、2種目で全国で活躍していけるようになりたい。100mは、1年目で10秒3くらいを出して、最終的には10秒1とか狙えるようになれば…。ハードルは、今年は、13秒7くらいは出したい。
男子U20 60mJH(0.991m)
2位 森田翔音(大塚高・大阪)
7秒71 =室内U20日本タイ記録
決勝のスタート1歩目で躓いてしまった。「ヤバい」と思ったが落ち着いていったら阿部くん(龍斗、優勝)が見えて、最終ハードルを越えてからで「抜いたかな」と思ったが抜くことができなかった。去年も2番だったので、優勝できなかったことが悔しい。ただ、記録的にはU20日本タイ記録ということで、(前回、この記録をマークした)樋口先輩(陸人、現法政大)の記録と同じ。少しは樋口先輩に近づけたかなと思う。
この大会に向けては、ジュニアハードルの設定で、練習もけっこうやってきた。また、冬期練習では、朝練習でウエイト(トレーニング)をやっていたので、多少は筋肉がついたかなと思う。あと、ここ1カ月くらい股関節まわりのドリルを取り入れていたので、挟み込みの動作がうまくいくようになったと感じている。
春からは順天堂大に進学する。泉谷先輩(駿介、U20日本記録保持者13秒19)に少しでも近づけるようにすることとインカレで入賞することを目指していく。1年目にハイハードルで13秒台を出し、日本選手権に出場することを目標にしたい。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
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