2018.03.23(金)選手

【ダイヤモンドアスリート】第4回リーダーシッププログラムレポートVol.2

◎ワーク:リーダーシッププログラムのまとめ

 

 最後は、為末さんによる「リーダーシッププログラムのまとめ」が行われました。為末さんは、参加者たちに、TEDカンファレンス(TED:Technology Entertainment Designの略称。アメリカの非営利団体で、学術・エンターテインメント・デザイン等をはじめとする幅広い分野の専門家による講演会=カンファレンスを主催している)で、デレク・シヴァーズ氏が「社会運動はどうやって起こすか」というプレゼンテーションを行った際に用いられた動画を見せました。
 これは、野原でそれぞれにくつろいでいる人々のなかで、いきなり1人の男が踊り始め、最初は奇異の目で周りから見られていたのに、ある1人が仲間に加わったことがきっかけとなって徐々に仲間が増え、最終的に大勢の人が加わって踊り出すという約3分のホームビデオの映像から、「人を引き込んだりしたムーブメント(社会運動)を起こしたりする」ときのリーダーシップの在り方が述べられたものです。
 映像を見たあと、為末さんは、「この動画を見て、自分だったら何人目にジョインしたと思うか?」と質問。これに、「最後のほう」(藤井選手)、「最後のほう」(長選手)、「10数番目くらい」(宮本選手)、「4~5番目」(塚本選手)、「2~3番目くらい」(江島選手)、「4~5番目」(山下選手)、「20番目くらい」(橋岡選手)と、それぞれに答えが返ってきました。
「僕がこの動画を見て学んだのが、“最初にやった人だけがリーダーではないのだ”ということ。“最初に動いてみんなを率いていくことがリーダーシップ”と思われがちだが、“最初に何かをやった人をフォローするというリーダーシップ”もあれば、“5番目にくらいに入るリーダーシップ”もあって、実は、リーダーシップには、“みんなを率いる”ということ以外にも、もっと種類があるというメッセージに受け取れた」と為末さん。「覚えておいてほしいのは、“いつ、なんときでも、人間にはその場所をこうしてやろうと思ったら、そのようにできるという権利もパワーも持っていて、ただ、それを行使していないだけ”ということ。僕が思うリーダーシップをとれる人は、この権利をほどよく行使できる人。1人目で行く人もいれば、2人目で行ける人もいるだろうし、10人目まで待つ人もいるだろう。10人目に勇気を出して入ることも、十分にそれはリーダーシップを発揮している」と述べました。
 また、為末さんは、「実は、もうみんなグラウンドではやっていることなんだけど」と前置きした上で、「行われていることをよりよくするために自分の持っているリソースをよりよく使って、いい方向に近づけていく。それを自分から言い出す人もいれば、誰かが言ったことをフォローする人もいれば、何も言わないけれどグラウンドでひっそりやることでチームの雰囲気をよくする人もいる。いろいろなタイプがいるが、大事なのはリーダーシップというのは、“こうなったらいいな”と思う方向に、上手に自分の持っているリソースを使いながら運んでいくということ。それは、そんなに難しい話でなく、ただの姿勢(心持ち)の話だけど、でも、気づくか気づかないかですごく人生が違ってくると思う」と話しました。

 ここまで“外に向けて発揮するリーダーシップ”について話してきた為末さんは、続いて“自分自身に向けて発揮していくリーダーシップ”もあるとして、次のように語りました。
 まず、「人間には変えられるものと変えられないものがあって、スポーツ選手の変えられない最たるものは、“気がついたら、自分はこうでした”というもの。“偶有性”といわれるが、スポーツの世界は才能で決まるところが相当に大きいので、そこに差を感じて悔しいとか不公平だとか思うかもしれないが、でも、それは変えられない」と指摘。そして、「スポーツだけでなく人生自体もそうなのかもしれないが、偶然有した自分という存在をどうすればもっと前に進められるのかを考えるのが、結局、自分自身を生かすこと。そういう意味では、一番本質的なリーダーシップは、この自分を受け入れて、どうすればこれを最も生かしていけるのかということを考えて努力してやっていくということで、実は外に向けて発揮されるものでなく自分に向けて発揮していくものなのかもしれない」と述べました。さらに、自身の性格や、現役時代の経験や失敗談などを例に挙げつつ、「変えられないものは変わらない。そういうとき、そんな自分をより速くするにはどうしたらいいかを考えたほうが、変えられないことを変えようとするよりもよほど生産的。そういう意味で、自分に向けて発揮するリーダーシップは、変えられない自分や環境を、どういうふうに選んだり、アプローチしたり、押したり引いたり捏ねたりしながら、行きたいところに自分を連れていくかということに尽きるのではないか。そのために、人を使い、自分の心を使い、種目を変え、居場所を変え、コーチを変えてみる。いろいろな選択肢があっても、そのなかのどこかに“変えられない自分”があるから、その変えられない自分を認めたうえで、どうすればそこへ行けるかということを考えて進んでいくことが僕の思うリーダーシップの定義かなと思う」と投げかけました。

 最後に、リーダーシップを発揮していくうえで、為末さんは、近年のアスリート、そして、これからの時代を生きていくトップアスリートに、当然のこととして求められるようになるだろうとして、「時間や場所、内容のセンシティブさを問わず、意見や発言を求められること」を挙げました。
 昔は、アスリートが求められたのはマスメディアだけへの対応で、記者会見かレース後、あるいは設定された取材以外の場所で発言を求められることはありませんでしたが、TwitterやSNS、Webメディアができたことで、「アスリートが意見を求められることが、これからはもっと日常的に増えてくる」と為末さん。「たぶん(競技者として)強くなるほど、その要求から逃げられなくなる。また、話題自体も、例えば “ドーピングのこと、どう思いますか?”“友達が、自分の飲み物に薬物を混入したらどう思いますか?”というようなことや、もっと政治的な問題やセンシティブな問題についても聞かれる可能性がある。 スポーツにしっかり取り組んでいるだけでよかった昔と異なり、“あなたは(トップアスリートという)ポジションもあるのだから、社会に対して啓蒙する役割ですよね”というスタンスで発言を求められるようになっていて、そして、その発言は、どこでどのように情報が繋がっていくのか、自分がどのように見られるか、自分の発言がどう受け止められるかわからない。シンプルだった昔に比べて、ものすごく複雑な状態になっている」と言います。
 「僕の経験から言えるのは“本当にそう思っていることを言い続ける”のが一番の防御だということ。なぜなら、その場を取り繕って一度本心ではないことを言ってしまうと、あとでそれと異なることが起きたときにロジックが破綻してしまうから。なので、みんなには真摯に自分の思っていることを言ってほしい。“私はこう思っている。違っていたらごめんなさい”というのが大事だと思う」と助言し、「貝になる(口をつぐむ)という方法もあるが、それは、世の中の流れを考えると難しい。どうせ話さなければならないのだから、ぜひ、魅力的な選手になって、むしろ、何かあったときに、“いや、あの人はそんな人じゃない”と周りのファンが守ってくれるような、そんな選手になっていくほうがいいと思う。何も怖がることはない。怖がらずに、自分の思っていることを素直に話していけば、魅力的な選手になっていける。そうして出していった影響力によって、より多くのリーダーシップを発揮できるようになってほしい」とエールを送り、第4期のリーダーシッププログラムは終了となりました。



取材・構成:児玉育美/JAAFメディアチーム

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