第65回全日本実業団対抗選手権大会が、9月22~24日、ヤンマースタジアム長居(大阪市)において開催されました。8月に行われたロンドン世界選手権や昨年のリオデジャネイロ五輪の日本代表選手も、それぞれに所属チームの一員として多数エントリー。“実業団日本一”の座に挑みました。男子円盤投で堤雄司選手(群馬綜合ガード)が60m74の日本新記録を、男子100mでは山縣亮太選手(セイコー)が日本歴代2位タイとなる10秒00をマークするなどの好記録も誕生しています。
ここでは、好記録が誕生した種目、日本代表選手の話題を中心に、大会の模様をレポートします。
◎60m74のビッグスロー! 堤選手、円盤投で再度の日本新
男子円盤投決勝は、大会2日目の9月23日、同日行われた予選を通過した12名が出場して行われました。堤選手は、1回目に58m88を投げてトップに立つと、2回目に60m74の日本新記録をマーク。3回目は、56m前後の投てきであったためか足留め材の前から出てファウルとし、前半を終了させました。4回目は、投げた円盤が高く上がってしまう投てきとなり55m95。5回目は60mラインぎりぎりの地点に円盤は落ちたものの堤選手がターンのあと止まりきれずファウルに。最終投てきは、右サイドへ外れて飛んだ円盤が、防御ネットに当たるファウルで競技を終了。大会4連覇を達成しました。
堤選手は、7月22日の国士大記録会で、従来の日本記録(60m22、1979年)を上回る60m37をマークしていましたが、運営上の不備(囲いを設置せずに競技を実施)が問われ、記録自体の公認に時間を要する事態に見舞われていました。最終的にこの記録は非公認に。しかし、その結論が出る前の8月18日に、関東選手権(熊谷)で60m34、60m54と2回の60m超えの投てきを披露、“幻の日本記録”もあっさりと更新するとともに、五輪種目で最も古かった日本記録を38年ぶりに塗り替えていました。日本記録保持者として臨んだ今大会では、これをさらに20cm上回っただけでなく、3試合続けて60m台に乗せる安定感も見せつける形となりました。
なお、この種目では、2位の湯上剛輝選手(トヨタ自動車)も、日本歴代5位となる58m27の好記録をマーク。堤選手、湯上選手ともに、10月上旬に行われる愛媛国体にもエントリーしており、再度の記録更新を大いに期待できそうです。
◎山縣選手、完全復活! 日本歴代2位タイの10秒00
男子100mは、最終日に予選・準決勝・決勝の3ラウンドが行われるタイムテーブル。山縣選手は、予選を10秒18(-0.2)、準決勝を10秒20(-0.4)と、ともに向かい風をものともせず、頭ひとつ抜けた形の走りを見せて1着で通過し、決勝に駒を進めました。6レーンに入った決勝では、スタートの反応時間こそ8人中4番目(0.138秒)ながら、序盤でリードを奪うと、その後も、力みの感じられない、流れるような走りで後続を寄せつけず、フィニッシュラインを駆け抜けました。速報値として出た記録は「10.01」でしたが、通常よりも時間をかけて再表示された正式記録は「10.00」に。桐生祥秀選手(東洋大)が9月9日に9秒98をマークして塗り替えるまでの日本記録(伊東浩司、1998年)に並ぶ日本歴代2位タイであるとともに、前年のこの大会でマークした自己記録10秒03を更新しての優勝でした。
今季は、3月11日にオーストラリアで、1日に10秒0台を2本揃える(10秒06<+1.3>、10秒08<-0.1>)好スタートを切りながらも、その後、見舞われた右足首の故障の影響で日本選手権6位にとどまり、世界選手権代表入りも逃すという苦しいシーズンを送ってきた山縣選手ですが、代表漏れの悔しさを味わったその長居スタジアムで、鮮やかな完全復活を遂げる結果となりました。このあと10月に行われる愛媛国体成年男子100mにも出場の予定。レース後には、国体での自己記録更新に意欲を見せていました。
この男子100m決勝で山縣選手に続いたのは、男子4×100mRでリオ五輪、ロンドン世界選手権でともに2走を務めて連続メダル獲得に貢献している飯塚翔太選手(ミズノ)。今大会では、100mと両リレーに出場し、100m5本、400m2本の計7本を2日でこなす過密日程でしたが、100m決勝では自己4番目となる10秒24をマークしました。また、その1時間後に行われた4×400mR決勝では2走を務めて大きくリードを奪う走りで、チームを優勝(3分08秒82)に導いています。
◎男子10000mW、男子110mH、男子棒高跳などで日本代表選手が激突!
男子10000mWは、50kmWリオ五輪銅、ロンドン世界選手権銀の荒井広宙選手(自衛隊体育学校)が大会直前に見舞われた発熱の影響で欠場した以外は、今夏のロンドン世界選手権、昨年のリオ五輪だけでなく、20kmWと50kmWでこれまでの世界大会で活躍した選手が多数出場する豪華なものとなりました。
レースは、序盤から中盤にかけて松永大介選手(富士通)や藤澤勇選手(ALSOK)が先頭に立ち、その後、小林快選手(ビッグカメラ)、髙橋英輝選手(富士通)を含めた4選手が上位集団を形成しました。終盤に入ったところで藤澤選手が遅れて勝負は3人の争いに。途中、小林選手が先頭に立つ場面もありましたが、残り1周手前で松永選手が前に出ると、これに対応した髙橋選手との一騎打ちとなりました。ラスト150mでスパートした髙橋選手がそのまま逃げ切り、38分56秒90で3連覇を達成。松永選手が39分03秒25、小林選手39分06秒86と、2・3位で続いたほか、藤澤選手が4位、丸尾知司選手(愛知製鋼)が5位、谷井孝行選手(自衛隊体育学校)が6位でフィニッシュしました。
男子110mHは、フルエントリーとなったロンドン世界選手権代表3選手の戦いになりました。追い風1.1mという好条件のなかで行われた決勝は、増野元太選手(ヤマダ電機)が接戦を制して13秒61で先着。高山峻野選手(ゼンリン)と大室秀樹選手(大塚製薬)が同タイムの13秒65で続きましたが、着差ありで高山選手が2位、大室選手3位という結果となりました。
男子棒高跳も、リオ五輪とロンドン世界選手権に出場した山本聖途選手(トヨタ自動車)、荻田大樹選手(ミズノ)、そしてリオ五輪で7位入賞を果たした日本記録保持者(5m83、2005年)の澤野大地選手(富士通)と“トップ3”が出場。荻田選手が故障の影響もあり5m30の3回目以降を棄権したところで、山本選手と澤野選手の戦いになりました。バーが5m60に上がると、そこまですべて一発で跳んできていた澤野選手が1回目を失敗し、山本選手がこれをクリア。勝負を懸けた澤野選手は2回目以降をパスして5m65に挑みましたが、越えることができず、山本選手の2年ぶり2回目の優勝が決まりました。その後、自身の持つ大会記録(5m70)を上回る5m80にバーを上げた山本選手。残念ながらクリアはなりませんでしたが、世界トップレベルの高さへの挑戦は、会場の注目を大いに集めました。
このほか、男子400mHはロンドン世界選手権セミファイナリストの安部孝駿選手(デサント)が49秒08で圧勝。女子やり投も世界選手権に出場した宮下梨沙選手(薫英女学院教)が59m81で4年連続6回目の優勝を果たしています。
◎東邦銀行が団体総合初優勝、NTNが男女短距離5種目制す
この大会で活躍が目立ったのはNTNの短距離陣。男子では200m(±0)で諏訪達郎選手(20秒68)、東魁輝選手(20秒76)がワン・ツー・フィニッシュ。400mは東選手が46秒79で制し、この2人を3・4走に配した4×100mRも39秒06で優勝しました。また、女子では名倉千晃選手が100m(11秒65、+0.1)と200m(23秒84、+0.2)で2冠を達成しています。
このほかでは、女子では青木沙弥佳選手(東邦銀行)が400m(54秒13)、400mH(57秒31)、4×100mR(3走、45秒61)で3冠を達成。優秀選手には、男子円盤投で日本記録を樹立した堤選手と、男子100mで10秒00をマークした山縣選手が選ばれましたが、青木選手、前述の名倉選手、そして女子三段跳を13m40(+0.9)の大会新記録で制した宮坂楓選手(ニッパツ)の3名には、敢闘賞が贈られました。
また、チームで争われる対抗得点は、女子で69点を獲得して女子総合を制した東邦銀行が団体総合でもトップとなり初優勝。男子総合は59点を獲得した富士通が優勝しました。
◎髙平選手、引退。男子4×100mRが最後のレースに
今季で第一線から退くことを表明していた2008年北京五輪男子4×100mR銅メダリストの髙平慎士選手(富士通)が、この大会で最後のレースに臨みました。個人種目の200mでは、出身地の北海道で開催された南部記念陸上(7月)で最後のレースを終えている髙平選手ですが、大会2日目の9月23日に行われた男子4×100mRに富士通チームの3走として出場。予選を高瀬慧選手、橋元晃志選手、髙平選手、嶺村鴻太選手のオーダーで臨んで2着(40秒60)で通過すると、8レーンに入った決勝は、音部拓仁選手、高瀬選手、髙平選手、岸本鷹幸選手のオーダーで挑み、39秒93・4位でフィニッシュ。第3走者として、いつもと同じように第3コーナーでバトンを受け、第4コーナーでバトンをつないだ髙平選手は、ホームストレートの中央付近で記録の発表を見守ると、そのまま走路を歩いてフィニッシュラインへ。観客席に向かって一礼したのちにフィニッシュラインを越えました。
その後、行われた引退セレモニーの挨拶では、涙で声を詰まらせる場面も。セレモニーには北京五輪リレーメンバーの朝原宣治さんや塚原直貴さんが駆けつけたほか、日本代表チームの後輩を代表する形で藤光謙司選手、山縣選手が参加。各氏からねぎらいの言葉が寄せられたのちに、福嶋正・富士通監督から花束が贈られ、最後に富士通チームメンバーによる胴上げが行われました。
引退セレモニー後に行われた会見では、「この先、競技をやめてから、いろいろなことが“懐かしいな”と思うことは多々あると思う。陸上をやっていて得られたものはたくさんあるが、最後に一番大事だなと思ったのは、“人”。それを、最後となった今シーズンに改めて感じることができた。そのことは、僕にとっての財産になると思う」と話した髙平選手。今後についての質問には、「指導者への転身は考えていない」「具体的にはまだ決まっていない」としつつも、引退後も富士通に所属し、陸上競技に関わる活動に取り組んでいく方向性であることを示しました。
【日本新記録樹立コメント】
男子円盤投 60m74 =日本新記録
堤 雄司選手(群馬綜合ガード)
「(60m74の投てきは)実は、ターンを始めた際に円盤が少し手の中で動いてしまったため、それを修正しながら、最後の振り切りだけを合わせるみたいな形で投げた。なので、自分の感覚としては、投げた瞬間に“行った”という感じではなかった。
今日は、(日本ではあまり実施されることのない)予選・決勝という試合で、さらに予選と決勝の時間があまりないというような部分も含めて、決勝に入る前に疲れを感じていた。脚に張りが出ていて、練習投てきもつりそうになりながらやっていたので、“前半勝負かな”と考え、1投目、2投目、3投目でしっかりといい投げをして、勝負を決めるとともにいい記録を出していこうと思って臨んでいた。そういう割り切りが、逆にいい結果を生んだではないかと思う。
今、実感しているのは“地力がついてきた”ということ。7月に60m37を投げる前と後とでは、練習のなかでのアベレージが変わってきている。正直なところ、技術的な面では7月の投げが一番いい。しかし、(60m台を)投げたことによって、“壁を越えた”というような感じが自分のなかにあるのではないか。8月(の60m54)のときもそうだったが、60mを投げても、なんとも思わなくなった。そこが大きいと思う。
去年くらいからイメージした動きができるようになっていて、感覚としては研ぎ澄まされている感じが自分のなかですごくある。しかし、それだけでは戦っていけない部分も必ず出てくる。今後は、そこをどんどん成長させていかなければいけない。
円盤投をもっと強くしていきたいという気持ちは、初めて日本選手権に勝った5年くらい前からずっと持っている。今日は、2位の湯上(剛輝、トヨタ自動車)も自己ベスト(58m27)を出しているが、円盤投には、若くて力のある選手がたくさんいる。そういう選手たちと一緒に、アジアの舞台、そして世界の舞台に立てるよう、これからも頑張っていきたい。」
(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
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ここでは、好記録が誕生した種目、日本代表選手の話題を中心に、大会の模様をレポートします。
◎60m74のビッグスロー! 堤選手、円盤投で再度の日本新
男子円盤投決勝は、大会2日目の9月23日、同日行われた予選を通過した12名が出場して行われました。堤選手は、1回目に58m88を投げてトップに立つと、2回目に60m74の日本新記録をマーク。3回目は、56m前後の投てきであったためか足留め材の前から出てファウルとし、前半を終了させました。4回目は、投げた円盤が高く上がってしまう投てきとなり55m95。5回目は60mラインぎりぎりの地点に円盤は落ちたものの堤選手がターンのあと止まりきれずファウルに。最終投てきは、右サイドへ外れて飛んだ円盤が、防御ネットに当たるファウルで競技を終了。大会4連覇を達成しました。
堤選手は、7月22日の国士大記録会で、従来の日本記録(60m22、1979年)を上回る60m37をマークしていましたが、運営上の不備(囲いを設置せずに競技を実施)が問われ、記録自体の公認に時間を要する事態に見舞われていました。最終的にこの記録は非公認に。しかし、その結論が出る前の8月18日に、関東選手権(熊谷)で60m34、60m54と2回の60m超えの投てきを披露、“幻の日本記録”もあっさりと更新するとともに、五輪種目で最も古かった日本記録を38年ぶりに塗り替えていました。日本記録保持者として臨んだ今大会では、これをさらに20cm上回っただけでなく、3試合続けて60m台に乗せる安定感も見せつける形となりました。
なお、この種目では、2位の湯上剛輝選手(トヨタ自動車)も、日本歴代5位となる58m27の好記録をマーク。堤選手、湯上選手ともに、10月上旬に行われる愛媛国体にもエントリーしており、再度の記録更新を大いに期待できそうです。
◎山縣選手、完全復活! 日本歴代2位タイの10秒00
男子100mは、最終日に予選・準決勝・決勝の3ラウンドが行われるタイムテーブル。山縣選手は、予選を10秒18(-0.2)、準決勝を10秒20(-0.4)と、ともに向かい風をものともせず、頭ひとつ抜けた形の走りを見せて1着で通過し、決勝に駒を進めました。6レーンに入った決勝では、スタートの反応時間こそ8人中4番目(0.138秒)ながら、序盤でリードを奪うと、その後も、力みの感じられない、流れるような走りで後続を寄せつけず、フィニッシュラインを駆け抜けました。速報値として出た記録は「10.01」でしたが、通常よりも時間をかけて再表示された正式記録は「10.00」に。桐生祥秀選手(東洋大)が9月9日に9秒98をマークして塗り替えるまでの日本記録(伊東浩司、1998年)に並ぶ日本歴代2位タイであるとともに、前年のこの大会でマークした自己記録10秒03を更新しての優勝でした。
今季は、3月11日にオーストラリアで、1日に10秒0台を2本揃える(10秒06<+1.3>、10秒08<-0.1>)好スタートを切りながらも、その後、見舞われた右足首の故障の影響で日本選手権6位にとどまり、世界選手権代表入りも逃すという苦しいシーズンを送ってきた山縣選手ですが、代表漏れの悔しさを味わったその長居スタジアムで、鮮やかな完全復活を遂げる結果となりました。このあと10月に行われる愛媛国体成年男子100mにも出場の予定。レース後には、国体での自己記録更新に意欲を見せていました。
この男子100m決勝で山縣選手に続いたのは、男子4×100mRでリオ五輪、ロンドン世界選手権でともに2走を務めて連続メダル獲得に貢献している飯塚翔太選手(ミズノ)。今大会では、100mと両リレーに出場し、100m5本、400m2本の計7本を2日でこなす過密日程でしたが、100m決勝では自己4番目となる10秒24をマークしました。また、その1時間後に行われた4×400mR決勝では2走を務めて大きくリードを奪う走りで、チームを優勝(3分08秒82)に導いています。
◎男子10000mW、男子110mH、男子棒高跳などで日本代表選手が激突!
男子10000mWは、50kmWリオ五輪銅、ロンドン世界選手権銀の荒井広宙選手(自衛隊体育学校)が大会直前に見舞われた発熱の影響で欠場した以外は、今夏のロンドン世界選手権、昨年のリオ五輪だけでなく、20kmWと50kmWでこれまでの世界大会で活躍した選手が多数出場する豪華なものとなりました。
レースは、序盤から中盤にかけて松永大介選手(富士通)や藤澤勇選手(ALSOK)が先頭に立ち、その後、小林快選手(ビッグカメラ)、髙橋英輝選手(富士通)を含めた4選手が上位集団を形成しました。終盤に入ったところで藤澤選手が遅れて勝負は3人の争いに。途中、小林選手が先頭に立つ場面もありましたが、残り1周手前で松永選手が前に出ると、これに対応した髙橋選手との一騎打ちとなりました。ラスト150mでスパートした髙橋選手がそのまま逃げ切り、38分56秒90で3連覇を達成。松永選手が39分03秒25、小林選手39分06秒86と、2・3位で続いたほか、藤澤選手が4位、丸尾知司選手(愛知製鋼)が5位、谷井孝行選手(自衛隊体育学校)が6位でフィニッシュしました。
男子110mHは、フルエントリーとなったロンドン世界選手権代表3選手の戦いになりました。追い風1.1mという好条件のなかで行われた決勝は、増野元太選手(ヤマダ電機)が接戦を制して13秒61で先着。高山峻野選手(ゼンリン)と大室秀樹選手(大塚製薬)が同タイムの13秒65で続きましたが、着差ありで高山選手が2位、大室選手3位という結果となりました。
男子棒高跳も、リオ五輪とロンドン世界選手権に出場した山本聖途選手(トヨタ自動車)、荻田大樹選手(ミズノ)、そしてリオ五輪で7位入賞を果たした日本記録保持者(5m83、2005年)の澤野大地選手(富士通)と“トップ3”が出場。荻田選手が故障の影響もあり5m30の3回目以降を棄権したところで、山本選手と澤野選手の戦いになりました。バーが5m60に上がると、そこまですべて一発で跳んできていた澤野選手が1回目を失敗し、山本選手がこれをクリア。勝負を懸けた澤野選手は2回目以降をパスして5m65に挑みましたが、越えることができず、山本選手の2年ぶり2回目の優勝が決まりました。その後、自身の持つ大会記録(5m70)を上回る5m80にバーを上げた山本選手。残念ながらクリアはなりませんでしたが、世界トップレベルの高さへの挑戦は、会場の注目を大いに集めました。
このほか、男子400mHはロンドン世界選手権セミファイナリストの安部孝駿選手(デサント)が49秒08で圧勝。女子やり投も世界選手権に出場した宮下梨沙選手(薫英女学院教)が59m81で4年連続6回目の優勝を果たしています。
◎東邦銀行が団体総合初優勝、NTNが男女短距離5種目制す
この大会で活躍が目立ったのはNTNの短距離陣。男子では200m(±0)で諏訪達郎選手(20秒68)、東魁輝選手(20秒76)がワン・ツー・フィニッシュ。400mは東選手が46秒79で制し、この2人を3・4走に配した4×100mRも39秒06で優勝しました。また、女子では名倉千晃選手が100m(11秒65、+0.1)と200m(23秒84、+0.2)で2冠を達成しています。
このほかでは、女子では青木沙弥佳選手(東邦銀行)が400m(54秒13)、400mH(57秒31)、4×100mR(3走、45秒61)で3冠を達成。優秀選手には、男子円盤投で日本記録を樹立した堤選手と、男子100mで10秒00をマークした山縣選手が選ばれましたが、青木選手、前述の名倉選手、そして女子三段跳を13m40(+0.9)の大会新記録で制した宮坂楓選手(ニッパツ)の3名には、敢闘賞が贈られました。
また、チームで争われる対抗得点は、女子で69点を獲得して女子総合を制した東邦銀行が団体総合でもトップとなり初優勝。男子総合は59点を獲得した富士通が優勝しました。
◎髙平選手、引退。男子4×100mRが最後のレースに
今季で第一線から退くことを表明していた2008年北京五輪男子4×100mR銅メダリストの髙平慎士選手(富士通)が、この大会で最後のレースに臨みました。個人種目の200mでは、出身地の北海道で開催された南部記念陸上(7月)で最後のレースを終えている髙平選手ですが、大会2日目の9月23日に行われた男子4×100mRに富士通チームの3走として出場。予選を高瀬慧選手、橋元晃志選手、髙平選手、嶺村鴻太選手のオーダーで臨んで2着(40秒60)で通過すると、8レーンに入った決勝は、音部拓仁選手、高瀬選手、髙平選手、岸本鷹幸選手のオーダーで挑み、39秒93・4位でフィニッシュ。第3走者として、いつもと同じように第3コーナーでバトンを受け、第4コーナーでバトンをつないだ髙平選手は、ホームストレートの中央付近で記録の発表を見守ると、そのまま走路を歩いてフィニッシュラインへ。観客席に向かって一礼したのちにフィニッシュラインを越えました。
その後、行われた引退セレモニーの挨拶では、涙で声を詰まらせる場面も。セレモニーには北京五輪リレーメンバーの朝原宣治さんや塚原直貴さんが駆けつけたほか、日本代表チームの後輩を代表する形で藤光謙司選手、山縣選手が参加。各氏からねぎらいの言葉が寄せられたのちに、福嶋正・富士通監督から花束が贈られ、最後に富士通チームメンバーによる胴上げが行われました。
引退セレモニー後に行われた会見では、「この先、競技をやめてから、いろいろなことが“懐かしいな”と思うことは多々あると思う。陸上をやっていて得られたものはたくさんあるが、最後に一番大事だなと思ったのは、“人”。それを、最後となった今シーズンに改めて感じることができた。そのことは、僕にとっての財産になると思う」と話した髙平選手。今後についての質問には、「指導者への転身は考えていない」「具体的にはまだ決まっていない」としつつも、引退後も富士通に所属し、陸上競技に関わる活動に取り組んでいく方向性であることを示しました。
【日本新記録樹立コメント】
男子円盤投 60m74 =日本新記録
堤 雄司選手(群馬綜合ガード)
「(60m74の投てきは)実は、ターンを始めた際に円盤が少し手の中で動いてしまったため、それを修正しながら、最後の振り切りだけを合わせるみたいな形で投げた。なので、自分の感覚としては、投げた瞬間に“行った”という感じではなかった。
今日は、(日本ではあまり実施されることのない)予選・決勝という試合で、さらに予選と決勝の時間があまりないというような部分も含めて、決勝に入る前に疲れを感じていた。脚に張りが出ていて、練習投てきもつりそうになりながらやっていたので、“前半勝負かな”と考え、1投目、2投目、3投目でしっかりといい投げをして、勝負を決めるとともにいい記録を出していこうと思って臨んでいた。そういう割り切りが、逆にいい結果を生んだではないかと思う。
今、実感しているのは“地力がついてきた”ということ。7月に60m37を投げる前と後とでは、練習のなかでのアベレージが変わってきている。正直なところ、技術的な面では7月の投げが一番いい。しかし、(60m台を)投げたことによって、“壁を越えた”というような感じが自分のなかにあるのではないか。8月(の60m54)のときもそうだったが、60mを投げても、なんとも思わなくなった。そこが大きいと思う。
去年くらいからイメージした動きができるようになっていて、感覚としては研ぎ澄まされている感じが自分のなかですごくある。しかし、それだけでは戦っていけない部分も必ず出てくる。今後は、そこをどんどん成長させていかなければいけない。
円盤投をもっと強くしていきたいという気持ちは、初めて日本選手権に勝った5年くらい前からずっと持っている。今日は、2位の湯上(剛輝、トヨタ自動車)も自己ベスト(58m27)を出しているが、円盤投には、若くて力のある選手がたくさんいる。そういう選手たちと一緒に、アジアの舞台、そして世界の舞台に立てるよう、これからも頑張っていきたい。」
(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
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