2019.02.18(月)選手

【ダイヤモンドアスリート】第5期(2018-2019)第2回リーダーシッププログラム




「ダイヤモンドアスリート」の強化育成プログラムの1つとして実施される「リーダーシッププログラム」の第2回が、1月11日、味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて実施され、第5期ダイヤモンドアスリートの塚本ジャスティン惇平選手(城西大城西高)、中村健太郎選手(清風南海高)、海鋒泰輝選手(西武台千葉高)、出口晴翔選手(東福岡高)、小林歩未選手(市立船橋高)のほか、修了生の平松祐司選手(筑波大)、山下潤選手(筑波大)、北口榛花選手(日本大)、橋岡優輝選手(日本大)、江島雅紀選手(日本大)が参加しました。

リーダーシッププログラムは、ダイヤモンドアスリートが競技力とともに人間性も高めて、グローバルなスタンスでリーダーシップを発揮できる人材に育つことを目指して行われる研修プログラム。東京マラソン財団スポーツレガシー事業として、同事業運営委員の為末大さん(男子400mH日本記録保持者、2001年・2005年世界選手権銅メダリスト)が監修しています。

今期は、第2回・第3回(1月14日実施)の各プログラムを、2種類の講義(リテラシー・インプット、アスリート委員会対話)とミニワーク(発信チャレンジ)で構成。本リーダーシッププログラム全体の司会進行役を務める坂井伸一郎さん(株式会社ホープス代表取締役)によるリードのもと、この日、ダイヤモンドアスリートたちは、リテラシー・インプットとして元プロ野球選手で現在は大学で教鞭をとる西谷尚徳さん(立正大学法学部准教授)の講義を、アスリート委員会対話として男子800m前日本記録保持者で現在はコーチほか多方面で活躍する横田真人さん(アスリート委員)の講義を受けたほか、今回からスタートしたミニワーク「発信チャレンジ」に取り組みました。

 

 
◎リテラシー・インプット
「君はプロ(professional)ですか?~アカデミック・リテラシーを活かして高みを目指す方法~」
西谷尚徳(立正大学法学部准教授)

西谷尚徳さんは、小学生のころから野球に取り組み、明治大学卒業後、プロ野球選手として6年間の現役生活を送ったのちに引退。その後、明星大学大学院で教育学を学び、高校(国語科)の非常勤講師、大学(文章講座、体育実技、体育講義)の非常勤講師等を経て、2013年から立正大学に着任し、2018年からは同法学部の准教授を務めています。初年次教育、大学教育、大学国語表現、教育(社会)学を専門分野にしていて、大学では初年次教育で行う文章表現「アカデミック・ライティング」や3年次に行う演習科目「実務演習」を担当するほか、地域や団体からの依頼を受けて、不定期で野球教室や野球指導も行っています。

「プロ野球選手から研究職(大学教員)に就くという少し異質な経歴を辿った人間からの話」として、まず、「皆さんには、ぜひ、プロ意識を持ってほしい」と訴えた西谷さん。講義のキーワードとして、「ものさし(基準)、抽象化、リテラシー」の3つを掲げ、ダイヤモンドアスリート(以下、DA)たちにさまざまな形で質問を投げかけたり、プロ野球選手時代の経験を紹介したり、インタビュー動画を見せたりするなかで、「どういうことをプロフェッショナルと呼ぶのか」「トップアスリートとして高みを目指していくために、何を大切にすればよいか、具体的にどんな取り組みを進めていけばよいのか」について話を展開。大切な点や心に留めておいてほしい点として、以下のような事柄を挙げました。

・アスリートとして、結果、成果、実績を残していくためには、「受信(input)・思考(think)・発信(output)」が必要な方法となる。そのプロセスで“必需品”となるのが、理論(論理、アカデミックロジック)、根拠(理由づけ)、言葉(読み書き能力、リテラシー)。これらは一般の人もいえることではあるが、トップアスリートとして大成するためには、特に「根拠」の部分で、「体現できたことに対して、きちんと自分で根拠づけしていく能力」が求められる。

・競技力を高めていくために必要なのが「“抽象化”と“具体化”を自覚的に行き来できること」。物事を抽象化させて、思いきり視野を広げたり俯瞰したりして自分の知能と向き合った上で、いろいろなものを吸収しよう。そして、そうやって得たものをどうやって「具体化」できるかも重要。「すごくなりたい(抽象)から、何(具体)をしなければならない」「強くなりたい(抽象)から、どこ(具体)を強くしていこう」というように、“抽象化”と“具体化”を行き来できるようになってほしい。

・感覚や感情などを含め、人間の“ものさし”は非常にあいまいといえる。だから、自分で自身のものさし(=基準)をつくっていこう。これは、自身の力量やパフォーマンス、モチベーションなど、いろいろな部分を基準化していくもので、陸上選手の皆さんの場合なら「陸上偏差値」みたいなものをつくってみることを勧める。こうした取り組みを続けていくと、自分の力量、ポジション、自分がどうしなければいけないかが見えてくる。その積み重ねが知能(知識)、理論、方法、手段となって蓄積され、自身をコントロールできることへとつながっていく。

・衰退していく組織や企業には何かしらの理由(根拠)がある。それはあらゆる点に共通していえること。皆さんは伸び盛りで、衰退なんて考えたこともないだろうし、考える必要もない段階ではあるが、企業が衰退する前兆として現れる「当事者意識」「経営体制」「過去の成功への固執」「変革への意識」「収益力」「公私の区別」「情報感度」「永続のための戦略」で、負の要素が生じていないかどうかを自分自身に置き換えて考えることで、確認することができる。最終的に責任を負い、皆さん自身を動かしていくのは自分。常に自身のトップマネジメントができるよう、心に留めておいてほしい。

 

【振り返りワーク】

西谷さんの講義後、以下の手順で、振り返りが行われました。

①最初にDAが、西谷さんの話を振り返って、自分たちの競技力向上にすぐに生かせそうだと思ったことを、3分間で振り返りシートに記入する。

②各DAに修了生がついて、10分間のディスカッションを行う。修了生はDAが考えた内容に質問やアドバイスを行い、DAの学びをより深めていけるように促す。

③DAは、②でディスカッションした内容を、口頭発表できるよう2分間で考えをまとめる。

④発表者2名を抽選で決める。当たった発表者は、修了生と一緒に前に出て、紙などを持たずに議論した内容を発表する。

抽選によって発表者は、出口選手と中村選手に決定。

ペアを組んだ北口選手とともに、まず前に出た出口選手は、「抽象化と具体化という話が、競技に生かせそうだと思った。自分には今、スピードアップという大きな目標があるが、そのためには、筋力アップ、脚の回転数を上げる、技術面を高めるなど具体的なことを鍛えることが、大きなスピードアップという目標につながっていくので、抽象的な考えと具体的な考えの両方を保てるように頑張ろうと思った」と発表しました。続いて、中村選手が修了生の山下選手と一緒に前に出て、「今回の講義で、人は知識(知能)がつくから成長するということ、ものさし(基準)をつくるという話では陸上偏差値のようなものをつくると自分のポジションやレベルなどがわかるということ、そして、物事の抽象化と具体化を自覚的にできるかどうかが大切という話があった。そのなかで自分は3つめの物事の抽象化と具体化の話が一番大事だと思った。自分の競技面に対しても、自覚的に物事を抽象化したり具体化したりして考えるようにして、これからの練習をやっていきたいと思った」と発表しました。

 

◎ミニワーク:発信チャレンジ
「著名人やメディアが集まる大イベントで、急きょ、全アスリート代表としてスピーチ」

続いて行われたのが、この「発信チャレンジ」。DAの発信力強化を目的として、今回から新たに組み込まれた実践型のプレゼーテンションワークで、今後実施される3回のリーダーシッププログラムにおいて、トップ競技者であるDAたちに、今後いつ遭遇してもおかしくないようなシチュエーションを提示し、制限時間内に内容を考え、実際にスピーチしてもらうまでを経験してもらおうという取り組みです。

今回の設定は、『各界の著名人約1000名が出席してTOKYO2020開会1年前決起大会が大々的に開催。大勢のメディアも取材にあたるなか、あなたは2020年東京オリンピックでの活躍が期待されている陸上競技選手のポープとして出席。しかし、急きょ、世界的に著名な◎◎競技の◎◎選手に代わり、全アスリート代表として、みんなの気持ちを鼓舞するような締めのスピーチを、あなたがしなければならなくなった』というもの。さらに、「断ることはできない」「5分後に、約1000名が見守るメインステージの中央で1分間のスピーチをする」「スピーチの模様は、ほとんどのスポーツニュースで報道される」と緊張度の高まる状況がより強調されたうえで、DAたちは、修了生の助言も得ながら、それぞれに5分間でスピーチ内容を考える作業に移りました。

この間、進行役の坂井さんからは、「陸上競技の若手有望選手の代表として、こういう場面で何を語らなければいけないのか、何と何を伝えればよいのか、まずはその要素を考えてみよう」とアドバイス。さらに、「陸上だけでなくアスリート代表で話すから、そこを意識したほうがいいよね」「締めは、みんなで頑張ろうという感じで終わるのがいいよね」「これとこれを入れたら、だいたい30秒くらいは行っちゃうんじゃない?」と修了生たちが具体的なヒントを提示するなか、DAはそれぞれにスピーチ内容を構成。5分後、抽選によって指名された塚本選手が、本番さながらのシチュエーションのもと、まずスピーチ。次の抽選では海鋒選手が指名され、同じくスピーチを行いました。

終了後、坂井さんは、「こういうスピーチに、正解はない」としながらも、「今日のテーマだったら、ここがポイント」と、話し方の原則として、①主語は常に「自分」、②明確に、はきはきと、③相手を見て話す(1対1で話す際、相手の目を見ると緊張してしまう場合は、眉の付近を見るとよい。大勢に向けて話す際、ワンセンテンスごとに見る人を変えていくと、聴衆は自分たちに向けて語ってくれていると感じることができる)、④姿勢や立ち姿も重要、の4つを挙げました。また、内容の原則としては、①明るい未来を感情(感じ)で語る、②結果ではなく決断と行動について語る、③言い訳をしない、④他人を引き合いに出さない、の4つを示し、塚本選手と海鋒選手について、「初めてで、いきなり取り組んでもらったなかで、これらの原則がきちんとできていた。2人とも素晴らしかった」と称賛しました。


 

◎アスリート委員会対話
「アスリートとお金」
横田真人(日本陸連アスリート委員)

横田真人さんは、男子800mの前日本記録保持者。立教池袋高時代から陸上競技を始め、インターハイ優勝など800mで第一線に躍り出ると、慶應大時代には2007年大阪世界選手権出場したほか、2009年に1分46秒16の日本記録を樹立するなどの実績を残しました。卒業後は富士通所属で競技を続け、日本選手権で4連覇を含む6回の優勝を達成したほか、2012年にはロンドンオリンピックの日本代表に選出され、この種目で日本人として44年ぶりのオリンピアンとなりました。その後、2年ほど生活拠点をアメリカ(カリフォルニア)に移してトレーニングを積む時期を経て、2016年に現役を引退。現在は、主に中・長距離のコーチとして活動する一方で、ビジネス、メディアの世界にそれぞれ足場を持つほか、日本陸連(アスリート委員)や日本実業団連合(事業戦略委員)の立場でも活動。さらに、学生としてフロリダ大学大学院にも籍を置いています。

現役時代はコーチを持たない「セルフコーチング」で競技に取り組み、海外に拠点を移して競技を続ける傍らで2015年にはUSCPA(米国公認会計士)の試験に挑んで合格(2018年にライセンス交付)、また、アスリート委員会のコアメンバーとして長く活動してきた横田さんは、「今日、僕は、選手であったことだけでなく、公認会計士であることや、アスリート委員会のメンバーであるという立場から、皆さんに伝えていきたいことを、“お金”というキーワードで、皆さんに話していきたい」と切り出しました。そして、金融や経済の世界で用いられる概念や方法は、「自身の競技に落とし込むことができる」として、「会計」「ファイナンス」「リスク」「リターン」「オプション」「分散化」「レバレッジ」などについて、本来の意味を解説しながら、その考え方が陸上競技の場面でどう生かしていくことができるかをわかりやすく示し、次のような事柄をDAたちに提起しました。

・みんなの持っているリソース(資産:時間、お金、人間関係)を、なるべくいろいろなことに分散させることが大切。陸上競技だけに費やすのではなく、別のことにも興味や関心を広げ、取り組んでみよう。

・そうやって、「いつか、それを使って何かができる」というオプションを増やしていこう。

・オプションを増やすと、選択肢が広がることによって、結果的に陸上競技への考え方のクオリティも上がる。

・また、いろいろなところにオプションを置くことによって、リスクを減らすこともできる。

・信用(レバレッジ)は“約束という借金”ということができる。それを活用して、どんどん大きなことをしていってほしい。一方で、それを可能にするためには信用される人間になることが必要となる。どうやったら信用される人間になれるのかも同時に考えていってほしい。

 

【質疑応答、意見交換】

講義後には、坂井さんも質問に加わりながら、DAや修了生たちとの質疑応答が行われました。横田さんは、それぞれの質問に応えていくなかで、

「(アメリカを拠点にする生活は)それができるところにしか行かないと決めて、就職の際に進路を探し、そのなかで富士通さんが、サポートしてくださるとなって実現することができた。ただし、それを受け入れてもらえたのは、自分の競技の仕方(セルフコーチング)、出身大学やそこで学んでいたこと、英語の勉強をしていたなどを総合的に判断してのことだったと思う。自分のやりたいことを実現するために、ずっと自分のリソースを使ってきたからこそ、可能になったのかなと思う」

「分散化、という意味では、ケガなどに見舞われた場合を考えるとイメージしやすいかもしれない。世の中には、自分ではコントロールできないことというのがたくさんある。もし、それが起きたとしても大丈夫なようにしておくことが大切」

「分散化は、改めて難しく考えなくても、おそらくみんな、気づかないうちにやっていることがあるはず。例えば、大学へ行くという選択はまさにその1つ。みんなの場合は、グラウンド(競技場)で陸上部の人と一緒にいることに一番リソースをかけているはずなので、それ以外の場面は「分散化」と捉えていいのかもしれない。そうすると、あまり敷居は高くないはず。しかし、それを自発的に、意識してやっていくことが、とても大事」

「信用という点では、コーチを選ぶ場面においてもポイントとなる。“私なら強くしてやれる”“うちに来れば強くなる”と言われて、結局、自分が一番信頼できる人のところに行くのだから。僕はコーチになった今は、“どういうコーチが一番選手に信頼されるか”ということをよく考える。当然、“ある程度の競技実績”は必要になると思うが、僕の場合だと“海外経験”とかもプラスになると思うし、米国公認会計士のライセンスを持っていることは直接信用になるかはわからないが、“この人のところに行けば、なにか面白いことがあるんじゃないか”と思ってもらえる要素になるのではないか。そういう意味で、アスリートとして蓄えてきた信用は、そのまま次のキャリアにも生きてくるはずだと僕は思う。自分がコーチを選ぶときにシビアに見た眼は、そのまま自分がコーチになったときに返ってくると考えていい」

といったような言葉を、ダイヤモンドアスリートたちに投げかけていました。

 

【振り返りワーク】

その後、西谷さんの講義のときと同じの手順で、振り返りが行われました。それぞれのDAはペアとなった修了生とディスカッションを実施。最後に、この日、まだ発表を行っていなかった小林選手が発表することとなりました。ペアを組んだ修了生の山下選手とともに前に出た小林選手は、「信用を築き上げるためには、友人関係を大切にしたり、勉強をしっかりしたりするなど、(陸上競技以外の)違う道も頑張らないといけないことがわかった。自分は、大学に行ってからも、しっかり勉強して、友達を多くつくりたいと思った」と話し、この日のリーダーシッププログラムが終了しました。


取材・構成、写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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