2018.06.19(火)大会

【第102回日本選手権】展望 トラック編

第102回となる今回の日本選手権では、1週前に別開催された男女混成競技を除く36のトラック・フィールド種目において、「日本一」が競われるとともに、8月末にジャカルタ(インドネシア)で開催される第18回アジア競技大会(以下、アジア大会)の代表選考会も兼ねて行われる。

オリンピックも世界選手権も中間年にあたる2018年シーズンに「チームジャパン」が最重要国際競技会と位置づけているのが、このアジア大会。中国や中東諸国等でワールドクラスの競技者が増えているため、非常に厳しい戦いとなることが予想されているが、そのなかでいかに日本勢が存在感を示していけるかは、2年後に迫った東京オリンピックに向けて大きな意味を持つ。「アジアを制して、2019年世界選手権、2020年オリンピックへ」という青写真を描くアスリートも多いはずだ。

このアジア大会の代表選考要項は、2020年東京オリンピックに向けた強化体制のなかですでに決められている(http://www.jaaf.or.jp/news/article/10201/)が、その選考基準は、強化カテゴリーごとに異なり、また、資格記録や選考競技会、内定条件、条件内の優先順位等も細かく分かれているため、ひと言で説明するのは困難というのが正直なところ。

ただし、今回から導入された日本選手権前に即時内定を得るケースは生じなかったので、日本選手権の結果で内定するケースと、大会終了後に選考会議で決定し、翌日の理事会において承認されるケースの2つとなる。これらの基準の詳細は、上記サイト内の「トラック・フィールド種目日本代表選手選考要項」および「トラック・フィールド種目 カテゴリー・種目別選考基準」をご参照いただきたい。

アジア大会の代表枠は1種目1国最大2名ということもあり、記録水準の高い種目では、実は代表争いが世界大会(最大3名)よりも熾烈となるケースも。大会期間中、「維新みらいふスタジアム」の各所で、代表入りを目指す競技者たちのハイレベルかつスリリングな戦いが繰り広げられることを期待したい。ここでは、激戦が予想される種目を中心に、「トラック編」「フィールド編」の2回に分けて、大会の見どころをご紹介していく。

(記録、競技会の結果は、6月18日時点の情報で構成)

【短距離】

◎男子100m
今大会でもやはり、男子ショートスプリント(100m・200m)がファンの熱視線を集めることになりそうだ。そのなかで、非常に残念なのが前回大会で2冠を達成して大会MVPを獲得したサニブラウン・アブデル・ハキーム(現:フロリダ大)が、5月に見舞われた故障の影響でエントリーを見合わせたこと。サニブラウンが不在となるのは寂しいが、それでも豪華な顔ぶれがずらりと並ぶ点が、これらの種目の隆盛ぶりを物語っている。



昨年、日本人初の「9秒台」突入がなされた男子100mでは、「新たな9秒台スプリンターの誕生」あるいは「9秒台対決」が実現する可能性がある。激戦の中心となる人物を挙げるとしたら、まず、昨年9月に9秒98の日本記録保持者となった桐生祥秀(日本生命)と、日本歴代2位タイの10秒00をマークした山縣亮太(セイコー)の2人。前回大会では、桐生は4位にとどまり個人種目での世界選手権代表入りを逃し、また、ケガの影響で6位に沈んだ山縣は、世界選手権代表そのものから外れるという結果に終わっているだけに、苦杯をなめた前回の悔しさを晴らす機会となる。

今季に入って、記録・勝負ともに優位に立っているのは山縣だ。3月末にオーストラリアでシーズイン。雨天の肌寒いナイトレースながら10秒15(+1.7)をマークすると、その後、織田記念を10秒17(+1.3)で優勝。桐生、ケンブリッジ飛鳥(Nike)、多田修平(関西学院大)との直接対決となったゴールデングランプリ(以下、GGP)では、10秒06(-0.7)で優勝したジャスティン・ガトリン(米国)に続き、日本人トップの2位(10秒13)でフィニッシュした。さらに、桐生以外の主要な顔ぶれが揃った布勢スプリントでは、予選で今季日本最高となるシーズンベスト10秒12(+0.7)をマークすると、決勝も向かい風0.7mのなか再び10秒12を出して優勝。負けなしの状態で日本選手権を迎えている。



一方の桐生は、今季は「スロースタート」を表明し、静岡国際の200mからシーズンインした。レースごとに設けた課題を着実にクリアして、徐々に調子を上げて夏にピークを合わせる方針だ。100mの初戦は5月12日の上海ダイヤモンドリーグ。9秒98で走って以来となる8カ月ぶりの100mで、いきなり世界大会メダリストや入賞者と競った(10秒26、-0.5、9位)。その翌週のGGPでは、10秒17(-0.7)で日本人2位(4位)に。6月上旬から渡欧してスペインでトレーニングを実施。6月10日には、ダイヤモンドリーグ・ストックホルム大会に出場して、10秒15(+2.0)まで記録を上げてきている。

日本選手権の前哨戦となった6月3日の布勢スプリントで、急速に調子を上げてきた印象を抱かせたのがケンブリッジだ。この冬はアメリカのプロチームで“武者修行”し、3月末に10秒22(+4.1)でシーズンイン。織田記念を10秒26で2位、GGPは10秒19をマークして山縣・桐生に次ぎ日本人3位で終えていたが、布勢の予選で、3組目に登場した山縣より先(1組目)に今季日本最高の10秒12(+0.9)をたたき出した。決勝は、山縣・飯塚に先着されたものの(10秒21、3位)。しかし、レースを重ねるごとに持ち味の終盤に磨きがかかってきている。



山縣とケンブリッジが布勢でマークした10秒12は、アジア大会代表選考の資格記録において「東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)」に据えられている記録でもあるため、2人は日本選手権で3位以内になれば、最上位者はアジア大会代表の内定を得られる状態となった。桐生をはじめとする他選手が代表権を獲得するためには、記録・順位ともに2人を上回らなければならない。わずか2枠の代表の座を争う上で、大きなアドバンテージといえるだろう。

昨シーズンに“大ブレイク”した多田は、今季は苦しい戦いとなっている。冬場に取り組んだスタートやフォームの改良がうまくなじまず、昨年、強烈なインパクトを与えたスタートから中盤にかけての爆発的な加速力が影をひそめている状態だ。日本選手権前の最後のレースとなった日本学生個人選手権では、予選で10秒32(+1.6)にとどまり、準決勝以降を棄権している。日本選手権までに、どこまで立て直せるか。



追い風参考ながら9秒台が出たり、日本リストの上位を10秒0台の記録が占めていたりしたここ近年に比べると春先の記録水準は低めだが、これは各選手の戦略も影響しているといえるだろう。気象状況にもよるだろうが、日本選手権でその水準がぐんと上がる可能性は十分にある。上記の選手のほか、春先から好調の小池祐貴(ANA、10秒20)、関東インカレを追い風3.2mながら10秒11で制したダイヤモンドアスリートの宮本大輔(東洋大、今季10秒26)の動向にも注目したい。


◎男子200m
男子200mも、記録的には100mと同様に、ややスローな滑り出しの印象。こちらは、ロンドン世界選手権4×100mR銅メダリストメンバーの飯塚翔太(ミズノ)と藤光謙司(ゼンリン)が中心となりそうだ。



2月にメキシコで高地トレーニングにも取り組んだ飯塚は、3月末に腸腰筋に痛みが出て、静岡国際を回避し、GGPで初戦を迎えた。200mは終盤で大きく失速して20秒75(+0.9)にとどまったが、パフォーマンス日本歴代3位の37秒85をマークした4×100mR(2走)では、その200mとは見違える走りを披露。さらに100mに出場した布勢スプリントでは、同記録ながらケンブリッジに先着し、山縣に次いで2位(10秒21)でフィニッシュしている。6月9日の中大記録会では、ラストを流しての走りで今季日本最高となる20秒54(+0.8)をマーク。着実に調子を上げている。日本選手権は200mに絞る方向で、「ベスト(20秒11、日本歴代2位)を切るつもりで行く。手応えはある」と自信を見せる。GGPで日本人トップ(20秒61、4位)となった藤光は、今季は来年以降でさらに飛躍するために、さまざまな取り組みに挑戦している。しかし、改良途中の段階でもベテランならではの調整力で、コンディションを整えてくるだろう。

関東インカレ200m予選で20秒59(+0.5)をマークして、飯塚に抜かれるまで今季の日本リストで先輩選手を抑えてトップに立っていたのは、東海大のルーキー・井本佳伸。洛南高時代から注目されていた選手で、ダイヤモンドアスリートにも認定されている。井本は静岡国際400mでも45秒82の自己新で優勝。どちらの種目を選ぶにしても、日本選手権での活躍が期待されていた。しかし、400mで選ばれていたアジアジュニア選手権の直前に足首を痛め、アジアジュニアは無念の欠場。その後の回復状況が気になるところだ。

 このほか、今季日本リストを20秒65で並んでいるダイヤモンドアスリート修了生で故障からの復活を果たした犬塚渉(順天堂大)、日本GPシリーズで躍進を見せた染谷佳大(中央大)、2014年選手権獲得者の原翔太(スズキ浜松AC)の3選手、さらにはダイヤモンドアスリート修了生で関東インカレを追い風参考(+6.7)ながら20秒31で制している山下潤(筑波大、今季公認ベスト20秒72、自己記録20秒59=2017年)らも潜在能力を秘めた選手。彼らがどれだけ上位争いに割って入れるかにも注目したい。また、6月上旬をヨーロッパでトレーニングおよびレースに出場していた桐生が帰国した際、200mにも出場する意向であることを表明した。万全の状態で臨むことができれば、高校時代にマークした20秒41の自己記録を確実に上回ってくる走りが見られるはずだ。


◎男子400m
400mは、昨年ケガに泣いたリオ五輪代表のウォルシュジュリアン(東洋大)が完全復活。GGP(オープン種目)を45秒63で快勝し、自己記録(45秒35、2016年)の更新のみならず、44秒台突入を狙って日本選手権に挑む。この種目は、東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)である45秒50を満たして日本選手権を獲得すればアジア大会代表に内定するカテゴリー。実現の十分に可能性はある。



前回覇者の北川貴理(順天堂大)は故障からの回復が間に合うかどうかという状況。彼の終盤の強さは、アジア大会で連覇を狙う4×400mRを戦う上でも欠かしたくない。また、成長著しい若林康太(駿河台大、45秒81)や前述の井本がどんな走りを見せるかにも注目したい。


◎女子100m・200m・400m
女子は、昨年、100m・200mを市川華菜(ミズノ)がともに初優勝で2冠を達成。2016年まで100mで8年連続9回、200mで7年連続8回の優勝を果たしていた両日本記録保持者の福島千里(当時:札幌陸協、現:セイコー)に土をつけた。今回は、市川にとっては真価を問われる大会に、福島にとっては王座奪還の大会となる。



市川は、春先こそ今一つの仕上がりだったが、布勢スプリントで実に3度目の自己タイとなる11秒43(+1.8)をマークして、オクケラ・マイリー(ジャマイカ)と同記録優勝。この種目のアジアメダル期待記録(11秒45)をクリアし、福島(3位、11秒46)にも競り勝った。布勢スプリントでの好成績を弾みに上昇機運に乗った昨シーズンの軌跡を、今年もなぞっていきそうだ。福島は、今年からセイコーの所属となって、新たな環境のもとで再出発。春先から織田記念100m(優勝)、静岡国際200m(優勝)、GGP100m(4位、日本人トップ)と日本選手に負けなしの状態で来ていたが、布勢スプリントでは市川に後れをとる結果となった。しかし、精彩を欠いた昨年と大きく異なるのが、悔しさを闘志に変えられる心の在り様だ。100m11秒42、200m23秒35にとどまっている今季の記録に満足していないのは明らか。日本選手権本番では2年ぶりのダブルタイトルとともに、アジア大会代表内定を懸けて、東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)11秒26、23秒10の突破に挑んでいく。

このほかでは日本グランプリシリーズで自己ベストに近い記録で福島に続いていた前山美優(新潟アルビレックスRC)に勢いがある。また、布勢スプリントでは、世古和(クレイン)が11秒50の自己新をマークして、福島・市川を追う一番手に上がってきた。この2人が11秒4台に突入するようだと、リレーを組むうえでも好材料となるはずだ。さらに6月15日のインターハイ北海道地区大会では、気温の低い悪条件のなか、御家瀬緑(恵庭北高)が11秒63(+0.9)をマークしている。御家瀬は、高校1年の昨年、高1歴代2位の11秒66をマークして、2017年高校リスト1位となっている選手。思いきりのいいレースで“台風の目”となってくれると面白くなる。

女子400mは、今季、自己記録を伸ばしてきている広沢真愛(日本体育大、53秒45)や川田朱夏(東大阪大、53秒50)に、前回覇者の岩田優奈(中央大)や前々回覇者の青山聖佳(大阪成蹊大)がどう立ち向かうか。リレーを考えるなら、特に、自己記録52秒85(2016年)を持つエース・青山の復調が待たれるところである。


【中・長距離】

◎男女800m
男子800mは、日本記録保持者(1分45秒75)の川元奨(スズキ浜松AC)が6連覇に挑む。この種目で2月初旬に1分47秒78の室内日本新をマークしたものの、その後、足部の疲労骨折が判明し、1カ月半ほど練習を積めない時期があったため、屋外はやや出遅れ気味の滑り出しとなった。屋外初戦の静岡国際は、1分47秒01の自己新をマークした村島匠(福井県スポ協)に先着されたが、GGPでは記録こそ1分47秒22ながら記録や実績を上回る外国選手に割って入り日本人トップの2位に。6月に入ってからはスペインを転戦し、3戦目(6月8日)で1分47秒16をマーク。アジアメダル期待記録(1分47秒17)を突破した。川元自身は、室内日本新を樹立したことで、屋外での1分45秒台への手応えはつかめており、日本選手権に向けての不安はないという。日本選手権では、前述の村島、さらには、傾斜やコーナーのきつい室内で屋外ベスト(1分48秒01)を上回る1分47秒86をマークし、屋外でも大幅に記録を伸ばす可能性を秘める花村拓人(関西学院大)らとハイレベルな接戦を繰り広げてほしい。



女子800mは、昨年の日本インカレを独走するレース展開で、2分00秒92の学生新記録(日本歴代2位)を樹立して制した北村夢(日本体育大→エディオン、前回優勝者)、インターハイで名勝負を展開して2分02秒57の高校新記録(日本歴代5位)を樹立した塩見綾乃(京都文教高→立命館大)、同歴代2位(日本歴代7位)の2分02秒74をマークした川田朱夏(東大阪大敬愛高→東大阪大)による日本女子初の1分台突入を巡る戦いを期待したい。

3人はすでに静岡国際とGGPで直接対決。静岡国際は川田が2分02秒71の自己新で優勝。GGPは塩見が2分02秒73(4位)で2人に先着している。川田と塩見はその後、アジアジュニアにも出場。この大会では川田(2分04秒14、優勝)、塩見(2分04秒50、2位)の順だった。



北村は2月下旬に膝を痛め、1カ月ほど練習の中断があったため静岡国際は様子見のレース。また、GGPは外国選手が急な進路変更をしてきて接触し、勝負どころで遅れてしまう不運があった。記録的には川田・塩見に後れをとっているが、「日本人初の1分台」の称号を年下の選手に譲るつもりはないはず。本番には、きっちりと仕上げて連覇と記録に挑んでくるだろう。

この種目の内定条件となる東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)は2分01秒00。複数による2分の壁を破る勝負が展開されれば、優勝者はアジア大会代表の座も確実にすることとなる。


◎男女1500m
女子800m同様に、男女1500mも東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)を切って日本選手権を優勝するとアジア大会代表に内定するが、男子3分36秒00、女子4分07秒50と、どちらも日本記録を上回るタイム。現実的には、選考基準の優先順位2番目となるアジアメダル期待記録(男子3分40秒49、女子4分13秒55)を突破しての優勝を、狙うことになるだろう。男子では、昨年の日本インカレ覇者で4月に日本歴代5位の3分38秒65をマークしている舟津彰馬 (中央大)と、GGPで3分40秒49まで自己記録を更新してきた前回優勝者の館澤亨次(東海大)あたりを中心に、「勝負も、記録も」狙うような高い水準のレースが展開されることを期待したい。



女子は、前回、3年ぶりに優勝を果たした陣内綾子(九電工)が連覇と5回目の優勝を目指す。4分15~16秒前後のレースになると、昨年のインターハイ3000mで活躍した田中希実(ND28AC)、和田有菜(名城大)、髙松智美ムセンビ(名城大、ダイヤモンドアスリート)ら若手も絡んでの優勝争いになるかもしれない。




◎男子5000m・10000m
男子長距離は、マラソンで2時間06分11秒の日本記録(アジア記録でもある)を樹立した設楽悠太(Honda)や、昨年2時間07分19秒をマークしている5000m日本記録保持者(13分08秒40)で10000m2連勝中の大迫傑(Nike ORPJT)が、早い段階で日本選手権不出場を表明し、長距離ファンを大いに嘆かせた。

出場する選手たちがアジア大会内定を得るためには、東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)の13分22分60(5000m)、27分45秒00(10000m)を切って優勝しなければならない。この記録を目指した熾烈なレースを求めたいところだが、勝負もかかってくるだけに、選考基準の優先順位トップとなるアジアメダル期待記録(5000m13分30秒00、10000m28分00秒00)を突破しての優勝を意識したレースになる可能性が高い。



5000mでは、前回覇者の松枝博輝(富士通)に連覇のチャンスがある。松枝は今年に入って1月末から単身でアメリカに渡ってトレーニングを積んでいて、春先は1500mに2戦出場し、どちらも自己新をマーク。ベストを3分41秒28まで更新している。5月初旬以降はレースに出ていなかったが、6月10日には5000mに出場して13分39秒83をマーク。経過は順調のようだ。10000mは、出場予定者の今季リスト1位は、大六野秀畝(旭化成、28分00秒49)だが、今季はマラソンでの活躍をメインに据えていて、トラックレースはマラソンのためのスピード強化と位置づけて取り組んでいる。8月末の北海道マラソン出場を予定しており、アジア大会には出場しない見込みだ。

5000m・10000mともに有力選手がこうした状況にあるなか、誰が名乗りを上げてくるか。絶対的な大本命といえる選手がいないということは、どの選手にもチャンスがあるということでもある。これを絶好のチャンスと捉えて、果敢に記録と勝負に挑んでくる選手が数多く出てくることに期待したい。
なお、アジア大会マラソン代表に選ばれている井上大仁(MHPS)は10000mにエントリーした。今季は5000mで13分38秒44の自己新記録をマーク。10000mでの走りにも注目したい。


◎女子5000m・10000m
ゴールドメダル・メダルカテゴリーに属する女子長距離は、アジア大会マラソン代表を含めて、すでにマラソンに移行している者、今後マラソンへの挑戦を表明している者、そしてトラックでの活躍を期している者が入り乱れている状態。それぞれが目的を持ってレースに臨んでくるだろう。ただし、アフリカ諸国から中東諸国に帰化した選手が多く出場してくるアジア大会で戦うためには、絶対的なスピードはもちろん、急なスピード変化に対応できる能力も必須。日本選手権でも、そうした駆け引きがあるなかでのスピード感あふれるレースを期待したい。



注目は、トラック種目での活躍を期す鍋島莉奈(JP日本郵政G)。昨年は5000mで先輩の鈴木亜由子を抑えて初優勝を果たした。今年はすでに1500mで4分17秒97、3000mで8分51秒72と自己記録を更新。5000mでもユージーンダイヤモンドリーグ5000mで日本歴代8位となる15分10秒91の好記録をマークしている。今季は、5000mで14分台に突入することを目標に掲げているが、日本の女子で15分を切っているのは、日本記録保持者(14分53秒22)の福士加代子(ワコール)のみ。2006年以降、誰も到達していない領域を目指すことになる。

急成長を見せているのが織田記念を15分21秒31で日本人トップとなった山ノ内みなみ(京セラ)。25歳と遅咲きながら、昨年までのベスト記録15分49秒26を大幅に更新し、五輪・世界選手権の参加標準記録水準に相当する東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)の15分22秒00を突破した。172cmの長身とともに粘り強い走りが目を引くはずだ。このほか5000mでは木村友香(ユニバーサル)、福田有以(豊田自動織機)、松﨑璃子(積水化学)あたりも当然上位争いに絡んでくるだろう。

10000mでは、東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)の32分15秒00を上回っている森田香織(パナソニック)、一山麻緒(ワコール)松田杏奈(京セラ)、関野茜(埼玉陸協)、阿部有香里(しまむら)が3位以内でフィニッシュすれば、その最上位者はアジア大会に内定する。激戦は必至だ。

ちなみに、今年度にマラソンに挑む予定の鈴木亜由子(JP日本郵政G)、上原美幸(第一生命グループ)、一山は、5000m・10000mの2種目にエントリーしているが、おそらく10000mに絞っての出場となるだろう。また、アジア大会マラソン代表の野上恵子(十八銀行)のほか、昨年度に初マラソンを経験した松田瑞生(ダイハツ、前回10000m優勝者、2時間22分44秒)、関根花観(JP日本郵政G、2時間23分07秒)、高島由香(資生堂、2時間26分13秒)も10000mに出場の予定。彼女たちの走りにどんな変化が生じているかにも注目しよう。


◎男女3000mSC
男子3000mSCは、3連覇中で、昨年、日本歴代7位の8分29秒05をマークしている潰滝大記(富士通)が故障からの復帰に時間がかかっている影響かエントリーしていないのが惜しまれるところ。現状で、山口浩勢(愛三工業)のみが、アジアメダル期待記録(8分37秒64)を上回る8分35秒82をマークしている。しかし、リオ五輪代表の塩尻和也(順天堂大)は、4月に10000mで27分47秒87をマークするなど走力が充実してきており、2016年にマークした自己記録8分31秒89を更新できる力が十分にある。初の日本選手権獲得とともに、アジア大会代表内定をとれる東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)の8分32秒00は視野に入っているはずだ。



女子は、前回覇者の森智香子(積水化学)が飛び抜けた存在だ。10000mでは、昨年12月に、東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)を突破する32分05秒99をマークし、この種目で昨年の日本リスト8位に収まっている。その走力を考えれば、自己記録(9分45秒27、2016年)を上回る東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)9分42秒00を切ることは可能といえるだろう。日本選手権では競り合えるタイムを持つ選手が不在なのが痛い。独走で、どこまでこの記録に迫れるか。


【ハードル】

◎男子110mH・女子100mH
男子110mHと女子100mHは、昨年に比較すると、やや盛り上がりに欠ける印象が否めない。



男子は、昨シーズン13秒4台をマークした4選手が、ケガや体調不良等で、うまく調子を上げていけないことが影響している。その間隙を突くように上位陣に迫っているのが金井大旺(福井県スポ協)だ。織田記念は追い風参考(+2.6)ながら自己記録(13秒53)を上回る13秒52で優勝。向かい風0.4mの中でのレースとなったGGPでは、自己タイの13秒53で日本人トップの2位でフィニッシュした。さらに、布勢スプリントでは13秒52(+0.5)の自己新で優勝を果たしているが、自身は全く満足していなかった。日本選手権では、アジア大会代表を内定できる東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)の13秒48を上回るタイムで初優勝を狙う。



女子は、昨年、ロンドン世界選手権準決勝進出を果たした木村文子(エディオン)が春から抱えていた左脚の不安を払拭することができず、春先は満足のいかない結果が続いた。日本選手権の結果は、この回復の状況次第となりそうだ。調子を上げてきているのが、昨年、木村とともに世界選手権に出場した紫村仁美(東邦銀行)。布勢スプリントでは、13秒16(+0.6)をマークして2位(日本人1位)の成績を収めている。向かい風0.2mのなかで13秒02の自己記録をマークして優勝した日本選手権から5年。東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)の12秒98で3回目の優勝を果たせば、日本記録保持者の称号とともにアジア大会代表の座も手に入れることができる。この2人に割ってはいりたいのが、昨年、13秒18まで自己記録を伸ばしている青木益未(七十七銀行)。今季は13秒0台を目指している。13秒1台付近で競り合う展開になれば、優勝争いに加わってくる可能性がある。


◎男女400mH
活況を期待できそうなのは男子400mHだ。昨年、48秒台に突入した安部孝駿(デサント)が静岡国際で日本歴代10位の48秒68をマークして優勝。GGPでは7台目までのインターバルを13歩で行くレースに挑戦し、8台目・9台目にミスが出ながらも48秒97でまとめて連勝している。この冬場で全体的な底上げが図られており、コンディションやレース展開に応じて歩数を柔軟に変えていけることを目指している。第7ハードルまで13歩で行く戦術がうまくハマれば、48秒台前半、さらには47秒台に近づくタイムも夢ではない。



安部に続くのが静岡国際で49秒33をマークしている岸本鷹幸(富士通)。GGPではラストでもたついた安部を猛追する走りを見せた。ケガに泣くことが多く、まずまずの状態に仕上がっていた昨年も、レース直前に肉離れして欠場を余儀なくされている。2012年には48秒41(日本歴代5位)で走っているだけに、万全の状態で決勝に臨むことができれば、安部を脅かす展開に持ち込めるかもしれない。2016年に48秒62をマークしてリオ五輪出場を果たしたものの、昨年はケガで振るわなかった野澤啓佑(ミズノ)も今季は復活を期している。初戦となったGGPでは50秒54にとどまったが、「48秒台を目標にできる状況まで戻ってきている」と不安はない。日本選手権にうまく合わせてくることができるか。

女子400mHでは、七種競技で日本歴代3位の5821点をマークして東京コンバインを制した宇都宮絵莉(長谷川体育施設)が、この種目でも著しい進境を見せており、木南記念ではアジアメダル期待記録(56秒98)を上回る56秒84(日本歴代3位)まで記録を伸ばしてきた。1週前に行われた日本選手権混成では、初優勝を狙ったが、一部の種目にミスが出て4位。その悔しさを、400mHにぶつけていく。大会時点で内定する基準のめの東京オリンピックターゲット記録(スタンダード)は56秒10。この記録にはまだ少し遠いので即時内定は厳しいかもしれないが、優勝すれば、代表入りはほぼ確実といってよいはず。青木沙弥佳(東邦銀行)、吉良愛美(アットホーム)ら、400mHスペシャリストたちの奮起に期待したい。





文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォートキシモト

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