2024.04.23(火)選手

【第108回日本選手権10000m展望~男子編~】塩尻、太田、相澤、田澤による覇権争いか!?大激戦からの26分台突入に期待



第108回日本選手権10000mは5月3日、8月にフランス・パリで行われるオリンピック競技大会の日本代表選考会を兼ねて開催される。決戦の舞台となるのは、静岡・小笠山総合運動公園エコパスタジアム。自国開催となった前回の東京オリンピック代表選考レースとして行われた2021年の第105回大会以来となる開催で、このときと同じく、日中に同会場で開かれる静岡国際陸上の競技終了後、日没を待ち、徐々に気温が下がるのと風が止まる凪の時間帯を狙って、ナイターで実施される。

パリオリンピックの出場資格は、ワールドアスレティックス(WA)が設定する参加標準記録の突破者と、1カ国3名で設定されたWAワールドランキング(Road to PARIS)において、種目ごとに設定されたターゲットナンバー(出場枠)内に収まった競技者に与えられる。10000mのオリンピック参加標準記録は、男子が27分00秒00、女子は30分40秒00。前回の東京オリンピック(男子27分28秒00、女子31分25秒00)からは大きく引き上げられた。日本では昨年、第107回日本選手権10000mの会期を12月に配置し、パリオリンピック選考競技会として実施。男女ともに好記録・好レースが展開されたものの、参加標準記録突破者はまだ出ていない。

さらに、10000mについては、クロスカントリーのワールドランキング上位8選手も標準記録突破と同様の扱いとされるため、ターゲットナンバー「27」のうち、4月20日段階で、すでに男子は24枠、女子は23枠までが埋まっている状態。WAワールドランキングで残されている出場枠は、男子は3枠、女子は4枠と、非常に“狭き門”となっている。

日本代表選手の選考は、日本陸連が定めた代表選考要項( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202309/21_112524.pdf )に則って進められ、第108回大会では、参加標準記録の突破を条件として、最大で男子は1名、女子は2名が即時内定する可能性がある。また、内定者が出なかった場合も、日本選手権の結果(順位)が優先される選考条件であるため、ここで確実に上位の成績を収めておくことが、非常に重要となってくる。

男女両レースに当たっては、オープンで参加する実業団所属の外国人選手がペースメーカーを務めるほか、昨年の第107回大会同様に電子ペーサー(ウェーブライト)も導入して、選手たちの記録への挑戦をバックアップする予定。果たして、新たな内定者は現れるか? パリオリンピック、さらには来年行われる東京世界選手権に向けて、勢いがつくような好記録・名勝負なるか? エントリーリストに基づいて、注目選手を紹介していこう。

※エントリー状況、記録・競技会等の結果は、4月20日時点の情報で構成。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

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https://www.jaaf.or.jp/jch/108/10000m/

【男子10000m】

今回と同じくパリオリンピックの選考競技会として開催された前回12月の第107回大会では、27分00秒00という参加標準記録の突破こそ叶わなかったものの、1~3位が日本新記録を樹立し、上位4選手が日本歴代1~4位を塗り替えるハイレベルなレースとなった男子。この結果、2023年世界リスト9位の27分09秒80をマークして優勝した塩尻和也(富士通)を筆頭に、2~4位で続いた太田智樹(トヨタ自動車、27分12秒53)・相澤晃(旭化成、27分13秒04)・田澤廉(トヨタ自動車、27分22秒31)も14・17・20位と、2023年世界20傑のなかに4選手がランクインする活況となった。
それぞれが順調に仕上げてくることができていれば、今回の上位争いも、この4人を中心とする戦いとなるだろう。男子のスタート時刻は、20時10分。期待通りに気温が下がり、風が収まったなかでのレースとなった場合には、もしかしたら日本人による史上初の26分台レースを見ることができるかもしれない。

男子については、即時内定が出るのは、「優勝者が参加標準記録を突破した場合」のみであるため、最大でも1名となる。記録的に最も近いところにいるのは、前回覇者で日本記録保持者の塩尻だ。昨年は、日本選手権クロスカントリー(10km)で優勝、金栗記念5000mで日本人トップ、ブダペスト世界選手権10000m代表選考レースとして行われたゴールデンゲームズinのべおか(GGN)も優勝。6月に行われた日本選手権は5000mを制して、バンコクで行われたアジア選手権の代表となり、同大会では銀メダルを獲得。ブダペスト世界選手権に5000mで出場した。5000mと10000mの2種目で代表入りした杭州アジア大会は、10000mで転倒に巻き込まれ5位にとどまり、5000mは欠場したものの、12月の日本選手権10000mで、26分台に肉薄する圧巻のレースを披露 と、一つ階段を上ったところで、安定した強さを見せ続けた1年となった。

今年は3月16日にアメリカ(ロサンゼルス)で行われた「The TEN」の10000mに出場。このときは7000m付近で途中棄権しているが、深刻な状況ではなかったようで、その後、金栗記念の5000mに出場し、13分24秒57で日本人トップの成績を収め、国内での10000m初戦となる日本選手権に向かっている。

レース半ばまでは中~後方で静かにレースを進めて徐々に順位を上げ、終盤にロングスパートを仕掛ける展開で強さを発揮するタイプ。気象状況に恵まれて、参加標準記録突破が狙えるコンディションとなった場合は、複数人で集団となって1周64秒、1000m2分42~43秒前後のペースで、終盤まできっちりと押していくほうがタイムは出やすいかもしれないが、そのなかで得意のパターンに持ち込める状態まで仕上げてくることができているかどうか。
実は、残り3枠しかないWAワールドランキングの「Road to PARIS」においては、塩尻は日本勢3番手。ターゲットナンバー「27」に対して、田澤が26番目、太田が27番目、そして塩尻がターゲットナンバー外となる28番目に位置しているのだ。10000mは2レースのパフォーマンススコア(記録と順位スコアの合計)の平均ポイントで順位がつくが、田澤は1221ポイント、太田は1220ポイント、塩尻は1216ポイントと僅差で続いている。日本選手権の結果によっては、3者の順番が入れ替わる可能性もあるし、25番目の選手(1235ポイント)を抜いて日本勢3選手がターゲットナンバー内に入っていく可能性もある(ぜひ、それを期待したい!)。心身ともに熾烈な戦いとなりそうだ。

昨シーズン、ハーフマラソン(1時間00分08秒)、5000m13分20秒11、そして10000mで27分12秒53と急成長を遂げた太田は、3月の「The TEN」に出場してセカンドベストの27分26秒41(17位)をマークと、順調な経緯を辿っている。この勢いのある流れを、そのまま結果に結びつけたいところだ。前回は残り3周となったところで塩尻に振りきられ、相澤との2位争いを制する形となった。今回は、優勝争いを繰り広げたい。

WAワールドランキングでは現在、日本勢最上位につける田澤は、オリンピックは決まれば今回が初出場となるが実績は十分に積んできた。2022年オレゴン・2023年ブダペストに続き、3年連続の世界大会代表入りを期す。田澤も当初は「The TEN」に出場する予定だったが、脚に不安を抱えていたため出場を見送り、日本選手権が初戦となる。社会人1年目の昨年は、連戦を不得手としながらも、敢えて国内外でさまざまなレースに挑み、経験の幅を広げた。酷暑のなか行われたアジア選手権では金メダルを獲得して、ブダペスト世界選手権への道を切り拓いている。前回の日本選手権も万全ではなかったなか、日本歴代4位となる27分22秒31の自己新で4位に食い込むなど、ポテンシャルの高さはピカイチ。参加標準記録を狙うというよりは、確実にポイントを獲得する戦いを目指すことになるかもしれない。

2020年の日本選手権を27分18秒75の日本記録(当時)で制し、東京オリンピックに出場した相澤は、その後はケガに苦しむことが多かったものの、前回の日本選手権で、自己記録を5秒以上更新する27分13秒04で3位の座を占め、復活を印象づけた。ただし、その後は、元旦の全日本実業団駅伝では好走(3区区間3位)したものの単独レースに出場しておらず、WAワールドランキングの対象となるためには、もう1本レースが必要となるため、この日本選手権でしっかりパフォーマンススコアを残さなければならない。2020年、2022年と1年おきにタイトルを獲得してきた相澤。3回目の「2年ぶりV」を果たすことはできるか。

また、ぜひ注目しておきたいのは、昨年のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)を制して、パリオリンピックのマラソン代表に内定している赤﨑暁(九電工)だ。今季は、すでに金栗記念の5000mに出場して13分30秒62で走っている。10000mの自己記録は、昨年11月の八王子ロングディスタンスでマークした27分48秒09。これに迫るタイムが出るようだと、パリオリンピックに向けての意気はさらに上がることだろう。

このほかでは、前回27分28秒13の好タイムで5位に食い込んだ小林歩(NTT西日本)、昨年の八王子ロングディスタンスで好タイムをマークしている鈴木芽吹(駒澤大→トヨタ自動車、27分30秒69)、葛西潤(旭化成、27分36秒75)、篠原倖太朗(駒澤大、27分38秒66)が、どこまで上位争いに絡んでいけるかも興味深い。3月の「The TEN」で27分49秒.09をマークしている田村和希(住友電工)は、2020年の日本選手権で27分28秒92をマークして3位の実績を残している選手。昨年は日本選手権5000mで13分24秒38と自己記録を更新しているが、10000mでの27分台は2020年以来。上位争いに迫る走りを期待したい。

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【第108回日本選手権・10000m特設サイト】


https://www.jaaf.or.jp/jch/108/10000m/



【第107回日本選手権・10000mアーカイブ】




【大会概要】

■大会名:第108回日本陸上競技選手権大会・10000m
■開催日程:5月3日(金・祝)
■開催会場:静岡・エコパスタジアム
■実施種目:19:30 女子10000m、20:10 男子10000m
■申込記録
男子:28分16秒00 女子:32分30秒00(5000m:15分40秒00)
■申込記録有効期間
2023年1月1日から2024年4月14日まで
■ターゲットナンバー
男子:30名 女子:30名
詳細はこちら(大会要項

【パリ五輪 参加標準記録】

■参加標準記録
男子:27分00秒00 女子:30分40秒00
■参加標準記録有効期間
2022年12月31日から2024年6月30日まで

【パリ五輪 日本代表内定について】

パリ2024オリンピック競技大会 トラック&フィールド種目日本代表選手選考要項 より抜粋

1)ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会で3位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者で、参加資格有効期間内に、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。
2)1)に該当者がいない種目において、ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会で8位以内の成績を収めた日本人最上位の競技者廣中璃梨佳で、2023年11月1日から2024年6月30日までに、ワールドランキング対象競技会において参加標準記録を満たした競技者。
3)第107回日本選手権・10000m優勝者で、第107回日本選手権・10000m終了時点までに参加標準記録を満たした競技者。
4)第108回日本選手権の優勝者であって、参加資格有効期間内に参加標準記録を満たした競技者。

パリ2024オリンピック日本代表選手選考ガイド(画像をクリック!)


【パリ五輪 参加有資格者一覧】

https://www.jaaf.or.jp/news/article/18659/

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