2022.10.25(火)その他

【陸ジョブナビVol.11】号砲で選手を見送るスターター!オン・ユア・マークの裏側をご紹介!



陸上のトラックレースは「オン・ユア・マークス」で準備し、合図の号砲でスタートします。部活に一生懸命なみなさんも、世界で活躍するトップアスリートもそれは同じ。そして、そのスタートの合図を出すのが「スターター」の方々です。今回は身近なようで意外に知られていないスターターのお仕事について、東京陸協の本橋郁子さんに話を聞きました。


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スターターはチームワーク!

「スターターはチームワークが大事です!」と話すのが、東京陸協の本橋郁子さん。年間50試合はスターターを務め、東京五輪から小学生の大会まで、トップアスリートから子供たちまで、本当にたくさんの選手をスタート台から見送ってきました。

「スターターの仕事で最も大切なことは『公平・公正』に尽きます。しかし、スターター1人でレースをスタートさせているとイメージされている人が多いと思いますが、実はそうではありません。スタートの一瞬のために、その裏では機材チェックをはじめ山ほど作業があり、たくさんの人が関わります」

スタートへの一連の流れを、4×100mリレーを例に説明してくれました。「まずはメインのスターターが1人、正しいスタートが行われたかをチェックするリコーラーが3人、写真判定との連絡員が1人、信号器という装置を使うのでその担当が2人、合計7人のスターターがそれぞれの配置について、1つのレースをスタートさせます。アイコンタクト、阿吽の呼吸で動くチームワークが必要です」

加えて出発係、アナウンサー、写真判定、風力、監察員たちとのスムーズな連携も大切。「スタートの準備が完了し、出発係がアナウンサーに連絡します。アナウンサーによる選手紹介があって、スターターの台に上がります。この一連の流れに対して、誰かがその都度声をかけてくれるわけではありません。

そのため、いろいろな部署の連携が必要になってきます」。そうしてはじめて、「オン・ユア・マークス」のかけ声をかけることができるそうです。スターターにとって最も重要な役割が、不正スタート(通称・フライング)があったかどうかを見極めることです。
東京五輪をはじめ国際大会や日本選手権などの大きな国内大会では、スタートインフォメーションシステム(SIS)という装置が使われます。「より確実なスタートの判定のための装置」で、スターティングブロックの圧力の変化を感知し、リアクションタイム(号砲から動き出すまでの時間)が0.1秒未満でリコール信号が出るという仕組み。スターターは数値と波形をチェックして不正スタートなのか、警告や注意の対象となる動きなのかを判断します。
その他の一般的な大会では、スターターが目視で判断。「スターター同士のチームとしての信頼感がとても大事になってきます」と本橋さんは話していました。

公正なスタートではないと判断した場合には、リコールのピストルを鳴らして選手を止めます。そのため、「メインのスターターはメインピストルと、リコーラーピストル(スタート後に選手を呼び戻すための合図を出すピストル)の2丁を持っています」。
このピストル音にも、テクノロジーの進化とともに変化があるそうです。以前はピストルに入れた紙雷管の音で行われていましたが、現在はスターターのメインピストルは中長距離種目以外は音が出ません。短距離は各競技者から等間隔に置かれた信号器から音が鳴り、音の伝達時間に時間差がないように配慮されています。

「その音も紙雷管から電子音へと変化してきています」と本橋さん。電子音を使うことで雨の日に火薬が濡れるなどの不安がなくなるんですね!スターターのみなさんも現状打破されています。
また、聴覚に障がいのある競技者の場合、光刺激スタートシステムという色が変わるストロボの光でスタートの合図を送ります。「車いすレースでは前輪の接地面がスタートラインに触れないようにセットするなど、障がいの種類や程度によって静止する角度やポジションが異なるので、状況を確認して、静止したのを確認した瞬間に号砲となります」。

さまざまな知識や経験が必要となってくるんですね。




スターターの1日

まずは1日の作業分担表を作成し、交代しながら進めていきます(PDF参照)。非常に細かいスケジュールになっていて、初めて見た人には解読できないほど。
競技開始の2時間前には会場入りして、競技開始後も担当部署を分刻みで行ったり来たりしていきます。
「スターター、写真判定との連絡、光システムなど種目ごとに移動しつつ、自分の担当も変わりつつ、競技場の中を1日中動き回っていますね」
ちなみに、表の空欄は空き時間ではなくて次の出番に向けての移動や準備作業も。常に頭はフル回転ですね!
「注目されたレースがあっても、目の前のレースのスタートに向けて集中力を研ぎ澄ませています。無事にスタートが切られたら、すぐ次の種目のことに頭が切り替わるので、レース結果や誰が勝ったのか知らないことも多々あるんですよ(笑)」
特に印象的だったのは東京五輪だそうです。「貴重な経験ができて感謝です。出発係、スターター歴を長く積み上げたことで、素晴らしい機会をいただきました」。
本橋さんは、「これまでスターターとして育てていただいたということで東京陸協にものすごく感謝しています」と笑顔で話していました。


スターターになるには?

部活の練習で、スタートの合図に紙雷管を鳴らしたことのある人もいると思います。実際に、競技会でスターターを務めるにはどうすればよいのかを聞きました。
「まずは審判資格を取得していただくことから始まります。最初からスターターを希望される人もいますが、私は出発係をまず経験しました。その後、東京陸協から『スターターをやってみないか』と声をかけていただきました。最初は中長距離種目から始まって、徐々に短距離種目も担当できるようになっていったのです」

短距離種目のスタートは選手の間合い、見極めが難しく、タイミングは細心の注意を払う必要があり、それだけ経験が求められるということなのです。そんなスターターのやりがい、流儀について、本橋さんはこう話してくれました。

「スターターにとっての究極は、選手にとって公平で公正なスタートをしてもらうこと。
きれいに、そろってスタートしてもらえた時はうれしいですね。あとは、1日が終わって、スターターの仲間で『今日無事に終わったね!ありがとう!お疲れさま!』と笑顔で言い合えた時にも充実感を味わうことができます。失格(※)を宣言する権限を有する部署で、(精神的に)重いものを背負っています。でも、それを乗り越えられるのはチームワークがあるからです。スターターは決して個人プレーをして務められるものではありません。(技術面など)職人的な部分もあるのですが、チームワークが大切。そしてスターターは、選手に最高のパフォーマンスをしてもらうための裏方なのです」

今後の目標について「女性スターターが少ないので、増えてほしいですね」と話す本橋さん。リレーでバトンをつないでいくように、スターターも次世代につないでいくことで、また選手のみなさんが号砲とともに記録に挑戦することができるんですね!

※2016年に混成を除き一度不正スタートで失格となった。


>>インタビューVol.11(PDF版)はこちら


10月1日(土)・2日(日)に開催した『みんなでつなごうリレーフェスティバル2022』にて、スターター体験を実施しました!

スターター体験付きチケットを購入された方限定で、リレフェス非公認レースのスターターを体験いただきました。
国立競技場での貴重なスターター体験に、皆さん緊張の表情で挑まれました!

>>笑顔いっぱいのフォトギャラリーはこちらから。

        


■本橋郁子さん

高校から福岡大学1年まで陸上部に所属。1983年に審判活動を開始し、最初は出発係、その後にスターターとして日本選手権や東京国体等に参加した。
2010年に中国・珠海での国際陸連(現・世界陸連)女性スターターセミナー受講。2019年の世界リレーではスターター主任、2021年の東京オリンピック、パラリンピックではスターターを務めた。馬術競技歴は20年で、2010年全日本馬術選手権7位に入った経験もある。
日本陸上競技連盟競技運営委員会委員。


■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。


~月刊陸上競技11月号(10月14日発売)掲載~


「陸ジョブナビ」アーカイブ(2022年1月号~10月号)

Vol.1 「陸上って楽しい! おもしろい!」と思ってもらえるような競技会に!~競技場アナウンサー編~
Vol.2 トラック競技の着順判定や正式タイムの計測を行う~写真判定編~
Vol.3 ランナーの一番近くで安全・安心なマラソン大会を実現!~大会運営編~
Vol.4 競歩の歩形をジャッジする!~競歩審判員(JRWJ)編~
Vol.5 カッコイイ陸上競技に!競技会を魅せる!~イベントプレゼンテーション編~
Vol.6 選手が出場して良かったと思える大会に!報道メディアの方々をサポート~報道編~
Vol.7 選手の声を商品に生かす!選手のパフォーマンスを支える制作の裏側をご紹介!~ウエア制作編~
Vol.8 選手の晴れ舞台を盛り上げる!~表彰編~
Vol.9 トレーナー~選手のパフォーマンス発揮を支える!~トレーナー編~
Vol.10 ロードレースの距離はどうやって測るの?~コース計測編~

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