陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。今回はアスリートを栄養でサポートするエームサービス株式会社の公認スポーツ栄養士、松岡未希子さんに話を聞きました。
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■アスリートの栄養をサポートするためには
元々、スポーツ観戦が好きだったという松岡未希子さんは、特にサッカーが好きで、毎年、年明けは国立競技場に足を運ぶという高校時代を過ごしていました。「高校生の頃、サッカー日本代表を栄養士がサポートしているという話を聞いて、スポーツの現場で栄養士が活躍する場面があるのを初めて知りました」。食べることが大好きだったこともあり、栄養士という職業に興味を持って管理栄養士専攻の大学に進んだそうです。アスリートに関わる栄養の資格といえば「公認スポーツ栄養士」「アスリートフードマイスター」などがあります。まずは、国家資格である管理栄養士の勉強からスタートしました。「大学では実験、調理実習などもあって、今につながる栄養の基礎を学ぶことができました」大学卒業後は体育系の大学院に進み、スポーツ科学やコーチング論などを学びました。「一般の方向けの栄養学とアスリート向けの栄養学についてよく違いを聞かれますが、基本的な考え方は変わらないです。病院に勤めたこともありますが、病院の患者さんもスポーツ選手も、その人にとってどの栄養素がどのくらい必要なのかなど、適正な量と質が重要です。ただ、やはりアスリートの場合、活動量が格段に増えます。また、栄養管理をする際の留意点として、競技特性、食環境の変化にどう合わせていくかなどの違いがあるかと思います。陸上競技でも、例えば持久力が必要な長距離の選手や競歩の選手と、瞬発系の短距離の選手では身体つきも違いますし、活動量、トレーニング内容に沿った栄養補給が大切になってきます」■ブダペスト世界選手権 事前合宿での栄養サポート
昨年のブダペスト世界選手権では、フランスで行われた事前合宿で栄養サポートを実施しています。「日本代表選手なので、自分の必要量や試合前に何を食べるかなどをすでにご存知の選手が多かったです。そのため、食環境を整えて、選手が必要とする食事を常に準備しておくこと。それが私たちのメインの仕事でした。その中で、最もネックになったのは、日本のようにスーパーへ行ったらちゃんとキャベツがあるといったように、食材の補充がされていないことです。食材を集めることが一番大変でした」事前に献立を決めていたものの、予定通りにはいかず、手に入る食材で臨機応変にメニューを変えていたそうです。また、こだわりを持っている選手もいるそうです。「これだけは食べたい、やサプリメントの摂り方など、選手によってこだわりや食事の偏りもあります。人の食習慣というものはなかなか変えられないので、ヒアリングをした上で頻度を考え、選手にもストレスがないように、押しつけにならないように、話をしながらお互いに着地点を決めていくようにしています」今は情報があふれているため、「すべてを鵜呑みにしないでほしい」と松岡さんは言います。「普段、気をつけているのは、表面的な指導にならない、教科書的な指導にならないことですね。選手に寄り添って、一方的にならないようなサポートを心掛けています」▲ブダペスト世界選手権 事前合宿の様子
■ダイヤモンドアスリートへの栄養指導
日本陸連が展開している、国際大会での活躍が大いに期待できる次世代の競技者を強化育成する「ダイヤモンドアスリート」プログラムでも、松岡さんは栄養指導をしています。「疲れやすくなった」「ケガをしやすくなった」「選手寿命を延ばしたい」など、シニアになって食事や栄養に関心を持ち始める選手がいる中で、早い段階から食事の大切さを意識づけするようなサポートをしています。「いかに早く気づいてもらうか、が大切です」と松岡さん。ダイヤモンドアスリートたちも認定されたばかりの頃と、継続して栄養指導を受けた後では変化があるそうです。「最初はメッセージを送っても『はい』と受け身。お願いしたことだけやるような選手が多いですが、そこから信頼関係を築いていくと変化があります。『海外に行くのですが、食事はどうすればいいですか?』『ケガをしたのですが、どんな食事がいいですか?』と選手のほうから質問が来ると『少しずつ伝わってきたな』とうれしくなりますね」まずは、信頼関係を築くことを大事にされているんですね。▲ダイヤモンドアスリート 栄養セミナーの様子
■エネルギー足りていますか!?
若いアスリートで心配なことが、過度な減量です。「そうしたことは特に長距離女子選手に多いです。炭水化物を極端に減らすと低エネルギー状態となり、疲労骨折、貧血、月経障害等につながります。食事量をちょっとずつ増やす指導もしていて、指導者も含めた啓蒙活動も大切だと感じています。食事は生きていく上でとても重要。身体を動かすことが前提のアスリートにとっては、身体を作る材料、エネルギー源になります」と選手の身体を思い、警鐘を鳴らします。「骨折したから牛乳飲む、貧血だからレバーを食べる、ということだけではなく、そもそも食事の絶対量が足りているかが一番大事です。活動量に見合った食事量が摂れているのか。まずはその点を見直す必要があります」また、部活をしているみなさんに対して、例えば自宅まで帰宅するのに時間がかかる場合の補食に関するアドバイスもいただきました。「補食は、間食とは違って食事の代わりになるものです。つまりご飯の一部になるものです。おにぎり、バナナ、ヨーグルト等を食べていただけたらいいかな、と。例えば、飲むヨーグルトは炭水化物もタンパク質もカルシウムも摂れます。カルシウム、乳製品は日本人に不足しがち。意識しないと摂れないのです」部活帰りにお腹が空いたら、お菓子を食べるのではなく、栄養素を考えた補食で栄養を補うことがアスリートへの一歩になりますね!また、家族のサポートも欠かせません。松岡さんは、親御さん向けのセミナーも開催しています。「アスリートの食事の基本形はありますが、毎食準備するのは大変。そんな時にオススメしているのが丼ものです。丼ものにはご飯もお肉も野菜もあって、あとは牛乳とみかん(果物)を加えればOK。毎回、インスタ映えするようなメニューでなくても大丈夫です」これからの栄養指導について、特に若いアスリートに対しての思いを、松岡さんは次のように話してくれました。「長く競技を続けてもらいたいということが一番です。これからシニアの選手になっていく大切な時期には、いろいろな環境で食事をとっていくと思うので、どのような状況でも自分で食事をコントロールする土台、考えられる力をつけていってほしいです。将来的には今のシニアの選手たちが指導者になった時に、食事の大切さを次の世代の選手たちに指導していってほしいというのが大きな願いとしてありますね」栄養学は常にアップデートされています。勉強会や学会で情報をピックアップしたり、定期的にセミナー講習を受けたり、松岡さん自身も日々努力をして、〝現状打破〟しています!>>インタビューVol.26(PDF版)はこちら
■松岡未希子さん
エームサービス株式会社所属。各アスリートのスポーツ栄養サポートや管理栄養士・栄養士の教育体系の構築、事業所運営全般のサポートに従事している。管理栄養士、公認スポーツ栄養士、健康運動指導士。
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技2月号(1月14日発売)掲載~
【第10期ダイヤモンドアスリート】その才能で世界を掴め!
>>https://www.jaaf.or.jp/diamond/
■【ダイヤモンドアスリート】第10期認定アスリート:日本高校記録保持者の永原颯磨(佐久長聖高等学校)が新たに選出!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19243/
■【ダイヤモンドアスリート】第10期認定式・修了式レポート&コメント:国際人としての活躍や成長を目指し抱負を語る
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19291/
■【ダイヤモンドアスリート】澤田結弥がルイジアナ州立大学への進学意思を発表!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19220/
■【ダイヤモンドアスリート】北田琉偉インタビュー ~正念場で掴んだ手ごたえと成長~
https://www.jaaf.or.jp/gallery/article/17790/
「陸ジョブナビ」アーカイブ
Vol.13~(2023年1月~)
【Vol.13 タイム計測編】徹底した準備でランナーの努力を刻む【Vol.14 通訳編】来日した外国人選手をサポート
【Vol.15 高校生審判編】大会運営を支える高校生たち
【Vol.16 競技場検定員編】安心・安全、正確な競技会を目指して
【Vol.17 スポーツカメラマン編】感動の瞬間を世界に届ける
【Vol.18 セイコーGGP・日本選手権直前スペシャル】大会担当のお仕事を紹介
【Vol.19 レースマネージャー】ホクレン・ディスタンスチャレンジを盛り上げる
【Vol.20 国際大会渉外担当】世界で活躍する日本代表選手を支える
【Vol.21 マーシャル】選手も観客も安心・安全に競技に集中してもらうために
【Vol.22 リレフェス担当編】みんなが"笑顔"になれるイベントを目指して!
【Vol.23 マラソン大会ボランティア編】マラソン大会を支える!
【Vol.24 JUMP FESTIVAL編】ジャンプでみんなにワクワクを
【Vol.25 関東学連 学生幹事編】第100回箱根駅伝に向けて準備中!
Vol.1~Vol.12(2022年1月~12月)
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