強豪校の1つとして、日本の陸上界を長きにわたってリードしてきた筑波大学陸上競技部は、スポーツ大会やイベントの企画・運営等で実績を持つ株式会社セレスポと共同で、今年3月に「つくばウェルネス陸上」という新たな大会を立ち上げました。これは、陸連登録していない人々や陸上競技経験のない人でも、誰でも気軽に参加できることを意図した非公認の競技会。記録は公認されないものの、筑波大で実施している公認競技会と同じシステムを用いて、正確なタイム計測が行われるほか、電子ペーサーやウエアラブル端末などの最新の機材や、高い専門性と意欲にあふれる学生たちのサポートなど、筑波大陸上部が持つノウハウやリソースを活用して、地域の人々がスポーツに出あう機会、楽しみを見いだす機会を創出しようとしています。第1回大会は、大人を対象とした5000mの記録会を実施しましたが、来る9月28日に行う第2回大会では、小学生の50m走も新たに設け、「大人も、子どもも楽しめる」イベントとして開催の予定。企業と大学がタッグを組んだ実行委員会は、従来になかった新しいスタイルの競技会を、どうつくっていこうとしているのでしょうか?
<筑波大学陸上競技部>
鈴木一之竜さん(体育専門学群2年)
山本 慧さん(理工学群3年)
榎本靖士先生(副部長、中長距離コーチ)
<株式会社セレスポ>
磯村 諒さん(さいたま支店)
興那嶺 理香子さん(さいたま支店)
永井 愛海さん(さいたま支店)
朝岡 大輔さん(スポーツ事業部長)
――まず、つくばウェルネス陸上が立ち上げられたきっかけから聞かせていただけますか?
榎本:セレスポさんと我々陸上競技部とは、もともと少なからぬご縁があり、いろいろな交流があるなかで「陸上競技をもっと広げていけるような活動を、一緒にやれたらいいですね」という話が出ていたんです。それがきっかけとなって、昨年、筑波大学体育スポーツ局とセレスポさんとで共同事業契約を結ぶことになり、事業の一つとして陸上競技部と連携して陸上競技の普及発展に取り組んでいくことになりました。そして、対校戦の運営をお願いするなど、新しい取り組みも始めていたなかで、「陸上の大会って、もっといろいろなやり方ができるよね」という話になって…。筑波大学は、人口が増加傾向にあるつくば市にあり、陸上競技場をはじめ充実した施設を備えていますし、優秀な学生がたくさんいます。そうした背景や、我々の大学が持つハードとソフトを活用すれば、もっといろいろなことができるんじゃないかと、ディスカンションを重ねていくことになりました。
――そこから出てきたのが、「大人のタイムトライアル」だった?
榎本:そうですね。まず、「東京都内などでもやっているような、大人向けの陸上大会をできないか」というところが出発点だったんです。それを実現させたのが、今年3月に開催した第1回大会。大人を対象とした5000mの記録会を行いました。
――その段階で、すでに大会名は「つくばウェルネス陸上」だったのですね。
榎本:はい。「今後、いろいろな展開があり得るよね」ということも含めて話し合っていたので、最初から名前は「ウェルネス陸上」にしていました。「子どもが陸上を体験する機会にできないかな」とか、「もっといろいろな人を巻き込めるようなこと、やってみたいよね」とかいうこともアイデアとして出ていたんです。
――それで「ウェルネス」とうい名前を採用し、非公認で実施することにした?
榎本:筑波大学では、「筑波大競技会」という公認の記録会を、毎年10試合近く行っているのですが、こういう公認競技会にしてしまうと、陸連登録していない人たちが参加することができなくなってしまいます。そこで、この大会は非公認で行うことにしました。ですから「公認でない大会に、どのくらいのニーズがあり、どういう人に楽しんでもらえるのか」という実際のところを、まさに今、手探りで進めながら把握しようとしている感じです。
――その大会運営を、「つくばウェルネス陸上実行委員会」として、筑波大陸上部とセレスポが協働しているのですね。筑波大で運営の中心になっているのは、陸上部の学生さんたちということでしょうか?
榎本:はい、そうなります。
――では、学生の皆さんに、そのあたりの感想を伺っていきましょうか。山本さんは、第1回大会を経験しているんですよね? 前回は、どういう経緯で参加したのですか? また、実際に体験して、どんな感想を持ちましたか?
山本:1回目は、中長距離ブロックから補助員を出してほしいということで参加しました。このとき、運営面で学生が担当したのは、当日の運用体制を準備したり広報でInstagramなど各種SNSを稼働して告知したりする作業が具体的な内容でした。自分たちは普段、(筑波大)競技会を運営しているのですが、つくばウェルネス陸上では、参加する方も陸上をやっていない人や初めて陸上競技場に来た人という人もいて、大会当日は、普段の競技会とは、雰囲気も様式もだいぶ違っていましたね。1回目ということですべてが初めてで、シナリオもできていないなか、補助員としてかかわらせていただいたわけですが、そこで「もっと改善できることがあるな」と感じることがけっこうあったんです。それで、2回目は運営の立場で携わりたいなと思い、最初の段階から参加することにしました。
――鈴木さん、競技活動を通じて、陸上や競技会のことをよく知っていても、運営する立場でかかわると、やるべきこととかが全然違ってくると思います。どういう経緯で今回企画運営に参加することになったのでしょう?
鈴木:私自身は、陸上競技部の運営執行部に所属していて、そのつながりもあって今回の運営にも携わらせていただく形になりました。
――これまでに、何か運営側に立って活動した経験は?
鈴木:普段は、部の一員として筑波大競技会の運営にかかわったり、あとはインカレに帯同したりというくらいで、今回のように他の会社の皆さんと一緒に進めていくイベントというのは初めてです。
――第1回大会から運営に携わっていたのですか?
鈴木:いいえ、1回目は、ほとんどかかわってなくて、今回から参加させていただく状況です。
――では、具体的にプロジェクトを動かしていく側の経験は初めて、ということですね? 実際に参加してみて、何か苦労されたことや驚いたことなどはありましたか?
鈴木:今のところ、まだ具体的に何か動いている段階ではないので、ミーティングに数回参加した程度です。そこでお金の話とかスポンサーの話とか、学生が考えるのとはレベルが違う話なども出てきて、そういう難しさもあるんだな、ということを感じました。
――「つくばウェルネス陸上」の大会資料を拝見したのですが、5000mのタイムトライアルでは、電子ペーサーの導入やウエラブル端末(モーションセンサー)の利用を体験できることが特徴として挙げています。第1回大会の参加者は、いわゆる市民ランナーの方々? どんなところに魅力を感じて参加してくださっていたと思いますか?
山本:そうした点も特色ではあるのですが、まず一番に挙げるとしたら「電気計時で正確なタイムを計測できる」ことだったのではないかなと思いますね。公認記録にはなりませんが、普段の公認競技会で使っているシステムを使ってタイムを計っているので、記録自体は正確なんですよね。陸連登録して公認競技会に出場した経験がない場合、正確な電気計時でタイムを計測できる機会というのはあまりないと思うので、そこが良いところかなと思います。
――電子ペーサーは、近年、国内でも日本選手権やホクレンディスタンスチャレンジなどで使われています。また、海外ではダイヤモンドリーグでも活用されています。反響はいかがでした?
山本:電子ペーサーのほうは、実は、1回目のときは、トラブルがあってうまく作動しなかったんですが、第2回でも使うことにしています。大学の競技会で用いているケースはあまりないと思いますし、それを選手でなく、一般の方が参加できる非公認のレースで利用できるというのは、全国的に見てもやっていないと思うので、きちんと使えると面白いと思います。
――確かに、光によるペース誘導を体験できますし、夕刻以降の時間帯だとLEDの発光で華やかさも増しますからね。一方で、第1回の事後アンケート結果では、参加者の多くの方が「学生の皆さんの応援がすごくて頑張れた」とか、「学生ランナーがペースメーカーを務めてくれたので自己新を出せた」とかと、学生の皆さんの手厚いサポートが大好評でした。陸上部の皆さんが、ペースメーカーを務めたのですか?
山本:そうですね。前回は、長距離ブロックの部員が、いくつかの目標タイムに合わせたペースで引くことをやっていました。
――大学としては、陸上部全体で運営されたのですか? あるいは部員のなかから希望者を募ったとか、ブロックで対応したとか?
山本:全員が参加するほどの規模ではなかったこともあり、第1回大会は、種目が5000mでしたし、実行委員も中距離と駅伝の男子2名が務めていたので、特に中距離の男子、中・長距離の女子、それから長距離・駅伝ブロックの男子が中心的に携わって対応していました。今回からは小学生の50m走を開催することになったので、鈴木のように短距離ブロックからも実行委員が加わっています。
――「つくばウェルネス陸上」はセレスポさいたま支店が担当しているということですが、これまでに、こういう形でのイベントをサポート事例はあったのでしょうか?
磯村:ほかの競技ではケースはあるのですが、陸上競技の大会を、こうやって大学さんと共同事業として一から立ち上げ、「どういった形で、どういった方に参加していただいて…」と企画していくことは、おそらく初めてのことだと思います。
――ゼロからスタートとしていくのは、本当にパワーのいることだと思います。第1回大会を開催させるまでに苦労されたことはありましたか?
磯村:はい。学生の皆さんも、先生方も、本当に主体的に動いてくださったので心強かったですね。特に学生の皆さんは、とても熱心に広報活動に取り組んでくださいました。ただ、第1回大会は、最終的に、募集人数が目標には届かなかったので、そこに難しさがありましたね。9月末に予定している第2回も、実は苦戦気味でして…(笑)。そこが大きな課題だなと思っています。
――対象は、遠くから来訪するというよりは、近郊にお住まいの方をイメージしているのですか?
磯村:車での来場を推奨していなかったこともあり、つくばエクスプレスを利用して来られる方が多かったでしょうか。もちろんつくば市近郊からいらした方が多かったですが、東京、埼玉、神奈川、千葉など近隣からお越しになっている人もいました。
――第1回大会を実際にご覧になって、どんな感想を持ちましたか? 日本選手権をはじめとして、セレスポさんが運営に携わっておられる公認競技会とは、異なる空気感というのがあったのではないかと想像するのですが…。
磯村:陸上競技場での記録会の門戸を広げるというか、誰もが参加しやすい形にして開催させていただいたわけですが、ご想像の通り、トップ選手による緊張感のあるレースとは違って、親しみのある雰囲気があったように思います。補助員を務めてくださった学生の皆さんの応援や、監督さんの声がけもあって、そこも参加者の皆さんからアンケートのなかで、「非常に良かった」と答えていただきました。
――ウエラブル端末の利用も体験できたそうですね。これはどういうものですか?
磯村:センサー端末を腰に装着して走ることで、ランニングフォームを分析して、スマートフォンのアプリで確認できるというものです。その端末を貸与しました。参加された皆さんは、アプリの登録なども必要だったのですが、そういう機器があること自体を知らなかった人から「実際に使ってみて、とても良かったので、これからも使いたい」という声が上がってきているので、市民の皆さんが日常でより陸上に深くかかわっていく良い機会になったのではないかと思います。
――その「つくばウェルネス陸上」の第2回大会が、9月28日に開かれるわけですね。前回も実施した大人を対象とした5000mに加えて、今回は、つくば市の小学生を対象に50m走での「スプリント王決定戦」が新たに実施されると聞きました。
榎本:「子どもとその保護者が、みんなで楽しめるようにできたらいいよね」というところから、子どもの部と大人の部をつくってみたわけですが、実際には、そんなにうまくいかないというか(笑)、そういう形の参加がどれだけあるかわからないところです。ただ、「子どもが気軽に参加できる大会をやってみたい」というのはもともとありましたし、「子どものスプリント王をやってみたい」というのは、監督の木越清信先生がずっと温めてきたアイデアでもあったんです。実現するにあたって、どういうカテゴリーに分けるかなど子どもの場合は難しい面があるので、申し込んでいただいた方々を、どう組分けしていくかは、これからよく考えていく必要があります。
――50m走を競うとなったとき、確かに1学年ごと分けるかとか、男女でも分けたほうがいいのかとか、いろいろ考えますよね。
榎本:はい。「スプリント王決定戦」というネーミングは、すごく惹きつけるものがありますし、「競う楽しさ」や、もちろん「勝つ楽しさ」もあるとは思いますが、できるだけ多くの子どもたちが「参加してよかった! また走りたい!」と思ってもらえるようにするためには、どういう競技会にすればよいのかということを、今、まさに議論をしているところです。
――要項を拝見すると、学年ごとで組分けして、50m走の予選を行い、各学年上位8名がA決勝で競い、ほかの子どもたちがB決勝で走るようですね?
榎本:今のところ、そういう案を考えているのですが、うまく行きますかね?(笑)
――組が多くなると、そのぶんアテンドする学生さんたちの声かけや動線確認などの準備も必要になってきそうですね(笑)。そこは、鈴木さんが、今、まさに進めていかなければならないところなのでしょうか?
鈴木:はい。自分は、短距離ブロックで、今回、スプリント種目も開催されるということでの参加です。実施の経緯とかは詳細まで把握していないのですが、当日、学生がどう動いていくかを考えていくことになります。先ほど、5000mのところで山本が話していたことと同じで、陸上の公認大会だと短距離種目は100mから。小さい子ども…特に未経験の子どもにとっては、いきなり100mを走るのはハードルが高いと思うんですね。なので、今回のウェルネス陸上のなかで非公認ではあるけれど、誰もが最後まで全力で走りきれる50mという距離に挑戦できて、しかも、正確なタイムが計測できることや、「スプリント王」という名目で誰もが比較的取り組みやすい形で開催するということは、陸上競技を広めるとか、地域貢献とかの意味で、すごく価値のあることなんじゃないかと思っています。
――皆さんは、つくばウェルネス陸上を通じて、陸上の面白さとか、楽しさとか、どういったところを、参加する皆さんに知っていただきたいと思っていますか?
鈴木:大会当日ということで考えると、大会に出て「競争」という観点で、誰かに勝ったり自分の記録を更新したりすることで得られる喜びは、とても大きいと思います。また、大会に出たあと、そこから自分でいろいろと考えながら練習し、また大会に出て、記録がさらに良くなったときの成長の過程も評価できるという思いがあります。そういう意味で、記録が更新できたときの喜びと、成長できたという過程の部分での喜びが、僕にとっての陸上の楽しさなんですね。この大会に出ることで、子どもたちにも、そういう経験をしてもらうことができたら、陸上競技だけでなくて、今後の人生に糧になるかなという気がします。
――山本さんは、いかがですか? 陸上の面白さや魅力って、どういうところにあると思いますか?
山本:自分は、専門種目としては800mをやっているのですが、陸上の楽しさを考えたときに今回のウェルネス陸上に参加する一般市民の方には、「陸上競技」というより、「走ることの楽しさ」を感じてもらえたらいいのかなと思っています。陸上競技となると、ライバルがいて、相手に勝ったり、自分のタイムを更新したりすることが目標になってきますが、まずは自分が走ること自体を楽しむのが一番だと思うんです。それは、自分が体育専攻ではなく、卒業後もずっと陸上を続けるわけではないからそう思うのかもしれませんが、先のことを考えると、「走ることが楽しければ、続けられる」と思うんですね。こういう機会があることで皆さんに「楽しみながら走る」を感じてもらうとともに、「今、自分がどのくらいで走れているのか」がタイムとして明確に表れるのは、すごくいいなと思います。また、今回は、子どもの部もあるので、子どもたちが陸上を始めるきっかけになってくれたらいいなと思いますね。
――山本さん、ご専攻は?
山本:今、理工学群3年ですが、工学システム学類というところに所属しています。なので、学んでいることに関しては、陸上やスポーツとは全く関係のないことをやっています。
――なるほど、そういう点が、陸上やスポーツの捉え方にも影響しているのかもしれませんね。榎本先生、いかがでしょう? 陸上部の学生さんたちが、いわゆる「陸上競技」ではなくて、「ウェルネス陸上」のイベント運営などを、学生のうちに経験することで、何か価値や意義があると思われますか?
榎本:これは、かなり私の個人的な意見になりますが、すでに陸上部は年間を通じて競技会をやっていますし、そのほかにもいろいろな地域の大会…例えば、つくばマラソンとかにもかかわってくれていて、地域貢献は十分にやっていると思うんです。なので、「これ以上…」という気持ちもあるのですが、一方で、運動部の文化がなくなっていきそうとか、世の中のスポーツを取り巻く環境がすごく大きく変わろうとしている状況のなか、これまで通りの陸上競技だけでいいのかという危機感も強く持っているんですね。
今後、世の中がどうなっていくかは予想できないけれど、こうやって従来とは違った形の陸上競技を、みんなでつくってみる、みんなでやっていくというのは、今後、陸上競技を背負っていくことになる学生たちには、すごく貴重な機会になるんじゃないかと勝手に思っています。まあ、学生がどう思っているかはわかりませんが…(笑)。
――学生さんたちの行動をご覧になって、頼もしく思うところはありますか?
榎本:本当に、すごくよくやってくれていますよ。僕らが学生のころには、こんな対応はできなかったなという向き合い方で取り組んでくれるんですね。だからこそ、1回目に参加してくださった人たちにも、喜んでいただけたのだろうなと思います。
――ここまでのお話を伺って、つくばウェルネス陸上の、「みんなが誰もが参加できるような仕組み、陸上を楽しんでもらおうという気持ち」というのは、まさに今、RIKUJO JAPANで進めていくことそのものだなと感じました。筑波大学として、あるいは陸上競技部として、地域や未来の子どもたちのために今後、どうやっていきたいと考えていますか?
榎本:私は、日本陸連の考え方すべてを理解できているわけではないのですが、今、ここで、陸上の広がりを考えながら、いろいろとかかわっていて感じることは、陸上競技の面白さって、先ほど、鈴木くんが言ってくれたように、「過去の自分と競ったり、誰かと同じ試合で競ったり、自分の成長を感じたり」という点にあると思うのですが、歴史的には、これらをちゃんと保証しようとして、すごく厳格な大会を開催してきたんですよね。そのことと、近年求められている「たくさんの人を幅広く取り込んで、もっと楽しく気軽にやろうよ」ということを同時に実現するというのは無理があるように感じていて、それが今、私たちが、陸上を普及・発展させていかなければならないときの難しさなのかなという気がしています。
僕たちの年代は、「陸上競技ってそういう(厳格な)もの」という認識のなかで育ってきましたし、それもあって「誰かにわかってもらわなくてもいい。好きな人がやればいい」というスタンス(笑)の人がけっこう多かったんじゃないかと思うんです。だから、楽しいイベント的な要素が備えた競技会をつくるとか、人を惹きつけて巻き込んでいくためにどうしたらいいのかという発想で考えること自体がすごく難しい。
でも、それをセレスポさんと一緒にやらせていただくと、「え、それって、こういうことですよね?」と、いろいろと解釈してくださって、「それなら、こういうふうにできませんか? こういう形でやれますよ」と提案していただけます。これが「陸上競技をイベント化していく」ということの作業なんだろうなということを感じていますね。
――今までよりも間口を広くしようと思うのなら、昔からずっと続いてきた「陸上競技会」とは異なる視点、異なる発想が必要となっているのでしょうね。2回目に向けての実務を進めているセレスポ埼玉支店の興那嶺さん、永井さんにも感想を伺えればと思います。興那嶺さんは最初からかかわっていたわけですよね。1回目の大会をご覧になって、感じたことなどはありましたか?
興那嶺:私は、当日は、現場に入ることができなかったので、実際の様子についてはわかりかねるところがあるのですが、準備の段階で感じたことを、お話ししますね。今まで、こういう主催に近い形でかかわらせていただく経験が、ほとんどない状況だったので、イベントができていく過程、主催としてかかわっていくなかで形になっていく過程を見ることができたのは、すごく学びになりました。また、そのなかで磯村も述べていた「集客の難しさ」をけっこう肌で感じました。第1回の立ち上げから、人を集めようということになると、いろいろなアイデアを出しながら集客していくことが本当に大切なのだなということを感じたし、それが、とても難しかったです。
――ゼロからつくって、実績と積み重ねていくときには、それがとても大変なのでしょうね。
興那嶺:はい。広報では、SNSの活用が非常に重要だなと思いましたね。今後、続けていくためにも、ファンとのつながりを増やしていくことが大切。定期的な発信をこちらから続けていくことが、今後、頑張っていかなければならないことだなと感じています。
――それは、これから陸上のイベントをやっていこうと考えている方への、貴重な意見になりそうですね。ありがとうございます。永井さんは、いかがでしょう?
永井:私は、今年4月に入社したので、第1回大会ことはよくわからないのですが、もともと陸上に興味があったのと、こうしたイベント制作にかかわりたいと思っていたので、担当することができて嬉しく思っています。でも、実際に第2回大会に向けて取り組んでいくなかで難しいなと感じたのは、イベント会社としての立場でどう動くべきなのかとか、どんな仕掛けが必要なのかを考えることでした。良いアイデアを出すのって、本当に難しいなと感じましたね。「何をどうしたら、お客さんを来てもらえるのか」というところでは、親子で来てもらう場合、あるいは子どもだけが参加する場合、大人だけが来る場合と、いくつかのパターンを考えることができますが、それぞれについて、実際に「じゃ、自分たちが、どうアプローチをかけていったらいいのか」という案が、自分ではなかなか出せなくて、そこはすごく苦労しています。
――そこは、これから回を重ねていくなかで見えていくところもあるのかもしれませんね。
(株式会社セレスポさいたま支店の皆様)
――ところで、セレスポさんは、すでに名前を連ねておられるオフィシャルサポーティングカンパニーに加えて、今年度から日本陸連が新設した「ソーシャルイノベーションファミリー」という協賛カテゴリーにも参加いただくことになりました。これは、競技団体が果たしうる社会的役割を明確にして、企業・団体・ 地域の方々とつながりながら、 陸上の持つさまざまな要素を活用することで、ともに社会課題の解決に向けた“協働”と“共創” を目指そうとして設けられたものです。今回のつくばウェルネス陸上のように、スポーツを通じて社会課題の解決を目指していこうとすることに、会社として、どういう方針があって取り組まれるようになったのですか?これは朝岡さんにお聞きするのがいいでしょうか?
朝岡:まさに陸連さんがRIKUJO JAPANという取り組みを始めるに至った考え方と同じ思いが、弊社にもあったといえばよいかもしれません。弊社の社名の由来は「セレモニー&スポーツ」からきていますが、そう言いながらも実は圧倒的にセレモニーが多く、本格的にスポーツ事業に乗り出したのは、十数年前に陸上にかかわるようになったあたりから。おかげさまで、陸上がきっかけで、今ではスポーツのイメージが定着してきました。今春入社した永井のように、近年入ってきた人たちのなかには、弊社がスポーツの会社だと思っていて、「スポーツに携わりたい」と思って希望してくれる人も増えているのですが、全社的にみるとスポーツ部門にかかわっているのは、ほんの数%なんですね。一方で、札幌から福岡までの全国にある支店で、もし、スポーツのイベントがあるなら、積極的にかかってほしいなと思っていました。今回の筑波大学さんの件は、たまたま磯村が、もともと本社の事業部にいて大学ともご縁がありましたので、異動先のさいたま支店で担当してもらい、興那嶺が加わり、永井が加わる形になりました。
――少しずつ広がってきているわけですね。そのなかで、なぜ、大学との共同事業という形をとったのですか?
朝岡:榎本先生も話しておられたように、昔からの概念でスポーツを本格的にやろうとすると、どうしてもニッチになってしまいがちなのですが、近年の学生さんたちと接するなかで、「みんなで何かをつくり上げよう」とか、「自分が経験してるものを皆に広めていこう」みたいなことを意識している人たちが増えているなという変化を感じていました。それで、大学さんと共同事業という形をとれば、今までになかった新しい機会をつくっていけるんじゃないかなと思ったわけです。それが我々にとっては、社会課題の解決だったり、地域貢献だったりといったところにつながって、ゆくゆくは自分たちのビジネスに広がっていけばいいなという考え方です。また、先ほど興那嶺が言ったように主催に近い立場いうのは、弊社では、実はなかなか経験できることではないので、それも社員にとっても、非常に大きな財産となっていますね。
――なるほど、今までにない観点でスポーツをとらえられる学生と共同することで、企業としても得られるものがあるのですね。
朝岡:そうですね。同時に、永井が話した集客の難しさなどは、私も見ていて感じたことでもあります。ただ、2回目にして、すごく応援してくれる企業さんが増えてきたり、子どもたちのカテゴリーができたりしています。ここから開催までの残り1カ月で、うまく形になってくれるといいなと思っています。支持してくださっている人の輪は確実に広がっていますし、学生さんたちも本当に会場を盛り上げてくれています。そういう意味では、「地域にスポーツがあることの価値を高め、市民にスポーツを楽しむ機会を提供し、ウェルビーイングな社会の実現に貢献する」という目的に近づけていることを実感できていますし、そういうことの価値を、私たちでもっと広げていければいいなと考えています。
――では、開催まで1カ月というところで、ここから準備もラストスパートに入っていくことになりそうですね。このインタビューは、RIKUJO JAPANの特設サイト内で掲載させていただくことになりますが、最後に、読んでくださった皆さんへ、「つくばウェルネス陸上」をアピールしていただきましょうか。ここは代表して、学生にお二人にお願いしましょう!
鈴木:つくば市は、体育施設が少なくて、大きな競技場も筑波大しかないんですね。ですから、競技場を備えている筑波大学がアクションを起こすことで、つくばのスポーツの先駆けとして働く側面が必ずあるはず。つくばウェルネス陸上を通して、この地域に陸上をもっと広めることができたらといいなと思っています。それに加えて、先ほども言ったように、「陸上の楽しさ」というものを、大人の方々、そして今回からは小学生の子どもたちにも感じていただける、良い機会になると思います。我々学生たちも、全力で盛り上げるので、ぜひ、お越しいただければと思います。
山本:RIKUJO JAPANのサイトで、この記事をわざわざ読んでくださっているということは、きっと陸上にすでに興味をお持ちの方で、きっと「陸上の楽しみ」を知る第一歩は、すでに踏みだしている方々なのではないと思っています。つくばウェルネス陸上は、その次のステップとして足を踏み入れるのに難易度が低いところにあると思うので、ぜひ、参加いただいて、陸上の楽しさを、知ってもらえたらいいなと思います。親子でもいいし、知人とでもいいと思います。楽しみを経験してもらって、「沼る」といったらなんですが(笑)、もっと深いところまで踏み込んでもらえたらなと思います。自分は、今回、実行委員会として携わるので、前回で感じた課題なども改善して、参加された皆さんが不自由を感じないですむようにしたい。当日の競技会の進行は、学生が主体となって進めていくことになると思うので、しっかりと準備して、皆さんをお迎えしたいと思っています。
――頼もしいですね! 9月28日といえば、東京世界選手権が終わった次の週の日曜日ということになります。世界陸上で刺激を受けた皆さんに、ぜひお越しいただいて、今度は、「する陸上」の楽しさを味わっていただけるといいですね。
(2025年8月28日収録)
取材・文:児玉育美(JAAFメディアチーム)