2017.07.15(土)委員会

【Subject2】東京2020オリンピックマラソン強化キックオフミーテキング報告

Subject2 日本マラソン界の課題と本質の洗い出し

続いて議論されたのが、日本マラソン界の課題と本質の洗い出しについて。話し合うにあたって、原監督は、日本マラソン界は、「勤勉な国民性、論理的な練習計画」をベースに、「医科学スタッフ、栄養やコンディショニン管理、豊富で安心な食事・水」や「合宿地やトレーニング施設、運動用品・器具」が充実していており、これらはすべて世界一の水準にあると述べたうえで、「では何が課題なのか」として、1)組織体制、2)強化体制について、3)フィジカルトレーニングの必要性、の3つを指摘しました。そして、まず、「組織体制」に関して持論を述べたうえで、出席していた各チームの指導者の声も聞きながら、意見交換を進めました。

◎原監督による考察と意見:組織体制に関する課題(要旨)
 まず皆さんにお伝えしておきたいのが、これを皆さんの考えるきっかけにしてほしいということ。正しいとか正しくないとかの議論ではなく、“考える”きっかけにしていただきたい。
 現行の組織体制は、中体連、高体連、大学地区連盟、実業団、日本陸連が、それぞれのカテゴリーで、ある種、好きにやっているというのが実態ではないか。一連の強化体制になっていない。サッカー界を見てみると、J1、J2、J3、JFL、あるいはU15-18-20-23といったカテゴリーがしっかりできているし、海外に目を向けてスペインのサッカー…バルセロナあたりを見ても、U18までのカテゴリーでやるべきことの仕組みづくりがきちんとできていて、そこをベースに、いろいろな戦術を18歳以降で学んでいくようになっている。日本陸上界がそうなるようにするためには、各団体の現場の指導者が集まって、真剣に強化方法を話し合う場をつくる必要がある。具体的には、年代ごとに求める基本育成プランや目標タイムの設定、世界各国の練習目的・方法の分析が必要ではないかと考えている。
 それを踏まえて、新体制を考えるとき、これも答えではなく、あくまでも考えるきっかけとして提示するものであるが、「チームジャパン」として強化システムを構築し、機能させていかなければならないのではないか。日本陸連は、中体連、高体連、大学地区連盟、実業団それぞれと相互に連携しながら、チームジャパンとしての戦いを東京五輪に向けて頑張らなくてはいけないということ。「駅伝」という枠組みを早く取り払ってほしい。特に、一番強化すべき世代である18~22歳世代、あるいは陸上界最大のコンテンツ「箱根駅伝」を活かす方策を、一緒に考えていくべき時代になっているのではないかと思う。

-ディスカッション-

■各年代でやるべきこと


原:今の話のなかで、“気づき”の点でもなんでもけっこうですので、ご意見を賜りたいと思います。

坂口:共感できるところは、連携していくというところですね。これから2020年に向けては、それこそが必要になってくると考えています。それから、年代ごとの強化プランは、現在、中体連、高体連、大学、実業団と分かれていますが、僕は必ずしも悪いことだとは思っていません。1人の人間が中学生からトップ選手までみられるかといったら、それは無理。ですから必ずしも悪いことではなくて、要は連携をとらなければいけないということだと思います。それから、マラソンというのは、体力種目なんですよね。サッカーとか卓球とかは運動神経系になります。サッカーだったら世界の戦術というのがあるので、それに従って年代ごとに取得すべきレベルも決まってくるわけですが、長距離の場合、それは難しいですね。継続して強化しようにも、途中で消えていく選手もたくさんいる。なかなか難しい面があると思います。

山下:私は、世代ごとの育成プランというのをもう少しきちんと枠をつくって、それを現場に浸透させるということが必要で、そこが陸上界は非常に欠けていると思います。卓球とか水泳とか、今、メダルを取っている種目では、そのへんがしっかりしていることを、代表レベルの方と話をさせていただくなかで感じるので。2020年まで待ったなしとなっている今、私がそれに取り組むわけにはいきませんが、ぜひとも、そこをやってほしいと思います。

原:坂口さんからは、球技系とはちょっと違うのではないかという意見を、山下さんからは年代別である程度のガイドラインは必要ではないかという意見をいただきました。皆さんは、どう考えますか?

河野:(フロアに向かって)箱根駅伝を走ったことがある方、手を挙げてください。小森コーポレーションの本川くん、どう思いますか?

本川一美:中学・高校の伸び率が、ここ10数年ですごく大きくなっていて、そのなかで育成の仕方、強化の仕方が変わっているのは事実だと思います。その際、目先の記録や結果にこだわってしまうと、どうしてもスピード強化に偏ってしまいがちになる。それが大学や実業団になったときに、果たしてどう影響するのか。そこを考える必要があるとは感じています。

原:確かに中学校のレベルは、ずいぶん上がっているんですよね。そこに、中学校の指導者がやり過ぎているとか、(選手が)バーンアウトしてしまっているとかいう面はあるのでしょうか?

山下:バーンアウトの問題もあるとは思いますが、私、こういうことをすごく思うんですよね。今、アフリカ勢がすごく活躍するなかで、当然、長距離は心肺機能が関係するのでアドバンテージはあると思うのですが、もう1つ大事なのがバネとか腱。この部分の働きには酸素を使わないので、あそこが使えるか使えないかというのはすごく大きいと思うんです。なので、バネや腱を強化することを、もっと若い年代のうちに、記録を伸ばすよりも何よりも先にやるべきではないかと。マラソンはフィジカルの種目なので、もうちょっとフィジカルの要素を成長段階に合わせて、ちゃんと鍛えなければならないと思います。

原:ということは、ジュニア期には、陸上競技だから単純に走る運動だけでいいというわけではなく、跳んだり跳ねたりなど、フィジカルなことをやるカリキュラムが必要ということ?

山下:そうですね。走行距離の制限とか、スプリント動作はこれくらいやるとか、そういうことがあったほうがいいと思います。

瀬古:子どものころから長距離が専門になるというのも問題があると思いますね。卓球とかゴルフとかは小さいときからやってもいいのかもしれないけれど。陸上の場合は、小学校や中学校の前半くらいまでは、自然を利用して、全身を鍛えていくというようにしていかないと。「走らないと鍛えたことにならない」となっているので、偏った強化になってしまっているような気がしています。

原:地域スポーツのクラブチームで指導している方、いらっしゃいますか?

瀬古:うち(DeNA)の田幸がやっています。

原:田幸さん、DeNA Running Clubアカデミーとしてジュニアを対象とした組織を立ち上げられましたが、そのあたり、いかがでしょう?

田幸寛史:昨年度から中学1年生の指導を始めました。今、皆さんが仰っている通り、ジュニア期から育てていく一貫指導が必要と思ってやり始めましたが、実際にやってみて思ったことは、その一貫指導のシステムをつくる前に、「一貫指導って、どうやったらいいのか」ということを誰も知らないのが現状ではないかということ。僕は、それが一番僕の課題だと思っています。なぜなら、身体のどの部分やどの機能を、いつ、どう鍛えれば、どうなっていくのかを誰も知らない。自転車の乗り方を子どもの頃に覚えておくと大人になってしばらく乗っていなくても乗れるということが、よくジュニア期に指導したほうがいい理由として喩えられますが、「出力」という視点で考えたときに、子どもの時に速く自転車を漕いだ人が大人になっても速く漕げるかというと、また違うと思うんです。山下さんも仰ったように、我々がやっているのは体力の競技なので、身体の出力がどれだけ出せるかを考えたときに、早くやったほうがいいのか遅くやったほうがいいのか。誰に聞いても、答えがないことが問題です。私としては、各年代の垣根を取り払う前に、「子どもの育成は、どうしたらいいのか」ということをもっとよく知ることが必要なのではないかと思っています。

原:陸上のパフォーマンスを上げるために、ジュニア期にどうするべきなのかということも、みんなでいろいろなデータを集めて、ともに考えるきっかけになればいいですね。ぜひ、研究のほうも進めていただければと思います。

河野:日本陸連でも、今、種目トランスファーという取り組みをしたりピーク年齢が何歳なのかをいろいろな形で横断的に見たりしています。100mにしてもマラソンにしても、ピーク年齢は27~28歳というのが陸上競技の平均的な数値として出ています。一方で、卓球のように13歳でも世界で戦えるという現状があるわけで、そういう種目によっての違いを、現場がきちんと理解していかなければなりません。また、中学生の年代で貧血を治すために、食事の改善ではなく医学的な改善を施している例が問題になっていますが、その背景には中学校の駅伝で優勝するとか活躍することが前提になってしまっている。それは違うということを指導者は理解していなければなりません。大事なのは、選手を育てるということが、「最終的にオリンピックだ」という意識がみんなのなかで共有できるかどうか。サッカーの場合は、ワールドカップで優勝するということを共有するなかでU15から育てていくことができている。つまり、目標の共有化が大切ということを理解していただきたいなと思います。

取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

【Subject1】マラソン界の現状
【Subject3】学生アスリートを、どう強化するか
【Subject4】強化体制を考える
【Subject5】質疑応答

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