2018.02.08(木)選手

【ダイヤモンドアスリート】第3回リーダーシッププログラムレポートVol.2

◎講義:LGBTとスポーツの未来 ~2020に向けて今、私たちにできること~



 杉山文野さんは、フェンシング元女子日本代表選手。大学院で学んだジェンダー論や、性同一性障害の診断を受けた自身の体験、世界各国を巡って現地の社会問題を見聞してきた経験をもとに、「セクシャルマイノリティ(性的少数者)、LGBT」の概念の啓発やサポートに取り組んでいます。
 LGBTは、日本でもようやく知られるようになってきましたが、世界的にはすでに広く認知され、社会においても浸透しつつある概念です。講義に際して、坂井さんは、世の中で“普通”とか“当たり前”といわれていることは、時代によって変化していくものであることを示唆したうえで、「杉山さんの話は、皆さんにとって無縁のものではない。今日の話をよく聞いて、その内容を次回のリーダーシッププログラムまでの課題という形で持ち帰り、自分の生活や周りの人との関係のなかで改めて考えてみてほしい」と述べました。

 続いて登壇した杉山さんは、「最近では、“セクシャルマイノリティ”とか“LGBT”という言葉を、耳にする機会が増えてきていると思うが、自分自身の日常からは遠い存在と考えている人もまだまだ多いのでは? しかし、実は、そんなに遠い存在というわけでもなく、特別な人たちでもない」と切り出し、トランスジェンダーである自身の体験を振り返るとともに、これまで「男か女か」という2つで区別されてきた性(セクシャリティ)は実はもっと多様であること、LGBTとは何か、LGBTを取り巻く現状や課題、スポーツ界におけるLGBTについて、解説を進めていきました。

<性は、「男」「女」だけでは分けられない>
・これまで性については、生物学的な観点からのみで語られてきたが、実際には、「カラダの性(生物学的性)、ココロの性(性自認)、スキになる性(性指向)」という3つの要素で考えることができる。どの要素も、既存の「男」「女」の2つだけには分けられず、その境界はグラデーションのようになっていると考えることができ、これを「第3の性」とすると、単純に計算しただけでも27通りの性別に分かれる。このほかにも、性を構成する要素は、表現する性(服装や仕草など)といったように、いろいろな切り口で考えることができる。そうしたさまざまな組み合わせによってその人のセクシャリティが成り立っているのであるとするならば、「男性/女性」だけに二分して、そのイメージに押し込めて考えるのは窮屈ではないかと思う。

<LGBTとは?>
・LGBTとは、レズビアン(Lesbian:女性同性愛者)、ゲイ(Gay:男性同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual:両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender:(トランスジェンダー、性別越境者)の頭文字をとった単語で、セクシュアルマイノリティ(性的少数者)の総称の1つ。欧米では1980年代後半から使われるようになり、日本でも最近知られるようになってきた。
・LGBTのこのうちのトランスジェンダーは、生まれたときの性にとらわれない人を指すが、その範囲は非常に幅広く、性転換手術を行うケースもあれば手術をしないで生きていくこともある。特に性別違和が強い場合は、「性同一性障害」という疾患名がついていたが、その認識は、世界で“疾患ではなく、医学的サポートが必要な1つの生き方”という位置づけにあり、性同一性障害という言葉自体も今後はなくなっていく見込みである。
・LGBTが占める割合は、全人口の5~8%。日本では1000万人くらいで、12~13人に1人の割合となる。この数字は、AB型血液である人数や左利きの人の数と同じくらい。また、日本で最も多い苗字のトップ4に挙がる佐藤、鈴木、高橋、田中の登録は、それぞれ5~6%。それと比較すれば、自身の周囲にどのくらいのLGBTの人がいるかのイメージが体感しやすいと思う。
・LGBTを指すときに、使わないほうがよい言葉がある。おかま、ホモ、レズ、ニューハーフ、おねえ、オナベ、こっち/そっちなど。これらの言葉は差別的なニュアンスを含むことがある。当事者が自称することもあるが、感じ方は人によって異なるので、職場や公的な場面では用いるべきではない。
・レズビアン、ゲイ、バイセクシャルとトランスジェンダーには違いがある。L・G・Bは性指向がどうであるかという自分と他者との関係性にあるのに対して、Tは性指向とは関係なく、自分の身体と自分の心が一致しないことに起因する。このため、トランスジェンダーで、レズビアンであったり、ゲイであったり、バイセクシャルであったりすることもある。

<LGBTを取り巻く現状>
・セクシャリティは目に見えない。このことは、LGBTをはじめとするセクシャルマイノリティを考えるときの1つのキーワードとなる。自ら言わないと明らかにならず、現在の日本社会で育った我々は、相手が異性愛者であるという大前提で会話がスタートしている。LGBTに「会ったことがない」という人が多いが、それは実は「気付かなかった」だけかもしれない。また、そこには「言わない」のではなく「言えない」という現実がある。
・LGBTで一括りにされがちだが、何が課題かを考える場合は、L・G・B・Tとそれぞれに異なる課題を持つ。また、公表しない限りわからないL・G・Bと、見た目が変わってしまうTとでも課題は違ってくる。トランスジェンダーの一当事者として最も大変だったのは、トイレやお風呂など男性用と女性用がきっぱり分かれている場所。このほか、パスポート等の公的な登録は女性であるため、入国審査、選挙など、書類と見た目が合致しないという理由で問題になることも。特にオープンにしていない人の場合は、そのたびに苦痛を味わっている可能性がある。
・自身の例を挙げるなら、女性でないと思っているのに女性として生活していかなければならない自分、成長期を迎えて身体が変わっていく自分を肯定することができず、また、それを誰にも打ち明けることができずに苦しんだ。高校生のとき、友人に初めて打ち明けた際、「性別はどうであれ、文野は文野に変わりない」と言ってくれた。それが転機となって、少しずつカミングアウトし、少しずつ受け入れてもらい、少しずつ自己肯定感を取り戻して今に至っている。
・当事者がLGBTであることを一番打ち明けられないのは身近な人。なぜなら大切であればあるほど、自分の居場所がなくなってしまうかもしれないと恐れるから。親にだけは言えない、仲のいい友達だからこそ言えないというのが、まだまだ現実だと思う。
・国内で取り組んでいる活動には、LGBTの子どもたちにロールモデルとなる大人を紹介するための配信サイト(ハートをつなごう学校)の運営、LGBT啓発イベントの開催(東京レインボープライド)、人と人をつなぐ場所の提供(飲食店経営等)などがある。

<スポーツ界とLGBT>
・2016年リオデジャネイロ五輪では、LGBTであることをカミングアウトしたオリンピック選手56名、パラリンピック選手12名が参加。史上最も多様性に富んだ大会だったといえる。子どもたちに勇気を与えたりLGBTについての認知を高めたりすることに影響を与えた。
・オリンピック憲章には、性別あるいは性的指向による差別を禁止することが2015年に改定され、すでに明記されている。2020年東京大会に向けて、日本としてどういう対応していくかは、世界的にも注目されている。
・トランスジェンダー選手の参加条件についても整備され、2016年から採用された。過去には性別確認検査によって性分化疾患の人が排除され、メダルを剥奪されたり出場を停止されたりする例もあったが、そうした選手も包括して権利が保護されるようになっている。
・ほかにも、スポーツ界でポジティブな取り組みが進められている例は増えている(例:ワールドアウトゲームズ、チームとしての応援メッセージの発信、レインボーカラーでのアピール、プライドハウスインターナショナル=国際大会開催時に関係者が集まることのできる施設の設置など)。
・一方で、スポーツ界における課題もある。「フォビア(嫌悪)」の存在や、いじめ(LGBTの当事者が最も不安を感じるのが、実はスポーツに関連する施設が多い。体育の授業、体育館、更衣室などでいじめにあったり、男女の差異を感じることを強要されたり、暴力を受けたりする事例が報告されている)の問題、カミングアウトが難しいという問題など。

<最後に>
・2020年東京オリンピックでは「スポーツには世界と未来を変える力がある」というテーマを掲げている。アスリートの持っている力、スポーツが与える影響は非常に大きい。そのなかで“1人1人が互いを認め合って、尊重して”という点を、アスリートとして、団体として、国として、言葉だけで終わらせず、しっかりと実現していきたい。これはLGBTのことだけに限らない。みんなが暮らしやすい社会、みんなが自分を発揮できる社会にしていこうというメッセージになると思う。




取材・構成:児玉育美/JAAFメディアチーム
 
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