第73回びわ湖毎日マラソンが3月4日、ジャカルタ・アジア大会日本代表選考会、2020年東京オリンピック代表選考に向けた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)シリーズ2017-2018男子第5戦」を兼ねて、滋賀県大津市の皇子山陸上競技場を発着点とする琵琶湖畔のコースで行われました。
レースは、31~32kmのペースアップで先頭集団が外国人選手5人となり、その後、徐々に絞られていく展開に。日本の実業団所属で今回が初マラソンのマチャリア・ディラング選手(愛知製鋼/ケニア)が残り3km付近でトップに立つと、後続との差をさらに広げて2時間07分53秒で優勝しました。日本勢は、27km過ぎで一度上位争いから遅れた初マラソンの中村匠吾選手(富士通)が終盤で盛り返し、日本人トップとなる2時間10分51秒でフィニッシュ。「2時間11分00秒以内で日本人1~3位」という条件を満たし、2019年9月以降に開催予定のMGC出場権を獲得しました。
主催者発表のスタート時のグラウンドコンディションは、天候晴れ、気温15℃、湿度68%、北東の風0.5m。この週末にかけて急に気温が上がり4月下旬ごろの暖かさとなったこと、快晴で日差しが強くなった上に例年よりも風がなかったこともあり、前の週に行われた東京マラソンとは全く異なる「暑さ」を感じるなかでのレースとなりました。
3人用意されたペースメーカーの設定は、1km3分02秒(5km15分10秒ペース、フィニッシュタイム2時間07分59秒想定)で、1人が25kmまで、2人が30kmまでつくことに。しかし、スタート直後を早めのペースで飛び出したあと、最初の1kmは3分04秒、その後は1kmごとにペースが乱高下する状況となったため、有力視されている日本勢は、大集団となった先頭グループの中段あたりに位置してレースを進めていきました。先頭集団は最初の5kmを15分17秒で通過すると、5~10kmは15分04秒に上がり10kmを30分21秒で通過。以降、15kmを45分25秒(15分04秒)、20kmを1時間00分37秒(15分12秒)、中間点は1時間03分56秒、25kmは1時間15分40秒(15分03秒)で通過。5km地点で58人いた先頭集団の人数(ペースメーカー含む)は、10kmで41人、15kmで27人、20kmで22人、25kmで16人と徐々に絞られていきます。
日本勢はここまでに深津卓也選手(旭化成、7.5km付近)、伊藤太賀選手(スズキ浜松AC、10.5km手前)、丸山文裕選手(旭化成、11km手前)、設楽啓太選手(日立物流、17km過ぎ)といった選手たちが遅れ、21.5km過ぎには福岡国際マラソンでMGC出場権を獲得している竹ノ内佳樹選手(NTT西日本)も遅れてしまいます。さらに一気に8秒もペースが上がった23km(3分05秒から2分57秒に)を過ぎたあたりで村山謙太選手(旭化成)が後退。25kmの段階で先頭集団に残るのは、ともに一般参加でエントリーしていた窪田忍選手と初マラソンの藤本拓選手(以上、トヨタ自動車)、同じく一般参加で今回が初マラソンとなる中村匠吾選手(富士通)、ベテランの今井正人選手(トヨタ自動車九州)、そして鈴木洋平選手(愛三工業)、野口拓也選手(コニカミノルタ)の6人に。25.5kmで野口・鈴木・今井の3選手が、27km過ぎで中村選手が遅れ、さらに27.8kmあたりで藤本選手が遅れた段階で、トップグループに残ったのは窪田選手のみとなりました。
ここまで集団の中央付近でレースを進めていた窪田選手は、30kmまでの1kmでペースを上げたペースメーカーに唯一人ついてしまったことで、30km(先頭は1時間30分48秒で通過)でペースメーカーたちがレースを終えると単独首位に立つ形となりました。しかし、すぐに海外選手7人が追いつき8人のトップグループが形成され、31.5kmすぎで初マラソンのジェイク・ロバートソン選手(ニュージーランド)が仕掛けると、これに5人の海外選手が反応して窪田選手の前へ。7位に後退した窪田選手は、その後、徐々に差を広げられてしまいました。
5人となったトップ争いは、残り5kmで仕掛けたアルバート・コリル選手(ケニア)に、愛知製鋼所属で今回が初マラソンとなるマチャリア・ディラング選手(ケニア)とロバートソン選手がつきましたが、その後、ロバートソン選手が遅れ、コリル選手にディラング選手の一騎打ちに。39km付近でディラング選手がトップに立つと、コリル選手を突き放し、2時間07分53秒で先着。35~40kmを15分05秒に上げ、最後の2.195kmを6分32秒で走りきっての優勝となりました。
レース後の記者会見で、「初マラソンで優勝することができて大変光栄に思っている。昨年、ペースメーカーとして30kmまで走らせてもらった経験が、コースを知るという意味で大変役に立った。去年は30kmで終えたレースを、あと12km走ったわけだが、その12kmについてもリラックスしてレースに挑むことができた」と振り返ったディラング選手は、愛知製鋼に所属して5年目。ハーフマラソンでは1時間00分30秒(2015年)の自己記録を持っています。5000m・10000mでも昨シーズンに13分19秒42、27分46秒14と自己記録を更新。2月10日には、ナイロビ(ケニア)で開催されたケニア・クロスカントリーで3位(10km、28分49秒)の成績を収めるなど、上り調子でこのレースを迎えていました。2位にはコリル選手が2時間08分17秒で続き、3位にはロバートソン選手がニュージーランド新記録となる2時間08分26秒でフィニッシュ。4位には、福岡第一高校の出身で、スズキ浜松ACに所属するマイケル・ギザエ選手(ケニア)が、初のサブテンとなる2時間09分21秒をマークして続きました。
日本人トップ争いは、31.5kmで上位集団から遅れた窪田選手が、その後、急激にペースダウン。一方、レース中盤すぎで先頭から遅れていた今井選手、野口選手、中村選手が、ペースは落としつつも前から落ちてきた選手を拾って、日本人2位グループを形成しました。33km過ぎで野口選手が後退すると、今井選手と中村選手は並走する形で前を追い、37km手前で窪田選手を逆転。残り5km地点は、今井選手が中村選手をリードする形で通過しました。2人の並走が崩れたのは38km過ぎ。前に出た中村選手に、今井選手がつくことができず、その差は徐々に広がっていきまました。
40kmを2時間04分05秒で通過した中村選手は、この段階でMGC獲得の条件となる2時間10分台突入にはぎりぎり状態。しかし、40kmからの1kmを3分10秒にペースを上げると、ラスト1km地点を2時間07分53秒で通過。競技場内のバックストレートで前回優勝者のエゼキエル・チェビー選手(ケニア)を抜き去り7位に浮上すると、最後の1kmは2分58秒でカバーして2時間10分51秒でフィニッシュ。見事MGCチケットを手に入れました(中村選手のコメントは別記)。日本人2位・3位には今井選手と野口選手が9・10位で続きましたが、2時間11分38秒・2時間11分48秒と、MGC進出条件にはわずかに及ばず。この大会でのMGC獲得者には中村選手のみにとどまりました。
レース後の記者会見で、尾縣貢日本陸連専務理事は、「この季節としてはかなり気温の高い条件だったが、ディラング選手をはじめ海外の力のある選手の強さは際立っていた。力の差はまだあると思う。そんななか初マラソンの中村選手の走りは、40km以降の粘りもあって、最後の走りに関しては非常に評価できる。スピードランナーなので、これから練習を積むことによって大きく変わってくれる可能性もある」とコメントしました。
また、MGCシリーズ第1シーズン(2017-2018年)の男子全5戦を終え、13人の出場権獲得者が出たことについて、瀬古利彦日本陸連マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「北海道、福岡、別大、東京、そして今回のびわ湖と、全大会から(MGCファイナリストを)1人以上出すことができた。日本のマラソンのレベルがだんだんと上がっているという実感はある」と述べ、「今回の13人の倍増を狙って来年度も行きたい」と2018-2019シーズンを期待しました。
【MGC出場権獲得者コメント】
◎中村匠吾選手(富士通)
7位 2時間10分51秒 =日本人1位
今回が初マラソン。まずはMGCの権利を獲得して、次につながるレースができたのかなと思っている。ただ、タイムを考えると、東京マラソンの日本人選手や今日優勝した海外選手に比べるとまだまだ力不足を感じている。良かった点と悪かった点が見つかったので、今後、しっかり練習に生かしていきたい。
スタート前は、30kmまでは(先頭集団に)つけるかなと思っていたが、27km地点で脚にきて離れてしまった。そのあとは、(MGC出場権獲得の条件となる)2時間11分を切れるペースで走っていたので、そこを目標にした。前の選手が見える位置にいて、最後まで諦めない気持ちにさせてくれたこともよかったのかなと思う。
最後に時計を見たのは40km。そこで残り2.195kmを7分切るくらいで行かないと2時間11分を切れないとわかっていた。「ここまで来たら行くしかない」という気持ちだったし、自分のなかで身体はしっかり動かせているという意識があったので、気持ちを強く持つことができた。(走る前の段階で)「最後の7.195kmを頑張る」ことがポイントと考えていた。タイム(ペース)自体は落ちているけれど、考えていた通りの我慢をすることはできたように感じている。
このレースに向けては、40km走に関しては、45km近くの2本を含めてトータルで8本やっている。本格的なマラソン練習に入ったのは10月のボストンハーフマラソン後。まず、10~12月はスタミナをため込むことを目指し、インターバルよりも長い距離を意識して走り込む練習を行った。1~2月は、距離走で40kmも2本ほどやったが、それよりもセットで行うインターバルのほうを重視した。自分の持ち味であるトラックのスピードを落とさないようにしながら身体のキレを出してこられたことが、最後の数週間で体調を上げられたことにつながったのではないかと思う。
このあとは、少し休む期間を設けて練習を再開し、5月あたりからトラックシーズンに入る予定。トラックでも日本選手権でしっかり戦っていきたい。また、2回目のマラソンを秋ごろ海外でやりたいというプランがある。そこに向けてしっかり準備を進めていきたい。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
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