陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。今回はセイコーゴールデングランプリ、日本選手権直前スペシャルということで、各大会の準備・調整を担当する日本陸上競技連盟事務局・事業部事業課の井上博友課長、八幡賢司さん、粳田竜之助さんに大会への準備や、その思いなどについて聞きました。
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5月21日に神奈川県横浜市の日産スタジアムで開催される「セイコーゴールデングランプリ陸上2023横浜」(セイコーGGP)と、6月1日から4日まで大阪市のヤンマースタジアム長居で開催される「第107回日本陸上競技選手権大会」(日本選手権)。日本陸連さんの年間スケジュールの中でも〝二大行事〟とも言えるビッグイベントが5月、6月と続きます。事業部事業課の中でもセイコーGGPは八幡賢司さん、日本選手権は粳田竜之助さんがそれぞれ担当。事業課長の井上博友さんが全体の管理・統括というかたちで準備を進めています。
▼各大会の準備・調整は事務局内の担当者が中心になって進められている
■現地で応援してもらえるスポーツにしたい
セイコーGGP担当の八幡さんは、現役時代は110mハードルを専門に2007年大阪世界選手権に出場、日本一にも輝くなど、トップレベルのハードラーでした。「実業団にいた時に普及・育成に携わり、指導もしていました。会社の事業でクラブチーム立ち上げて、指導関係の資格も取得しています。陸連の事業と重なることが結構あるのですが、陸上の普及を進めていく、指 導の質を高めていくといった業務に携わったことで、陸上を広める仕事に就きたいと思うようになりました。それが陸連に入ったきっかけです」その言葉にもあるように、八幡さんには 陸上に対する強い思いがあります。「選手時代からトラック&フィールドの観客が少ないと感じていました。表彰式が競技終了後の誰の目にも止まることのないような状況であったり、スタンドの電気も消え始める中で行われたりしたこともありました。 でも、世界選手権に出場した時に、ほぼ満席になっている状態で競技が行われていて、 応援だけで地響きがあるようなことも経験しました。そういう状況を日本でも作りたいな、と。観客動員数を増やしたいです」
■会場だからこそ感じられる緊張感を
八幡さんはさらに、陸上の現場への思いについてこう続けます。「陸上はお金を払わなくても観ることができるスポーツって思われがちですよね。それをバスケットボール、野球、サッカーのようにお金を払ってでも観たくなるようなものを作りたいです。どちらかというとショーのように魅せたいですし、実際に足を運んで、 実際に陸上のすごさを体感してほしい。オンラインも普及していますが、迫力などは 現地ならではのものがたくさんあると思うので、実際に足を運んでほしいですね。 もし足を運んでくださったとしたら、ファンのみなさんには選手が登場してきて『やるぞ!』というシーンに注目してほしいです。
100mのスタート前に会場全体が静まり返るあの緊張感、フィールド選手が試技前に集中する姿、選手たちがどのように自分を高めていくのか、それは普段は見ることができないですし、映像だけではなかなか伝わりません。だからこそ、そこをぜひ会場で見てほしいですし、それぞれに楽しさを見つけて、周りの人たちに教えてほしいです。
セイコーGGPは陸上をアピールする場所にしたいです。また、選手にとってもここをステップにしていける大会になれば、陸上の価値を高められると思います」
5月のセイコーGGPの準備を進め、大会を作り上げていく過程では、さまざまなスポーツを参考にしているとか。「他のスポーツも観に行きますよ。アメリカンフットボールとモーターレースを観るのが好きで、ラグビーも先日初めて観に行きました」。 その際には前後のイベントにも参加しているそうだが、「いいものがあるなと思って調べてみたら『こんなにお金がかかるんだ』ということもあります」と八幡さん。それでも、「予算も限られているので手作り感あるかもしれませんが、みんなで知恵を出し合いながら やっていく」ところに共感しているという。「できるだけチャレンジをして、データを取って、いいものを作り上げていきたいですね」
■多くの人と連携して進める 「日本一を決める」ための準備や調整
日本選手権を担当するのは粳田さん。大学まで陸上に取り組み、高校時代にリレーでインターハイに出場、大学時代は日本学生個人選手権にも出場経験があります。冒頭にも触れた日本陸連〝二大事業〟の一つ、日本選手権に向けては、早くから準備がスタートするそうです。「日本選手権は12月から具体的な準備を始めて、6ヵ月ほどかけて全体会議を定期的 に行っています。全体会議には開催地の陸上競技協会、テレビ中継をするNHKさん、 開催地の行政、日本陸連、その他の関係者を含めると参加人数は50人ほどにもなります。大会概要、会場の利用計画、大会を盛り上げるための企画などについて話をしていきます。大会担当として私が一から十までやっているわけではなくて、日本選手権は日本陸連事務局でチームを結成し、広報担当、チケット担当、大会の運営など、分担をしながら準備を進めています」。■日本選手権のテーマは「ワクワク感」 会場で楽しんでもらうために
今年の日本選手権のテーマは「ワクワク感」。現地で日本選手権を観る人を増やす準備をしています。 「観客の皆様にワクワクしてもらえる企画、 新しい取り組みとしては、『フィールドMC』 というグラウンドレベルでのMCの導入を予定しています。場外の盛り上げとしては、『わくわくパーク』という子供たちが楽しめるイ ベントエリアを設置する予定。また、子どもたち向けには『キッズデカスロンチャレンジ(通称:デカチャレ)』という走・投・跳で参加できるイベントも実施予定ですし、行政と連携をとって、地元の小学生の招待なども準備しています」。日本選手権では、コロナ禍で控えていたことを現状打破する企画も計画されています。「選手との交流付きチケットを販売したり、競技場外のブースでは選手を呼んでファンと選手が交流する場面を作ったりします」。あこがれのアスリートと写真撮影など交流できるのは、ファンにとってはうれしいですよね!
▼スタジアムを盛り上げるためのさまざまな仕掛けを検討中
■理想とする大会像
セイコーGGP、日本選手権、その両大 会を統括している井上さんは、日本陸連事務局に在籍して20年以上です。これまで、 どちらの大会の準備も担当してきたその経験から、全体の管理や対外との対応などを務めています。 「セイコーGGPは海外のレースを参考に、 なんでもチャレンジできるようなイベントに したいですね。ダイヤモンドリーグのように、 ショーのような演出を確立していきたいと考えています。日本選手権は、やはり『日本一』 を決める大会なので厳粛な雰囲気を大切に。日本一速く走れる選手、跳べる選手、投げる選手を決める大会として、最後の表彰式まで観客を惹きつけられるようにしたいです。日本選手権で勝つということが、どれだけ価値があることなのか。テレビの向こう側でも、スタート前にはシーンとなるくらい緊張感のある、厳粛な空気を突き詰めていきたいです」1つの大会を成功させるために、準備担当者それぞれが志を持って取り組み、多くの人と連携しながら進めていく。そうやって、 選手のみなさんが活躍する舞台が作られているんですね!
>>インタビューVol.18(PDF版)はこちら
■井上博友(いのうえ ひろとも)
1972年生まれ、51歳。東京都出身。陸上経験はないが、日本陸連事務局にて競技運営委員会、施設用器具委員会を担当し、日本選手権を含めた競技会運営に従事する。07年大阪世界選手権では表彰、21年東京五輪では競技運営を担当した。
■八幡賢司(やはた けんじ)
1980年生まれ、42歳。東京・紅葉中→修徳高→順大→順大院出身 で、大学院修了後は実業団で2014年まで競技を継続。専門種目は110mハードルで、 07年大阪世界選手権代表。17年に日本陸連に転職し、事業部事業課に所属。主催大会の準備と競技運営委員会を担当している。
■粳田竜之助(うるちだ たつのすけ)
1990年生まれ、33歳。静岡県静岡市の出身で中学校から陸 上競技を始める。種目は短距離で、藤枝明誠高、中大と10年間続けた。大学卒業後は銀行に入行し、2016年10月に日本陸連に転職。事業部事業課に所属し、主に日 本陸連主催大会の開催に向けた準備や調整を担当している
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技6月号(5月14日発売)掲載~
【セイコーGGP】5月21日(日)横浜で開催!
>>チケット絶賛販売中
「セイコーゴールデングランプリ陸上」は、2011年から始まり今年で12回目を迎えます。今大会は、初開催となる「日産スタジアム」を舞台に世界のトップアスリートが集結し、熱い戦いを繰り広げます。スポーツカメラマンの皆さんのご活躍にもご注目です!!
【日本選手権】6月1日(木)~4日(日)大阪で開催!
>>チケット好評販売中!
日本の王者が決まる日本選手権。本大会は「オレゴン2023世界陸上競技選手権大会」「バンコク2023アジア陸上競技選手権大会」「杭州2022アジア競技大会」の日本代表選手選考競技会を兼ねており、王者誕生と同時に頂点の先にある「世界」への挑戦が始まります。王者誕生の瞬間に是非ご注目ください!「陸ジョブナビ」アーカイブ
Vol.13~(2023年1月~)
【Vol.13 タイム計測編】徹底した準備でランナーの努力を刻む【Vol.14 通訳編】来日した外国人選手をサポート
【Vol.15 高校生審判編】大会運営を支える高校生たち
【Vol.16 競技場検定員編】安心・安全、正確な競技会を目指して
【Vol.17 スポーツカメラマン編】感動の瞬間を世界に届ける
Vol.1~Vol.12(2022年1月~12月)
>>アーカイブ
【掲載内容】・競技場アナウンサー編
・写真判定編
・大会運営編
・競歩審判員(JRWJ)編
・イベントプレゼンテーション編
・報道編
・ウエア制作編
・表彰編
・トレーナー編
・コース計測編
・スターター編
・世界陸連公認代理人(AR)編
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