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NEWS 2016.06.22

重心を4.5~6ミリ中心からずらす、 ニシ・スポーツ製ハンマー

 
2009年ベルリン陸上世界選手権、2011年韓国テグ陸上世界選手権、2013年モスクワ陸上世界選手権では、男子ハンマー投メダリストの9人すべてが、ニシ・スポーツ製のハンマーを選択。また、2012年ロンドン五輪では銀銅のメダリストが、2015年北京陸上世界選手権では、銀メダリストが同社のハンマーを使用した。
世界のハンマースロワーの多くが選ぶニシ・スポーツ製のハンマーは、どのようにして作造られ、どんな秘密が隠されているのか、千葉県船橋市にある工場でその工程を聞いた。

 

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男子一般用ハンマー(タングステン入り)を例にとると、その製造は4つの工程に分けられる。
①鋳物工場で成型した、中空のダクタイル鋳鉄の材料(球体の左右に機械でつまむための棒が出ている)から、規定サイズの球体を削り出す。
②中空部分にタングステンと鉛を注入する。
③ヘッドの穴にねじ山を切って、ヘッドとピアノ線をつなぐ吊管と呼ばれる器具をねじ込み固定する。
④塗装して、ピアノ線とハンドルを取り付けて完成。
この中でキモとなるのは、工程の①と②の部分のようだ。
①の切削作業は、簡単に言うと、直径116~117㎜の材料から、規定下限より少し大きな、直径110.5㎜(0.5ミリの余裕をみる)の球形を削り出すことである。
作業はもちろん手作業ではなく、数値制御ができるNC旋盤が使われるが、とはいえ、ボタン1つで球体が自動的に削り出されるわけではない。

 

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㈱ニシ・スポーツ船橋工場で、ハンマーや砲丸などの造を担当する宮﨑大輔さんは言う。
「NC旋盤にプログラムを登録してしまうことは機械的には可能なのですが、機械も絶対ではないですから、毎回材料を自分の目で見て、そのうえでプログラムを打ち込む作業を行います。そのうえで、1個1個の製品をきっちりと造ることを心がけています」
1回の作業は、20個から30個を1つのロットとして行われる。
「旋盤の刃をバイトと呼ぶのですが、バイトの状態は、1個目と30個目では違ってくるんです。徐々に熱を帯びてくるし、消耗もします。場合によっては欠けることもあります。そういった変化は、切削中の音で気付くこともあるし、切削面を目視することで分かることもあります。変化が確認できたら、プログラムに補正を加えていくんです」

 

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変化や異常にどれだけ早く気が付くことができるか。そして、変化に対して正しい補正を行えるか。それが、同じロットの中の1個目と30個目に誤差を生じさせることなく造りあげるための技術であり、経験値だ。
「誤差が出ないようにするには、やはり手作業でこまめに寸法チェックをするしかありません」
しかし、誤差を出さずに、狙い通りのサイズの球体を削り出すだけでは、ヘッドは完成しない。②の工程もまた重要だ。
切削されたヘッドは計算された中空構造(形状は企業秘密)になっており、その中に比重の高いタングステンと鉛を独自の割合で注入することで、重心位置は球の中心よりスロワーから遠い方向に4.5ミリ以上6ミリ未満の範囲でずれ(規定によって重心は中心から6ミリ以上ずれてはいけないことになっている)ていることで、遠心力が最大限に発揮されることになる。

 

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「他社製のハンマーのヘッドの重心位置は正確には把握していませんが、当社の6ミリ弱未満でずれた重心を持つハンマーのヘッドが、少なからず飛距離に反映しているとは思います。私自身は、ハンマーを投げたこともないですし、投げられると思ったこともないので、実際のところは分かりませんが」
7キロを超える物体が、放物線を描いて80mの距離を飛行する現象の裏には、4回転という技術や、鍛え上げられた強靭な筋力の他に、6ミリという小さな宇宙も存在している。

 

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photo:Takashi OKUI
Text: Nobuaki TAN

 

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