第102回日本選手権50km競歩が4月15日、石川県輪島市で、ジャカルタ・アジア大会の代表選考会(男子50km競歩)を兼ねて行われました。
「道の駅輪島ふらっと訪夢」前をスタート・フィニッシュとする点は変わらないものの、従来の周回コース(1周2km)が変更されて、今年から往復2kmの折り返しコースでの実施に。男子は、今春、明治大学を卒業して社会人となった野田明宏選手(自衛隊体育学校)が、日本歴代8位となる3時間45分56秒で初優勝を果たしました。また、今年度より日本記録として公認される女子50km競歩がオープン種目として行われ、園田世玲奈選手(中京大学)が4時間31分52秒で制しました。
■野田選手が2回目の挑戦で日本選手権獲得者に
前日の午後から降り出した雨が残る悪コンディションのなか、男子50kmは例年同様、午前7時30分にスタート。昨年のロンドン世界選手権50km競歩で2位・3位・5位となった荒井広宙選手(自衛隊体育学校)、小林快選手(ビックカメラ)、丸尾知司選手(愛知製鋼)ら5選手が、5月5~6日に中国で開催される世界競歩チーム選手権シニア50km競歩に出場する関係で、この大会にはエントリーしないなかでのレースとなりました。
最初の1周(2km)は、先頭グループを形成した2015年北京世界選手権銅メダリストの谷井孝行選手(自衛隊体育学校)、管野智文選手(東京東信用金庫)、河岸良祐選手(東洋大)が8分54秒で入ると、野田明宏選手(自衛隊体育学校)と割田仁志選手(埼玉陸協)の2人が6秒遅れで続く滑り出しとなりました。先頭集団は、その後も谷井選手が2kmを8分52~54秒前後でペースをつくる形で、5kmを22分15秒、10kmを44分25秒(この間の5kmは22分10秒、以下同じ)、15kmを1時間06分41秒(22分16秒)で通過。5kmを22分35秒、10kmを45秒05秒(22分30秒)、15kmを1時間07分27秒(22分22秒)で進む野田選手との差を徐々に開いていきます。17km手前で河岸選手が遅れて、先頭は谷井選手と管野選手の2人に。20kmは谷井選手と管野選手が1時間29分02秒(22分21秒)で通過し、河岸選手が15秒差、野田選手が56秒差で続く展開となりました。
しかし、その後、先頭をリードする谷井選手のペースが落ちてきます。11周を終えたところで、2kmのラップが9分台(9分01秒)になると、次の周回では9分14秒、そして24~26kmでは9分20秒へとペースダウン。ペースを維持するなかで3位に浮上してきた野田選手が、27~28kmで2選手をかわして首位に立つと、谷井選手は28km通過の段階で8秒遅れ、野田選手についていた管野選手も、その後、ついていけなくなってしまいました。独歩態勢となった野田選手は、30kmを2時間15分03秒(22分35秒)で通過。その後の各5kmは22分40秒、22分42秒、22分55秒と徐々にペースダウンしましたが、最後の5kmは22分36秒でカバー。日本歴代8位となる3時間45分56秒でフィニッシュし、日本選手権獲得者となりました。
野田選手は、1996年1月生まれの22歳。大阪府の出身で、清風高校1年の冬から競歩に取り組み始め、翌2年時からレースに出場するようになりました。明治大学1年の2015年に全日本競歩能美大会20km競歩でU20日本最高記録となる1時間20分08秒(6位)をマークし、途中計時の10kmでも39分29秒のU20日本記録を樹立。また、ユニバーシアードには2015年・2017年と連続で出場し、それぞれ8位、7位の成績を収めています。しかし、同学年に山西利和選手(現愛知製鋼、2013年世界ユース選手権10000m競歩金、2017年ユニバーシアード20km競歩金)が、1学年上に松永大介選手(現富士通、2014年世界ジュニア選手権10000m競歩金、2016年リオ五輪20km競歩7位)がいたこともあり、これまで世代別のタイトルも獲得したことはなく、今回が初の全国タイトルとなりました。
「将来的に50kmへシフトすることは以前から考えていた」と言い、すでに2016年の全日本競歩高畠大会で一度に挑戦していますが、このときは35kmで途中棄権。意識を失い、救急搬送される苦い経験を味わいました。「今、考えると、練習も全然できていなかった。50kmを甘くみていた」という反省のもと、今回は、準備期間こそ短かったものの50kmのための練習を十分に積み、大会を迎えていました。
「30~35km辺りまでどれだけ余裕を持っていけるか、また、40km以降をどれだけ我慢できるかが大切と思っていた」という野田選手。「最初は2kmを9分00~10秒で行くことを考えていたが、10km以降は5kmごとに考えるようにした。ペースとしては22分30秒から23分00秒。どんなに遅くても23分以内で行くことを意識した」という言葉通りのレース運びを実現しました(野田選手の優勝コメントは下記に掲載)。
2位には、谷井選手が3時間52分33秒でフィニッシュ。前日の記者会見で「質の高い、いい練習ができている。天候次第だが3時間43分以内で優勝することを目指したい」と述べていたなかでのこの結果に、谷井選手は「非常に厳しいレースとなった」とコメント。「練習ができていたのにもかかわらず、結果的に3時間52分かかったということは、それがレースで発揮できていないということ。練習からしっかり見直していかなければならないのかなと感じた」と反省していました。
■初実施の女子50km競歩。覇者は園田選手
今年度より日本記録として公認される種目となった女子50km競歩が、日本選手権のオープン種目として初めて行われ、エントリーした9名のうち8名が完歩しました。
レースは、男子と同時となる7時30分にスタート。初めてとあって、序盤は各選手ともに様子をみながら進んでいく流れとなりましたが、徐々にペースが上がっていくなかで園田世玲奈選手(中京大学)と熊谷菜美選手(国士舘大学)が抜け出す展開に。園田選手が先頭に立ち、熊谷選手がぴたりとつく形で、20kmは1時間49分05~06秒(26分59秒~17分00秒)、25kmは2時間16分07~08秒(27分02秒)とほぼイーブンで進みましたが、その後、ペースが上がり、30kmは2時間42分54秒(26分47秒)、35kmは3時間09分31秒(26分37秒)での通過となりました。勝負が動いたのは36~37km。1km5分20秒を切るペースを維持していた園田選手に対して、ここで熊谷選手が遅れ始め、37kmで4秒の差がつくと、以降は園田選手の一人旅に。さすがに園田選手も、35~40kmを26分42秒、40~45kmで27分31秒、45~50kmでは28分08秒と徐々にペースダウンしましたが、2位の熊谷選手に7分09秒の差をつけ、4時間31分52秒でフィニッシュラインに飛び込みました。
園田選手はレース後の会見で、「完歩するという大きな目標があったので、達成できてほっとしている。4時間40分を切れたらいいなという感じだったので、(4時間31分52秒で)ゴールしたときは本当に嬉しかった」と笑顔。「練習を積んできたという自信があったので、前半から一定のペースで落ち着いて臨もうという気持ちでレースを展開した。途中は、上がりがちになるペースをセーブするために、自分に“落ち着いて”と言い聞かせながらペース配分を考えて歩いていた。最後はしんどかった。35km過ぎからは徐々につらくなってきて、40km過ぎてからは一気に来た感じだった」と、初めての50kmを振り返りました。
また、この大会に出ることは「すごく楽しみにしていた」ともコメント。もともと長い距離のほうが得意だったそうですが、20km競歩の日本選手権後、距離を踏む練習をしていくうちに、「挑戦してみたい気持ちがどんどん大きくなっていった」とのこと。「1回経験したことで自信につながった。今後も距離に慣れつつ、試合に出られるような選手を目指していきたい」と、さらなる挑戦に向けても意欲をみせました。
なお、実施初年度となる今年度は、4月1日~12月31日の間に出された最もよい記録が日本記録として公認されるため、今回の4時間31分52秒は、現段階で2018年日本リスト1位記録として、今後の他レースの結果を待つ形となります。
■全日本競歩男女高校5km、男子高校1・2年3kmで大会新
この大会は、第57回全日本競歩輪島大会も併催しており、10km競歩、ジュニア10km競歩、高校5km競歩、高校1・2年3km競歩が各男女で行われ、U20世界選手権代表選考種目として実施されたジュニア男女10kmのほか、高校男子5kmで大会新記録が誕生しました。
4月14日に実施された10kmは、ジュニアと同時に行われ、男女ともにジュニア勢が先着する結果に。男子のジュニア10kmは坂﨑翔選手(平成国際大学)が40分30秒で昨年に続いて制し、2位の長山達彦選手(東洋大学、40分32秒)、3位の諏訪元郁選手(NWS、40分46秒)までがこの種目の大会記録を更新。男子10kmは森田靖選手(龍谷大学)が41分14秒で優勝しました。また、女子のジュニア10kmは、ダイヤモンドアスリートの藤井菜々子選手(エディオン)が45分42秒の大会新記録で制覇。女子10kmは道口愛選手(自衛隊体育学校、45分54秒)が優勝しました。
3位までが大会新(4位は大会タイ)をマークした男子高校5kmは、岩川祐介選手(浜北西高校・静岡)が20分45秒で勝利し、女子高校5kmは北小路咲枝選手(成田高校・千葉)が23分49秒で制しました。また、高校1・2年生3kmは、男女ともに中央大学附属横浜高校(神奈川)の選手が優勝。男子は吉川絢斗選手が13分09秒で、女子は富樫莉佐子選手が14分45秒で、それぞれタイトルを獲得しました。
【日本選手権獲得者コメント】
■日本選手権男子50km競歩
野田明宏(自衛隊体育学校)3時間45分56秒
「(50kmは)今回が2回目。自分のなかでペースは決めていて、そのペースで最後まで押し切れた。タイムもぎりぎり(3時間)46分を切ることができて、非常に嬉しく思っている。40kmからは本当に我慢のレースとなった。少しでも気を抜いたら一気に(ペースが)落ちてしまうという状態だったので、自分に「我慢、我慢」と言い聞かせながら歩いた。
前半は3選手がリードしたが、(トップに立っていた)谷井さんは別として、ほかの選手は必ず落ちてくると思っていたので、「自分は自分」と、決めていたペースでしっかり押していくことにした。谷井さんが落ちてきて抜いたときは、最初は後ろにつかれるかもしれないと思ったが、自分のリズムがしっかりつかめていたので、ペースを崩さずにそのまま行った。これが初めての全国タイトルということと、50kmという距離を後半もしっかり我慢できたということで、フィニッシュのときは、本当に嬉しさが込み上げてきた。
50kmの練習は、2月の日本選手権20km競歩が終わってから取り組んだ。期間は短かったが、谷井さん、荒井さんと一緒に練習を行うなかで、50kmをどう歩けばいいのかのアドバイスもいただき、距離に対する練習も質・量ともにしっかりできていた。また、練習の取り組み方、日常生活や食事の面、給水の仕方なども勉強させていただき、本当に自分に成長になることばかりだった。
ずっと50kmをやりたいという思いがあった自分にとっては、今回がスタートライン。強い先輩方がまだまだいるので、次のレースで勝負できるように、しっかり自分をつくっていきたい。」
※本文中、1kmおよび周回(2km)のラップは速報および筆者計測による記録。5kmごとのスプリットおよびラップは公式発表の記録である。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
写真提供:フォート・キシモト
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