2019年9月15日に開催が決まっている2020年東京オリンピック男女マラソン代表選考レース「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権をかけて行われるMGCシリーズ。第2期となる2018-2019シーズン(2018年度開催)は、8月26日の北海道マラソンで開幕します。
この2018-2019シーズンのスタート会見と、暑熱対策の一環で実施された男女マラソンプロジェクト合宿のブリーフィングが、8月9日、東京の味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて行われました。
MGCシリーズ2018-2019スタート会見には、尾縣貢(日本陸連専務理事)、瀬古利彦(同強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)、河野匡(同強化委員会長距離・マラソンディレクター)の3氏が登壇。
まず、尾縣専務理事から、2019年9月15日に行われるMGCのテレビ放映局が、男子はTBSに、女子はNHKに決まったことが発表されました。その後、瀬古リーダー、河野ディレクターが、MGCシリーズ2018-2019の展望や期待などをそれぞれに述べ、メディアからの質疑に応えました。
続いて、東京オリンピック本番を見据えたプロジェクト合宿について状況説明が行われました。暑熱対策の測定を目的として組まれたこの合宿は、男子は8月8~10日の日程で、女子は7月27日から千歳市(北海道)で実施した事前のシミュレーション合宿を経由して8月5~9日の日程で、それぞれ組まれました。しかし、同時期に台風13号が関東地方に接近した影響で、女子は想定していた気象条件下での測定ができず、男子は測定内容自体の変更を余儀なくされる事態に。
説明に際して、河野ディレクターは、「結論からいうと、“壮大なる企画倒れ”という形になってしまった。いろいろな準備をしてきたのだが、台風によってすべての測定スケジュールを変えざるを得ない状況となってしまった」と想定とは異なる展開となったことを冒頭に説明。実際に行った測定について、坂口泰・男子マラソンオリンピック強化コーチ、山下佐知子・女子マラソンオリンピック強化コーチから、それぞれ概要が報告されたのちに、質疑応答が行われました。
会見、ブリーフィング、それぞれの要旨は、以下の通りです。
皆さまに支援をいただいたMGCシリーズ2017-2018では、男子13名、女子6名のMGC出場権獲得者が出た。新たなシリーズが8月26日の北海道マラソンから始まる。このシリーズでも、才能のあるランナーがマラソンにチャレンジし、1人でも多くのMGC進出者が出ることを目指している。我々としても、さらに盛り上げていきたいと思っているので、メディアの方々にもご協力をお願いしたい。
この場を借りて、MGCについての報告を1つ申し上げたい。2019年9月15日に、マラソングランドチャンピオンシップを開催するが、その放映をしていただくテレビ局が決定した。今回は男女のレース2つを、別々のテレビ局に放映していただくことになった。
ここでは、その手順を説明させていただく。選定に際しては、まず、その基準を明確にして、各テレビ局にお伝えし、公募という形をとった。その際に、具体的な放映について、プロモーション等についての資料の提出をお願いした。次の段階として、有識者を含む選定委員会を設置し、一堂に会して各社からいただいた書類をもとに評価を進めた。その結果、男子はTBSテレビに、女子は日本放送協会(NHK)にお願いすることとなった。
詳細については、今後詰めていくが、スタートは午前9時台を想定している。また、男女のレース時間(スタート時間)差等の詳細は、今後、強化とも議論し、関係各位との話し合いによって決定していくことになる。
シリーズ1年目となった昨年度は、我々が想像した以上の成績だったと思う。特に男子マラソンで15年ぶりに日本記録を出してくれた設楽悠太(Honda、2時間06分11秒)や2時間6分台で走ってくれた井上大仁(MHPS、2時間06分54秒)、そして、もともと力のあった大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)が2時間7分台(2時間07分19秒)を出したということで、日本のマラソンが本番を迎える強さになってきたなという実感が湧いた。
また、女子も、初マラソンの松田瑞生(ダイハツ、2時間22分44秒)や関根花観(日本郵政グループ、2時間23分07秒 )が、初マラソンの割に素晴らしい記録を出した。伸びしろのある2人なので、さらに期待感を抱かせる1年となった。今年度は、そういう選手も含めて、ぜひ、一段高いレベルで競技力を高めていただきたいし、また、それらの選手を追っていく選手が、さらに出てくるのではないかと期待している。
すでにMGC出場権を獲得した選手には、今年、ベルリンマラソン(9月16日)に出る意向を持っている者が何人かいる。また、北海道マラソンにも、今まで以上に高いレベルの選手が挑戦を表明している。これもMGC効果かと思う。北海道マラソンやベルリンマラソンに出る者が多いのは、やはり来年の9月15日の(MGC)レースをシミュレーションしたり、夏の練習をどのようにもっていったらベストの状態になるかを考えたりしてのことではないか。
特に、ベルリンマラソンに出場する女子の松田は楽しみ。日本選手権における10000mの勝ち方を見ても、勝負強く、我慢もできるということで、本当にマラソンの選手らしく成長しているように思った。2時間20分を切ってくれることを願っている。また、シカゴマラソン(10月7日)に出ると聞いている大迫も、“優勝する選手になりたい”というようなことを言っているようなので、ここで世界と勝負して、レベルを一段上げていただきたい。それがMGCやオリンピックにつながれば、より日本のレベルも上がっていくのではないかと思う。
2019年度のMGCレースも見どころがたくさんあるので、ぜひ、報道していただきたい。
今回のセカンドステージについては、「オリンピックに出たい」という選手それぞれが夢をもって競技に取り組んだその思いが、セカンドステージに集約されるのではないかと思っている。MGCへの出場者は、最終的に男子30名、女子15~20名に届くことを願っているが、私個人としては、そこに至る各レースで数多くの選手を、MGCに出られるような条件で走らせてやりたいという、祈りに似た願いを持っている。そのうえで9月15日に行われるMGCで、みんなで戦ったうえで、オリンピックに出場する代表選手を選び出したい。
MGC出場者の人数を男子30名、女子15~20名を見込んでいる具体的な考え方としては、今現在、男子の場合は、2時間11分台で2本走ればワイルドカードで出場が可能となる選手の数や、まだ結果が出ていない力のある選手を数えると、30名には届くのではないかと考えている。女子については、15という数字も厳しいかもしれないが、北海道マラソンにおいても、かなりのメンバーが参加意思を示していること、また、今後行われるさいたま、大阪国際女子、名古屋ウィメンズ、そしてその前後にある海外マラソンにも、それぞれ選手たちが積極的にチャレンジしていってくれれば、15名以上、20名あたりの数字に届く可能性もあるのではないかと予想している。
記録的な面でいうと、すでにファーストシーズンでMGC出場権を獲得している選手たちに、さらにもう一歩高いところの記録にチャレンジしてほしいという思いがある。男子は2時間05分30秒というところにMGCの優先権(MGC派遣設定記録)を与えているので、このタイムをクリアしてくれる選手が出てくれると、オリンピックに向けてもメダルの色がいい色に変わってくるような手応えがつかめるのではないかと思う。女子については、瀬古リーダーも挙げたように松田を筆頭に、2時間20分を切ってほしい。できれば、男子に続いて、日本記録(2時間19分12秒、野口みずき、2005年)を破ってくれないかなという期待も持っている。
このあたりは、すでにMGC出場資格を持っている選手は、よりにアグレッシブな戦いをしてほしいし、まだ資格を得ていない選手は、とにかく東京オリンピックに向かうための資格を取る走りを、このセカンドシーズンで繰り広げてほしい。
河野:設楽については、ベルリンマラソンを回避する見通しである。東京マラソン後のふくらはぎのケガが思ったように回復しなかったということと、マラソンを走っていくうえでの準備が整わなかったと聞いている。実際に、トレーニングは始めているが、自己記録を更新できる状態でなければ、出場する意味はないということでの判断である。
このほか、ベルリンは、把握している範囲では、男子は佐藤悠基(日清食品グループ)、上門大祐(大塚製薬)ら6名くらいと聞いている。また、女子は、松田のほか、前田穂南・小原怜(以上、天満屋)、初マラソンとなる上原美幸(第一生命グループ)が出場を予定している。
また、シカゴは、大迫と木滑良(MHPS)のほか、実業団派遣であと2名ほど出場の予定。女子は安藤友香(スズキ浜松AC)が出ると聞いている。あとは村澤明伸(日清食品グループ)がフランクフルトマラソン(10月28日)に出ると聞いている。
ただ、ベルリンについては、エリウド・キプチョゲ(ケニア)とウィルソン・キプサング(ケニア)がエントリーしているので、世界記録を狙った次元の違うレースとなると思われる。日本の選手がどこまで対応できるかという面もあるが、そこで記録ということだけでなく、世界の舞台で、そういうペースのなかで、どういうレースをすれば自分の力を出せるかを学んできてくれればと考えている。
女子の松田、前田については、さらに記録をアップしてくれれば言うことはない。松田サイドからは2時間20分を切ることを見通したなかでトレーニングを進めていると聞いているので非常に楽しみに思っている。また、ベルリンに出場予定の小原の調子も上がってきていると聞いている。彼女の潜在能力からすると、1発でMGC出場権を得られるワイルドカード(2時間24分00秒)を、クリアする可能性があるとみている。
このほか、女子は、若手選手やマラソンの経験をこれから積んでいく選手がいいトレーニングをしているので、楽しみにしている。なんといっても北海道マラソンに、鈴木亜由子(日本郵政グループ)がエントリーしていて、そこに清田真央(スズキ浜松AC)、前田彩里(ダイハツ)がエントリーしているということで、MGCセカンドシーズン第1戦からかなりいいレースになることが期待される。
Q:MGCファイナルチャレンジの派遣設定記録について
河野:MGCをつくったあとに、国際陸連がワールドランキング制を発表した。これが国際陸連のレギュレーションになってくるという前提があるので、この定着がどうなるかをきちんとみる必要がある。現在は、それなりのタイムを決めるということをMGCの選考方針のなかには入れてあるが、国際情勢が変わっているので、記録だけでなく、ワールドランキング制度にどう置き換えることができるかも考えていく必要がある。
ここは、当初の計画からは想定していなかった事態。最終的には理事会等の了解を得たうえで踏み切らなければならない案件と考えている。具体的なところは、このワールドランキング制度の内容も含めて、セカンドシーズンが終わってから議論していくことになる。
プロジェクト合宿のブリーフィングは、昨年も同じ形式でやらせていただいたが、今回は結論からいうと、「壮大なる企画倒れ」という形になってしまった。いろいろな準備をしてきたのだが、台風によってすべての測定スケジュールを変えざるを得ない状況となってしまった。ある程度、やりたいこともできてはいるが、データを分析していくうえで、物足りない天候だったという面はある。今後、再度なんらかの形で(予定していた測定を)実施したいというのが正直なところ。ただ、レースも近づいてきており、選手たちのスケジュールを考えると難しく、頭を痛めているのが正直なところである。
合宿自体は、男子は現在実施中で、8月8日から8月10日までの2泊3日で実施している。女子は、オリンピック本番を想定した事前合宿地(千歳:北海道)で7月27日から8月5日までトレーニングを行い、その後、東京に戻ってきてから暑熱に関するトライアルを行うという設定で8月9日までの実施である。それぞれの概略は、男女各コーチから説明してもらう。
今回の合宿は、8月8~10日の2泊3日で行っている。本来であれば、本日(8月9日)に午前7時スタートで、30km走を行う計画だった。この日にした目的は、1つは、実際に本大会が行われる8月9日というシンボリックな日に走ることで、選手たちにモチベーションにしてほしいということがあった。それに加えて、当日に近い気温を想定していたので、汗の成分の分析や体温の上がり方などがどうなるか、それらにどういう対策を打っていけばいいかが導き出せるように行うことを目指していた。
しかし、台風13号が直撃したため、予定を変更して、JISS(スポーツ科学センター)にある環境制御室を利用して、参加選手10人(設楽、井上、木滑、宮脇千博=トヨタ自動車、服部勇馬=トヨタ自動車、山本憲二=マツダ、上門、園田隼=黒崎播磨、川内優輝=埼玉県庁、鈴木健吾=富士通)のうち5人の選手(木滑、服部、山本、上門、川内)が測定を行うこととなった。結果的に、走ったのは30分くらいの時間となったが、けっこう暑熱の影響が大きいことがわかった。30km走を実施することはできなかったが、環境制御室で測定したことには大変な意義があったと思っている。
先ほど河野ディレクターから話があったように、7月27日から千歳で10日間過ごしてから、東京に入った。これは、オリンピック本番における最終的な調整期間となるレース前からの2週間を想定して組んだもの。最初の10日間は「涼しくて疲労がたまりにくい環境で、しかも平坦な路面が多い、空港から近い」という理由で千歳において調整し、レース4日前に東京に戻ってきて本番を迎えるという想定のもとに、実際のシミュレーションに近い形で合宿をした。千歳に行っていたのは野上恵子(十八銀行)と前田穂南を除く6名(伊藤舞=大塚製薬、上原、阿部有香里=しまむら、安藤、関根、一山麻緒=ワコール)である。
東京に帰ってから本当に暑いなかで30km走を実施することをイメージして、千歳でもそれなりに暑熱対策をして、8月5日に東京に戻ってきた。台風の影響で1日早めて8月7日の実施となったが、それでも小雨で肌寒いような天候のなかでの30km走となってしまった。
ただ、私自身は(この経験によって)「こういうこともあるのだろうな」ということを実感した。もちろん暑熱の対策は必要だが、その対策ばかりしていても、実際にそうでない状況となることは、私自身も、2011年のテグ世界選手権や2012年ロンドンオリンピックで実際に経験している。今回のように台風が接近し、小雨が降るなか、暑いと思って準備したのにそうはないなかで行う30km走というのも、非常に貴重な経験だったと思っている。
また、そのなかで得られたデータのなかには、雨が降っていても思いのほか深部体温が上がっている印象を持つ結果も得ている。こういうことがわかった点でも、実施してよかったと思う。
坂口:気温33℃、湿度70%という環境下で、トレッドミルの上を、1km3分30秒のペースで走る内容だった。設定されていたプロトコル(測定条件)では1時間実施する予定だったが、30分でいっぱいいっぱいになってしまい、脈拍もマックスまで上がってしまう選手が多く出た。選手たちに聞くと、ペースはたいしたことはないのに、とにかく暑さがきつかったとのこと。これによりオールアウト(限界)に近い状態まで行ってしまうことが起きた。詳細は、分析されたデータを見てみないとわからないが、1km3分30秒くらいのペースであっても、暑さの影響は非常に大きいのだなということと、体温の上昇が運動行動を制限するものとして働くことを改めて実感した。
河野:普段屋外で走る場合だと、風を感じたり雲が出たりといろいろな変化があるのだが、環境制御室においてトレッドミルで走ると、設定された気温33℃、湿度70%という条件下そのままとなる。いわばサウナに入ったような状態。選手たちは大変だったと思う。ただし、選手たちが、その状態を味わったことは決して無駄ではない。オールアウトまで行っているので、データとしても貴重な結果が出てくるのではないかと思う。
Q:女子の30km走では具体的に何を測定したのか? 過日公開された競歩の測定と内容は同じか?
河野:30km走で測定した内容も、杉田正明科学委員長が関わって進めているので、競歩が実施している内容とほぼ同じ。汗の成分、深部体温、前後の体重の増減、心拍数のモニタリングなど、走ることによって身体から発するデータは、ほぼ測定している。それらがどういう使えるかということは、もう少しデータを詳しく見てみないとわからない。しかし、昨年もやってくれて、今年もやってくれた選手がいるので、これで個人内での比較が行うことができる。
また、今回、女子については、昨年よりも(千歳合宿という)少し長い準備期間を置いて、ある程度本番を見据えたシミュレーション下で行ったので、そのやり方についても、方向性が見えると考えている。ただ、測定した8月8日が、もし、気温30℃、湿度60%くらいであれば、そのなかで出てきたデータは、もっと本番で起こりうる気象条件に対応できるものが見えたであろうと思うので、そこは本当に残念。
また、測定時に、体温を上げないための施策としていろいろと準備していたものもあったのだが、それも使うことができず実用性がわかっていない。
そうしたことから、日を改めて何かやらないと、これまでの準備が日の目を見ないし、また、これをやらないと、東京の最悪(暑さ)の状態を想定したことにはならない。この点については、坂口コーチ、山下コーチとともに思案中の状態である。
Q:暑熱対策で、競歩とマラソンで違いがあるとしたら?
河野:給水をどうするかということ。競歩は、(給水の)ステーションが1つで、しかも手渡しできるので、与えるものをしっかり操作できる点がマラソンとは異なる。東京オリンピック本番の給水地点の問題に、我々がどこまで関与できるかは読めないので、具体的な検討まで及んでいないのだが、給水については、これから考えていく必要があると、昨日も皆で話していた。これまでは、(給水の成分は)選手の好みに合わせていたが、走っていくなかで成分を変えていくなど、もっと深化させていかなければならないと思っている。それだけに今回の測定で、それらのデータを得られなかったことは、進捗の遅れになるという意味で、焦りを感じないわけでもない状況である。
Q:合宿参加者には、アジア大会のマラソン代表3人も含まれているが、特に暑熱対策としてやったことは? また、実際に、大会本番前後でデータは取る予定か?
河野:アジア大会本番でのデータ測定は、今のところ考えていないが、ジャカルタには科学委員会も来るので、簡易的に取れるものはスタート前後に対応してもらうよう相談していくつもりである。また、選手たちにも、普段からとれるものはお願いしている。例えば、体重や酸素飽和濃度、心拍数などは、器具一つでできることなので、やっていきたい。
また、今回の合宿では、アジア大会男子代表の井上と園田は、実験には参加していない。しかし、昨日、谷口浩美さん(1991年東京世界選手権金メダリスト)、大崎栄さん(1992年バルセロナオリンピック10000m代表)に来ていただき、当時の話などをしてもらった。その話を聞いて、暑さへの対応や、どういう状況になるかということは共有しているので、そこは十分に暑さ対策になっていると考えている。この2人の話は、アジア大会代表の野上も含め女子も一緒に聞いている。そこは有意義な時間だったと思っている。
野上については、30km走ではなく、アジア大会本番のトレーニングということで20kmに距離を縮めて、ただ、ビルドアップのペースは本番のレースに近い内容に上げて行った。順調な仕上がりをしているなということを確認することができた。
Q:女子の測定を行った際の気温や湿度は? また、「もう一度実施したい」とは、どの程度のイメージを持っているか?
河野:女子の30km走を行った8月7日は、スタート地点の気温は21℃で、湿度は雨交じりだったこともあり95%だった。我々としてはプラス10℃くらいの気温を想定していたし、選手たちもその準備をしっかりして臨んでいた。21℃といっても、肌寒くて半袖でいられないといような感じだった。
「日を改めてもう一度測定を」という話はしているが、まだ昨日今日起きた話なので、選手たちが物理的に日程調整できるのかということと、科学委員会がその測定に参加できるのかということが見えていない。そのため、「やりたい」という希望と、「やれる」というところをどこで現実化するか検討が必要。気持ちとしては「やりたい」という心境である。
Q:女子の測定時に用意していてできなかった施策とは?
河野:気温が35℃とかいきそうだったら、アイスキューブを持たせることも考えていたが、寒かったのでそこには至らなかった。また、アイスベストを用意して、スタート前に着用して状態をみる予定だったが、それも逆に身体を温めなくてはならない状態だったので、試すことができなかった。また、男子が今回やった暑熱環境下のようなものを簡易的につくって、そのなかでやったなかで暑さのなかで走ると、主観的にも涼しく感じて、パフォーマンス的にも落ちないところをみたいと思って設定していたが、それも当日が21℃ということで、選手は当然ながら暑くは感じなかったという状態だった。
ただ、測定の際、主観的な運動強度と暑さの感じ方を調べたのだが、21℃で雨という状況でも走っているうちに暑く感じるという選手もかなりいた。雨の状況でも、暑く感じることが起こりうることを、データとして得ることはできた。
Q:サマータイムを導入する案も出ているが、どう思うか?
河野:こればかりは我々の力ではどうしようもないことなので、起こり得る状況のなかでやっていく。サマータイムについては、どちらかという睡眠時間のほうが気になる。スタートが早まった場合に、選手の準備にどのくらいの影響があるか。それに応じてナーバスになる選手もいるだろうし、大丈夫な選手もいるはずなので、そのあたりは決まるまで待ちたい。ただし、レース予定日の時間ごとの気象データはチェックしているし、測定もやっている。そういったことも含めて、どんな状況になっても対応できるような準備はしていきたい。
文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
この2018-2019シーズンのスタート会見と、暑熱対策の一環で実施された男女マラソンプロジェクト合宿のブリーフィングが、8月9日、東京の味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて行われました。
MGCシリーズ2018-2019スタート会見には、尾縣貢(日本陸連専務理事)、瀬古利彦(同強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)、河野匡(同強化委員会長距離・マラソンディレクター)の3氏が登壇。
まず、尾縣専務理事から、2019年9月15日に行われるMGCのテレビ放映局が、男子はTBSに、女子はNHKに決まったことが発表されました。その後、瀬古リーダー、河野ディレクターが、MGCシリーズ2018-2019の展望や期待などをそれぞれに述べ、メディアからの質疑に応えました。
続いて、東京オリンピック本番を見据えたプロジェクト合宿について状況説明が行われました。暑熱対策の測定を目的として組まれたこの合宿は、男子は8月8~10日の日程で、女子は7月27日から千歳市(北海道)で実施した事前のシミュレーション合宿を経由して8月5~9日の日程で、それぞれ組まれました。しかし、同時期に台風13号が関東地方に接近した影響で、女子は想定していた気象条件下での測定ができず、男子は測定内容自体の変更を余儀なくされる事態に。
説明に際して、河野ディレクターは、「結論からいうと、“壮大なる企画倒れ”という形になってしまった。いろいろな準備をしてきたのだが、台風によってすべての測定スケジュールを変えざるを得ない状況となってしまった」と想定とは異なる展開となったことを冒頭に説明。実際に行った測定について、坂口泰・男子マラソンオリンピック強化コーチ、山下佐知子・女子マラソンオリンピック強化コーチから、それぞれ概要が報告されたのちに、質疑応答が行われました。
会見、ブリーフィング、それぞれの要旨は、以下の通りです。
【MGCシリーズ2018-2019スタート会見(要旨)】
◎尾縣貢(専務理事)
皆さまに支援をいただいたMGCシリーズ2017-2018では、男子13名、女子6名のMGC出場権獲得者が出た。新たなシリーズが8月26日の北海道マラソンから始まる。このシリーズでも、才能のあるランナーがマラソンにチャレンジし、1人でも多くのMGC進出者が出ることを目指している。我々としても、さらに盛り上げていきたいと思っているので、メディアの方々にもご協力をお願いしたい。
この場を借りて、MGCについての報告を1つ申し上げたい。2019年9月15日に、マラソングランドチャンピオンシップを開催するが、その放映をしていただくテレビ局が決定した。今回は男女のレース2つを、別々のテレビ局に放映していただくことになった。
ここでは、その手順を説明させていただく。選定に際しては、まず、その基準を明確にして、各テレビ局にお伝えし、公募という形をとった。その際に、具体的な放映について、プロモーション等についての資料の提出をお願いした。次の段階として、有識者を含む選定委員会を設置し、一堂に会して各社からいただいた書類をもとに評価を進めた。その結果、男子はTBSテレビに、女子は日本放送協会(NHK)にお願いすることとなった。
詳細については、今後詰めていくが、スタートは午前9時台を想定している。また、男女のレース時間(スタート時間)差等の詳細は、今後、強化とも議論し、関係各位との話し合いによって決定していくことになる。
◎瀬古利彦(強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)
1年後に迫ったMGC本番を控え、この1年をしっかりとした高いレベルで、競技力を上げていきたいと思っている。シリーズ1年目となった昨年度は、我々が想像した以上の成績だったと思う。特に男子マラソンで15年ぶりに日本記録を出してくれた設楽悠太(Honda、2時間06分11秒)や2時間6分台で走ってくれた井上大仁(MHPS、2時間06分54秒)、そして、もともと力のあった大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)が2時間7分台(2時間07分19秒)を出したということで、日本のマラソンが本番を迎える強さになってきたなという実感が湧いた。
また、女子も、初マラソンの松田瑞生(ダイハツ、2時間22分44秒)や関根花観(日本郵政グループ、2時間23分07秒 )が、初マラソンの割に素晴らしい記録を出した。伸びしろのある2人なので、さらに期待感を抱かせる1年となった。今年度は、そういう選手も含めて、ぜひ、一段高いレベルで競技力を高めていただきたいし、また、それらの選手を追っていく選手が、さらに出てくるのではないかと期待している。
すでにMGC出場権を獲得した選手には、今年、ベルリンマラソン(9月16日)に出る意向を持っている者が何人かいる。また、北海道マラソンにも、今まで以上に高いレベルの選手が挑戦を表明している。これもMGC効果かと思う。北海道マラソンやベルリンマラソンに出る者が多いのは、やはり来年の9月15日の(MGC)レースをシミュレーションしたり、夏の練習をどのようにもっていったらベストの状態になるかを考えたりしてのことではないか。
特に、ベルリンマラソンに出場する女子の松田は楽しみ。日本選手権における10000mの勝ち方を見ても、勝負強く、我慢もできるということで、本当にマラソンの選手らしく成長しているように思った。2時間20分を切ってくれることを願っている。また、シカゴマラソン(10月7日)に出ると聞いている大迫も、“優勝する選手になりたい”というようなことを言っているようなので、ここで世界と勝負して、レベルを一段上げていただきたい。それがMGCやオリンピックにつながれば、より日本のレベルも上がっていくのではないかと思う。
2019年度のMGCレースも見どころがたくさんあるので、ぜひ、報道していただきたい。
◎河野匡(強化委員会長距離・マラソンディレクター)
今回のセカンドステージについては、「オリンピックに出たい」という選手それぞれが夢をもって競技に取り組んだその思いが、セカンドステージに集約されるのではないかと思っている。MGCへの出場者は、最終的に男子30名、女子15~20名に届くことを願っているが、私個人としては、そこに至る各レースで数多くの選手を、MGCに出られるような条件で走らせてやりたいという、祈りに似た願いを持っている。そのうえで9月15日に行われるMGCで、みんなで戦ったうえで、オリンピックに出場する代表選手を選び出したい。
MGC出場者の人数を男子30名、女子15~20名を見込んでいる具体的な考え方としては、今現在、男子の場合は、2時間11分台で2本走ればワイルドカードで出場が可能となる選手の数や、まだ結果が出ていない力のある選手を数えると、30名には届くのではないかと考えている。女子については、15という数字も厳しいかもしれないが、北海道マラソンにおいても、かなりのメンバーが参加意思を示していること、また、今後行われるさいたま、大阪国際女子、名古屋ウィメンズ、そしてその前後にある海外マラソンにも、それぞれ選手たちが積極的にチャレンジしていってくれれば、15名以上、20名あたりの数字に届く可能性もあるのではないかと予想している。
記録的な面でいうと、すでにファーストシーズンでMGC出場権を獲得している選手たちに、さらにもう一歩高いところの記録にチャレンジしてほしいという思いがある。男子は2時間05分30秒というところにMGCの優先権(MGC派遣設定記録)を与えているので、このタイムをクリアしてくれる選手が出てくれると、オリンピックに向けてもメダルの色がいい色に変わってくるような手応えがつかめるのではないかと思う。女子については、瀬古リーダーも挙げたように松田を筆頭に、2時間20分を切ってほしい。できれば、男子に続いて、日本記録(2時間19分12秒、野口みずき、2005年)を破ってくれないかなという期待も持っている。
このあたりは、すでにMGC出場資格を持っている選手は、よりにアグレッシブな戦いをしてほしいし、まだ資格を得ていない選手は、とにかく東京オリンピックに向かうための資格を取る走りを、このセカンドシーズンで繰り広げてほしい。
◎質疑応答:
Q:海外マラソンの出場予定について河野:設楽については、ベルリンマラソンを回避する見通しである。東京マラソン後のふくらはぎのケガが思ったように回復しなかったということと、マラソンを走っていくうえでの準備が整わなかったと聞いている。実際に、トレーニングは始めているが、自己記録を更新できる状態でなければ、出場する意味はないということでの判断である。
このほか、ベルリンは、把握している範囲では、男子は佐藤悠基(日清食品グループ)、上門大祐(大塚製薬)ら6名くらいと聞いている。また、女子は、松田のほか、前田穂南・小原怜(以上、天満屋)、初マラソンとなる上原美幸(第一生命グループ)が出場を予定している。
また、シカゴは、大迫と木滑良(MHPS)のほか、実業団派遣であと2名ほど出場の予定。女子は安藤友香(スズキ浜松AC)が出ると聞いている。あとは村澤明伸(日清食品グループ)がフランクフルトマラソン(10月28日)に出ると聞いている。
ただ、ベルリンについては、エリウド・キプチョゲ(ケニア)とウィルソン・キプサング(ケニア)がエントリーしているので、世界記録を狙った次元の違うレースとなると思われる。日本の選手がどこまで対応できるかという面もあるが、そこで記録ということだけでなく、世界の舞台で、そういうペースのなかで、どういうレースをすれば自分の力を出せるかを学んできてくれればと考えている。
女子の松田、前田については、さらに記録をアップしてくれれば言うことはない。松田サイドからは2時間20分を切ることを見通したなかでトレーニングを進めていると聞いているので非常に楽しみに思っている。また、ベルリンに出場予定の小原の調子も上がってきていると聞いている。彼女の潜在能力からすると、1発でMGC出場権を得られるワイルドカード(2時間24分00秒)を、クリアする可能性があるとみている。
このほか、女子は、若手選手やマラソンの経験をこれから積んでいく選手がいいトレーニングをしているので、楽しみにしている。なんといっても北海道マラソンに、鈴木亜由子(日本郵政グループ)がエントリーしていて、そこに清田真央(スズキ浜松AC)、前田彩里(ダイハツ)がエントリーしているということで、MGCセカンドシーズン第1戦からかなりいいレースになることが期待される。
Q:MGCファイナルチャレンジの派遣設定記録について
河野:MGCをつくったあとに、国際陸連がワールドランキング制を発表した。これが国際陸連のレギュレーションになってくるという前提があるので、この定着がどうなるかをきちんとみる必要がある。現在は、それなりのタイムを決めるということをMGCの選考方針のなかには入れてあるが、国際情勢が変わっているので、記録だけでなく、ワールドランキング制度にどう置き換えることができるかも考えていく必要がある。
ここは、当初の計画からは想定していなかった事態。最終的には理事会等の了解を得たうえで踏み切らなければならない案件と考えている。具体的なところは、このワールドランキング制度の内容も含めて、セカンドシーズンが終わってから議論していくことになる。
【男女マラソンプロジェクト合宿ブリーフィング】
◎河野匡(強化委員会長距離・マラソンディレクター)
プロジェクト合宿のブリーフィングは、昨年も同じ形式でやらせていただいたが、今回は結論からいうと、「壮大なる企画倒れ」という形になってしまった。いろいろな準備をしてきたのだが、台風によってすべての測定スケジュールを変えざるを得ない状況となってしまった。ある程度、やりたいこともできてはいるが、データを分析していくうえで、物足りない天候だったという面はある。今後、再度なんらかの形で(予定していた測定を)実施したいというのが正直なところ。ただ、レースも近づいてきており、選手たちのスケジュールを考えると難しく、頭を痛めているのが正直なところである。
合宿自体は、男子は現在実施中で、8月8日から8月10日までの2泊3日で実施している。女子は、オリンピック本番を想定した事前合宿地(千歳:北海道)で7月27日から8月5日までトレーニングを行い、その後、東京に戻ってきてから暑熱に関するトライアルを行うという設定で8月9日までの実施である。それぞれの概略は、男女各コーチから説明してもらう。
◎坂口泰(強化委員会男子マラソンオリンピック強化コーチ)
今回の合宿は、8月8~10日の2泊3日で行っている。本来であれば、本日(8月9日)に午前7時スタートで、30km走を行う計画だった。この日にした目的は、1つは、実際に本大会が行われる8月9日というシンボリックな日に走ることで、選手たちにモチベーションにしてほしいということがあった。それに加えて、当日に近い気温を想定していたので、汗の成分の分析や体温の上がり方などがどうなるか、それらにどういう対策を打っていけばいいかが導き出せるように行うことを目指していた。
しかし、台風13号が直撃したため、予定を変更して、JISS(スポーツ科学センター)にある環境制御室を利用して、参加選手10人(設楽、井上、木滑、宮脇千博=トヨタ自動車、服部勇馬=トヨタ自動車、山本憲二=マツダ、上門、園田隼=黒崎播磨、川内優輝=埼玉県庁、鈴木健吾=富士通)のうち5人の選手(木滑、服部、山本、上門、川内)が測定を行うこととなった。結果的に、走ったのは30分くらいの時間となったが、けっこう暑熱の影響が大きいことがわかった。30km走を実施することはできなかったが、環境制御室で測定したことには大変な意義があったと思っている。
◎山下佐知子(強化委員会女子マラソンオリンピック強化コーチ)
先ほど河野ディレクターから話があったように、7月27日から千歳で10日間過ごしてから、東京に入った。これは、オリンピック本番における最終的な調整期間となるレース前からの2週間を想定して組んだもの。最初の10日間は「涼しくて疲労がたまりにくい環境で、しかも平坦な路面が多い、空港から近い」という理由で千歳において調整し、レース4日前に東京に戻ってきて本番を迎えるという想定のもとに、実際のシミュレーションに近い形で合宿をした。千歳に行っていたのは野上恵子(十八銀行)と前田穂南を除く6名(伊藤舞=大塚製薬、上原、阿部有香里=しまむら、安藤、関根、一山麻緒=ワコール)である。
東京に帰ってから本当に暑いなかで30km走を実施することをイメージして、千歳でもそれなりに暑熱対策をして、8月5日に東京に戻ってきた。台風の影響で1日早めて8月7日の実施となったが、それでも小雨で肌寒いような天候のなかでの30km走となってしまった。
ただ、私自身は(この経験によって)「こういうこともあるのだろうな」ということを実感した。もちろん暑熱の対策は必要だが、その対策ばかりしていても、実際にそうでない状況となることは、私自身も、2011年のテグ世界選手権や2012年ロンドンオリンピックで実際に経験している。今回のように台風が接近し、小雨が降るなか、暑いと思って準備したのにそうはないなかで行う30km走というのも、非常に貴重な経験だったと思っている。
また、そのなかで得られたデータのなかには、雨が降っていても思いのほか深部体温が上がっている印象を持つ結果も得ている。こういうことがわかった点でも、実施してよかったと思う。
◎質疑応答:
Q:環境制御室での測定で、どんなことがわかったか?坂口:気温33℃、湿度70%という環境下で、トレッドミルの上を、1km3分30秒のペースで走る内容だった。設定されていたプロトコル(測定条件)では1時間実施する予定だったが、30分でいっぱいいっぱいになってしまい、脈拍もマックスまで上がってしまう選手が多く出た。選手たちに聞くと、ペースはたいしたことはないのに、とにかく暑さがきつかったとのこと。これによりオールアウト(限界)に近い状態まで行ってしまうことが起きた。詳細は、分析されたデータを見てみないとわからないが、1km3分30秒くらいのペースであっても、暑さの影響は非常に大きいのだなということと、体温の上昇が運動行動を制限するものとして働くことを改めて実感した。
河野:普段屋外で走る場合だと、風を感じたり雲が出たりといろいろな変化があるのだが、環境制御室においてトレッドミルで走ると、設定された気温33℃、湿度70%という条件下そのままとなる。いわばサウナに入ったような状態。選手たちは大変だったと思う。ただし、選手たちが、その状態を味わったことは決して無駄ではない。オールアウトまで行っているので、データとしても貴重な結果が出てくるのではないかと思う。
Q:女子の30km走では具体的に何を測定したのか? 過日公開された競歩の測定と内容は同じか?
河野:30km走で測定した内容も、杉田正明科学委員長が関わって進めているので、競歩が実施している内容とほぼ同じ。汗の成分、深部体温、前後の体重の増減、心拍数のモニタリングなど、走ることによって身体から発するデータは、ほぼ測定している。それらがどういう使えるかということは、もう少しデータを詳しく見てみないとわからない。しかし、昨年もやってくれて、今年もやってくれた選手がいるので、これで個人内での比較が行うことができる。
また、今回、女子については、昨年よりも(千歳合宿という)少し長い準備期間を置いて、ある程度本番を見据えたシミュレーション下で行ったので、そのやり方についても、方向性が見えると考えている。ただ、測定した8月8日が、もし、気温30℃、湿度60%くらいであれば、そのなかで出てきたデータは、もっと本番で起こりうる気象条件に対応できるものが見えたであろうと思うので、そこは本当に残念。
また、測定時に、体温を上げないための施策としていろいろと準備していたものもあったのだが、それも使うことができず実用性がわかっていない。
そうしたことから、日を改めて何かやらないと、これまでの準備が日の目を見ないし、また、これをやらないと、東京の最悪(暑さ)の状態を想定したことにはならない。この点については、坂口コーチ、山下コーチとともに思案中の状態である。
Q:暑熱対策で、競歩とマラソンで違いがあるとしたら?
河野:給水をどうするかということ。競歩は、(給水の)ステーションが1つで、しかも手渡しできるので、与えるものをしっかり操作できる点がマラソンとは異なる。東京オリンピック本番の給水地点の問題に、我々がどこまで関与できるかは読めないので、具体的な検討まで及んでいないのだが、給水については、これから考えていく必要があると、昨日も皆で話していた。これまでは、(給水の成分は)選手の好みに合わせていたが、走っていくなかで成分を変えていくなど、もっと深化させていかなければならないと思っている。それだけに今回の測定で、それらのデータを得られなかったことは、進捗の遅れになるという意味で、焦りを感じないわけでもない状況である。
Q:合宿参加者には、アジア大会のマラソン代表3人も含まれているが、特に暑熱対策としてやったことは? また、実際に、大会本番前後でデータは取る予定か?
河野:アジア大会本番でのデータ測定は、今のところ考えていないが、ジャカルタには科学委員会も来るので、簡易的に取れるものはスタート前後に対応してもらうよう相談していくつもりである。また、選手たちにも、普段からとれるものはお願いしている。例えば、体重や酸素飽和濃度、心拍数などは、器具一つでできることなので、やっていきたい。
また、今回の合宿では、アジア大会男子代表の井上と園田は、実験には参加していない。しかし、昨日、谷口浩美さん(1991年東京世界選手権金メダリスト)、大崎栄さん(1992年バルセロナオリンピック10000m代表)に来ていただき、当時の話などをしてもらった。その話を聞いて、暑さへの対応や、どういう状況になるかということは共有しているので、そこは十分に暑さ対策になっていると考えている。この2人の話は、アジア大会代表の野上も含め女子も一緒に聞いている。そこは有意義な時間だったと思っている。
野上については、30km走ではなく、アジア大会本番のトレーニングということで20kmに距離を縮めて、ただ、ビルドアップのペースは本番のレースに近い内容に上げて行った。順調な仕上がりをしているなということを確認することができた。
Q:女子の測定を行った際の気温や湿度は? また、「もう一度実施したい」とは、どの程度のイメージを持っているか?
河野:女子の30km走を行った8月7日は、スタート地点の気温は21℃で、湿度は雨交じりだったこともあり95%だった。我々としてはプラス10℃くらいの気温を想定していたし、選手たちもその準備をしっかりして臨んでいた。21℃といっても、肌寒くて半袖でいられないといような感じだった。
「日を改めてもう一度測定を」という話はしているが、まだ昨日今日起きた話なので、選手たちが物理的に日程調整できるのかということと、科学委員会がその測定に参加できるのかということが見えていない。そのため、「やりたい」という希望と、「やれる」というところをどこで現実化するか検討が必要。気持ちとしては「やりたい」という心境である。
Q:女子の測定時に用意していてできなかった施策とは?
河野:気温が35℃とかいきそうだったら、アイスキューブを持たせることも考えていたが、寒かったのでそこには至らなかった。また、アイスベストを用意して、スタート前に着用して状態をみる予定だったが、それも逆に身体を温めなくてはならない状態だったので、試すことができなかった。また、男子が今回やった暑熱環境下のようなものを簡易的につくって、そのなかでやったなかで暑さのなかで走ると、主観的にも涼しく感じて、パフォーマンス的にも落ちないところをみたいと思って設定していたが、それも当日が21℃ということで、選手は当然ながら暑くは感じなかったという状態だった。
ただ、測定の際、主観的な運動強度と暑さの感じ方を調べたのだが、21℃で雨という状況でも走っているうちに暑く感じるという選手もかなりいた。雨の状況でも、暑く感じることが起こりうることを、データとして得ることはできた。
Q:サマータイムを導入する案も出ているが、どう思うか?
河野:こればかりは我々の力ではどうしようもないことなので、起こり得る状況のなかでやっていく。サマータイムについては、どちらかという睡眠時間のほうが気になる。スタートが早まった場合に、選手の準備にどのくらいの影響があるか。それに応じてナーバスになる選手もいるだろうし、大丈夫な選手もいるはずなので、そのあたりは決まるまで待ちたい。ただし、レース予定日の時間ごとの気象データはチェックしているし、測定もやっている。そういったことも含めて、どんな状況になっても対応できるような準備はしていきたい。
文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト