2018.09.20(木)その他

【強化委員会】新プロジェクト説明会レポート

日本陸連強化委員会は、2020年東京オリンピック、さらにはその先を見据えた新たな強化プロジェクトをこのたび立ち上げ、9月16日、東京都内のホテルにおいて、その概要に関する説明会をメディアに向けて行いました。

“CHIMERA(キメラ)”と名づけられたこの新プロジェクトは、選手強化の、特に心的動機の面を高めていくためのアプローチとして、競技者がベストパフォーマンスを達成するうえで大きな影響を及ぼすメディアの力を、よりポジティブな方向性に生かしていけるような仕組みをつくり、施策として進めていこうとするもの。東京マラソン財団の協力を得て、運営が実現する運びとなりました。

この日の説明会では、まず、麻場一徳強化委員長が、キメラについての概要を説明。続いて、河野匡長距離・マラソンディレクターが、キメラを立ち上げるに至った経緯や具体的な施策について述べました(両氏の説明の要旨は、別記をご参照ください)。

また、説明会終了後には、そのプロジェクトの第一弾として、日本時間の16時15分からスタートしたベルリンマラソンを、出席したメディア関係者とともにテレビ映像で観戦。河野ディレクターと坂口泰男子マラソンオリンピック強化コーチが、現地で対応している強化スタッフから届く情報も盛り込みながら、レースの解説を行いました。

すでに報道されているように、このレースでは、男子でエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)が2時間01分39秒の世界記録を樹立して優勝、女子もグラディス・チェロノ選手(ケニア)が大会新記録となる2時間18分11秒で制するなど、ハイレベルなレースとなりました。

日本勢も、男子では中村匠吾選手(富士通)が2時間08分16秒の自己新記録で4位、佐藤悠基選手(日清食品)が2時間09分18秒(6位)、上門大祐選手(大塚製薬)が2時間11分07秒(8位)、村山謙太選手(旭化成)が2時間15分37秒(16位)でそれぞれフィニッシュ(神野大地選手は途中棄権)。

女子では、2回目のマラソン挑戦となった松田瑞生選手(ダイハツ)が2時間22分23秒の自己新記録で5位となったほか、前田穂南選手(天満屋)が2時間25分23秒(7位)、初マラソンの上原美幸選手(第一生命)が2時間25分46秒(9位)をマーク。さらに、10位で続いた小原怜選手(天満屋)は2時間27分29秒でフィニッシュし、MGC有効期間内の上位2レース平均タイムが2時間28分00秒以内という条件を満たし、ワイルドカードでのMGCへの出場権を獲得する結果となりました。


◎新プロジェクト「キメラ」について

麻場一徳(日本陸上競技連盟強化委員会強化委員長)
今日は、「キメラ」と名づけた日本陸連強化委員会の新プロジェクトについて説明させていただく。
我々は、かねてから2020年東京オリンピックに向けて、従来の強化施策だけでなく、強化委員会から積極的に発信力を高めたり、ブランディングを強めたりする取り組みを進めていきたいという方針を皆さんにも伝えてきた。今回の「キメラ」は、その試みの1つと捉えていただけたらと思う。
「キメラ(CHIMERA)」というのは、異質なものの合成からなるギリシャ神話に登場する怪物のこと。本プロジェクトにおいて、競技者の「身体能力」と「心理動機」、そして報道される側である現場の「選手、指導者、関係者」と、報道する側である「メディア」の皆さんというように、「対立するわけではないが違う立場にある異質なもの」が合わさって大きな力を発揮することを、つまりキメラのような強いモンスターになることを期して、このように命名した。




競技者の強化場面では、合宿や海外派遣などについては、日本陸連のスポンサーや国の助成金などでカバーできている。しかし、これらは目指すベストパフォーマンスを生み出すうえでは、特に身体能力の向上にかかわる部分…具体的にはトレーニング、医科学・影響、コンディショニングといった、技術や体力にまつわるところの比重が大きいという側面がある。このプロジェクト「キメラ」では、身体能力とともに欠くことのできない心理動機に強く働きかけるためのアプローチをしていきたいと考えている。


2020年東京オリンピックのマラソン代表選手選考のために設けた「マラソングランドチャンピオンシップ(以下、MGC)」のつくりにより、マラソンは、これまで以上に、いろいろな形で取り上げられる機会が増えてきているが、それと同時に、競技者の意識も変わってきている。といっても、この1年間でマラソンのトレーニングが劇的に変わったわけではない。メディアに取り上げていただいたり、MGCのつくりができたりということが契機となり、現場に好循環が起こり、競技者のパフォーマンスが上がっているという現状がある。そういったことを、さらに促進していきたいというのが今回の趣旨である。

東京オリンピックの成功というのは、我々だけが頑張ればできるというものではない。陸上競技にかかわる方々、なかでも、特にメディアの皆さんとのかかわり合い、協力なしではなかなかうまくいかない。これは、何も肯定的なことばかりを報道してほしいというのではなく、厳しい意見や批判も含めて、これまでよりももっと多面的に、あるいはもっと深く、陸上競技を評価し、報道していただきたい。今回でいえばマラソンに関する報道をしてもらえるようにしたいということである。今回、そのための仕組みをつくり、提示させていただくこととした。ぜひ、協力をいただけたらと思っている。

プランとしての大きなものは、海外で行われるワールドマラソンメジャーズ(以下、WMM)などへ、強化スタッフと一緒に、メディアの方もプロジェクトの一員として派遣させていただくことを考えている。競技者が世界に向けて挑む姿を、その場で見ていただき、より深く報道していただけたらと思っている。また、この取り組みは、私どもとしては、マラソンだけでなく、リレーや競歩などにも広げていきたいと考えている。



具体的な施策については、このあと、河野ディレクターが説明するが、このプロジェクトについては、趣旨に賛同していただいた東京マラソン財団のご協力により運営していくことになる。強化委員会としては、2020年東京オリンピックに向けた限定的なものではなく、これが「ポスト2020」にもつながっていくものになることを目指したい。

◎「キメラ」の実施で目指すこと

河野 匡(日本陸上競技連盟強化委員会長距離・マラソンディレクター)

我々、強化では、「もう一歩踏み込んだ形で、さらにマラソンをレベルアップさせていくためには何が必要か」ということを、かねてより考えきた。東京オリンピックに向かって、一緒にいろいろなことをやっていかなければならないのは、もちろん現場の指導者と進めていく強化が一番となるのは言うまでもないが、取り上げられる量がこれから何倍も増えていくであろうことを考えると、(それらを報じる側の)メディアの皆さんと、どういう関係性でオリンピック本番を迎えるかということも、非常に大事にしていかなければならないことと考えている。

過去のオリンピックでは、いわゆるメディアの過剰な期待によって、選手が力を発揮できなかったというようなネガティブな事例もある。しかし、ここでは、すべてのことをポジティブにとらえたなかでオリンピックを戦おうという形で、今回のプロジェクトを立ち上げることとした。

(メディアに報じていただくうえで)一番大事なのは、選手たちがどれだけ陸上競技に想いをもって取り組んでいるのかを深く理解してもらいたい。ここではマラソンというものに懸けて、それを現場でコーチとともに、どういったプロセスを経てスタートラインについているのかということを、より詳しく、より正確に伝えられるようにする必要がある点。

よかった結果には、よかったなりの理由が深くあり、また、ダメだった成績にはダメだった理由がたくさんある。それらを1つ1つ掘り下げて伝えていくのは簡単なことではない。しかし、それが伝えられるような機会を設けることによって、表面的に「結果がよかった、悪かったと」いうことだけではないさまざまな中身をメディアの皆さんにしっかりと伝えることができれば、情報量や文字数が少なかったとしても、その1文字1文字や報じられる言葉はより深いものとなり、結果として、それがメディアを介して選手たちを見ている一般の方々にも伝わるのではないかと考える。

日本のマラソンは、過去に女子で金メダルを2個獲得しているが、そのメダルを取った時の状況と比べてみても、現在は「世界と戦う」のがより難しくなってきているといえる。先ほど(強化委員長が)示したいろいろな要素がしっかりと噛み合わなければ、オリンピックで戦えないというのが今の状況。あらゆる意味で大変に時代になったなというのが正直な感想である。そのなかで、メディアの方々ともいろいろなコミュニケーションをしっかりとれる場を、こういった形でつくり上げていき、将来につなげていくことができればと思っている。これが、このプロジェクトを実施する大きな趣旨であることを、ご理解願いたい。

マラソンにおける具体的な施策としては、先ほど強化委員長が申し上げた通りである。
今、マラソンは、国内はMGCということで注目を浴びているが、実際に、競技者たちが挑む舞台のなかでメインとなるのは、WMMを中心とする戦いとなる。今日は、このあとベルリンマラソンを皆さんと一緒に見ていくことになるが、この大会の場合では、「とにかく記録を狙うためだけに、すべての条件を満たそうとする仕掛け」が随所でなされている。こうした仕掛けについてなども、テレビの映像や現地の情報を通して皆さんにご紹介したい。また、今後、こうした機会を設けていくことで、国内マラソンと世界で起こっているマラソンとの違いなどを見極めてもらえたらと思う。

このプロジェクトについては、本当は、このベルリンマラソンからもっと大きく広げてやっていきたいという意向で話を進めていたのだが、アジア大会等もあり、時間的猶予がなく、今回はこのような形でやらせていただくこととなった。今後、こういう形をとるのと同時に、具体的にいえば、10月7日に行われるシカゴマラソンには、我々強化のメンバーとともに、何人か現地へ一緒に行けたらと考えている。特に、シカゴマラソンは、日本の男子選手が数多く出る状況なので、現地に行ったら、行ったなりの感触があるのではないかと思う。

我々と一緒に現地に行っていただくメディアの人数は、だいたい5人程度と考えている。趣旨に賛同する方が多くなり、申し込みが多数になった場合は、そのなかでセレクションをさせていただくことになる。予算に限りがあるので、すべてを帯同することはできないが、賛同してくださる方々の間に不公平がないような形を考えていきたい。

このプロジェクトを進める背景には、「とにかく競技者のパフォーマンス向上につなげていくために、どうしたらいいか」ということが一番にある。いいパフォーマンスを出して、たくさん報道してもらって、それによって国民あるいはメディアを介して陸上競技を見ている人たちにしっかり伝わっていくというサイクルを、いかにうまく起こせるか。

すでに、メディアで報道されなければ、そのスポーツ種目は栄えないといわれるようになっている。アメリカなどの例をみても、人気のあるスポーツ界では、メディアにどうアピールしていくかをいろいろ形で工夫をこらしており、それがプロモーションマーケティングの大きさにもつながっている。日本のマラソンの場合は、今までに土壌がしっかりつくられてきている側面もあるが、我々としては、そこをベースとして、さらに大きくしていけたらと思っている。


(文・構成、写真:児玉育美/JAAFメディアチーム)

※本文中の麻場強化委員長および河野ディレクターのコメントは、9月16日の新プロジェクト説明会において、両氏が口頭発表した内容をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、口語表現の削除等を含め、一部、編集を加えてあります。

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