2022年度の「日本チャンピオン」が最初に決定するのは、今年から新種目として実施される35km競歩!
第106回日本陸上競技選手権大会35km競歩が4月17日、石川県輪島市において、前日から実施される第61回全日本競歩輪島大会と併催で行われる。この大会は、長年「日本選手権50km競歩」として実施されたきた。第59回大会(1975年度)以降は、輪島での開催が定着(※第91回大会のみ神戸で実施)し、少し遅くやってくる「輪島の春」の風物詩として、すっかり現地の日常に溶け込んでいる。
ワールドアスレティックス(WA:世界陸連)は、昨年の東京オリンピックを区切りとして、これまで世界大会における競歩の正式種目であった50kmを、35kmに変更した。WA主催大会としては、すでに3月に行われた世界競歩チーム選手権で初めて実施されているが、いわゆる「世界大会」としては、今年7月にアメリカで開催されるオレゴン世界選手権が最初のレースとなる。
この変更を受けて、輪島で行われてきた50km競歩の日本選手権も、今年度から実施種目を35km競歩に変更。さらに、近年採用していた1周2kmの周回コースを、海側の500mを折り返す1周1kmの周回コースに変更し、より「国際大会仕様」のなかで競える状況に整えた。これが日本では最初に行われる「35km競歩」レース。選手たちは、35kmの「日本選手権初代チャンピオン」、さらには、オレゴン世界選手権(男女)および杭州アジア大会(9月に中国で開催、35kmは男子のみ実施)の日本代表の座を巡って戦うことになる。
日本陸連では、同日、世界選手権・アジア大会の日本代表選考のために、男女20kmの「特別レース」も設置している。このレースには、これまでの選考競技会上位者のみが出場できる仕組みで、出場選手は、まずは参加標準記録の突破を目指してレースに挑むことになる。
ここでは、35km、そして20km特別レースに出場する注目選手や、各レースにみどころをご紹介していこう。
※エントリー状況や出場者の所属、記録・競技結果等は4月12日時点の情報に基づく。
・男子35km競歩
男子35kmの出場選手個々の話題に触れる前に、まず、全体の状況をみていこう。この種目では、鈴木雄介(富士通、男子20km世界記録保持者)が、2019年ドーハ世界選手権男子50km競歩優勝によるワイルドカードで、すでに参加資格を取得済み。日本は、オレゴン世界選手権に、この1枠を加えると最大4名がエントリーできる状況になっている。日本陸連が定めた男子35km競歩の派遣設定記録は2時間30分00秒、そしてWAが設定しているオレゴン世界選手権参加標準記録は2時間33分00秒。また、代表選考競技会としては、3月にオマーンで行われた世界競歩チーム選手権と、今回の日本選手権35km競歩の2大会が対象だ( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202202/12_161750.pdf )。35km競歩のオレゴン世界選手権に向けた資格記録有効期間は、2020年11月30日から2022年5月29日までとなっていて、種目が50kmから35kmに移行するタイミングということもあり、50kmの記録でも派遣設定記録(3時間45分00秒)と参加標準記録(3時間50分00秒)が設定されている。50kmで実施された前回の日本選手権も有効期間内だったため、その時点で、優勝した丸尾知司(愛知製鋼、3時間38分42秒)、2位の勝木隼人(自衛隊体育学校、3時間42分34秒)が派遣設定記録突破者に、さらに、4位の野田明宏(自衛隊体育学校、3時間45分26秒)と6位の高橋和生(ADワークスグループ、3時間47分38秒)が参加標準記録を突破する現役競技者となった。
3月にオマーンで開催された世界競歩チーム選手権では、日本人最上位者が派遣設定記録を突破した場合、もしくは派遣設定記録を突破済みの勝木が日本人最上位となった場合は、その時点で内定が出る状況だったが、暑熱環境下と急勾配のコースという厳しい条件が重なったこともあり実現はならず。これらにより、今回の日本選手権35kmでは、派遣設定記録突破済みの丸尾と勝木は優勝すれば、記録の如何を問わずに、その場で代表に内定。そのほかの選手が内定を得るためには、派遣設定記録を突破したうえで優勝することが条件となってくる。
35km競歩自体の特徴や魅力、レースの見どころについては、谷井孝行コーチ(自衛隊体育学校、2015年北京世界選手権男子50km競歩銅メダリスト)が詳しく解説してくださったインタビューを、すでに日本陸連公式サイトにおいて掲載している( https://www.jaaf.or.jp/news/article/15991/ )。これを読んでおくと、当日のレース展開が、よりいっそう面白く見られるはずなので、ぜひご覧いただきたい。
さて、50kmで実施されてきた輪島での日本選手権は、2015年以降、優勝者が毎年変わる状況が続いてきた。この点からも日本の層の厚さが窺えるが、新種目の35kmでは、高速化に拍車がかかったなかで、さらに混戦・激戦になっていく可能性が高い。というのも、ペース設定、駆け引きともに、選手それぞれが自分の強みを生かしてのレースプランを試みることが可能で、想定できる展開や選べる戦略が多岐にわたるからだ。35kmのレース自体が、世界的にもまだ多く開催されていないこともあり、どういう展開が勝負しやすいか、あるいは記録を出しやすいかは、各国ともに手探りの状態。上記で紹介したインタビューで、谷井コーチも「今回の輪島で出た記録は、世界で注目されて、一つの目安になっていく」と示唆しているが、記録水準の高い日本で行われるこの一戦は、世界トップウォーカーたちの耳目を集めるレースとなるに違いない。
すでに参加資格を手にしている鈴木は出場しないが、エントリーリストには、錚々たる顔ぶれが並んだ。至近で最も高い実績を残してきているのは、50km競歩日本記録保持者(3時間36分45秒)の川野将虎(旭化成)。東京オリンピック50kmで6位に入賞。3月の世界競歩チーム選手権35kmでは2時間37分36秒をマークして4位でフィニッシュし、「メダル」に肉薄した。20kmでも1時間17分24秒(2019年)のスピードを持ち、50kmで日本記録を樹立した際(2019年、全日本競歩高畠大会)には、35kmを2時間30分45秒で通過している。どういう展開のレースになっても、派遣設定記録を突破していける地力は十分に備えているといえるだろう。
この「通過タイム」という点では、前回優勝を果たして東京オリンピック代表権を獲得した丸尾、そして、終盤でペースダウンして4位でのフィニッシュとなった野田も、突破できるタイムでの通過を経験している。2人は前回のこの大会で先頭を争いながら35kmを2時間30分11秒で通過。その後、ペースアップしたことで、5kmから40kmまでの35kmは、実に2時間29分08秒で歩いているのだ。丸尾としては、当然、自身の世界大会最高成績である2017年ロンドン世界選手権(50km)4位をオレゴンで上回るためにも、「連覇(種目が変わるので変則となるが)」によって、その切符を手に入れたいだろう。また、野田も、わずかに及ばなかった東京オリンピック出場や、途中棄権に終わった2019年ドーハ世界選手権の悔しさをオレゴンで晴らすべく、強い思いで勝負に臨んでくるはずだ。
前回(2位)の記録で派遣設定記録をクリアしている勝木は、昨年は、鈴木の出場辞退に代わって、非常に短い準備期間で東京オリンピックに臨むことになった。2018年ジャカルタアジア大会(50km優勝)でのレースに象徴されるように、不利な条件に見舞われても着実にレースを進めて順位を上げていける冷静さと粘り強さが特徴の選手だ。世界選手権としては、2019年ドーハ大会に続く2大会連続出場を目指すことになる。暑さのダメージを受けた世界競歩チーム選手権からの回復状況が気になるところだが、優勝争いに絡むことが難しい場合は、当日の記録レベルや、ほかの記録突破者の位置をみながらレースを進めていくことができる点は、残る3枠を争ううえで有利といえる。
高橋和生は、川野・勝木とともに、3月の世界競歩チーム選手権に出場し、初めての日本代表となったこのレースで、非常にタフな状況のなか入賞が見える位置でレースを進め、10位という結果を残した。この経験が、どう生かされるか。前回(6位)の結果で参加標準記録を突破していることを、うまくアドバンテージとしたい。
忘れてはならないのが、50km競歩で、2016年リオオリンピック銅、2017年ロンドン世界選手権銀、2018年世界競歩チーム選手権金と、素晴らしい実績を残してきた荒井広宙(富士通)。20kmでも1時間19分00秒(2019年)の自己記録をもっている。前回は3時間50分11秒(7位)とわずか11秒差で50kmの参加標準記録クリアを逃している。スピード対応力ということを考えると、先頭集団に絡める位置を維持してレースを進められるかが鍵となりそうだ。
今回のレースには、20kmを主戦場とする選手たちもエントリーリストに名を連ねた。2016年リオオリンピック7位入賞の松永大介(富士通)、そして3月の世界競歩チーム選手権に出場した諏方元郁(愛知製鋼)の2選手だ。
世界競歩チーム選手権20km(23位)で初の日本代表を経験した諏方は、同レース後に、35kmに挑戦する可能性も含んだコメントを残したなかでのエントリー。今回は、35kmだけでなく、特別レースとして設定された20kmにも名前を連ねている。日程上、どちらかに絞っての出場になるはずで、まずはどちらを選ぶのかが注目される。
万全の状態で臨めば、優勝候補の一角となる存在なのが松永だ。3月20日に行われた全日本競歩能美大会の20kmを1時間19分53秒で制し、条件を満たして、すでに20kmで代表切符を手に入れている。これは、もともと輪島の35kmに照準を定めてトレーニングを進めてきたなかでの結果で、能美のレース後「疲労の回復具合を考慮しながら」と言いつつも、出場を前提として、その後を過ごしてきた。準備は、ほぼ順調に進められてきたとのこと。気象状況等にもよるだろうが、当日は、松永の持ち味といえる、ガンガンと先頭で歩を進めるアグレッシブなレースを期待することができそうだ。ここ3年ほどは苦しい戦いが続いていたが、20kmでは1時間17分46秒(2018年)の自己記録を持つ実力者。完歩していないために公認記録としては残っていないが、実は、2019年のこの大会で50kmにも挑戦していて、このとき35kmを2時間30分13秒で通過している。条件を満たして、2つめの内定を勝ちとれる力は十分にある。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
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〇【ライブ配信実施】日本選手権35km競歩、男女20km競歩特別レースで日本代表内定なるか!?
〇東京2020オリンピック・特別インタビュー(池田選手)
〇東京2020オリンピック・特別インタビュー(川野選手)
〇競歩特説サイト「Race walking Navi」
~競歩のルール、歴史、過去のライブ配信をチェック!~
https://www.jaaf.or.jp/racewalking/
〇大会ページ
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1635/
〇競歩日本代表選考要項(オレゴン2022世界選手権/杭州アジア競技大会)
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