2018.04.06(金)その他

2018シーズン展望~東京2020オリンピックに向けて大いなるチャレンジとなる年~



 いよいよ2018年屋外シーズンが開幕する。2018年は、オリンピックだけでなく世界選手権についても中間年。世界大会が行われる年に比べると、どうしても注目度は今ひとつとなりがちだ。しかし、東京オリンピック開催まで残すところわずか2年。2019年になれば、秋に開催されるドーハ世界選手権を経てオリンピック本番へ、という流れは急激に加速され、“臨戦態勢”となっていく。
 それを考えると、「東京」での活躍を期す競技者にしてみれば、2018年はじっくりと己の力を蓄え、それを高めていくとともに、世界で戦っていくための思い切ったチャレンジができる貴重な1年といってよいだろう。今年、日本陸上界がどんな動きを見せるかは、その先の2年間に、非常に大きな影響を及ぼすはず。そんな2018年シーズンの注目ポイントを見ていこう。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

◎ジャカルタアジア大会への道
 2018年シーズンに「チームジャパン」が最重要国際競技会と位置づけているのは、8月25~30日にジャカルタ(インドネシア)で開催されるアジア大会。すでに男女マラソンでは代表選手(正式決定は派遣団体であるJOCにより行われる。以下同じ)が発表されたが、トラック・フィールド種目の競技者たちは、この大会の代表入りを狙ってシーズン序盤に臨むことになる。
 最終的な選考は、6月22~24日に山口県で開催される日本選手権終了後となるが、日本陸連では、「ゴールドメダル・メダル」「TOP8」の強化カテゴリーに分類する種目については、選考要項に記載された基準(資格記録等)をクリアすることを条件に、日本選手権前でも即時内定者を出す仕組みを今回から新たに取り入れた。対象となる競技会は、国際陸上競技連盟(IAAF)が主催する「IAAFダイヤモンドリーグ2018」(5月8日:ドーハ大会から開幕)および「IAAFワールドチャレンジ2018」(5月19日:キングストン大会から開幕)の日本選手権までの各大会。国内競技会では、今年から再構築された日本グランプリシリーズ(詳しくは後述する)のうち、「グランプリプレミア」に位置づけられた東京大会(TOKYO Combined Events Meet 2018:4月21~22日)、神戸大会(兵庫リレーカーニバル;4月22日)、広島大会(織田記念;4月28~29日)、静岡大会(静岡国際;5月3日)の4大会が対象で、前述した「IAAFワールドチャレンジ2018」の第2戦として日本で開催される「セイコーゴールデングランプリ」(川崎から大阪に会場を移し、5月20日に実施)を含めると全5大会となる。資格記録の水準が非常に高いため、「続々と」というわけにはいかないだろうが、ここでクリアする競技者が出てくれば、アジア大会に向けて、そして2019年ドーハ世界選手権、2020年東京オリンピックに向けても、確実に上昇気流を生むことになるはずだ。

◎ワールドランキング制度がスタート
 国際的な観点で非常に大きな変化となるのが、ワールドランキング制度(IAAFポイントランキング制度)がスタートすることだ。これは、すでに他の競技では実施されている制度で、出場した競技会での記録や、競技会のカテゴリーに応じた順位のポイントによって選手をランク付けするものである。詳細は、本校執筆段階(2018年3月下旬)の段階では、IAAFより公式に発表されていない。しかし、2019年ドーハ世界選手権での参加資格に導入されることは決定している。まだ決定されていないが、2020年の東京オリンピックの出場権に関しても、同様の方向性になると考えていたほうが良いだろう。
 この制度の詳細次第では、東京オリンピックの出場権を確実に獲得していくためにも、「いかにポイントを獲得していくか」「この競技レベルであれば、どんな競技会に出ていくのがベストなのか」といった、これまでになかった視点での新たな戦略を、しっかりと立てていく必要が出てくる。当然、IAAFが主催するダイヤモンドリーグへの出場はもちろんのこと、海外で実施される格付けの高い国際競技会への転戦に挑む競技者は、さらに増えていくことになるだろう。これまで海外転戦の経験が少なかった競技者には、大いなる挑戦の年にもなりそうだ。心身への負担は大きいかもしれないが、そうした経験を積むことで、より「タフな」人材が増えることに期待したい。

◎生まれ変わる「日本グランプリシリーズ」
 国内に目を転じると、2018年シーズンから新たな取り組みとして「日本グランプリシリーズ(以下、日本GPシリーズ)」が実施される。「日本GPシリーズ」の言葉自体はこれまでも使われていたが、今シーズンから全体の仕組みを再構築。スケールアップさせた形でスタートすることになった。
 これまで「日本GPシリーズ」として開催されていた「TOKYO Combined Events Meet」(2016年度まで和歌山で実施されていた日本選抜陸上の後継大会として2017年度より東京で開催)、兵庫リレーカーニバル、織田幹雄記念、静岡国際の4大会に、国内の各地で開催されてきた実績のある9大会を加えて拡充。全国13都市で開催される13大会(日本GPシリーズカレンダー)の総称としたのだ。前者の4大会をグランプリプレミア、後者の9大会をグランプリと分類。大会ごとに実施種目は異なるものの男女各19種目、計38種目を対象に、日本のトップアスリートが集まる競技会として行われる。
 各大会の種目ごとの結果は、記録や順位、大会のグレードなどでポイント化。これによって算出される「シリーズポイント」が最も高かった男女各1名は、「シリーズチャンピオン」として、年末に行われるJAAFアスレティックス・アワード2018で表彰されるとともに、強化費および翌シリーズの招待選手の権利が贈られる。また、男女各種目でシリーズポイントの最も高い1名が「種目別チャンピオン」として表彰されるほか、グランプリプレミアの各大会における各種目の1~3位には、「グランプリプレミア順位強化費」として順位ごとに強化費が支給される。
 これまで個々で展開されていた各競技会が、シリーズとして全国13都市で実施されることによって、どれだけ新たな陸上競技ファンの開拓や競技人口の増加につながっていくか。また、初年度のシリーズチャンピオンを誰が獲得するのかにも注目しよう。

◎2シーズン連続の日本新なるか
 さて、ここからは、トラック&フィールド種目を中心に、昨シーズンの結果から、2018年シーズンに飛躍が期待できそうな競技者や種目を見ていこう。
 オリンピック種目で2017年度に日本記録が更新されたのは、男子100m、男子円盤投、男子マラソン。この3種目は、2018年シーズンもさらに記録が塗り替えられていく可能性が非常に高い。
 昨年9月の日本インカレで桐生祥秀(当時:東洋大→日本生命)によって、日本人初の9秒台突入が達成された男子100mは、この春から日本生命の所属となる桐生はもちろんのこと、昨年の全日本実業団で10秒00をマークした山縣亮太(セイコー)、昨年、日本選手権で短距離2冠を獲得して100mでは10秒05をマーク、ロンドン世界選手権では7位入賞を果たした200mに加えて100mでも準決勝進出を果たしているサニブラウンアブデル ハキーム(東京陸協、昨年秋よりフロリダ大に進学)、海外のトップスプリンターたちも驚いた序盤から中盤にかけての加速力を武器に急成長を遂げ、10秒07まで記録を伸ばした多田修平(関学大)、200mをメインとしながら100mでも10秒08の自己記録をマークした飯塚翔太(ミズノ)、リオ五輪男子4×100mR銀メダルメンバーで昨年10秒08の自己新をマークしたケンブリッジ飛鳥(Nike)と、昨年10秒08まで水準が上がったこの種目の、日本歴代10傑内に収まった選手だけでも6名となる。条件さえ整えば、10秒の壁を破る選手が複数出てくる可能性は十二分にある。
 男子円盤投では、昨年、五輪種目のなかで最古(1979年)の記録として残っていた60m22の日本記録を複数回更新し、60m74へと引き上げた堤雄司(群馬綜合ガードシステム)が、さらに記録を伸ばしていきそう。また、堤に続けとばかりに記録を伸ばしてきた湯上剛輝(トヨタ自動車、59m24)、米沢茂友樹(オリコ、58m53)らが60mスローを見せてくれる可能性もありそうだ。
 設楽悠太(Honda)が、2月の東京マラソンで2時間06分11秒の日本新記録を樹立した男子マラソンも、さらに記録が塗り替えられる可能性が高い種目といえるだろう。2019年9月以降の開催が予定されているマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)出場権獲得を目指す「MGCシリーズ」は、8月の北海道マラソンから2期目となる「2018-2019シーズン」がスタートする。昨年度は13名のMGCファイナリストが誕生したが、今年度はどこまで増えていくか。さらに好記録でMGC出場権を獲得している設楽、井上大仁(MHPS)、大迫傑(Nike ORPJT)といった選手たちが、今季どういうレース選びをするかにも注目したいところだ。

◎「機は熟している」種目
昨年の段階で、トップランカーたちが高いレベルの記録をマークし、日本記録がいつ更新されてもおかしくない状況にあった種目を挙げるとしたら、男子110mH,男子走高跳、男子棒高跳あたりか。
 男子110mHは、昨年、増野元太(ヤマダ電機)が日本記録(13秒39、2004年、谷川聡)に0.01秒に迫る13秒40をマークしたのを筆頭に、高山峻野(ゼンリン)が13秒44、大室秀樹(大塚製薬)が13秒48とリスト上位3選手が13秒4台に突入。世界選手権へのフルエントリーも実現させた。今年は、この3選手に加えて2016年に13秒47で走っているリオ五輪代表の矢澤航(デサントTC)による13秒3台でのデッドヒートを期待したい。
 男子走高跳では、昨シーズン高いレベルで安定感を見せた衛藤昂(AGF、2m30)と、自己記録でその衛藤を上回る戸邉直人(つくばツインピークス、2m31、2014年)が勝負を繰り広げるなかで、12年ぶりとなる日本記録(2m33、醍醐直幸、2006年)更新を果たしてほしいところ。男子棒高跳は、昨年はロンドン世界選手権に出場した山本聖途(トヨタ自動車、5m72)・荻田大樹(ミズノ、5m70)が5m70台でリスト上位を占めた。記録でこれに続いたのはダイヤモンドアスリートの江島雅紀(日本大)で、アジア選手権でU20アジア新記録の5m65を跳んで銀メダルを獲得している。昨シーズンは記録こそ5m50にとどまったものの、日本記録保持者(5m83、2005年)でリオ五輪7位入賞の澤野大地(富士通)もまだまだ元気で、勝負のかかる大会ではきっちりと仕上げてくる。江島という若手の存在が起爆剤となって、バーを5m80台に上げての戦いが見られるようだと面白い。
 今年に入っての室内シーズンで、俄然屋外シーズンへの期待が高まっているのが男子中距離だ。男子800mでは、屋外日本記録保持者(1分45秒75、2014年)の川元奨(スズキ浜松AC)が米国の室内競技会で1分47秒78の室内日本新記録を樹立。また、「安藤財団グローバルチャレンジプロジェクト」の支援を受けて、ユージーン(アメリカ)でトレーニングに取り組んでいた館澤亨次と關颯人(ともに東海大)が2月末の室内大会1マイルで、館澤3分57秒43、關3分59秒03と、ともに室内日本記録(4分03秒38、2008年、小林史和)を上回る結果を残しているのだ。室内シーズンの好調をうまく屋外につなげることができれば、800m、1500mでの日本記録更新も聞くことができるかもしれない。

◎「壁」の突破に挑む種目
 陸上競技の記録では、男子100mにおける「10秒の壁」と同様に、いくつかの種目で「壁」とされる記録があるが、2018年シーズンには、男子200m、女子800m、女子100mH、女子七種競技の4種目で、「壁」を突破する可能性がある。
 男子200mでは「20秒の壁」。100mの項でもご紹介した飯塚に、日本記録20秒03(2003年、末續慎吾)を上回り、日本人初となる19秒台突入の期待がかかる。飯塚のほかに候補を挙げるとするならサニブラウン、ロンドン世界選手権4×100mRでアンカーを務めた藤光謙司(ゼンリン)あたりか。今季は桐生も200mへの積極参戦を表明している。自己ベストは高校3年時(2013年)にマークした20秒41。大幅に更新してくる可能性は高い。
 女子800mでは「2分の壁」。昨年の日本インカレで、単独走の展開で日本歴代2位となる2分00秒92(学生新記録)をマークした北村夢(日体大→エディオン)が日本人女子初の1分台にチャレンジする。この種目では、インターハイで塩見綾乃(京都文教高→立命大)と川田朱夏(東大阪敬愛高→東大阪大)が激戦を繰り広げ、ともに従来の高校記録(2分04秒00、2000年、西村美樹)を更新する2分02秒57(塩見)、2分02秒74(川田)の好記録をマークしている。この3者による速いペースのなかでの競り合いが見てみたい。
 女子100mHでは「13秒の壁」、女子七種競技では「6000点の壁」を破れるかどうか。女子100mHではロンドン世界選手権で準決勝進出を果たした木村文子(エディオン)、その木村を押さえて2017年日本リスト1位(13秒03)となった紫村仁美(東邦銀行)に、女子七種競技では昨年、自身の持つ学生記録を5907点まで更新したヘンプヒル恵(中央大)に、その期待がかかる。100mHの日本記録は13秒00(2000年、金沢イボンヌ)、七種競技の日本記録は5962点(2004年、中田有紀)だ。

◎若手の台頭著しい種目
 男子走幅跳、男子三段跳、女子やり投は、2017年に学生選手を中心とする若手の躍進が目立った種目。昨シーズンを上回る活況を期待したいところだ。
 昨年の男子走幅跳は、ダイヤモンドアスリートの橋岡優輝(日本大)が春先好調で、関東インカレで8mジャンパーの仲間入り(8m04)を果たすと、日本選手権では8m05を跳んで日本一の座を獲得したものの、ユニバーシアード直前に起こした肉離れのために秋シーズンは戦線から離脱した。一方で、その秋シーズンに行われた日本インカレで、今季日本リスト1位となる8m09のU20日本歴代2位タイ記録をマークしたのは津波響樹(東洋大)。さらに日本インカレでは山川夏輝(日大→東武トップツアーズ)も8m06の跳躍を見せた。このほか秋には小田大樹(日大→ヤマダ電機)も8m04を跳んでいる。今季は、これらの選手に、8m11の自己記録を持つ下野伸一郎(九電工)、2016年に8m01を跳んでいる城山正太郎(ゼンリン)も加わって、ハイレベルな戦いを繰り広げてほしい。
 男子三段跳では、今年から社会人となる山本凌雅(JAL)がどんなパフォーマンスを見せてくるか。順天堂大4年の昨年は、織田記念で学生歴代3位となる16m87をマーク。台北ユニバーシアードでは銅メダルを獲得した。また、パフォーマンスで日本リスト上位9位までを独占。強さとともに安定感を印象づけた。今季は当然、日本記録(17m15、1986年、山下訓史)の更新に照準を合わせてくるはずだ。
 女子やり投は、長く日本の陸上界を牽引してきた海老原有希(スズキ浜松AC)が昨シーズンをもって引退。今季は、海老原に代わる第一人者が出てくるか、それとも群雄が割拠する状況に戻るかが注目されることになりそうだ。昨シーズン、急成長をみせたのは、斉藤真理菜(国士舘大→スズキ浜松AC)。ロンドン世界選手権で初の日本代表入りを果たすと、そのあとに開催された台北ユニバーシアードでは62m37の学生新記録を投げて銀メダルを獲得。日本のエースに名乗りを上げた。2016年に樹立していた61m38の学生記録(=U20日本記録)を1年で斉藤に塗り替えられてしまった北口榛花(日本大)は、2015年世界ユース選手権金メダリスト。2016年に抱えた肘の故障が影響して、昨年シーズン序盤は苦しんだが、徐々に秋に復調し、61m07まで記録を戻してきた。昨年、斉藤、海老原とともにロンドン世界選手権出場を果たしたベテランの宮下梨沙(大体大T.C)も含めて、もう一段階、レベルを高めていきたい。

◎「ポスト2020」のエース候補たち
 U20、U18年代には、もちろん東京オリンピックでの活躍が期待されている選手もいるだろうが、それ以上に、「ポスト2020」、つまり2024年や2028年のオリンピックを、エースとして牽引できるような存在になることが求められている。
 2018年シーズンは、6月にアジアジュニア選手権(岐阜市・岐阜)が、7月にはU20世界選手権(タンペレ・フィンランド)が、10月にユースオリンピック(ブエノスアイレス・アルゼンチン)が行われる。フィンランドで開催されるU20世界選手権では、ロンドン世界選手権男子200mでファイナリストとなったサニブラウンのほか、すでにシニアの舞台で実績を残しつつある江島(棒高跳)、橋岡(走幅跳)も出場資格を有しており、金メダルを狙っての挑戦となる。このほかの第4期ダイヤモンドアスリートにとっても、自身の力を試すまたとない機会となるはず。現在、日本のトップとして活躍している選手たちがそうだったように、こうした大会を経験し、そこで活躍することで、「世界で戦える選手」への一歩を踏み出してほしいところだ。
 国内では、8月2~6日に三重県伊勢市で行われるインターハイ、8月18~21日に岡山県岡山市で行われる全日本中学校選手権大会、10月19~21日に愛知県名古屋市で行われるU20・U18日本選手権は、ほぼ例年通りの日程で行われるが、これまで10月の最終週に行われてきたジュニアオリンピックは、10月12~14日へと会期が早まる。それぞれの大会が、よりよいコンディションのもと開催され、大いに盛り上がることを楽しみにしたい。

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