男子50km競歩はトリプル入賞!
荒井が銀、小林が銅、丸尾が5位!
世界選手権最終日の8月13日は、男女競歩種目がバッキンガム宮殿前に設置される1周2kmの周回コースで実施されたのちに、ロンドン・スタジアムでイブニングセッションが行われるタイムテーブル。日本勢は、男子50km競歩、男子20km競歩、女子20km競歩に7名の選手が出場しました。
7時45分にスタートした男子50kmには、昨年のリオ五輪で銀メダルを獲得した荒井広宙選手(自衛隊体育学校)、小林快選手(ビックカメラ)、丸尾知司選手(愛知製鋼)の3選手が出場しました。レースは、世界記録保持者のヨアン・ディニ選手(フランス)が序盤から飛び出す展開となり、そのまま逃げ切って3時間33分12秒の大会新記録で優勝しましたが、日本勢は、荒井選手と小林選手が2位集団につけ、荒井選手がこの集団をコントロールする形でレースを展開していきました。37kmすぎで荒井選手がペースを上げ、これに小林選手がついてからは“二人旅”に。以降は、荒井選手がペースをつくる形で、世界選手権初出場の小林選手をアシストしました。荒井選手は、3時間41分17秒で銀メダルを獲得。続いて小林選手が自己記録を更新する3時間41分19秒でフィニッシュしました。同じく世界選手権初出場の丸尾選手は、2位集団から遅れて11位前後でレースを進めていましたが、終盤で少しずつ順位を上げ、大幅な自己新記録となる3時間43秒03をマークして5位入賞を果たしました。
世界選手権における男子競歩の銀メダルは史上初。また、この大会におけるダブルメダルは、2003年パリ大会の女子マラソン以来、トリプル入賞は2007年大阪大会男子マラソン以来となる快挙です。
続いて行われた女子20km競歩には、岡田久美子選手(ビックカメラ)が出場。岡田選手は、5kmを26位、10㎞を23位、15kmを24位で通過しましたが、ラスト5kmで順位を少しずつ上げて18位(1時間31分19秒)で競技を終了しました。
日本勢最後の出場種目となった男子20km競歩には、藤澤勇(ALSOK)、髙橋英輝(富士通)、松永大介(富士通)の3選手が出場しました。日本勢は10kmすぎまでは先頭集団でレースを進め、10km過ぎでは藤澤選手がトップに立つ場面も見られましたが、13km過ぎにペースが上がったところで髙橋選手と松永選手が遅れ、さらに藤澤選手も15km以降で先頭集団から離される展開に。勝負は残り2kmでエイデル・アレバロ選手(コロンビア)とセルゲイ・シロボコフ選手(ANA※)の争いとなり、ラスト1kmを切ったところで飛び出したアレバロ選手が1時間18分53秒で優勝しました。日本勢は藤澤選手が11位(1時間20分04秒)、髙橋選手は1時間20分36秒で14位という結果。15km以降で大きくペースを落とした松永選手は、蛇行するなど体調が不安視されましたが、38位(1時間23分39秒)でフィニッシュしました。
※Authorised Neutral Athletes:ドーピング問題で出場停止となっているロシアから、国際陸連が中立の立場での出場を認めるとした競技者
【選手コメント】
◎荒井広宙選手(自衛隊体育学校)
男子50kmW決勝 2位 3時間41分17秒
「(レースは)自然に任せて展開し、思ったよりもペースが上がらなかったので、ところどころで僕が引っ張った。集団のなかでは、たまに前に出るだけでなく、後ろで待機したりもした。ちょこちょこ動いているように見えたかもしれないが、うまく切り替えながら、攻めるところと抑えるところを結果的に計算しながらできたと思う。僕の前に人が出てこなかったので警戒されているなと感じたが、逆に(集団を)操作しやすいなと考えた。
(飛び出したフランスのヨアン・ディニ選手を追うことは考えなかったか? の問いに)ディニ選手は世界記録保持者(3時間32分33秒)だし、記録が違いすぎるので、あそこで無理に追いかけても、つぶれてしまうというのが今の(自分の)段階。落ちてくるかと期待もしたが、30kmあたりで大きく引き離されてしまった。昨年、ディニ選手はオリンピックで失敗して、相当な思いで今回臨んでいたはず。すごいなと思うし、僕も彼のように単独で行けるようなレースをしてみたい。
(37㎞あたりから前に出て、第2集団を解体したときの考えは? との問いに)ちょっと集団が大きくて、選手が残っているという印象があったので、ばらけさせた。本当は40kmあたりから勝負に行こうと思っていたので、ちょっと早めに仕掛ける形となった。リオ五輪に比べたら落ち着いて、レースを進められたと思う。リオが(いっぱいいっぱいの)10だとしたら、8~9くらいの間でレースを進めることができた。本当に(全力を)絞り出したような感じではなかった。
小林くんと2人になってからは、同じ日本人同士でバチバチするのもどうかと思うし、ずっと合宿を一緒にやってきているので他人とは思えないので、結果としてはチームジャパンとして、協力し合えるところは協力した。彼も呼吸が荒くなってきていたので、僕が引っ張るというか、ペースメーカーになって、彼のポテンシャルを最大限に引き出せればいいなと考えた。
ラストは少し上げてみて、彼がついてこられそうだったら一緒に行こうかと思ったのだが、少し(差が)開いてしまったのでまた落とした。無理して仕掛ける相手ではないし、最後までそのまま行けば、仮に僕が最後に抜かれて3位になっても、2人ともメダルは取れる。確実に2人でメダルを取ろうと思っていた。
同じ日本チームで一緒に練習をしてきた仲なので、見慣れた彼がいただけで、気持ち的には落ち着いたし、丸尾くんのことも(コース上で)すれ違うたびに様子を見ていた。(彼は)普段通りの練習を意識しながら歩けたのではないかと思う。
昨年に違っているのは、自分でレースを引っ張る、攻めのレースができるようになってきたこと。でも、今回はトート選手(マテイ・トート、スロバキア)やタレント選手(ジャレド・タレント、オーストラリア)が出場していなかったので、彼らが戻ってきたときにどうなるか。もっと力をつけていかないとダメかなと思っている。
この地は、ロンドン五輪のとき、出場がかなわなかった場所。でも、今、思えば、出られなくてよかった。当時は悔しい思いをしたが、そのおかげで、いろいろ考えるきっかけをもらったので。夢かなと思ったことが現実になって、何年か前には考えられないことが現実になっている。今の時代に競歩をやれて、幸せだと思う。
昨年に続くメダルだが、まだ発展途上。もっともっと強くなるので、皆さまにもっと期待して競歩を応援していただけたら。よろしくお願いします!」
◎小林 快選手(ビックカメラ)
男子50kmW決勝 3位 3時間41分19秒=自己新記録
「途中で警告が出て、すごく焦って、硬くなってしまったところがあったが、そこで荒井さんが声をかけてくれたおかげで冷静を保つことができた。荒井さんは、まだまだ余裕だったと思うが、“2人でメダルを取るぞ”ということでペースをつくってくれて、なんとかそれについていくことができた。
37kmくらいから荒井さんが前に出て競っている選手を振り落としたときに、ついていけたことが、自分なかではよかったと思っている。そこ(2人になって)からは、いろいろと声をかけてくれた。
(最後は先を譲った? との問いに)いえ、最後は、荒井さんのほうが“もう行くよ”ということでペースを上げた。さすがにちょっとそこは勝てなかった。
もちろん、あわよくば(荒井選手に)勝てればという思いはあったし、あわよくば金メダルという気持ちもなかったわけではないのだが、ただ、そのなかで昨年(のリオ五輪で)メダルを獲得し、前回(2015年世界選手権)も入賞している力のある先輩ということで、荒井さんを目標にしていけば、いい順位が取れるんじゃないかと思っていた。
(メダルを取れた一番の要因は? との問いに)いろいろな方々が世界で入賞したりメダルを取ったりしてきたことが大きいと思う。その人たちと同じ練習をして、その人たちを目指して、(レースで)力を100%発揮できればいい結果がついてくるようになっている。僕は、何も考えずそこに食らいついていただけという状態だが、練習でも、今日のレースでも食らいついていけたことがこの結果につながったと思うし、食らいついていけたということが、自信になった。」
◎丸尾知司選手(愛知製鋼)
男子50kmW決勝 5位 3時間43分03秒=自己新記録
「順位は頭に入っていたので、少しでも前へと思って歩いたが、出し切りすぎて最後でゴールできない状態になってもいけないので、心拍数などを見ながら、今村コーチ(文男、オリンピック強化コーチ)の顔も見ながら歩いていた。
(途中、荒井選手たちに1分近くまで迫ったが? との問いに)追いつくかなとも思ったが、無理をしないように、入賞というところを目指した。
作戦では、周りを気にせずに、(1km)4分30秒をメドに歩いていた。必ず集団から(選手が)落ちてくるのはわかっていたので、その選手たちを拾っていければと思っていた。今回のレースでは、後半ペースを上げられた点がよかったと思う。
入賞は目標にはしていたが、辿り着くかはわからないと考えていた。こういったインタビューを受けて、改めて実感が湧いたというか、嬉しい気持ち。(この状態は)目指していたところではあったが、なかなか想像はできなかった。いろんな方々に恩返しができて幸せに思う。」
◎岡田久美子選手(ビックカメラ)
女子20kmW決勝 18位 1時間31分19秒
「ちょっと悔しいという思い。ただ、よかった点としては、後半ずるずると順位を落としていくのではなくて、リオ五輪と同じように粘って順位を上げていくことができたのは、また自信になったし、同時に、リオや北京(2015年世界選手権)に比べて過ごしやすい場所での今回のレースは、持ちタイム通りにレースが進んでいくというのがキーワードにあった。自分の持ちタイムは1時間29分台で、ちょっと厳しいところがあったので、これからも日本も自己ベストを更新して、もう少し早い持ちタイムで世界大会に臨めるよう、2020年東京五輪に向けて準備をしていきたい。
5kmで下がったのは、だいたい1周9分くらいの目安で歩こうと思っていたのが、前が8分50秒とかどんどん上がっていったので、そこは無理せず自分のペースを守ろうと思ったから。途中、12kmから15㎞くらいできつくなり、1回ちょっと諦めそうになった。肩がつり上がってしまって、力んでしまったところで脚が動かなくなっていたのだが、給水所でコーチから“リラックスして”と言われたことでようやく気持ちも落ち着き、ラスト2周くらいは(前から落ちてくる選手を)拾って順位を上げることができた。
今日のタイムは海外でのベスト記録。そこは大きく自信になった。展開としては、リオのときと同じ展開となったので、良くもなく悪くもなくというところで、もっと順位を上げられたら良かったのだが、そこは残念に思う。
まだ気持ちの整理がついていないが、ポイントはやはり自己ベストなってくると思った。今日の入賞者も、(1時間)27分台とかの選手ばかりなので、神戸(日本選手権競歩)はまた(競り合う相手のいない)1人でのレースになるかもしれないが、そのなかでも26~28分台が出せるように全部を鍛え直して、取り組んでいかなければと思った。」
◎藤澤 勇選手(ALSOK)
男子20kmW決勝 11位 1時間20分04秒
「10kmから行ってやろうと(自らを)鼓舞して行き、15kmまで行ったが、そこからが…。警告が1枚ついて、動きの修正とかを意識していているうちにペースが上がっていて、置いていかれてしまった。
いつも後ろ(後続からの追い上げ)にびびっていたので、逆に攻めようという気持ちで行った。経験があるから、逆に頭を使わずに、逆にアグレッシブに、あまり結果をまとめようとするのではなく、挑戦していくことにトライしたのだが、まだまだだった。
あまり世界選手権と意識せず、日本選手権のイメージで臨んでいた。また、どこかで考えすぎたのか…。残り5kmが課題である。
タイムの割に順位がよくないということにも迷いがあった。だいぶいいペースで来て、6人くらいに絞れているかと思ったのに、数えてみると、もっといて、“えーっ”と思った。僕ら(日本選手)のレベルも上がっているということは、周りも上がっているということ。もっと精進していきたい。
(1時間)20分は切れなかったが、海外でしっかりタイムを上げてこられたことや、15kmまではメダル争いするくらいの位置にいたことなど、進歩を感じられたこともあるが、あと5km。いくつになって穴だらけで申し訳ない。」
◎髙橋英輝選手(富士通)
男子20kmW決勝 14位 1時間20分36秒
「前半からある程度、歩きやすいペースをつくって、もうちょっと攻めのレースをしようと思っていたが、調子がよくなくて、前半で思うように行ききれなかった。入賞することにこだわっていたので、それができなかったのは悔しい。今までの失敗を踏まえながら、練習量にメリハリをつけるなど、自分のなかでは今まで一番いい準備ができていた。そういったなかで入賞という結果を残せなかったのが悔しいし、申し訳ない。
全体的に悪くなくまとめてきたつもりだったが、本番になると脚が重かった。ウォーミングアップの段階から重かったので、いつも通りいかないのかなと思った。
最後の調整もうまく行っていたつもりだったが、当日うまく自分の歩きが…ある程度はできたが、最高の歩きができなかった。今までさんざん失敗してきて、悔しい思いをしてきて、変えられることは変えてきた。今回は戦えると思っていて、うまく行った部分もあったのだが、結果を出せないというのは、まだ代表選手として変わりきれていないのかもしれない。何かを変えていかなければと思う。」
◎松永大介選手(富士通)
男子20kmW決勝 38位 1時間23分39秒
※フィニッシュ後、救護室へ向かったため、取材対応出来ず
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォートキシモト