陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。今回は日本陸上競技連盟施設用器具委員長の高木良郎さんに、公認陸上競技場の検定について聞きました。
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海外よりもより正確な日本の公認制度
陸上競技場の検定員を務めて実に40年という高木良郎さんにとって、その長いキャリアの始まりは学生時代にさかのぼります。中央大学時代は、箱根駅伝のマネジャー。また、理工学部で土木や測量を勉強していました。その両方の経験が、今につながっているそうです。検定の歴史は古く、日本では昭和9年(1924年)に公認制度ができたと言われています。当時は数学の先生を中心に計算方法などが議論をされ、1万の1(400mにつき4cmまで長くてもいい)以内という独自の検定制度がありました。ただ、外国には、以前は競技場の公認制度はなく、400mにつき13cmまで長くてもいいという規則があったそうです(短いのはNG)。1994年に世界陸連(WA/当時・国際陸連、IAAF)が認証制度を制定し、すべての種目が1万の1以内、1周の距離400mで4cm以内、100mでも1cm以内という基準で世界中のトラックができています。
「WAと日本の公認制度は計測方法のアプローチが違っていて、日本はWAとは別のやり方で計測をしています。直線の長さは、日本は80mが一般で、WAは84.39mが標準。
コーナーの半径は、日本は37.898m、WAは36.5m。レーンの幅は、日本は以前は1.25mでしたが、2019年からWAに合わせて1.22mとなっています。また、日本では用器具を義務付けています」
数学の授業みたいに細かい数字がたくさん出てきますが、高木さんは「昔は現場で習うという感じでした。今は(学べるように)分厚いマニュアルを作っています。」と話してくれました。
▼公認競技場の規定について
https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/rule/2022/chap2_p333-336.pdf
1周400mってどこを測っているの?
そもそも「1周400m」といっても、どこを測ると400mになるのでしょうか?「実は1周の距離は縁石の高さが5cmの場合、縁石から外側30cmのところを1周すると400mになるように計測しています。2レーンは縁石がないので、20cm外側が1周の距離になるようにしています」
1周の距離はもちろん、跳躍の助走路の長さや砂場の大きさ、投てき角度など一定の規則に合っているか検定をして、それぞれの競技が公平にできるようにしています。
「計測は鉄のメジャー(鋼鉄製のメジャー)で行うのが一番簡単で正確です。メジャーは気温20度の時に100ニュートンの力で引っ張ると正確な距離が出ます。気温が変わると鉄のメジャーがわずかながら伸び縮みするので、気温による目盛りの誤差を計算して計測します。寒い時はメジャーが縮みます。(50mの目盛りのところが実際は49.999mといったように)。これを習うのが大変ですね。また、競技場には計測するポイントが9レーンで350 ヵ所ものポイントがあります。内側と外側にあるので合計700個。検定の時にチェックします」。気温による誤差まで細かく計算した上で、正確に計測しているんですね!
また、日本には1種、2種、3種、4種、4種L(ライト)まで5種類の公認競技場があります。
「1種は国体や日本選手権など、2種は地域の重要な大会などが開催される競技場です。また、トラック1周の距離は4種L以外どの種別でも一緒ですが、3000m障害物の水濠は1種、2種は必要ですが、3種以下はなくても大丈夫です。4種Lは円盤投、ハンマー投などの設備がなくても大丈夫などの規則があります。また、競技場に置かれている用器具が種別で違います」と高木さん。みなさんが利用している陸上競技場も、第◯種公認競技場と記載されていると思います。ぜひ、今度確認してみてください!
検定員になるためには
検定員になるためには、どのような手順が必要なのでしょうか。高木さんに聞きました。「まずは技術役員になることから始まります。都道府県陸協の推薦で実技研修や会議に出て知識を高め、検定に行っていただきます。任期は1期につき2年で、技術役員を3期6年以上務めると、検定員になることができます。施設用器具委員会は検定の委嘱や審査、検定技術を向上する研修の実施など検定員や技術役員の業務をサポートしています」
現在、検定員が48人、技術役員が92人います。施設用器具委員会のメンバーは11人いますが、全員が検定員や技術役員を兼ねているそうです。
年齢層は技術役員が28歳から、検定員は35歳から上限が70歳となっています。(技術役員、検定員とも70歳)ちなみに、現在は女性の検定員はいないそうですが、「やりたい人がいれば、もちろん女性も大歓迎です。どの審判部署の方もよいですが、用器具係など技術総務関連を経験したほうがなじみやすいのではないでしょうか」。
安全に競技ができるために
公認競技場は、2000年は約700あったのですが、毎年10ずつほど減っていて、昨年は482まで減少しています。「競技場は維持費がかかりますので、規則で決まっていることを時代とともに修正しながら指導していきます。競技場の検定は5年に1度ですが、2年程前にどこを直すべきか現地指導を行い、改修を行ったうえで検定を迎えます」と高木さん。検定は概ね2日間で行い、距離、高さ、施設、用器具の4項目をチェックしていきます。
お仕事のやりがいや今後の目標について聞くと、陸上への情熱があふれます。
「正確に、公正に。そして安全への手助けをしたいという気持ちが大きいです。使用する選手が安全に競技ができること、とにかく競技場がよい環境になるように作ることを目指して、検定員、技術役員みんなで活性化していきたいです。今でもみんなががんばってくれていますが、さらに切磋琢磨して、良い競技場作りを進めていきたいと思います」
読者に向けて、「公認競技場の検定は、陸上競技の大元のことなので、興味のある人にぜひ携わってもらいたいと思っています。自分たちが学生の頃は、競技場の公認制度のことを知らずに競技をしていたので、細部まできっちりと整備されていることで競技会が成り立っていることを知っていただけたらうれしいです」とのメッセージ。
選手のみなさんが現状打破するための晴れ舞台・陸上競技場が、安心・安全で、なおかつ正確であるために、高木さんは今日も準備し、支え続けています。
>>インタビューVol.16(PDF版)はこちら
■高木良郎さん
1956年、東京・葛飾柴又生まれ。中大附属高校から陸上を始め、長距離に取り組む。中央大学では箱根駅伝マネージャーに。建設会社から三郷市役所に転職後、1982年に技術役員、83年から検定員、施設用器具委員を務める。99年に施設用器具委員会副委員長、2017年に同委員長を歴任。19年からは陸連理事に就任し、翌年に秩父宮章を受章した。主な大会の審判歴は91年東京世界選手権用器具係副主任、2021東京五輪技術総務。その他に国際大会、日本選手権など全国大会の技術総務を多数歴任。
>>施設用器具委員会はこちら
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技4月号(3月14日発売)掲載~
「陸ジョブナビ」アーカイブ
Vol.13~(2023年1月~)Vol.13 徹底した準備でランナーの努力を刻む!~タイム計測編~
Vol.14 来日した外国人選手をサポート!~通訳編~
Vol.15 大会運営を支える高校生たち!~高校生審判編~
Vol.1~Vol.12(2022年1月~12月)>>アーカイブ
【掲載内容】
・競技場アナウンサー編
・写真判定編
・大会運営編
・競歩審判員(JRWJ)編
・イベントプレゼンテーション編
・報道編
・ウエア制作編
・表彰編
・トレーナー編
・コース計測編
・スターター編
・世界陸連公認代理人(AR)編
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