>【日本記録ラッシュに会場大盛り上がり】アスリートナイトゲームズイン福井レポート&コメント vol.1
◎桐生、今季5回目の10秒0台で快勝、男子800mと女子100mは高校生がV
この競技場は、2017年9月の日本インカレ男子100mで、桐生祥秀選手(日本生命、当時東洋大)が日本人で初めて10秒を切る9秒98の日本新記録を樹立した地。この快挙を記念して、競技場には「9.98スタジアム」の別称もつけられました。「9.98カップ」と銘打って行われた招待種目のトリを飾ったのは、もちろん男子100m。桐生選手が再び5レーンに入るとともに、同じく2年前の日本インカレで学生歴代3位タイの10秒07をマークして2位となっている多田修平選手(住友電工、当時関西学院大)も出場する豪華なレースとなりました。気温は28℃まで下がったもの、風がやんできたことで湿度が上がり、蒸し暑さが感じられるなかレースはスタート。中盤から抜け出した桐生選手が、そのままリードを奪って10秒05で優勝。多田選手が10秒20で2位となり、3位には、200mに続いて出場した白石黄良々選手(セレスポ)が10秒29でフィニッシュしました。
レース後、「記録は狙っていたのか?」というメディアからの問いに、「今日は、完全にイベントのつもりで来ていたが、あれだけ日本記録が出ていたので、(自分も)花を咲かせたいなという気持ちになっていた。記録が出なかったことはちょっと残念」と答えた桐生選手。しかし、レースに臨むにあたっては、「こうやってスタジアムに(自身に関連した)名前がついているので、そういうところで、どういうファンサービスができるかなということを考えていた」と言います。
再びの9秒台はなりませんでしたが、今季5回目となる10秒0台。「4~5月の“貯金”がなくなってきていたので、この3週間は、しっかり練習してきた」と振り返ったように、トレーニング期のなか迎えたレースとしては、上々の結果といえるでしょう。また、今回は、アシックスが新たに開発したというピンのないスパイクシューズをレースで初めて使用。その感触を確かめたことに対して、「ちょっと、ドキドキした」と笑いました。
このあと、8月22日から再びヨーロッパに向かい、8月25日にマドリッド(スペイン)で、9月1日にベルリン(ドイツ)で2戦に出場する予定。「今回、もっといい感じで走れると思った部分と、最後でちょっともたついたかなという部分があった。そこを直せばもっと行けると思う」と頼もしい言葉を聞かせてくれました。
このほか、招待種目では女子100mと男子800mも行われ、ともに高校生が優勝を果たしています。女子100mは、日本選手権覇者で、インターハイでは過去最高水準のレベルのなか史上9人目の連覇を果たした御家瀬緑選手(恵庭北高)が優勝。インターハイ準決勝でマークした11秒50の自己記録(高校歴代2位)更新はなりませんでしたが、11秒69(+0.6)をマークしています。
男子800mを制したのは、日本選手権で1分46秒59(U20・U18日本記録、高校記録)をマークして初優勝を飾ったクレイ・アーロン竜波選手(相洋高、ダイヤモンドアスリート)。このレースでは、クレイ選手と、日本記録保持者(1分45秒75)の川元奨選手(スズキ浜松AC)のドーハ世界選手権参加標準記録(1分45秒80)突破を期して、前日本記録保持者(1分46秒16)の横田真人さん(NTTC:第一戦を退き、現在はコーチとして活躍中)と、花村拓人選手(関西学院大)がペースメーカーを務めて展開されました。横田さんが450mまでリードして400mを50秒7で通過。その後、花村選手が先頭に立ち、600mは1分18秒2~3(以上、筆者計測による)で通過しましたが、クレイ選手は1分46秒63、川元選手は1分48秒23のフィニッシュで、残念ながら実現はなりませんでした。しかし、クレイ選手にとっては、日本選手権決勝に続く2回目の1分46秒台。競技進行の影響で予定よりも30分ほどスタートが遅れたなか、高校生ながら日本歴代6位に位置する自己記録まで0.04秒と迫ったことで、ポテンシャルの高さがいっそう感じられるレースとなりました。
【新記録樹立者コメント】
城山正太郎(ゼンリン)男子走幅跳 1位 8m40(+1.5) =日本新記録
(ドーハ世界選手権参加標準記録の)8m17や(東京オリンピック参加標準記録の)8m22を狙っていたが、まさか(8m)40を跳べるとは思っていなかったので、本当にびっくりした。(8m40をマークした3回目の跳躍は、踏み切り前の)ラストの5歩が今までと違ってスムーズというか、踏み切りを意識しすぎないような、そんなリラックスした入りができたのかなと思う。(跳べるかどうかはいつも)4歩前でだいたいわかるのだが、今回は気持ちよく入ることができたという感じ。今まで踏み切りに意識をもっていかれて重心が下がってしまっていたが、風のサポートもあって、自然な、腰の高い位置で入ることができた。それによって踏み切りもしっかりと腰が乗ったので、そこが(記録が出た)要因だと思う。
7月にベルギーの競技会で追い風参考(+5.0)ながら8m32を跳べていたことが大きかったように思う。そのときの感覚が本当によくて、あの感じで跳ぶことができれば(8m)17や22は跳べるなと思っていた。(今回の8m40の跳躍は)ラスト4歩の入りとか、空中ですごく浮いていたことやしっかり着地がまとめられたこととかが、そのときの感覚とすごく似ていた。
(今季世界2位の記録だが)条件がよかったことを考えると、(8m)20くらいと受け止めておいたほうがいいかなと思っている。また、日本記録は目標ではあったが、きっとすぐに橋岡選手や津波選手が抜いてくるはず。日本記録保持者になったという実感はあまりない。
今後は、まずはどんなコンディションでも8m20とかを跳べるようになることを目指したい。アベレージとして(8m)20を跳んでいかないと、(世界選手権やオリンピックでは)決勝には残れないと思っているし、また、今日は(記録が出たのが)3本目だったが、1本目から行けるようにしていかなければならない。ただ、(自己記録で)8m40を持っているというのは、気持ちに余裕が少しできるかなと思う。
橋岡優輝(日本大学)
男子走幅跳 2位 8m32(+1.6) =日本新記録、学生新記録
(日本新記録の8m32をマークした1回目は)本当に助走が詰まってしまって、踏み切るというよりは、(足を踏切板に)置いてそのまま流れたという感じ。そのぶん着地もつんのめる感じで(上体が)かぶってしまったので、記録が出たという感じは全然なかった。(8m)10いくつくらいかな、と思っていた。(結果的に城山選手に8m40を跳ばれて抜かれたが)8m40は跳べない記録ではないと思っているが、(負けてしまったのは)自分の力が未熟ということ。でも、目指すところは世界陸上。そこにしっかりピントが合えばいいのかなと思うし、何よりも最初に恩師の記録(森長正樹コーチが1992年に樹立した日本記録8m25)を超えることができた。そこは本当によかったと思う。
いろいろと修正点が浮き彫りになったのと、あと、どういう助走をすればいいかをつかむことができたので、世界陸上でいい結果を出すためにつながっていく試合だったと感じている。(1回目の跳躍のあと)、2~3本目はまだ助走の部分がうまくいかなかったので、そのあたりを5~6本目で修正した。特に5本目(7m64)は、すごいいい助走ができていたのだが、そのぶん詰まりすぎて膝が抜けてしまい、うまく踏み切りまで持っていくことができなかったので、もったいなかったなという思いがある。(金メダルを獲得した7月の)ユニバーシアードのときは踏み切りがよかったので、今回の5本目の助走と、ユニバーシアードの5本目で出た踏み切りがうまく噛み合ってくれたら、もっとすごい記録が出てくるのかなと感じている。自分自身としては、それがすごく楽しみである。
寺田明日香(パソナグループ)
女子100mH 1位 13秒00(+1.4) =日本タイ記録
風に乗って、いい走りができたかなと思う。ただ、13秒00ということで、日本タイ記録は嬉しい半面、自分では「12秒台で走れる」と考えていたので、まだまだ詰めが甘いなとも思う。でも、これからの楽しみが増えたと考えるようにしたい。
レースの前に走幅跳で日本新記録が2回続いて出て、特に城山(正太郎)くんは同じ北海道の出身ということもあり、「いいな、私も続きたいな」と思った。しかし、記録を狙いにいくと硬くなるということは日本選手権の経験でわかっていたので、そこはできるだけ気にしないように、「自分のやるべきことをやる」というふうに意識してレースには臨んだ。
スタートが出遅れて、福部ちゃん(福部真子、日本建設工業)の背中が見えていたが、けっこう冷静にいくことができた。スピードがあるので後半には自信があったし、いい風が吹いていたので、「このままちゃんと脚を回していこう」と考え、あとは踏み切り位置に気をつけることを意識した。5台目くらいから、うまく(スピードに)乗れた感じがあった。ゴールしたときはどのくらいの記録かわからなかったが、タイマーを見て(13秒)01だったので、「私らしいなあ」と思った。(正式記録は13秒)00になったが、結局12秒台じゃなかったので、(日本記録に並ぶ自己新記録の)嬉しさよりも悔しさのほうが大きい。課題は序盤の1台目と2台目。終盤は「ガガガガーッ」と行けるようになったので、序盤がはまれば、(12秒)8とかで行けると思う。
日本選手権後、実学対抗やトワイライトゲームズを走ってみて、いい感触をつかめた半面、ちょっと痛いところが出てきたりもして、ここまでの練習ではハードルをあまり跳ぶことができていなかった。まだまだやるべきところがあると思うと、今後は、どれだけ万全の状態をずっとつくっていけるかを、もっと考えていかなくてはならない。(競技に)復帰して8カ月で13秒00までもってこられた思う半面、もう8カ月も経ったという思いもある。ここからオリンピックまではあっという間に過ぎてしまうはず。気持ちを引き締めて、もう一段階上げていきたい。
高山峻野(ゼンリン)
男子110mH 1位 13秒25(+1.1) =日本新記録
(ウォーミング)アップ場にいたとき、同じチームの城山(正太郎)くんが日本新記録を出したというのが聞こえてきたので、本当に励みになったというか、“僕もやってやろう”という気持ちになった。しかし、まさかこのタイムが出るとは思っていなかったので、とても驚いている。
今回は、前半は抑えて、後半をしっかり走ろうということを目標にしていた。しかし、力的には抑えたつもりだったスタートで、思っていた以上に(前に)出ることができた。また、練習では最近最近調子が悪くて、ハードリングと走りが噛み合っていなかったので、まさかここに来てしっかり噛み合ったレースができるとは思っていなかった。会場の雰囲気がすごく良くて、選手たちもみんな集中できていたので、その点がよかったのかなとも思う。雰囲気に押されて、タイムも出ちゃったという感じである。
(今回の記録更新は)全くの予想外で、僕自身もここまで行けるとは思っていなかったので、正直なところ、これから先が全く見えないという気持ちもある。まだまだ自分は世界で戦うには力がない。まずは少しずつ自己ベストを更新していくことが、地力を高めることになると思う。またコツコツとやっていきたい。
次のレースは、北麓(9月1日、富士北麓ワールドトライアル)を予定している。ちょうど合宿を行う時期で、練習の一環という位置づけで(レースで)ハードルを跳んで感覚をつかむことが目的。ずっと試合が続いたことで、トレーニングができていないために体重が落ちてきている。まずは、8月終わりにしっかり身体をつくって、世界選手権を迎えたい。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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