2018.11.30(金)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第2回 男子リレーの強化戦略(3)

第2回 男子リレーの強化戦略(2)」から
※この座談会の後、2019年のドーハ世界選手権ではワールドランキング制を取り入れないことを国際陸連が発表しました。
https://www.iaaf.org/news/press-release/revised-qualification-system-for-iaaf-world-a

リレー強化方針② マイル
ドーハの出場権獲得に全力投球
「集合型」トレーニングで底上げを




―― では、マイルの強化プランについてうかがいます。まずは今年の成果については?

土江 アジア大会に向けてどう戦略を立てていくかというところで、日本は近年、五輪や世界選手権に出てはいるのですが、うまくいっていませんでした。どこでうまくいっていないかというと、やはり「スピード」なのです。陸連科学委員会のスタッフからいろいろなデータを出してもらうと、最初の200mの入りで圧倒的な差があることがわかりました。400mトータルのタイムではそれほど差がないのですが、最初にポンと行かれてしまうと、レースの流れについていけなくなります。その結果、前半の速いペースに無理してついていくことで力を使ってしまい、後半は遅れる。普通に行っていれば普通のタイムでいけるのですが、前半行って、後半遅れての繰り返しになっています。明らかにスピードが足りないのです。

そこで、アジア大会に向けては、200mの選手もマイルのメンバーとして考えていく、という方針でやりました。実際、アジア大会では400m専門の選手はウォルシュ・ジュリアン(東洋大)1人になったのですが、彼にとっては不本意な走りになってしまった。一方で、飯塚選手(翔太、ミズノ)は44秒5前後のラップで走っています。実質、マイルのエースは飯塚選手だったということになりますし、彼の走りは世界のマイルのレースでも十分戦えるレベルです。今後に向けても、スピード化への対応が必須だと改めて確認できたので、その方向性は基本的には変えないでいきたいと思っています。

山崎 補足すると、1990年代から2000年前半は、世界も前半200mの入りはだいたい21秒前半でした。それが、トータルタイムはそれほど変わらないのですが、最近は20秒5あたりと、1秒ぐらい速くなっています。一方、日本は00年前半の走りのままなので、前半で置いていかれてしまう展開が目立っていて、レースに参加できていませんでした。

育成の問題も出てくるとは思いますが、前半からいける選手の育成を、全体の戦略として奨励することもしていかないと。10年くらいでゆっくりと歪んでいった結果が今の状態なので、ちょっとエキセントリックに変える必要がありました。それを、土江コーチが400mの記録がなくても200m選手を使っていこう、と勢い良くやってくれているということです。リスクもありますが、そのくらいやらないと現場も、なぜ勝負ができないのかわからないくらいのところにきているのです。

高平 マイルは、強い選手が勝ちにいくためのレースをするとなると、絶対に前半を抑えて後半勝負なんですよ。だから、育成年代ではU20世界選手権といったレベルの大会にならないと、前半から突っ込むレースをしなくなると思うんですね。僕は、今回の世界リレーもそうなのですが、混合マイルでいかに力を発揮できるかというところが直結していくのではないかと思っています。〝行かざるをえない〟レースなので、混合マイルは。男子の場合、女子と同走になった時にはついていっても仕方がない状況が生まれます。そこをうまく活用して男子の〝走り方改革〟をしていくのもアリなのではないか、と。

金丸君(祐三、大塚製薬)やウォルシュ君が1走を務めなきゃいけなくなる時点で戦略的に「後手」だと思うんです。アテネ五輪で4位になった時の佐藤光浩さん(富士通)みたいに、安定感があって、絶対にぶれない走りをする選手をアンカーに置くという戦略が作れないと、厳しいかなと思います。先行するという意味では、200mの選手を使うことはすごく理解できる。ただ、先行できないと総崩れしてしまいます。


――今回のアジア大会のように、1走で差を広げられる展開だと、200mの選手には結構きついですよね。

土江 そうですね。レースパターンとして良かったのは、4年前の仁川大会(※注/1走の金丸から先行し、そのまま逃げ切って金メダル)。今回は、カタールの1走であるアブデラーマン・サンバ(400mハードルで世界歴代2位の46秒98、400mは44秒66)は世界のメダルクラス。本当はウォルシュがもう少しいいところで持って来ないといけなかったのです。ラップは45秒後半でしたから。ただ、今季は彼もなかなか本来の走りができず苦しんだので……。でも逆に、世界のメダルとの差を比較して、相対的に自分たちがどんな感じなのかを経験できたことは、非常に大きいかなと思っています。



高平 世界のメダルレベルでも、同じ戦略を考えてるということなんです。1走から流れを作っている。彼らは3走、4走も強かったので差を開けられるかたちにはなったのですが、考え方はおそらく変わらないと思います。立てた戦略を、選手が遂行できるレベルかどうか、ということだと思います。

土江 来年のアジア選手権はドーハで開催されますから、おそらくカタールは本気で来るでしょう。世界リレーは言うまでもなく、世界のトップが来ます。世界と戦う機会がありますので、そこに向けてしっかりと戦えるチームを作らないといけないと思ってます。

今後も200m選手をマイルの有力候補として考えるのですが、だからと言って400m選手を放っておくわけじゃありません。マイル担当の山村コーチを中心に、4継とは逆に〝集合型〟のトレーニングをしていこうと考えています。400mの選手は、レベルの高いトレーニングをするために、パートナーがたくさんいる中でやっていくということが絶対に必要ですが、そこに飢えているのです。アテネ五輪に向けて、当時短距離部長だった髙野進先生(東海大監督)が、東海大を中心に400mのトップ選手を集めて、いわゆる集合型のトレーニングをしました。お互いにライバルであり、トレーニングパートナーでもあるかたちで高いレベルのトレーニングを積めたことによって、五輪で4位という成果につながりました。時間的には非常に限られてはいますが、そこを狙ってこの冬から400m選手のベースアップを図りたいと思っています。400mの選手からすると、200mの選手に、マイルメンバーを取られるわけにはいかないという気持ちでやってほしいと思っています。


――具体的な取り組みとしては?

土江 学生が中心になるので、どうしても授業の関係がありますが、春までに10日間程度の合宿を2回実施して、1ヵ月弱の海外合宿をやっていきたいと思っています。第1回は12月の予定。候補選手は6~10人で、基本的に若手が中心です。今、日本のトップに入ってくるメンバーは若い選手が多いので。

あとは、この取り組みの中から、飯塚選手のような〝リーダー〟が400m専門の選手から出てこないといけないと思っています。今回のアジア大会では、4継でもマイルでも、飯塚選手が入るとチームがぎゅっと1つになるんですよ。日本の中学、高校にはバトンの技術だけじゃなく、チームのムードを作る、チームワークを大事にする非常にいい伝統があり、それが日本代表へと受け継がれていると思います。中心的な役割を果たす選手がいるかどうかは、結構結果に影響してきます。

高平 彼らが本気で「入賞」と言葉にするための、これまで金丸君が見せてきたようなリーダーシップを発揮できる存在感のある選手を作るためには、時間をかけてやらなくてはいけないかなとは思います。合宿に何日か飯塚君や4継メンバーが来ることで、4継の〝意識〟を植えつけていくということも必要なのかな、と。それぐらい、4継は素晴らしいものが出来上がっていると思うので。

山崎 やっぱり個人で代表になれないといけないですよね。「マイルありき」ではなく、個人で世界大会に出て、その力をマイルに結集する。最終的にはそうならないと、「行くぞ!」という雰囲気にはなかなかならないです。

麻場 そういう意味では、世界リレーはいいきっかけになりますよね。最近の日本選手のマイルを見ていて、そういう環境に入れると走れる。だけど、ダメな時は3分05秒くらいかかってしまう。そのギャップが大きいのです。だから、それを良い方に導いていけば、力を出すのではないかと思うんですよ。それができたのが仁川であり、今回のアジア大会だったので、ああいう環境作りができれば良いのではないか、と。世界リレーで良いパフォーマンスを見せられれば自信になるでしょうし、そういうところを狙いたいですね。


――そのためにアジア選手権があることも大きいですね。

土江 アジア選手権に関しては、200mの選手を使う可能性があります。4継を組まないのはそういう意味合いもあるので。そこに向けて、冬季の集合型トレーニングに招集するメンバーの中で、しっかりと成果が出ている選手を起用することになるのではないかと思っています。世界リレーは、国内のシーズンを見て決めていく予定です。

高平 別メンバーということですか?

土江 当然考えられます。選考のプロセスが変わってくると思うので。


――マイルの締めくくりとしてはいかがでしょうか。

麻場 来年は、選手たちが自信を持って東京五輪を迎えられるような、そういう年になったらいいな、と。そういう意味ではアジア選手権、世界リレー、世界選手権、と着実にステップアップできると良いと思っています。




第2回 男子リレーの強化戦略(4)」に続く…


写真提供:フォート・キシモト

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