本連盟は、「市民マラソン・市民ランナーへの日本陸上競技連盟の計画と期待」をテーマとした『2016ジャパンレースディレクターズミーティング(JRDM)』を、2月27日、東京ファッションタウンビル会議室(東京都江東区)において開催しました。
>これは、マラソン大会等で運営にあたる方々や都道府県陸上競技協会の方々を対象とした会合で、近年の市民マラソン大会隆盛や市民ランナーの増加という社会的な背景のなかで、今後、日本における陸上競技の進む道を議論するとともに、参加された皆さまからも各大会における取り組みや問題点等をご紹介いただき、情報を共有することで、より良い大会運営に役立てていただくことを目指して企画したものです。
当日は、全国から200 名を超える方々の参加をいただき、闊達な議論や情報交換がなされました。
プレゼンテーション①「今後のマラソンのあり方を考える」
尾縣貢(日本陸上競技連盟専務理事)尾縣専務発表資料
尾縣専務理事は、スポーツ基本法の成立や2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定、スポーツ庁設置など、大きな変革の波の中にある日本のスポーツ界の現状を踏まえて、日本陸連が目指そうとしている今後のあり方や取り組みを述べました。
- これまで本連盟が主軸を置いてきた「競技スポーツとしての陸上競技」(競技陸上)に加え、「健康のため、あるいは楽しみのためのスポーツとしての陸上競技」という位置づけの「ウェルネス陸上」を提案し、推進していく。ウェルネス陸上で目指すのは、1)陸上競技を通じて人々を元気にする(陸上競技、特にランニングを生涯スポーツとして位置づけ、実践によりライフワークバランスを提唱したり、健康寿命を延ばしていったりすることに貢献する)、2)陸上競技を通じて地域を元気にする(さまざまな形のコミュニティを、スポーツの場につくっていく)の2つ。
- エリートから市民ランナーまで多くの人口があること、最も身近な運動であること、適切に行えば人々を健康にする一番の手段といえること、走らなくても見たり支えたりすることで関わっていけること等の観点から、人々が一番関与しやすいスポーツといえるランニングを、ほかのスポーツに先駆けて、「文化」にしていくことを目指したい。
- ランニング人口の増大に伴い、全国で開催されるマラソン大会やロードレースの数もここ数年で大幅に増えているが、一方で、日本陸連が実施を把握していない大会(未公認大会)においては、エントリー、距離・計測、安全、自治体の負担などで問題が生じている例もあると聞く。また、せっかくランニングを始めたランナーが抱える問題も多く、実践に必要な知識や情報の不足から継続できずにやめていく者が非常に多いことがわかっている。単なるブームに終わらせず、「ランニングを文化にする」ためには、こうした点をなくしていくための努力が不可欠となってくる。
- 日本陸連として、多くの人たちが議論したり情報共有したりできる場として、新たに「ロードレースコミッション」を創設する。具体的には、1)安心安全な大会をつくること(基準づくり、承認制度)、2)正しいランニング普及(講習会実施、指導者養成)を進めていく。
【プレゼンテーション②「市民ランナーの現状とランニング普及部の取り組み」】
前河洋一(日本陸上競技連盟普及育成委員会ランニング普及部長)前河部長説明資料
前河ランニング普及部長は、これまでの経験や調査を踏まえ、市民ランナーの現状とランニング普及部の取り組みを紹介しました。
- 2007年にスタートした東京マラソン以降全国各地にランニングブームが広がった。東京マラソンのエントリー数は年々応募者が増加している。初期のころは「応募して当たったら練習しよう」という応募者が多かったと聞くが、現在ではどの参加者もそれなりに準備してレースに臨むようになっている。その点が、この10年の変化と思われる。
- 出場するランナーの男女構成では女子が2割程度(海外に比べるとまだ少ない)、年代構成では40~50代が多い。これらのランナーのトレーニングは週に2~3回程度(2日に1回、あるいは週末のみ)が多いが、なかには週9回以上という人もいる。始めたきっかけとしては、健康に関する面や体力づくりが多い
- 一方で、ランニングをやめてしまうケースもある。1年以内に故障やケガを経験したランナーは7割を超えていることから、大半のランナーが何かしらのトラブルに見舞われているということができる。これは知識の不足、トレーニングの方法がわからない、トレーニング過多など、さまざまな原因が考えられる。
- 日本陸連では15年前から市民ランナー対象のランニングクリニックをスタートさせ、200人規模のランニングクリニックを展開してきた。そこでランナーたちから寄せられた悩みとしては、「走り方がわからない」「ケガをしてしまう」「走る時間がない」「走る場所がない」「指導者がいない」などが多かった。こういったことを踏まえて、長野マラソンでは、初期のころから日本陸連主催の「マラソンクリニック」を実施している。
- ランナー人口が増えると、そのぶんさまざまなトラブルが起きる可能性は当然大きくなる。また、大会に参加するにあたっては、各ランナーにきちんと準備して臨んでもらうことが大事なテーマになり、そのためには市民ランナーへの指導にも取り組むことがとなってくる。今後、市民ランナーにもあてはまるようなシステムをつくっていけないかと考えている。指導を受けるに当たっては、誰に教えてもらっても同じ質が得られることが重要で、それが最終的に、安心・安全や健康面のトラブル予防につながってくる。今後、我々が取り組んでいくべき部分でもあるが、ぜひ、各地域の大会関係者にもこうした点に意識をもって一緒に取り組んでいただければと思う。
【パネルディスカッション】
【パネリスト】- 早野忠昭(東京マラソン レースディレクター)
- 前島信一(長野マラソン 大会事務局)
- 升川清則(神戸マラソン 実行委員会事務局長)
- 尾縣貢(日本陸上競技連盟 専務理事)
- 前河洋一(日本陸上競技連盟 普及育成委員会ランニング普及部長)
- 大嶋康弘(日本陸上競技連盟 事務局事業部長)
- 金哲彦(NPO法人ニッポンランナーズ理事長)
パネルディスカッションには、東京マラソンレースディレクターの早野忠昭氏、長野マラソン大会事務局の前島信一氏、神戸マラソン実行委員会事務局長の升川清則氏をパネリストとしてお迎えし、プレゼンテーションを行った尾縣専務理事と前河ランニング普及部長のほか、本連盟事務局の大嶋康弘事業部長が登壇。
来場されたレース関係者の皆さまへ行っていた事前のアンケートから、テーマを、1)集客、2)ボランティア、3)救護・警備、4)日本陸連へ期待することの4つに絞って行いました。まず、ファシリテーターを務めたNPO法人ニッポンランナーズ理事長の金哲彦氏が、アンケートに記載された各団体や組織における問題点を紹介し、当事者(記入者)から説明を加えていただいたのちに、パネリストが自身の例や提案を述べるという形で意見交換が進められました。課題となっていることやさらなる改善を目指している点が議論されただけでなく、各レース大会において、さまざまな工夫や配慮がなされている様子も垣間見ることができ、非常に有意義な情報共有の場となりました。
- 集客
- 外国語表記看板や外国人ランナーへのもてなしをどうしているか。
- 地域内にある空港を利用して、九州方面からの集客を増やしたい。
- 組織力や財力のないなか、コース周辺の住民の方々の支援や応援を得るためにどうすればよいか。
- 大会参加者に、その後も主催市のスポーツ振興を応援してもらえる仕組みをつくりたい。また、観光等でのリピーター、移住・定住促進等の街づくりのテコとなるイベントに育てていけないか。
- ボランティア
- ボランティア集めに非常に苦労している。何かよい方法はないか。
- 審判員の拘束時間と健康管理。中規模都市では人材確保が非常に難しく、交代なしで長時間の対応をお願いしなければならない。よい方策はないか。
- 地域の高齢化が進んでおり、企業ボランティアを増やしていくことを考えている。企業ボランティアの参加人数を増やしていく方法はないか。
- 救護・警備
- 警備費の支出が年々増え、負担が大きくなってきているが。ほかの大会ではどうしているか。
- AEDの設置を、どのくらいの規模で行えばよいか。費用面もあるが万全の態勢を整えたいと考えているのだが。
- 保険や補償等、本当に大切な事柄について、スタンダード化を図っていくことはできないか。
- 日本陸連へ期待すること
- 連絡協議会などの横の繋がりをお願いしたい。
- 運営のための標準化されたマニュアルが欲しい。
<企画協力:株式会社アールビーズ>